32 絶 賛 舌 戦
こいつ、あおりよる
がら、がら、がらり
建材の落下が続く中
飛び込んだ玄関ホール
狼藉者はっ
ごとり
「舐められては困りますな、ここはわたくしの職場
仕込みの割にはお詰が甘くていらっしゃる」
何をどうやったものか無手のはずのステファンさんの直前で
先程飛び込んだ黒い暴漢が崩れ落ちる
え、え、えええ
し、しまったぁ、釣り上げられた
ここまでこちらのペースで敵を釣り上げたつもりが
ここに来て釣り上げられたのはわたしたち
ここ、ここまで、ここまで大きな仕込をしておいて
たしかにお強い、お強いけれど
ステファンさんに手もなくやられるような奴が本命のわけがない
思わず顔を見合すお姉さまとわたし
一瞬、安堵の色が見えかけたステファンさんもすぐ思い当たられたご様子
局面が
王手をかけていたはずの盤面が
ぐるり
相手とこちらが入れ替わってしまっている
いけない
相手に王手、王手を指されてしまう
レイチェルさんを狙われてしまう
手は無いか?
もう一手、ここで、いや局面をもう一度こちらに
そう盤面を真逆に返さなくてはっ
けれど王手がっ、王手がかかっちゃう
ん?
あ、そうか
なんだ、間に合うかも
王を増やせばいいんだわ
わしり、わたしはお姉さまを抱き上げる
「は、はるかっ?」
『お嬢ざまぁぁぁぁ、ご無事でしたがぁぁ、お嬢ざまぁ、よがっだぁ!』
大音声
肺がここで破れても構わない
まぁ普通の身体ではないけれど
わたしの大音声に一瞬耳をふさがれかけたお姉さま
が、すぐに
「もっと、もっとよ、はるかっ!」
『お嬢ざまぁ良がっだぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
さすがお姉さまには、つたない手だけれど
わたしの意図はばっちり伝わったご様子
どたばたばた、ばたどたどた
わたしはお姉さまをお姫様抱っこしたまま
広い玄関ホールをぐるぐるぐると駆け回る
なにげに、というか
逆はあっても、わたしが抱っこする、このパターンは初めてだが
ごばん
やはり来た
ばごん
大声を発して走り回るわたしの後を
がぼん
おのれぇ、わたしたちに見えない屋根の上から凶悪な攻撃をかけ続けている
『あぶないぃお嬢ざまぁぁぁぁぁぁぁ!』
ずごん
『ぎゃぁぁぁぁぁ、おじょうざまぁごぢらでずぅぅぅぅ!!!』
本当はもっと高速で移動して
可能ならばもういっそ屋根までお姉さまとふたりで飛び出したいところ
ぼぐん
また一撃
おのれぇ
『お嬢ざまぁ、おだずげ、おたすけがぁぁかならずぎますぅ
もうすごしぃもう少しのごしんぼうですぅぅぅぅ!!!!』
ぎりぎり人ができそうな動きで
とどまらず
穴が開き続けるホールのなかを
うろ、うろ、うろと 勘の限り
もうほとんど第六感、第七感だかに至ろうかというレベル
わたしは攻撃予想地点を交わし続ける
『お嬢ざまぁぁぁぁぁ、お助げわぁ、もう、もうすぐに参りまずよぅ
おやかた様がぁ、きっときっとほおっておがれませぇぇぇぇん!!』
がいん
さすがに今の示唆が気になったか
今までと違う音がして
砕かれた建材とともに、影が一つ落ちてくる
「ちっ、騒いでいたのはやはり三文役者だったか
きさま、高貴なこの身をたばかった罪
貴様の命、いいやこの場の皆の命で償わせてくれるっ」
黒装束
顔はむき出し
若い男
表情に険はあるがまぁ整っていなくもない
手にはいやな光を帯びた黒い直刀
ほほぅ、こいつか
どんなお育ちから知らないが
高貴な、などとのたわまっているが、まぁ言ってはなんだが
こんなことをしている分にはお察しだ
ふふん、なら言ってやるとしましょうか
「へぇぇ、どんなお生まれだか知りませんけどぉ
天井から落っこちる高貴なお方がいるなんてぇ
お姉さまご存知でしたかぁ?」
「さぁねぇ、高貴というか、屋根裏で過ごして
はじめて世間を知ったねずみさん、
育ちが知れる、そういうところではなくって?」
「お~~~っほっほほほ」
「あ~~~っはっははは」
さすがお姉さま、呼吸ぴったり、あおる煽る
「きさまらぁぁぁ」
おうおう、良い顔になって来たじゃない
「遥、下ろして頂戴」
「は、お姉さま」
すたり
床にすくりと立たれたお姉さま
ふんっ見るがいいわ
お産まれがとか関係ない
どんな修羅場にあったところで
そこでこうしてお立ちになり
あるべきお姿をしめされる
そう、それがわたしのお姉さま
「ファラスネスの亡霊、それがあなたですか?
侯爵様がどちらにお見えか存じませんが
1000年たって今頃とか
世に現れたと思えば情けない姿
侯爵様も草葉の陰でお嘆きでは?」
「だまれぇ、ファラスネスを継ぐのがこの俺
俺はその力で世界を束ねる
よって至尊たるべきこの俺にその悪口
まず貴様から死を賜りたいかっ!」
がなる黒ねずみ
対するお姉さまの御顔には
さえざえ冴える氷点下の微笑み
「ひとの視線に耐えられず
夜間に屋根をうろつくものが
どんなお力をお持ちなのやら存じませんが
世界を束ねる?
ふ、わが身のいやしさ、それもお気づきでない?
『哀れ』
ふふ、それが御身とやらにふさわしい言葉では?」
「おのれ、おのれおのれぇ」
よし暴発してくれればこれで
「あらあら、拙宅を夜分ご訪問になられるとは
どんな無作法ものかと思ってみれば
ファラスネスゆかりのお方とか、やはり田舎者
そういう事かしら?」
ちょ、レイチェルさまっ!
あいたた、今一番見たくない方が姿を現してしまった
付き添うアスティナさんの顔には申し訳なさそうな様子が見える
ははぁ、止められなかったんだ
すぃ
目立たぬように、自然な動きでステファンさんが
レイチェル様になにがあっても守れるような位置を取る
無論レイチェル様の半歩、ななめ後ろに控えるアスティナさんも
いや、それはこいつがわたしたちの予想通りでなかった場合
その場合になら有効なのだけれど
とはいえ、こうなっては仕方ない
お姉さまと顔を見合せ
もう一度、あおり再開
「お嬢様、おやすみを乱してしまい、まこと恥ずかしい次第です
今、ねずみが天井を食い破って落ちてまいり
家人一同、箒で掃き出そうとしておりますゆえ
しばし寝室でお待ちを」
「はい、アスティナ先輩と、どうぞ寝室で
うふふ、お楽しみくださいませ
こいつ埃だらけで汚いんですよぅ
お嬢様のお目になどみすぼらしくってお見せできませぇん」
こ、ここは何としてでもヘイトを稼がないとっ
「きさまかぁ、ステラリアの小娘
ファラスネスの秘奥に土足で踏み込むその大罪
ここで購わせてやるっ!」
だめかぁ、単細胞と思ったんだがなぁ
轟
黒装束の男の輪郭が一瞬薄れ
颶風を纏ってわたしとお姉さまの間をすり抜け
レイチェル様に向かおうとする
がしん
「ねずみがまだ騒ぎますか」
手刀一閃
男を止めるお姉さま
常人相手ならこれで吹き飛ぶはずだが
「邪魔をするなぁ」
そこから再びレイチェルさんに迫ろうと動くが
どんっ
「はいはい坊や、おそくまで起きてると
ママに怒られまちゅよぉ
おうちにかえりまちょうねぇ」
今度はわたしが蹴りを入れてやるが
十字に組んだ腕でガード
男は数歩分後ろに跳び下がる
「ききき、きさまぁ、貴様に母、母のなにがわかるぅぅ」
ほっほぅ、これは大当たりを引いたかしら
「おねーさまぁ」
「なぁにハルカぁ、何かねずみがきぃきぃいったわねぇ」
「はぁい、ねずみさんはママのおひざが恋しいらしいですぅ」
ごぅん
風が
男の周囲に
風がまいていく
ほほぅ
「アスティナせんぱぁい、ちょぉおっとおね~さまと交替してくださぁい
ねずみさんのしまつはぁメイド二人でしましょうよぅ」
「・・・そうねハルカさん、叩きだしてやりましょう」
よかった、これからこいつがすることが予想の通りなら
アスティナさんには不服だろうが、わたしのアレを知り尽くしている
お姉さまがレイチェル様の横にいるほうが安心できる
幸い、わたしの真意をニンジャの勘で察してくれてらしい
「やれるものならしてみるがいい
うるさいものが来る前に
貴様ら、貴様らぁ、無事に居れると思うなよぉ!
見せてやる、見せてやるとも
絶望を見せてやる
小娘
貴様が追いかける禁忌
ファラスネスの秘密
それを見て死ねるのが貴様のしあわせだっ
『ケンソル』!」
黒い奴の腰にベルトが、わたしの『コンソール』と細部が違うが
ひどく似たものが出現し
「『サンクトゥス アルミス』!」
奴の身体を二重三重の光がとりまき
光の中から男が
白銀の鎧
そう、聖鎧騎士の姿となった男が現れた
遅まきながら
1000ユニークを超えていました
読んで頂きありがとうございます。
試行錯誤中ではありますが、きりのいいところまではあがく所存です
できましたら、感想とか書いていただければ幸いです。




