39 腐 龍 と 声 と
第1部終了まであと2回?
がち、がち、がち
漏れる瘴気、漂う悪臭
わたしには、無効と、わたしの中にあるものが
わたしを、ヒト以上にしている何者かが情報として教えてくれているが
「お姉さまっ、こいつの纏っているものは有害ですっ、ご注意を」
「わかったわ、対策します、遥こそ気を付けて」
ゆらり、背後で、そう、お姉さまの纏われる魔力障壁だろうか
それの強度が上がった気配
一応ヒト、生体改造などは受けておられないと思うが
こちらで聞いたファラスネスびとの子孫というか
その血をじかにお継ぎになっているというお姉さま
あちらの世界で、驚異の能力者
そう見えたのは、ファラスネスびとであるゆえか
それとも、やはり・・・
まぁ、どちらでも、わたしの想いが揺れるなどありえないし
いっそ、特撮モノでよくある、組織幹部はみな、強い怪人体を持っている
なぁんてことがあったとしても
お姉さまの怪人体ならきっとお美しい、あぁお姉さま・・・
ごぉぉ
吹き付けられる瘴気
背筋を走る悪寒に現実に連れ戻される私
いずれにせよ、これは放置していいモノではない
そして、先ほどタルクの命を奪った者たちは
必要なものの回収は済んだとばかりに、タルクの遺体を放り出し
魔力の揺らぎの中に消えてしまった
「遥、ここは魔物の始末に集中しましょう」
「はいっ、お姉さま、これを放置して、崖下の商都にでも暴れこまれたら
何人の人が命をっ」
「ええ、遥、わたしたちで倒しましょう
残念ね、クエストは受注していないから
冒険者としては失格かもしれないけれど」
「うふふっ、ギュスターブさんに叱られそうですねぇ」
「ええ、ふたりで叱られましょう、そのためにも」
「はいっ」
わたしは目前の腐龍に闘気をぶつける
といっても、別にオーラを飛ばせるとか、そんな能力は持っていないが
排除してやる、倒してやる
その気迫をぶつけるだけで、およそ反応はあるものだ
ぎあぁぁぁぁ
目の前のわたしを、うるさい異物と認識したか
いや、そもそもこいつに意識があるのか
ともかくも
腐龍はわたしに向かって瘴気をひとふき吹き付けた
ダッシュ
周囲の木々が瘴気にあてられて枯れてゆく
生身のヒトならこれに耐えられるとも思えない
しかし、わたしの装甲はものともしないし
呼吸の方も、わたしの変身可能時間の間はどうやら外気は
少なくともそのまま取り入れるなどということはしていない様子
どうして、変身時間が限られるような
そんな仕様にと、あちらで思ったこともあるけれど
昨日、シーレ様がおっしゃった、この身体が、星の海を渡るための身体
そう、真空、あるいはヒトの身体が受け付けない大気のもとで
活動するための、いわばサイボーグであるのなら
変身を遂げたわたしが外気を取り入れないのも納得のいく話だし
それがいまは有難い
ダッシュの加速を殺さずに
そのまま、ジャンプ
そしてキック
まるであちらの特撮のヒーローそのものの攻撃だが
物理攻撃としては、中々優秀な部類ではなかろうか
ごづん
異様な感触
反動のまま空中で回転
そして後方
お姉さまの5mほど前まで立ち戻るが
腐龍は若干身体を揺らしはしたが
空中にあるわたしを狙ってほぼ骨だけになった右腕を叩きつけようとしていた
が、そんな攻撃をさせない方がここにいた
キックの直後
腐龍の一撃が迫るなか
「『晴嵐』、『紅塵』」
お姉さまが連発で魔法剣を腐龍の右腕に飛ばしていたのだ
みしり
風の剣で腐龍の右腕にひびが
そして後から殺到した、焔の剣が腐肉を焼き
ぼとり
腐龍の身体から外れた右腕は
わたしの身体をとらえられずにそのまま落下する
いや、した
したのだが
どんな力が働くのか
腐龍の右腕が宙に浮かび
パズルのピースが合わさるように
再び、腐龍は右腕を得た
そもそも、生きていない、いや死んでいるから死なない
それはわかる、わかるが
再生とか、そんな次元のモノじゃない
こうと決められた形を、失わないようにできている
どうやらそのようなものらしい
これは厄介
ではどうするのか
脳裏に例の衛星兵器の存在がちらりと浮かぶ
浮かぶが、アレを放つのは本末転倒もいいところ
あちらでは試射のつもりでお姉さまの組織の基地に
ごくごく出力を絞ったつもりで放ったが
結果、あたりは一瞬でマグマの海と化し
命中した外殻は溶解し、大穴が明いたのだった
しかも、こちらの衛星兵器の出力など知らないし聞きたくもない
それにコントロールできるのかもわからない
いずれにせよ、アレは封印しておくに限る
そんなわたしの葛藤を感じられたか
「遥、わたしの力を使います、仕込がいるわ
30秒稼いでくれて?」
「1分でもっ!」
応えてわたしは再び腐龍を相手取る
「『光穿撃』!」
まずは光の矢を鼻先に叩き込み
「『断罪剣』!」
こちらに注意が向いた瞬間に加速
足元に接近して断罪剣の一振り
ぐらり
吹き飛ぶ前肢
腐龍の身体が一瞬傾くが
案の定
先程と同じく
前肢が元の位置に逆再生のように飛んできて再接合
何事もなかったかのように腐龍が元の形に戻る
けれど、それは織り込み済み
背後で高まってゆくお姉さまの魔力とも、何とも知れない巨大な力の膨張から
腐龍の気をそらせようとわたしは続けて立ち回る
そして、背後でお姉さまの編み上げられた力のうねりが
最高潮に高まり、凝縮されようとしたとき
『ファラスネスびとの末裔よ、それの始末はわらわがするゆえ下がるがよい』
じり
脳内に突然ノイズのように言葉が、音声めいたものが射しこまれる
くぅ、攻撃ではないようだが
どうやらお姉さまも集中を乱されたご様子
高まりつつあった力の気配が霧散している
「どこのお方か存じませんが、行きがかりとはいえ
これを放置は致しかねます
わたしたちの出自をご存じなら、これの始末はできるとお判りでしょう?」
お姉さまが若干のいら立ちを込めたお声を虚空に放たれる
じり
『なればこそじゃ、ファラスネスびとの力なぞ
そうそう不用意に放たれてはたまらぬ
ソレとの因縁はわらわにもあるのじゃ
とはいえ、まぁひかぬか
ならば仕方ない、教えてやろう
ソレは既に生きておらぬゆえ、容易には倒せぬ
片付けようとすれば相応の力がいるであろう
じゃが、ソレの形を現世にとどめ、ソレの魔力の残滓を喰らい続けて
暴れ回らせておるものが体内にあるのじゃ
それをわらわがいまより示してやろう
そこまで助けて倒せぬとあれば引くがよい
よいか、くれぐれも天の火矢など放つでないぞ?』
そうか、この声、というか言葉をかけてきたものは
例の衛星兵器を知っているらしい
使う気などはさらさらないが
そういう援助をしてくれるなら打開方法もあるだろう
「助太刀承知
ではお示しください」
再びお姉さまが虚空に向かって呼ばわれば
『よし、見るがよい』
脳内に響く声とともに
ぼう
腐龍の胸の奥
深さは1mほどだろうか
そこが、ほのかに光ったように見えた
もとより透視などわたしたちにできはしないが
まるで腐龍が半透明の3Dモデルになったかのように視界が替わり
その体内にあるコアとでもいえばよいのだろうか
球体のようなものが示されたのだった
あと2回にして、またキャラがorz




