碧玉の令嬢
レイチェルさんのご衣裳が誰に似ていようとも(ry
はた、はた、はたり
レイチェル様が羽織った碧玉色の狩着?でいいのだろうか
外套というとちょっと違う
ビスチェ調のロングジャケットとでもいえばいいのかしら?
それがはたはたとはためいていて
下に着ておられる白地に青いストライプの入ったワンピース
それがちらりほらりと狩着の下から見えている
左手には黒い手袋
右手には黒ベースではあるが金属と宝石が飾られた小手
御足は編み上げブーツ
冒険者というよりはわたしたちの感覚では
貴族の子女が狩りをたしなむ折に狩場で着る衣裳
そういう風に見える
空は曇天、冬は既に明け
木々に青さが萌え出る季節
以前リンデで過ごしたこの季節には
北側に広がる森林地帯から吹いてくる風は
清涼で心地よい物だったのだが
今日吹いてくる風は生あたたかく、なにか嫌な感じがする
それに気が付かれたか
風にはらむ金髪をさらり片手で櫛けずると
「ふうむ、皆様、嫌な風ですこと
どうやらそろそろということですわね
わたくしよりもお慣れの方々は、もっといろいろ気配を
きっとそういうことですわねぇ
では、最後の確認を・・・
おっと
そこにお見えなのはウロボロスのお2人ですわね?」
先程からわたしたちに眼をむけられていたのは
わたしたちも承知していたが
さもたった今気づきましたというように
レイチェル様は軽く手を振ってみせる
「願ってもない腕利きのご参加
皆様、これはどうやら神様が勝て
そうおっしゃっているようですわ
違いまして?」
「「「おおおお!」」」
参集したメンバーが武器を突き上げる
「では、皆様
わたくしの仲間が、皆様の獲物をパーティ会場にご案内してまいります
ご存じの通りで、わたくしの腕前はからっきし
わたしくしなら、きっと醜態をさらすと存じますが
幸い、仲間の方は・・・
まぁ、うふふ、御存知ですわね?」
両手を腰に当てたままぐぃとお顔を突き出すレイチェル様
いや、冒険者同士という事であれば
レイチェルさんでよいのかもしれないが
どっと笑いが起こり
皆の力を程よく抜くあたり
さすがは今回のリーダーというところか
「皆様が特にご期待になるはずのわたくしの役割は
招待客の皆さんがパーティに押しかけてらっしゃってから
そこでひとあて致しましょう
わたくしが皆様のお力になれるのは
半時くらいでしょうか?
そこで片が付けばよろしいのですが
オークはともかく、それ以外となりますと、ねぇ
あとは機を見てギルド長が花火と狼煙を上げられますので
低ランクの方々から門内にお入り下さい
最後のパーティは門内でとなります
以上、皆様には全部伝わっているところですが
ウロボロスのお二人には
そうですわね、狼煙が上がるまでは
適当に、ええお任せします
お好きな場所でパーティを盛り上げてやってくださいませ
では」
さっと手をあげるレイチェルさん
すると彼女につき従うはずのアスティナさんが
ただひとり
そうただひとり、北門から続く街道をその先に広がる森の方へと
軽く並足、そんな速度で馬に乗って駆けてゆき、やがて見えなくなる
「ご準備よろしく!」
「おう!!」
と冒険者たちが応えて
北門前の広場には向かって左に二段
すこし手前右側に二段
あらかじめ準備されていたのだろう
逆茂木が、これも最初から空いていたであろう穴に突きこまれ
いずれも斜めに列をなし
次々と固定されて
待つことしばし
先程アスティナさんを乗せていた馬が
なんと誰も乗せずに駆けてきて
そのまま門内に走り入り
「あ~~れ~~」
アスティナさんが
どこかで聞いたような悲鳴を上げながら
ばたばたばたと彼女にしてはひどくみっともなく街道を駆け戻ってくるが
その後ろ、後ろには
オーク
オークの群れが
ちらり
壇上のレイチェルさんを見れば
自信満々、泰然自若
そう見える
見えるが
わたしたちはレイチェルさんのアスティナさんへの思いを知っている
何の成算もなくアスティナさんの能力が高いからと
危地に追いやるレイチェルさんではあるまい
とはいえ
冒険者生活を始めた、それまでは風の噂で聞いてはいたが
お別れしてからまだ1年
先程の演説を聞けば、レイチェルさんたちのパーティがBクラスになり
リンデの冒険者の面々も、レイチェルさんがお荷物なだけでない
それを認めているのだろうと
それは理解はしたのだが
はて、レイチェルさんが自分でも仰ったように
戦闘向きでない
からっきし
ならば何をどうされるのか
そして何が認められているのか
などと思っているが
アスティナさんとオークの群れとの距離は変わらない
オークは魔獣の中でも足は速い方ではあるまいが
個体差もあるだろうし
あぁ、それにやはり、交じっているというか
オークに追い立てられるように
魔獣の集団の前を走っているのは20頭ほどの狼の群れ
これは並みの人間、あるいは少々腕の立つ冒険者程度では
追いつかれ、引き裂かれる羽目になるだろう
やがて
アスティナさんはふらり
右によれるように進路を変える
けれど先行する狼の群れはそのまま突進
先程
手早く用意していた逆茂木に突っ込み
そこで最初の戦闘が始まるが
20頭ほどの狼なぞ、これはさすがに守備側の敵でなく
用意された弓使いさんたちの格好の的になり
ほぼ瞬殺
だが
オークは逆茂木であがく狼の群れのあとをなぜか突進
前後で渋滞どころか絡みもつれてギルドメンバーのこれまた良い的になる
なったはいいが200頭ともなると圧がすごく
すぐにあふれ、逆茂木の奥に押しかけそうになるが
「きゃぁぁ」
右に向かってよろよろと走るアスティナさんが悲鳴を上げれば
逆茂木に引っかかり戦闘しているオーク以外は
後を慕うように一斉に向きをかえアスティナさんを追跡開始
ぐらり
そこでまたもやよろけて左に向かったアスティナさん
けれどオークの本隊はなぜだかアスティナさんを無視して突進
まるで先程の再現を見るように
これまた20匹ほどが引っ掛かってここでも戦闘
同様に的になる
そして
「助けてぇぇぇ」
みたびの悲鳴
やはり残った一団
今は6割がたに減ったそれを引き連れてアスティナさんが
レイチェルさんが佇立する演壇の前10mほどまで差し掛かった時
さっとレイチェルさんが片手をあげる
折から雲間から射した陽光にレイチェルさんの金の髪と
エメラルド色の衣装がきららと光り
同時に今までの速度が嘘だったかのように
わたしたちには見慣れた速さでアスティナさんは檀の後ろに駆け戻り
次の瞬間にはレイチェルさんの後方にぴたりと位置どる
そしてレイチェルさんが無言で手を下せば
ざざざっとオークの群れに走る矢玉
そう、今まで射っていなかった街壁の上からの守備兵さんの一斉射撃
が、群れの物量が違う
突進は止まらず
演壇などひとのみ
そうなるものとわたしたちにも見え
飛び出しかけたわたしとお姉さまの肩に
ぽんぽんと置かれた白手袋
「お待ちくださいませ、お嬢様をご信頼くださいますよう」
あぁこの人も来ていたのか
無論それはステファンさん
そういえば三人パーティでBクラス
そういうことか
しかしオークの殺到は?
無かった
幸い、レイチェルさんのお母様は
どんっとお構えのおかた、家族の仲は
第一部で書いた通り良好です
ええ、レイチェルさんのご衣裳が誰に似ていようとも、です。




