龍爪破山
とりあえず終戦
どごん……ごどん、どごん
冒険者たちの歓呼に迎えられ門内に立ち戻ったレイチェルさん
だが、歓呼もつかの間
外壁の外側で立て続けに起こる轟音
これは爆撃?
いや、いやいや、この世界に爆発物の概念はない
なら、大魔法でも?
あるいはそれこそレーテさんのような龍のブレスとか?
「おまえら、主役がきやがるぞ
でかい、小山みたいなやつがいる」
外壁の上からラックナーギルド長の声がかかる
そして
北門内側
先程見た円形のバリケードの外側で待機するわたしたちの上に影がさし
空中から地上になにか、が?
緊張し、影の下を避けようとするわたしたち
ごぼん
衝撃と轟音を伴ってバリケードの中に落下してきたのは
巨大な、ひとがた?
これは新たな脅威の出現?
が、地上に堕ちて痙攣?
そう、ひきつけを起こし
命を失いつつあるのは、オーガ
なんだ、なにが、それに先ほどギルド長が叫ばれた警告と、これとは?
「まだくるぞぉ!」
またしても黒い影
ごばん
バリケードの中に先ほどのオーガの上に重なるように
またしても落ちてきたのは
やはりオーガ
こちらは五体満足ではなく
左の腕が食い破られたようにもげている
そして
どごん
再び、外壁に響く轟音
こ、これは先ほどギルド長が注意した巨大な何かが
オーガ、あるいは大型の魔獣を投げつけている?
ずん、どん、ずん、ずん
響いてくるのは足音か?
いま、街の門は八文字に開かれている
バリケードから見て門に一番近い位置にいるのはレイチェルさん
やや左後方の側にいたわたしたちからは門の外が見えない
レイチェルさんは真正面から足音の主の姿を見ているはずだが
先程の壇上の姿と何も変わらずその姿は泰然自若
すくりと立たれ
両手を腰に当て
「皆様、主役がお見えですわ
歓迎のご準備はよろしくて?
打ち合わせの通り
ええ、わたくしか、アスティナか、さもなくばステファンか
よろしいですか、3人の誰かが合図するまでは手出しご無用
たとえ、わたくしがどうなったとしても、です」
ずん、どん、ずずん
近づく足音
そして
奔る緊張のなか
門の中に進入してきたのは
巨大な龍の首?
い、いや、違う
もう一つの首
更にもう一つ
そして、さらに二つ
赤黒い鱗に覆われ五つの首を有するそれ
「ヒドラか、よ」
「それも飛び切りのでかぶつだわねぇ」
わたしたちより魔獣との対決に馴れておられるはずの
ハインツさんとレシーネ姐さんが驚きを隠せない声を漏らす
そしてまだ先ほどの位置から動かないレイチェルさんが一礼し
「賓客をお迎えで来て光栄ですわ
ですが、このパーティ、少々参加料がお高いのはお許しくださいませね
ええ、あなたかわたくしどもか、いずれかの命
ではお愉しみを!」
言うが早いか踵を返し
「あ~~~れ~~~」
じたばたばたとリンデの奥側
バリケードの最後方に走り出す
ばたばたばたと、みっともなく動く割には
先程落下してきたオーガ二体の屍を巧みにかわし
奥へ奥へと走る姿は、先ほど見せた身のこなし
そう、わたしたちが知らないでいたレイチェルさんの進境だろう
っていうか、もう、あの叫び声はよしにしてほしい
女優のこの身としては、出来の悪いコピーを何度も・・・
などと思っているうちに
レイチェルさんの動きに惹かれたか
ヒドラは五つの首であたりを睥睨しつつ
バリケードの中に進入し
オーガの屍を踏みつけ
ごろ、ぐるぐるる
嫌な唸り声をあげると身を撓め
一息に街の奥へと、レイチェルさんをひと呑みにしようと
躍り上がりかけるその瞬間
「アスティナっ!」
「召雷王!!」
レイチェルさんの声にこたえて
アスティナさんが手に握った鋼線に稲妻を呼ばわれば
ごどん
先程のヒドラの投擲どころではない轟音一閃
バリケードが描く円環のうちが一瞬で崩壊し
ヒドラは奈落に沈み込む
げ、ぎが、ぎあぁぁぁぁあぁ
摺りガラスやら、黒板やらどころでなく
世界をひっかくような魂ぎる悲鳴
そう悲鳴としか言いようのない絶叫が聞こえる
ヒドラは奈落とは言ったが
体高の7割ほどしか落下はしていない
が
奈落から這い上がることも
ましてやレイチェルさんに襲い掛かることなどできなくている
みれば、巨大なとげ、針?
何をどうやって地下に収めていたものか
丸太のような巨大な針が数本
ヒドラの巨体を貫いている
「楽団の皆さま、今ですわっ!」
絶叫が響く中でも通るお声
奔る稲妻
煌めく氷紋
炸裂する火球
これはアスティナさん、そしてレシーネ姐さん
そのほか魔法行使者さんたちが放たれた魔法弾の協演
そして外壁の上からは
ギュスターブさんが言っておられた大型弩弓の矢玉が飛び
地上からは冒険者さんたちの弓矢が
はたまた手投槍が、あるいは鋼の玉などが
ヒドラの胴へ雨霰と降り注ぎ
あがくヒドラをより深く地下から生えるとげの山に留めようと
命の火を吹き消そうと殺到する
「『晴嵐』、『破岩』、『紅塵』、『黒曜』っ!」
お姉さまも、ここが先途と思われたか
魔法剣を四本の首に飛ばされ
ヒドラの首に炸裂
先程からの魔法弾の攻撃で
あるいはひび割れ
あるいは裂け、あるいは穴が開いていた赤黒い鱗を斬り飛ばし
四つの首がほとんど取れかかる
「遥っ、今よ!」
「はいっ!」
わたしも抜いた直剣を逆手に握り
ぐるり
背中に折り畳み
「龍炎!」
掛け声とともに振り抜けば
斬撃が真紅の光とともに残る一本に飛んでゆき
ごとり
ヒドラの首が転げ落ち
切断箇所は焼切れ、真紅に光る
そう、変身していないわたしにも使えるこの魔法の斬撃
レーテ様のお父上
先の赤龍王様の真紅の爪を素材に使った一振り
銘は「龍爪」
そのまんまというような気もするが
王都トーレス工房会心の一作が放ったもの
もっとも
一度使うと一週間ほどはこの魔法斬撃は使えない
お姉さまならご自分のお力をお載せになれば
連発も可能とのことだが
普段のわたしが使うようにと、この一振りを
わたしの為に用意してくださったものだ
まぁ魔法剣を打てない間も、切れ味抜群
並みの切れ味強化の魔剣なぞ及びもつかない逸品ではある
そして真ん中の首の落下とほぼ同時に
残る四つの首ももげて落ち
「「「「うぉぉぉぉぉぉ」」」」
今度こそ、勝利の歓声がリンデの街に響き渡った
もっと中二な銘にしたかったのはヒミツです。




