The Lost Battalion
Chapter 4,
私の国は、世界で初めて核を落とされた国らしい。
私のご先祖たちは相当苦労したとおばあちゃんがよく話をしてくれた。
奇跡の復興劇で経済大国となり、恵まれた国になったけど、また新しい破壊兵器の実験場となり、国土の38%を失った。
お金で平和が買える時代は終わった。
「いいでしょ。ピースメーカーよ」
「カウボーイじゃん」
私はカウボーイは嫌いじゃない。西部劇はテレビで何度も見たことがある。
ピストル片手に鉛の天罰をぶっ放す、こてこてのウェスタンが好きだ。
「で、このアンティークで何をするの?」
めがねが冷めた顔で問いかける。
「マカロフもアンティークだよ」
私のつっこみが気に入らないめがねがムスッと渋い顔をする。
「まぁ、見たいならついておいで。すごいから」
ヒッピーがにっこりと笑いながら言った。
彼女の日焼け跡のまったくない綺麗な肌を見て、私は少し恥ずかしくなった。
私はもう何日も顔を洗っていない。
「行ってみる?めがね」
「威力偵察という形なら」
ということで、私たちはヒッピーについていくことにした。
強烈な日差しの下、三人は一列に並び、熱風を背に受けながらジャリジャリと足音を立てて進む。
何ミクロン単位の細かい熱砂がブーツの隙間から入ってきて気持ちが悪い。
でも今時どこでもこれが日常だ。
温暖化は暑いから嫌い。次はうんと寒くなってほしい。
寒くなれば雪が見れるはずだ。
「ねぇヒッピーは雪って見たことある?」
「あるわよ。エンターテイメント用の人工雪だけどね」
「人工だっていいよぉ。。。冷たいんでしょ」
「えぇ。今なら食べたっていいわ」
「ジェ。。ヒッピーはどこから来たの?」
めがねが噛みながら問いかけた。
「ジェーンを覚えていてくれたのは感謝するわ」
「うん。で、どこから来たの?」
「Up there」
ヒッピーが右手の人差し指で空を指した。
上には雲一つない晴天が広がっている。
「ヒッピーって宇宙人なの?」
「そうね、あながち間違いではないかもね」
「ポットヘッド?」
めがねが指で頭クルクルのジェスチャーをした。
「ソーバーよ」
ヒッピーが困った顔で返す。
この子は表情が豊かだ。ディセンシタイズされた私たちにはすごく新鮮だった。
「ヒッピーはどうして戦いに行くの?」
私は興味本位で聞いてみた。
ヒッピーの表情が少し暗くなったのが分かった。
「べつに答えなくてもいいよ」
久しぶりにめがね以外の女性の感情の揺れを感じた私は、自分の質問に悪気を感じてしまった。
「いいの。ちゃんとした理由はあるから」
「そう」
「あなたたち、メテオって知ってる?」
ヒッピーが聞いてきた。
「知ってるよ。私の国はこれでクレーターにされた」
「ごめんなさい。知らなかったの」
「大丈夫だよ」
ハイパーベロシティプロジェクタイル、通称メテオは安価でクリーンな核兵器の上位互換として、前世紀の始めに使われ始めた大量破壊兵器だ。
既存のICBMサイロにマスドライバーを仕込み、そこから劣化ウランやタングステンといった質量の重い塊を超高音速で宇宙空間へ打ち上げる。
打ち上げられたプロジェクタイルにはAIが搭載されていて、こいつが姿勢や軌道を計算し、スラスターで進行方向を微調整しながら破壊目標へのディセントコースに乗っける。
地球の重力を借りて加速する高速落下物は、まるで隕石のように光る尾を引いて天下ってくる。
だから世界中でこの名が付いた。
たまにレーザービームと呼ぶ人もいるけど、メテオのほうがしっくりとくる
「で、メテオがどうしたの?」
めがねが興味ありげに聞く。
「借りを返すの」
ヒッピーが真剣な声で言う。
「天罰よ」
彼女の眼は本気だった。