Sweet and Sour
Chapter 2,
戦争が始まったとき、経済的に余裕のある西側の国達は、このあたりに居る少数民族や西側に友好的な勢力に対し、じゃぶじゃぶと無償で武器供給を行ったらしい。
だからここらへんでは西側の武器をよく見かける。
私の国も経済的援助という名目で、大金を西側諸国へポンプしていたし、今もしているそうだ。
平和を金で買っている、血で経済を回しているとよくニュースでやっている。
私はお金に興味はない。
でも生きていくためには必要だから、汚い仕事もやるしかない。
本当に正しいと信じていることがあるなら、自分の手を汚してでもやり遂げるべきだと思う。
だから私はここに海を渡って来たし、人だって殺す。
「ねぇ、こっから遠いの?!」
めがねの耳元で私は叫んだ。
走行風がうるさい。
「そうでもないよ」
「めがねは運転してるからいいよ。ただ乗るのはひまだよ」
「楽しくないの?」
「楽しいけど、ひまだよ」
「しゃべると舌を噛むよ」
「わっ」
一瞬体が垂直に蹴飛ばされる。
さっきまでダートの上だったのに、いつの間にか舗装された道を走っていた。
「もうすぐ第4軍区だよ」
「めがね何持ってきた?」
「マカロフ」
「アンティークだね。私はグロックだけど」
「けど?」
「壊れてる」
「西側の武器はプラスチックのおもちゃだね。四角くて嫌い」
「ポリマーは強いんだよ?それにフレームの問題じゃないもん」
「じゃなに」
「リコイルスプリング」
めがねが笑いながら答える。
「じゃあ一発一発コッキングすれば撃てるね」
「かっこわるいよ」
「かっこわるくても生きてるほうが100倍いいよ」
「なおしたいな。。。」
「なおせるの?」
「お金ないからなぁ。。。」
「そこらへんに落ちてるんだから拾ったの使いなよ」
「やだ。これがいい」
これは初めての戦闘で鹵獲した思い出深い道具だから。
初めて人を撃ち殺したのもこれだった。
「あっ!!」
めがねが急に電気自転車を減速させた。
「どうしたの」
「前方、人がいる」
「歩哨かな」
「でも軍服じゃないし、一人だよ?」
「しかもデニムのショーツ」
「おしゃれして来るところじゃないのに」
「金髪だね、西側の人っぽいよ」
「どうする?」
「このままだとあの人、防衛線に直行だよ」
「あそこの兵隊はカスばかりだよ。難癖付けられてヤられちゃうよ」
「それはいけない。同じ種族として教えてあげよう」
「めがねは西側の言葉喋れるでしょ」
めがねが大きな声で何かを言い始めた。
向こうもこちら見ながら何か言っている。
「なんて?」
「どこに行くか聞いた」
「で?」
「私たちと同じ場所だ」
「じゃぁ仲間かな」
「わからない。近づくけど変な真似したら撃とう」
「撃とう撃とう」
くたくたのスライドを引き、握り拳でスライドのお尻を叩いて装弾する。
「これやってみたかったんだよねぇ。暴発しそう」
「暴発したらどうするの」
「私の指が飛ぶ」
「私のじゃなくてよかった」
めがねが指でスロットルを締める。電気自転車の重心がグンとリアにかかった。
だんだんと近づいてくる人の形をじっと見つめる。
「こんなところにはもったいない見た目だね」
「あんなんじゃすぐに捕まって廻されるよ」
「自分探しのヒッピーじゃないかな。めがねの嫌いな」
「大嫌いね」
嫌いなのに助けようとする。
だから私はめがねが好きだ。
だけど私はめがねと同じで、ヒッピーは嫌いだ。
平和のおいしいところだけを吸って、安全な場所から理想を語ることしかしないゴミくずだ。
「こんにちわ」
赤い唇が目を引いた。