31 商 都 暴 風
まず一戦
「マーフィ先生」(いないけど)ごめんなさい
がら、がら、がらら
王都の西門を出たわたしたちの馬車
ごろ、ごろ、ごろろ
やがて半円を描いて
馬車は南門を目指そうとするが
そこで停止
「ではご苦労だが、お前たち二人しばしここらを巡視してから戻るがいい」
テオ隊長は二人の女性隊員を馬車から下ろし
「ウロボロスの二人、付き合い大義であったな
では宿まで送ってやろう」
二人を乗せたまま南門へと向かってゆく
残されるのは先ほど下ろされた女子隊員二名
女子隊員二人はあたりを見回し
ゆっくりと街道から離れ
王都の南に歩みだす
そして二人に忍び寄る影ひとつ
「上首尾ですね?」
「ばっちりでした」
「アスティナさんの御見立通り、情誼に厚いおかた
ふふ、おもしろいお人ですねぇ」
「なんでもデュプネ伯爵が以前巡検隊隊長をお勤めで
情に熱いが悪には怖い
鬼とかなんとか言われたお方だそうで」
ううむどっかで聞いたような
「それで、お父様を意識されて?」
「まぁよい方と伺っております、真似だけではないかと」
「ですね、ではそこらで着替えを」
「ではこちらなら人目に・・・」
そう、わたしたちは女子隊員さんの制服を貸していただき
お二人にはトーラスさんが手早く商品を改造してくださった
わたしたちの装備『風』の、なにかを付けて馬車に乗って頂いた
当初、誇りある制服をとご躊躇されておられたが
そのあとわたしたちに替わり、食事つきで例の宿に宿泊と
それを聞くとお二人の眼の色が違って
むしろ喰い付き気味だったのがおかしかった
名前がないあのお宿、王都でもまず普通には泊まれないと有名だそう
ふたり嬉しそうに
バズルだとか
バエルだとか悪魔の名前めいた言葉を言うのを聞いた気がするが
きっと気のせいだろう
さて、ここまで手筈通りだが
出発前に段取りの確認
アスティナさんに
到着後、即戦闘に入っても問題ないペースでと
もう一度だけ念を押し、そして出発したのだが
速かった
うん、危うくこちらが潰されるところだった
メイドさんってなんて苛酷な職なのかしら
そして商都外縁に到着したのは1時間半とかそれくらいだったろう
アスティナさんの誘導で目立たぬ茂みにひそみ
そして闇の中に頷き一つ残して
アスティナさんは消えていく
隠し通路から入ると到着前に伺った
ここまでやって空振りは
いや、何事も無いに越したことはない
とはいえ、、闇の中
二人きりなのはいいけれど
むぅ
まぁこれがわたしたちにはふさわしい
そんな気がしなくなくもない
そして夜半
ざら、ずる、ずるり
商都が背負う北への壁
壁の上から出た巨大な三日月がぎらりと冴える頃
ざら、ずる、ずるり
静かなるべき闇を犯して迫る異様な音
「お姉さま、大きいです、
それに・・・長い?
10m以上 ひょっとすると20mとか
ここになだれ込むならええ、なんとでも
お姉さまもお見えであれば負けはしません
と、おもいたいです
それこそ例のマンティコアみたく
おかしな能力がなければ、ですが
ただ、ここに
ここに、でなければ被害が出ます、よね?」
「正義の味方の血が騒ぐ?」
「そんなぁ」
「ふふっ、ごめんなさい、遥
こう考えたいの
アレは、ええ、たぶん誰だか知らないけれど
『黒幕』の仕込みでしょう
仕込みの目的は
ステファンさんの非戦力化
ええ、あの方はお強いけれど、対人戦向き
パーティならば別よ?
あのタイプの方が敵をひきつけて、いなす間に
強力な剣士が致命の一撃を放つ
ええ、そういうお役割
でも、レイチェル様を守りながら
アレを一人で討伐、それは無理でしょう」
「ですね」
「敵の主目的はレイチェル様
アレをここになだれ込ませない選択は、ない、と」
こくり、うなずくわたし
「わたしもそう思います
ですが、ですが、なんです、お姉さま」
「では、万が一ここに来なかった場合
遥、どちらかが単独で出ましょう」
「はい、お姉さま」
よかった、やはりお姉さまは非情の方ではない
むろん、非情にならなければならない場合だってある
それを知らないわたしたちでもないし
全部を守って、全部を救えるなんて
そこまでおごれるほど強くもない
ただ、手の届く場所で起こる悲劇は見逃せない
「で、アレはともかくそれ以外はどうなの?」
うん、そちらの方も動きがある
「散開して5名くらいの反応が二つ、三つ・・・
四つかも知れません
どれくらいの腕利きかが問題ですね?」
「ええ、今夜はいやな予感があたりを引いてるわね
『起こり得ることは、すべて最悪のタイミングで起こる』
と、ソクラテスも・・・」
「おねーさま、それマーフ・・・げっふん」
「ふふっ、まぁ今の私たちは冒険者
出たとこ勝負、だったわね?」
「あは、ええ、でも、頭に入れておきます
だからこそこうして遠目で潜伏したわけですし」
「で、レイチェル様はどこに?」
「動いていません、そばには多分、アスティナさんが付きましたね」
「よかった、これでステファンさんも自由に指揮が取れる
なら、基本はいつもの通り
ええ、この局面で最大戦力を分散させるのは得策ではないわ
アレが接近したら」
「はい」
そう、この場の守備側の最大戦力はわたしたち
ならば、それを真っ向ぶつけて攻撃側の意図をぶち壊すまで
そして
ずる、ざら、ざらら
「しゃぁぁぁぁ」
響く奇怪な叫び
ぞぐん
つぶされる生垣
来た
「しゃぁぁぁぁぁぁっ」
その場で鎌首を掲げ
何を目指すのか
屋敷に向かって吠えたのは
蛇?
大蛇?
それとも足のない龍?
三日月が照らすぬらぬらとした巨大な鱗
鬣のようなものも見える
なるほど、ただの蛇でない
そういう事だろう
油断は禁物
だが、負ける気などしていない
「『晴嵐!』」
叫ぶお声に言霊を乗せたのか
光を帯びたお姉さまの一閃が宙を奔る
ぱりん
が、刃光は大蛇の鱗に弾かれる
「『紅塵!』」
今度は紅い光が
ぱりん
やはり弾かれる
ぐり
ここで大蛇はこうべをめぐらし
お姉さまを
そして傍らに立つわたしを睨みつける
赤い眼
魔眼とかは、それがこちらにあるならご遠慮したいが
よかった、そういうのではないらしい
とはいえ、この大きさ
そして、友好的でないのは先刻承知
「風で駄目、炎で駄目
ふぅん
面白いわね、でも、遥、あれはまだよ?」
「ええ、お姉さま、ご余裕でしょう?」
「ふふっ、どうかしら
とはいえ、魔法の類は弾くっぽいわね
遥、試し切りしたいのではなくて?」
「あは、おわかりでしたか
では、行きますっ」
くん
その場で身を沈め
ばん
わたしの身を虚空に解き放つ
迫る鎌首とすれ違いざま
白刃一閃
ざりぃ
振り切った直刀から伝わる異様な手ごたえ
しかし
「しぎぃぃぃぃ」
叫ぶ大蛇
切れた
それなりの傷が巨大な鱗についている
先程女優業のついでにトーラス工房で購った一振り
切れ味強化の魔剣だが
どうやら刃物自体が無効ではないらしい
ぎしゅん
背後で一撃
そう、わたしが交差した直後
見定めたお姉さまがわたしと逆の方向に入れた愛刀の一閃
「ぎゃ、ぎゃぎぃぃ」
そちらのは深手
苦鳴をあげる大蛇
「物理は通る、と
遥っ、いけるわね?」
「楽勝です、お姉さま!」
ひとりなら苦戦
いや、面倒なだけでお姉さまならそれなりだろう
わたしが変身して断罪剣を振るえば楽勝
ならば二人ならどうなるか
答えはこの通り
そう、結局最後はお姉さまが、のたうつ大蛇が闇雲に
巨大な咢を開いた瞬間
マンティコアの偽装にお使いになった
風の力を螺旋に乗せるあの一撃
それを口中深く叩き込んで終了
もっともその前に巨体を生かして尾を、胴体を
大蛇はわたしたちの身にうねくる暴力をぶつけてきたし
こちらも散々ふたりで切り刻んでやったが
「ふっ、名匠トーレスが鍛えし業物
今宵の魔剣は血に飢えているっ!」
「遥ぁ、倒したのはわたしなんですけどぉ?」
「し、しつれいしました
けふん
この騒ぎでもっと場が荒れるはずが
あてが外れたようですね
四ついたやつらが固まってこちらに来ます」
固まってくれるなら好都合
接敵
お姉さまが正面からやや右上に敵の一団に割って入る
その直後
お姉さまの強さに一瞬たたらを踏んだ連中に今度はわたしが
正面から左上に掛けて強引に割り込む
「ふっふ、銘は知らねど、抜けば珠散る家伝の宝剣
どれ、刻んでやるとしましょうか」
びしん
「よっ、セラの屋ぁっ!」
きしゃん
「こほん、なによぅちょっと夕方のを引きずっただけじゃない
意地悪ねぇ、遥ったら」
げしん、かしん
「あはっ、お姉さまかわいい」
びしん、がしん
「はるかぁ、そのへんに、しないとぉ、おしおき、よっ」
かしゅ、けし、かしゅ、がしん
軽口が出るほどにあっけなく
そこそこに腕は立つようだったが狼藉者どもが倒れ伏す
むぅ、直剣で峰撃ちもどきは難しい
いっそ鉄棒でも買っておこうかしら
きっと安いし
が
「はるかっ」
「おねえさまっ」
わたしたちの背を同時に何かが奔る
ごばん
爆発ではない
なにか巨大な暴力が炸裂した音
お屋敷のファサードに大きな穴が開いている
むしろ壁の一部が吹き飛んだ、そんな光景が背後に見えた
そしてお屋敷に走り込む一つの影
舐めてくれる
こちらを無視して飛び込んで
それでレイチェル様の命を散らす気か
させないっ
旋回したわたしたちもお屋敷に飛び込むのだった
本戦はここから




