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Get Your Gun

Chapter 7,


一昔前にケースレス(CL)弾というものが流行った。

読んで字の如く、薬きょう(ケース)の必要ない弾薬だ。


戦争が始まるずっと前、西側ではCLのRD(研究開発)が活発で、ある国ではCL SMG(短機関銃)GPMMG(汎用中型機関銃)が正式採用まで漕ぎつけたこともある。

でも実際はRDに注ぎ込んだ予算を回収するための軍産複合体の茶番で、実戦では使い物にならず、現場の声に押される形で従来のブラス(真鍮)ケースを使用する銃が再導入された。


このリコール騒ぎで売り先を失った大量のCL銃は、対外軍需物資援助という名目で東の紛争地に贈られることになる。

私の国の大きな商社も絡んでいたそうで、当時は大きな問題になったらしい。


「行こうって、行ってどうするの?そのグロックで」


「これねぇ」


私は銃をポケットから取り出し、くたくたなスライドを引いて弾を取り出した。

そういえば装弾したままポケットに入れていたのを忘れていた。あぶないあぶない。


「9MMね」


ヒッピーがコメントする。


「知ってた?同じ弾をなんども装弾して取り出して装弾してってしてると、弾頭がケースの内側に押されていって危ないのよ」


「へぇ、知らなかった。めがねは知ってた?」


「私はそんなことしないから関係ないわ」


めがねが会話をドッジ(回避)した。

きっと知らなかったんだろう。


「銃好きなの?」


「大好きよ」


ヒッピーがにっこりと答えた。


「じゃ見てみて」


私は手に持った銃をヒッピーに渡した。


「G26、人のこと言うわりにあなたもマニア(変わり者)ね」


ヒッピーは手早くスライドとフレームを分離し、スライドのスプリングが壊れていることを指摘してきたかと思うと、ぶつぶつとミル加工跡がどうのロット番号がどうのと語り始めた。

リボルバーを持っているあたり、全世代の武器が好きなのだろう。


「壊れてるのは知ってるから、直して」


「バネでもあればどうにかなるけど」


「あ。。。そうだ。。。」


めがねがごそごそと電気自転車のサイドバックをあさり、今日の仕事で手に入れた(パチった)ライフルのボルトを取り出した。


「この中のスプリング、使えるかな?」


「見せて」


ヒッピーが両手でボルトをいじくり倒す。

まるでアライグマのようでかわいいと思ってしまった。


「工具持ってるでしょ。貸してもらえる?」


「いいの持ってるんだよね」


めがねが機嫌よくサイドバックから工具ケースを取り出した。

ジャンクショップで買っためがねお気に入りの道具コレクションが入っている。


「ありがとう」


ヒッピーは手際よくボルトを分解していく。中のスプリングはすぐに出てきた。

そして彼女は工具の柄を器用に使い、さっさとちょうどいいサイズに巻き直してくれた。


「すっげぇ」


「あなた達、トーチ持ってる?」


「ライターならケースに入ってるよ」


「なら小さな焚火を作ってくれる?」


「なんで?」


ヒートトリートメント(熱処理)よ」


「でも煙出すと場所ばれるよ」


「じゃ穴の中で火を起せばいいじゃない」


ヒッピーがあごで坑道を指す。


「病気になりたくないよ」


「病気になるのと、素手で戦うの、どっちがいい?」


私はケースからライターを取り出して言われるがまま坑道に入った。

気温が下がって涼しいが、空気が悪いということは臭いですぐわかる。


私は適当に燃えそうなものを一か所に集めて、火をつけた。


「ガスが充満してたら、今ので吹っ飛んでたよ」


「大丈夫。ちゃんとにおいをかいだから」


「汚いわね」


めがねが心配そうな声で言う。


「できたよ~」


ヒッピーは巻き直したスプリングを火の中に投じた。

そして真っ赤に焼きあがったそれを、そこらへんに捨ててあった謎の液体を缶に移して作った即席水槽にぶち込み、焼鈍した。

可燃性の液体でないことは確かめたが、もとが何だったのかはよくわからない。


30分ほどで出来たブツは見た目は悪いが、ちゃんとガイドロッドにフィットするスプリングになっていた。

少し硬い気もするけど。


「早くうちてぇ」


私は組みあがったグロックを構えた。


「でも撃てて1マガジンよ」


「だろうね」


ヒッピーとめがねがクスクスと笑い始めた。

なんてやつらだ。


「ひどいよ!」


「私はリペア(修理)したんじゃないの。次の武器を拾うまでの延命(ディレイ)よ。超短命だけどね」


「えぇ~。。。」


やはりスペアを買わないといけないか。

そんなことを考えていた瞬間。


「しっ!!何か聞こえる。。。」


めがねが急に姿勢を低くした。


耳を澄ますとかすかにエンジン音と走行音が聞こえる。

私たちは地面に腹ばいになった。


「近づいてくるね。エレクトリック(電気自動車)じゃないから、たぶん地元の賊だよ」


めがねが言う。

私はふと空を見上げた。


「煙、でちゃってる」


「あぁ~あ」


私たちの炉の煙が、宙で細い柱となり、私たちの居場所を的確に知らせていた。


タイヤのじゃりじゃりという音が止み、ドアを開閉させる音が聞こえた。


「いいじゃない。これで武器も移動手段も手に入った」


「殺ろう」


私は知っている。ここらへんの賊は人間じゃない。

捕虜なんて奴らは取らない。男は拷問して殺す、他は散々嬲った挙句、奴隷として売るし、臓器売買にも使う。

駆除することが正しい。


「OK」


ヒッピーがピースメーカーに弾を込め始めた。

彼女の長い指が滑らかに動く。


めがねも腰のマカロフを取り出し、少しだけスライドを引いて装弾されていることを確認した。


「いけるよ」


「あっちから聞こえた。ついてきて」


私はヒッピーとめがねを音のしたほうへリードする。

匍匐前進のまま来た道を少し戻ると、丘の中腹にテクニカル(簡易戦闘車両)が止まっているのが見えた。

よく見ると人もいる。


「二人いる。ライフルマン(歩兵)ガンナー(機関銃手)


「武装は?」


「CL」


「アンティークじゃない」


ヒッピーが嬉しそうに言った。


「先手必勝」


私は匍匐姿勢のまま銃を抜き、銃座に座っている男の頭に照準を合わせ、引き金を引いた。


パンっ!!

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