Manifest Destiny
Chapter 5,
メテオの威力が証明されると、世界中でマスドライバーに厳しい輸出規制がかかるようになった。
その次に超電導素材の原料、イットリウムやマグネシウム、コッパー、シルバーといったものにさえ規制がかかり始めたらしい。
私たちが今歩いているここらへんは、そういったものがたくさん埋まっていたそうだ。
密輸すれば大金になるんで組織的な盗掘競争が起こり、現地民を巻き込む地域紛争に発展した過去もある。
そこで治安維持と資源の保護という名目で、東の大国はここに軍事基地をおったてた。
これが第四軍区。ヒッピーのいうセクター4だ。
今じゃ守るべき資源も枯れ果てて、遺されたのは重金属と化学薬品に毒された大量の土と穴だけだ。
ここじゃ何も育たない。
「仕返しと言っても、無茶すぎるよ」
めがねがつぶやく。
「そうでもないわ」
ヒッピーは腰のホルスターからピースメーカーを取り出す。
「0コンマ3、まさに一瞬で息の根とめちゃう」
バァンと口で言いながら、握った銃を撃つ真似をした。
「本当に大丈夫なの?」
めがねが心配そうに聞く。
「えぇ。ほら、あの丘の上、坑道の入口があるでしょ」
ヒッピーが握った銃をポインターのようにつかって、前方の丘の方向を指した。
「あそこで少し休みましょう」
私たちは言われるがまま丘の上の坑道に向かった。
遠くからみるとそんなに高く見えないが、実際登ってみると少しきつかった。
めがねは電気節約のためと電気自転車をわざわざ押して登っていた。
めがねは強い子だ。
ようやくたどり着いた坑道の入口の、ちょうど影になっている場所にめがねと私は荷物を置いてへたれこんだ。
ヒッピーは私たちを尻目に、入口の向かい、崖になっている場所に歩いて行った。
「いい眺めよ。ほら見て」
「なにが見えるの~?」
「基地」
「え、見たい」
めがねが急に立ち上がりヒッピーのほうへ歩いて行った。
私も見に行くことにした。
崖からはマッチ箱程度の大きさで第四軍区が見えた。
「遠いよ」
めがねが冷めた声で言う。
「それでいいの。近いと危ないから」
ヒッピーがピースメーカーを取り出す。
「よくそれを出すね」
「うるさいわね」
ヒッピーが言う。
「で、そのアンティークで、しかもこの遠距離で、何を撃つっていうの?」
めがねが追い打ちをかける。
「。。。いいわ、今見せてあげるから」
ヒッピーはピースメーカーのシリンダーをスイングアウトさせ、弾を取り出した。
弾頭は赤く平らで、まるでワッドカッター弾のようだった。
ケースは一目でわかるほど短く、セルフロードした弾というのは明らかだった。
しかしどんな特殊な弾であっても、この距離で、たかが一発ではどうにもならない。
「これが?すごいの?」
「すごいんだから」
弾を入れ直し、手首のスナップでシリンダーをスイングインさせる。
カチッとハンマーを起し、片手で握った銃を基地にむけた。
「お返しに榴弾が飛んでくるよ」
めがねが言う。
「そんな暇もないわ」
ポンっ!
全く予想していなかった、空砲のような銃声が響いた。
「え。。。不発?」
私はつぶやいた。
「スクイブかもよ」
めがねがフォローする。
ヒッピーは満足そうな顔をして、胸ポケットからジョイントを取り出し、吸い始めた。
パイナップル飴のような甘いにおいが鼻につく。
「効くわ~」
呆れてぽかんとしていると、上空に一瞬光る筋のようなものが見えたと思った、その瞬間。
ドン!!
車同士が衝突した時のような鈍く腹に来る音と共に、崖の向こうの基地が一瞬で消滅した。
小石交じりの突風が、一つ間をおいて私たちに吹きかかり、びりびりとした空気に鼓膜をぼあぼあと揺らされる。
「問題ないって、言ったでしょ」
ヒッピーが楽しそうにつぶやく。
そして手に持ったジョイントをぽいと宙に投げ、右足で崖の下に蹴り捨てた。
「0コンマ3、まさに一瞬だね」
めがねがつぶやく。
「私の故郷からのギフトよ」
ヒッピーがにっこりと笑いながら答えた。