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3 獲物になった わ た し ?

やっとふたりっきり


もぞもぞもぞ


眠りと覚醒のはざま

自分が眠りから覚めている自覚と

いましばらく、眠りに留まりたい想いと

境で揺れる心地よい時間


揺れる心と一緒に伸び縮みする私の身体


「おはよう、遥」

わたしは一瞬で覚醒し

わたしと一緒に眠っていた

いいえ

わたしと抱き合って眠っておられたお姉さまの

麗しいお顔がそこにあることに戦慄した

なによりお姉さまをまだ抱きしめていることに戦慄した


「あ、お、お、お、お姉さま?」

「いやねぇ、これからは名前で呼んでって、昨日言ったのに」

「そそそ、それはっそのあの、呼べるときでいいって仰ったじゃ・・・」

「そうだったかしら?」

「そうですよぉ、いや、たぶん、きっとそうです」

「うふふ、まぁよしにしてあげる」

「は、はいなんとかその線で」


いやふたり何か一線を越えたとか

そういうわけではなかったけれど


いまだってお姉さまが用意してくださっていた

簡素だけれど清潔な肌着を着ていたりするけれど

ぴったり肌を寄せ合って、ふたりっきりでやすむ

何の憂いもなく二人肌を寄せ合える

これが夢でないと

あちらでの決戦に臨む前

わたしの悲しい心が呼んだ妄想でないと誰が言いきれるだろうか


むに

むにぃ


「ほらほら、変なこと考えない

 可愛い顔が台無しよ?」

「おねーはまひゃ、だひなひに、しへるんひゃ?」

むに

「何か言った?はるかぁ?」

むに

お姉さまが私の両頬を引っ張っている


「ひ、ひひへ、ひゃにほ、ひっへまへん」

「ならいいわ、もうあっちのことはあっちですんだの

 わたし、あなた、ふたりっきりでここにいるの、ね?」

「はいっ」

やっと放してくださった頬を

わたしはお姉さまの御胸に、もぞもぞもぞと押し付けるのだった



ここはお姉さまが投宿しておられるお部屋


いやぁ、軽く説明はされていたものの

違う世界に飛ばされると聞いてはいたものの

いろいろありすぎて、それは疲れ果てていたのだった


昨日、オーガを片づけてから


「ギュスターブさん、そこにいらっしゃるんでしょ?

 私も、この子にも知れているんですから

 出てきて後始末、お手伝いしてくださいな」

「いやいやいや、あのね、おじさんとっても傷つくから

 これでもギルド職員じゃ、怖い方のヒトで通ってるんだから

 そこにいるとか指ささないでくれる?」

「はいはい、ええっと、こっちだったかしら?」

「いまさらあさってを向かない、ほんっと傷つくなぁ」

巨大樹の影から気配を消していたというか、気配の薄い中年の男性が現れる


「遥、この方はギュスターブさん、私のいる冒険者ギルドの職員さんよ

 っていうか、お目付け役かしら?

 私のような怪しい冒険者がおかしなことをしないようにって」

「は、初めまして、遥です

 お、あの、お姉さまは、あやし・・・、あやしい?ええっと、ええっと」

「なぁに、遥、なんですって?」

「い、いえいえいえ」

「はいはい、こんにちは御嬢さん、ハルカさんでいいのかな

 ご紹介にあずかりましたギュスターブ

 とっても怪しいお目付け役ですよ」

「「あなたも怪しいんじゃないですか!!」」


わたしはお姉さま、そしてお姉さまに同行?でいいのかしら

うん、同行されていたギルド職員さんとオーガの死体を回収する

ここが異世界だと改めて思い知らされたのは

お姉さまがオーガの死体と角をひょいひょいと虚空に収められていたことだった

『マジックボックス』とかいう奴だろうか?

まるで異世界小説ではないか

っていうか異世界だといわれて来たんだけれど


そして30分ほども歩いたろうか

森を抜けた私たちは森の淵の集落に立ち寄って

あたりに出没していた魔物の正体と、それの討伐とが終了したことを集落の人々に告げ

そこからは、止めてあった馬車に乗り、さらに一時間ほど


わたしたちは

お姉さまが滞在されておられる「リンデの街」にとやってきていた


「やぁお嬢、お帰り、今日の獲物はなんだい?」

「ただいまヘルマンさん、獲物はこれよ」

お姉さまは門衛さんに私を突き出して見せる

「ははぁ、これがお嬢の言ってた獲物かい

 こいつはなかなか・・・うーん

 上物とはいえねぇなぁ、売っても安いぞ?

 俺によこすかい?色付けてやるぜ?」

「あげません、これはわたしのエモノです」

「おねえさまぁ?」

お姉さまと門衛さんは快活に笑いあう


どうやらお姉さまが私とはぐれてしまい

わたしを待つ間、あたりを探しながら滞在している

そしてその合間に冒険者として狩りをしている

そういう話が半ば認められているらしい

そしてやっと私が現れたと、これも先にこちらに飛ばされた

お姉さまが適当にぼかして説明されていたことらしい


だから私はお姉さまの友人で従者

多少腕はたってもまぁ単なるヒトであると、そういうことになっているらしかった


お姉さまのおっしゃった通り

あそこでうかつに変身なんかしなくてよかった

変身して闘う娘なんて

ここがいくら異世界だとしても

怪しいことこの上もないだろう


そしてお姉さまは、ここではすでに若年ながら凄腕の冒険者として

早くも認められつつある

そういうことらしい


お姉さまの御姿にしても

あちらでは若干、その、なんというか

かなり極めちゃってる、特撮寄りの美人レイヤーさん

そんな感じにもお見えでいらしたが

こちらでは

お姉さまの御姿は戦士のなりで通るようだ

わたしが変身すると、ここではどういわれるだろうか?


ともあれ、お姉さまと私が狩ったということになったあの鬼さん

いやあのオーガは、かなりの上物としてお姉さまとわたしの懐を温めてくれたし

わたしも、無事に?冒険者として登録をしてもらえることになった


ここ

そうここは「リンデ」の街

この大陸なのだそうだ「ローグ」北方に位置する

超田舎ではないが開拓者向けの物品が集積される

また、開拓者やら、冒険者やらが持ち込む商品の集まる

そんな街

そこそこ大きい地方都市

そういう場所だった


そして

わたしを伴って投宿先『龍の息吹亭』に戻られたお姉さまは

あらかじめ、事情は簡単に説明していらしたようだが

ご自分の部屋にこれからはわたしも泊まること

当面、冒険者生活をここで続けることを宿主さんに説明されて

入浴と着替え、それから階下の食堂で暖かな食事をとった後


ふたりで

そうふたりで

ここまでのことを

これからのことを

ふたりで


そうこれからはふたりっきりで過ごせることを喜び合って


それから一つのベッドで

二人とも赤面しながら

結局は何事もなく

キスし合っただけで、抱き合ってやすんだ

それが昨日の夜だった


次回、おっさん登場

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