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41 いにしえの姉妹

ごめんなさい

やはり、終わりませんでした

はた、はた、はた


音も立てず、侍女さんたちが走り回っている


というか、勿論、真に無音なのは実体を持たないヘレネさんだけだが

他の侍女さんの急いでいるのに急いで見えない

殺気立っているのに、毛ほども殺気を見せない

これが王族にお仕えする方々のスキルというものだろうか


ううむ油断ならない方々ばかり

さすがどこの世界でもプロの領域は高い、そういう事だろう


ヘレネさんに至っては

実体がないのをいいことに、数か所に同時に出没しているように見えるが

これは皆気が付いていないのか、この図書館では当然となっているのか

そこらは知らないし、知らないことにしておくのがきっといいのだろう


「シーレ姉さま、どうか、どうかわらわをお許しくだされ

 侯爵様の思い出やら、優しくしてくださった姉さまの思い出やらが

 あふれあふれて、この屋に立ち寄る勇気が出ませなんだ

 

 そして、気が付いたら、もう百歳(ももとせ)も、すぎさっており

 ヒトなる身の姉さまがまさかに生きておられるとも思えず

 こちらをお尋ねすることもなりませなんだ

 

 そうこうするうちに、侯爵様のお屋敷があったこのあたりが

 ヒトどもの王都になった、そう風のうわさに聞きまして

 もうもう、おふたりとの想いでも、みなみな、塵になった

 そう思い暮らしておりました


 なれど、すべて、わらわの幼さが招きましたる失態 

 姉さまどうか、どうかお許しくだされませ」


図書館門前に忽然と現れるなり

この龍さん??も所持していた例のカードを司書さんに晒し

正面からレーテさんはやって来た


そして、シーレ様と対面するなり

シーレ様に駆け寄り

シーレ様の御足に縋る


珍客をもてなそうとしてか、無音で駆け回る侍女さんやら

数か所に出現しながら侍女さんたちを指揮し

何とも言えない冷たい視線をレーテさんに飛ばすヘレネさん


そして出たのが

『シーレ姉さま』

これだった


「レーテ、よく来てくださいました

 いいえ、久しぶりねレーテ

 すぐ遊びに来てくれると思っていたのよ?

 

 わたしの『呪い』、侯爵様の悪戯は、レーテに話していかなかったのね?

 

 ほんんんっと、あの宿六ったら」


シーレ様はにこにこにこと優しいお顔をレーテさんに向けられるのだが


「ね、姉さま、お、おちつかれてくだされ

 姉さまが、お怒りになると、わ、わらわもたまりませぬ」


魔を極めた真なる龍であるとかいっていたレーテさんが

かく、かく、かくと震えている


「あら、ごめんなさいね、レーテ

 ええ、宿六のことは、ちょっと置いておきましょう

 

 だって本当にいい日が続くのですもの

 昨日はセラが戻ってくるし

 今日はレーテも来てくれた

 

 うふふ、千年生きてきてよかったわ」


「奥方様、いかに昔のなじみとはいえ

 へび娘などにうろうろされては、この屋(や)の品格が下がりましょう

 せっかく千年静かでおりましたものを

 お許しいただければ、地下の兵器群を動かしまして

 この赤へびを名乗りの通り真っ赤に焼き上げて今夜の夕食にお出し申し上げますが?」


と現れるヘレネさん

むむ、お茶の準備を先ほどからしている侍女さん達の横にも

同時に立体映像が出ている気がするが


「なんじゃと、このからくり娘、侯爵様のおそばに侍った順序が速いからと

 わらわや姉さまに嫉妬しおって

 1000年たっても嫉妬深いのは変わらぬか?

 高度な知性とやらを毎度毎度わらわに吹聴する割には

 おのが醜さを自覚もできぬとは、なさけないことよの

 やれるものならやってみよ、貴様の本体とやらを

 地の底から引きずりだして粉々にしてくれよう」


「あらあら、懐かしいわねぇ

 二人とも仲がいいのは変わらないのねぇ」


「姉さま、心外じゃ!」

「奥方様、心外でございます!」


ふむ、喧嘩するほど何とかともいうしなぁ

というか、あのおっさん、けっふん

侯爵様って何者なのさ

こっちの世界でハーレムものの主人公でもしてたのかしら


いや、そもそも

つい先ほど、商都近郊の例の崖の上でわたしたちがレーテさんの父という

かつての赤竜王さんだっけ

あれをレーテさんに言わせれば『解放』したのち

とりあえず鳥船でこちらに戻ろうとお姉さまが御提案されたのだが

ヘレネさんが頑としてレーテさんの乗船を拒んだんだよねぇ

もっともレーテさんはレーテさんで、そんなヘレネさんの対応など承知

そんなスタンスで


「構わぬ構わぬ、そこにおるのはからくり娘であろう

 それも本体でもなかろう、なんというたか

 端末、じゃったか?

 所詮はわけ身のすえ

 小物になにを言われようと気にするわらわではない


 セラ、わらわはおのしたちのように地に縛られる生き物ではないゆえ

 どこへなと赴くであろう

 どこに行けばよい


 え、今、いま、なんというた

 もとの侯爵様のお屋敷?

 し、シーレ様が、シーレ様が、い、いま、いま、いまも、じゃと?」



とそういうわけで、いまここにこうして皆々そろった

そういうことなのだが


例の居間というべきか

侯爵様御手植えの森?を見渡すこのサロン

シーレ様

お姉さまとわたし

レイチェル様とアスティナさん

そしてレーテさんと、ヘレネさん


あらためて事の経緯を話し合ったのだが


「こ、侯爵様が、このものにたおされ、た?

 そ、そなた

 そなたはファラスネスびとの裔(すえ)であろう

 な、なぜじゃ

 そ、それに先ほどそなたはセラのことを

 『お姉さま』などと呼んでおったではないか」


うん、これは仕方がないよね

昨日シーレ様にお話した通りで、倒したものは仕方ない

わたしは事情をざっとお話したのだが


「ハルカさん、それに、セラもですよ

 あちらのことは、仕方ないこと

 侯爵や将軍たちの事情も分からないものはどうしようもありません

 それと、これも昨日二人に話した通り

 わたしは、侯爵様のお帰りをお待ちしますよ

 一緒の時の流れをセラと過ごしてあげられないのは母の身勝手


 けれど母はこうしてセラにあえたこと

 そして、セラを守ってくれてセラとともに歩んでくれる

 ハルカさん、あなたが来てくれたことが嬉しいのです」


そう仰れば


「シーレ姉さま、姉さまは、やはりわらわなどの及ぶ方では無いのう

 姉さま、これよりはわらわも姉さまのおそばに伺いまするゆえ

 わらわも、せめて無聊のお慰めをさせてたも

 

 わらわも真龍とはいえ、定命(じょうみょう)のもの

 万年もおともは出来かねるやもしれませぬが

 わらわの命ある限り

 姉さまが『呪い』とともに、いや侯爵様の『言祝(ことほ)ぎ』とともに

 おられるかぎり

 向後(こうご)はお慰めにうかがいまするゆえ」


レーテさんがシーレ様の手を握る


「ふぅ、またこぼれた鱗の掃除が」


「なんじゃとぅ、わらわがいつ鱗を落した

 ゆうてみよ、このからくり娘」


「そこに飾られておりますがなにか?」


つぃとヘレネさんがサロンの奥

暖炉の上に飾られた真紅の飾りを指さす


「きっ、貴様ぁ、あ、アレはこぼしたものではない

 あ、あれはわらわが姉さまに差し上げた親愛の印ではないか

 真龍の加護を持って、この屋の火の無事を守る

 この屋で過ごすおかた、そう、姉さまと侯爵様が

 心安らかに、暖かなお気持ちで過ごせるようにと差し上げたものじゃっ」


「そうよ、ヘレネ、レーテがぽろぽろ涙を流しながら

 侯爵様とわたくしの為にって王宮で抜き取ってくれたものよ?

 懐かしいわねぇ」


シーレ様がはかなげな、けれどお美しい笑みをこぼす


「ね、ねえさま、それを言うのは反則じゃ 

 わ、わかげのいたり

 恥じ入るばかりじゃ

 ああ、もう

 セラとそのともがらか

 おのしら口外するでないぞ

 したらこの世の果てまで、真龍たるわらわが・・・

 うぅ、姉さまそのようなお顔で見られずとも


 はん?

  

 なにがあったかじゃと

 ええぃ、もう

 わ、わらわがじゃな

 まだ当時、ヒトどもの王宮におられた姉さまのお顔を見てやろうとな


 いとしい侯爵様をヒトの世のしがらみにのっかって

 なにもしらぬくせにうばいおるやつめの顔を見てやろうとな

 かつての王宮に本性のままであいさつにむこうたのじゃ


 その折の姉さまのお姿

 あぁ、今もこの胸に残っておりますとも


 なんのお力もお持ちでない

 ヒトの中にあって王女だなんだと祭り上げられているだけの

 ただのか弱いヒト

 そう思ってあざ笑おうと

 なるものならばわらわを懼れさせて、かの婚姻を取りやめさせてやろうとな


 なれど姉さまは

 止める群臣どもを置き去りに

 ただおひとりでわらわの前にお見えになり

 姉さまの侯爵様への想いをわらわに話して下されたのじゃ


 そして

 侯爵様は大いなるお方ゆえ

 姉さまだけで支えることもままならぬ

 ゆえに一緒に支えてくれぬかと


 そうじゃ、感じ入ったとも

 考えても見るがよい

 みずからよりも1000倍も大きく

 魔力でならば、もっとであろう

 そのわらわが本性も、力も隠しもせずに

 おのがつむりのうえに咢(あぎと)を広げて飛んでおるのじゃ

 それを畏れずわらわに侯爵様への想いを告げられたのじゃぞ


 父王や群臣どものしたことでなく

 自ら望んだとな


 力の差

 魔力の差

 ヒトなるものが持つ地位

 そのようなものは消えうせた

 おお、器の違いに負けたとも


 よってそれより

 侯爵様におめもじした順番など関係なく

 シーレ様を、姉さまと

 わらわのお慕いする方のおひとりとさせていただいたのじゃ

 残念なのは、知ってはおったが、そこなからくり娘がおったことじゃが


 もっとも、そののち

 こちらに伺い、みなと過ごすうち

 ほんにつむりが上がらぬようになったのじゃがのぅ


 それゆえに、じゃ

 先程姉さまにお詫びをしたが

 侯爵様とセラ、おのしがの、彼方へ旅立たれたのち

 楽しかったここの思い出に胸を潰されそうになってのう

 よわいわらわは姉さまをお慰めせねばならぬ身の上というのに

 うじうじうじとしておるうちに

 姉さまに不義理をしてしまうわ、その罰が当たったかの

 大事な父の遺骸を痴れ者どもに奪われてあのような形にされてしまうわで


 や、セラ、ほんにようしてくれた

 侯爵様といい、おのしといい

 ほんに、2代にわたって世話になるとはのぅ」


思い出話は、まだまだ続きそうだったのだが

腐龍、いや元の赤竜王さん、その話が出たところでお姉さまが


「レーテ様、その痴れ者どものことで伺いたいのですが」

とお声をかける


「おお、そなたらとも縁があるのじゃなぁ」


「はい、ざっとお話しました通り

 ホルセと呼ばれておりましたが、あのものに心当たりはございますか?」


「いいや、皆目ないのじゃ」


「やはり所詮はへびですか」


「な、なにおぅ、このガラクタがっ」


「およしなさい、ふたりとも、いいえ

 ヘレネ、そんなに旧友に会えたのが嬉しいのなら

 もっと素直になりなさい」


「なっ・・・」


赤面するヘレネさん

むぅ、ホントにおしい、これをあちらに持っていけたら

い、いやそんなことはどうでも


「じゃがな、おおよそはつかめておる

 きやつらが使う魔法の類が独特じゃからな」


「そういえば、魔法に疎いわたくしたちでも少々異様に感じましたが

 先の赤竜王様の遺骸を操った魔法

 それと、転移か完璧な隠行(おんぎょう)か、未熟者ゆえ判別がつきませんが

 レーテ様、それらは、この地では使い手が数あるようなものなのでしょうか?」


「そこじゃ、セラ

 まず、死者蘇生というより、死者の遺骸を操る魔法じゃが

 この王国では禁呪ということになっておるはず

 これは統一王と侯爵様が定められた掟(おきて)

 姉さま、今もこの掟は?」


「生きておりますよ、もっとも統一されなかった

 南方、西方の二国ではその限りではない様子ですが」


シーレ様がちらり視線をここまで黙って聞き入っていたレイチェル様に走らせる


「守られておりません、と申しますか

 特に、南方王国は古来より魔法研究で栄えておりますから

 一応は生死にかかわる魔法は禁呪と

 大国であるこちら向けにはそういうことにしていますが

 そういう類の話が出れば、みな南方王国を想像します」


さすが、世間を知り尽くしているレイチェル様 


「やはり、左様か

 とはいえ、それだけでは証拠にならぬゆえな

 

 父の遺骸が汚された、その気配は判ったのじゃが

 その行方までは今までわからなんだ


 禁呪がらみじゃからというて

 南方王国を焼き払ったりすれば

 侯爵様のおつくりになられたこの大陸のありようを

 わらわが壊すことになるゆえな、よってほぞをかみ続けておったのじゃ

 

 次にじゃが、転移魔法はある

 というよりあった

 父の時代、いまより数千年前の時代には

 ヒトのなかにも高度な魔法を使いこなすものがいたと聞く

 

 じゃが、今の世でのう

 魔物の中には、まぁわらわもそうじゃが

 これは魔法というより権能、能力の類といったほうがよいかの

 転移を使うものもおる


 ヒトの身で、というなら

 かなり大がかりな準備がいるのではないか?

 使えるとしてじゃがな

 

 あの者どものつこうておるのは転移というより

 穏行(おんぎょう)ではないかと思う

 父の気配はわらわになら大陸のどこにあってもすぐわかる

 じゃが、父の遺骸を奪われ、汚されても

 それを追うことがままならなんだ

 

 それと、そこまで大事に隠した父の遺骸を使ってまで

 あの場からの退避を優先した

 転移などができるというなら、さっさとした方がよい

 ゆえに、できぬのではと思うがのう」


ふむ、となれば、あとはベルトの方か

タルクの遺骸は腐龍の瘴気で哀れにも朽ち果てて

かろうじて残った遺髪だけわたしたちは回収したのだが


あれを放置できはすまい

お姉さまと二人目を合わせてうなずくのだった


つぎで、なんとか?

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