1 『鬼』ごっこ(イラストあり)
ということで、スタートです
2021.01.10 お姉さま のイメージ画像掲載
(もちろん作者さんのご了解済みです 経緯とかは活動報告あたりで)
2021.01.12 お姉さま のイメージ画像変更
(作者様から、無地背景ver.を頂きましたので差替させて頂きます)
さら、さら、さら
細い光が落ちてくる
森の中
見渡す限り森の中
陽は
陽は出ているようだ
太陽らしい光が差し込んでは、いる
いるけれど
日本で知っていたような
ヒトが出入りしている森ではない
だいいち、針葉樹っぽい
見たことのない巨大樹に囲まれたここは
ヒトにやさしい気配がしない
迂闊に入り込もうものなら
間違いなく命を散らす
そういう場所だ
とはいえ
別にそこまで心配しているわけでもなかった
『つかえるぞよ、いま、おぬしの持っておる力は
ほぼ、ほぼつかえるであろうの
おぬしをただびとに戻すのは、それはそれで面倒
こほん
いやいや、それだけではないぞよ、うむ
それもまた因果をさらに捻じ曲げる
ゆえに、おぬしも、さよう、あのものも
そなたの知っておる、そのままでいくからの
そうそう命は散らすまい
ふむ、散らす方が大変じゃろう
ふたりあちらで自由にするがよい
それが我の礼じゃ』
そこまで言われていれば
お姉さまも私もそうそう簡単に倒れることはないだろうと
そこまで考えてわたしは
親指を軽く立てた両手を腰に当てると
「『コンソール』!」
わたしの『機能』を
わたしの身体の『機能』を呼び起こすキーワードを唱えた
じりり
腰の前の空間に軽くノイズが入ったような
そんな感覚があった後
わたしの腰に金属のベルトがまかれて
ベルトの中央には大きな赤い発光体と
いくつかの色違いの発光体が付いた『コンソール』
そうわたしの身体の機能をコントロールする装置が出現し
「『エリアサーチ』」
そう唱えれば
瞬間
脳裏にわたしを中心としたおよそ100mの生物反応
いや、場合によっては機械の類までもが光点として浮かぶ
反応多数
いや多数すぎ
もっと精度を落そう
ふむ
結構大型の反応がある
いっこ飛び抜けたでかいのが
えっ
ち、近いって
ずん
振動が
ずん
どん
どんどんどん
近づいてくる
もう気配ですらわかる
大型の生体反応が
わたしの方へ、やってきている
ばぎ
ばぎばぎ
目の前の巨大樹がへし折られ
巨大な顔が
つの
つのつの角がある
巨大な鬼の顔が私の前に突き出される
「小娘ぇ、貴様も我をこの我を狩ろうとするかぁ
ならば死ねぇ」
ほとんど轟音
咆哮のような叫びとともに
巨大な鬼がわたしに襲いかかってきた
「ええっと」
ひょい
鬼の突進を斜め後ろに跳んで躱しながら
「しゃべれるんですね?
なにかのお間違いでは?」
一応は聞いてみる
轟
突きだされた鬼の右腕が
下から上へと跳ね上がり
突風のような一閃が私を襲い
わたしの替りに巨大樹がいとも簡単にへし折れる
「も、問答無用ってちょっとひどくないですか?
わたしってば、ここにきたばっかりなんですよ
は、はっ話せば
うわぁちょ、ちょっと落ち着きませんか?
話せば、ほら、誤解が解け・・・」
轟
こんどは打ち下ろす一撃
めきり
更に巨大樹がへし折れる
ここがどこだか知りもしないが
森林破壊とか怒られないのだろうか?
いや、まぁここがこの鬼さんの所有地だとか言われると
環境破壊とかより、わたしの無断侵入の方が問題なのかもしれないけれど
「逃げるなぁ!」
「に、逃げますってば
とんでもない力じゃないですか鬼さんってば」
さらに続く攻撃をぴょんぴょんとはねては躱しながらわたしは続ける
「それとも、ここのヒトたちって
鬼さんが殴ってもへーきなひとたちばっかりなんですかぁ?」
「うるさい、死ね
我の力で死なぬものなど」
「いやいやいや、やめてくれませんか?
小娘って言われましたけど、わたしだって生きてますし
刃向かう力があったりとか、ほら
ちいさなねずみ、ねずみってわかりますか?
ちいさないきものでもおおきな獣さんの鼻とかに
ほら、噛みついちゃったりしたら、獣さんだって
あ、あのあの、鬼さんだって痛い、痛いかも、ほら、しれ、うわぁ」
わたしの変則な跳躍やらステップやらに焦れたのか
鬼は右腕をわたしの身体の中央に向かって突きぬいてきた
がしり
交差させた私の腕が鬼の右腕を受け止める
「お、鬼さん、や、やめません?
こ、これで、ほらわたしだって、す、少しくらいは力があるって
わかるでしょ?
こっ、このあとは、ほら、お互い怪我じゃすまないかもしれませんよ?」
「止めるのか、小娘、この我を止める気か
ヒトの分際で、なまじ少しばかりの力があるからと、我を止めるのか?
ならばしねぇぇ」
うわぁ
説得の効かない奴だった
がぎぃっ
わたしは鬼の顎を蹴り上げる
普通ならこれで
こき、こきっ
「刃向かうか、よほど死にたいと見える」
首を鳴らして体制を整える鬼
「お、鬼さん?あ、あのあの
痛くないんですか?っていうか、くらくらとかしませんか
これで止めとかにしませんか?
うわぁっ」
何なんだこの鬼さんは
一応これでもただのヒトなんかじゃないんだけど
たいていの生き物ならさっきの蹴りで意識が飛んで
いやせめて脳が揺れていろいろ扱いやすくなってくれるはず
はずなんだけれど
微塵も揺らぐどころか激怒のままに、連続攻撃を仕掛けてくる
これで駄目なら力を使おうか?
しかし鬼の方が先に焦れたらしい
「動きに自信があるのか、小賢しい
ならこれでしねっ」
そのあとは何か聞き取れない言葉をもごもごと叫ぶ
とたん
ぼうぼうぼう
鬼の頭上に三つの火球が浮かび
次次々と私に襲い掛かってくる
なんだこれは、魔法ってやつか?
ぼう
一発目は私の後ろの巨大樹に命中して一瞬で巨大樹を炭に変える
あれにあたるとさすがに問題が
い、いや、いや変身しておけばよかった
この姿のままだとちょっといろいろあぶないか、もっ
かっつん
しまった
ここは森、森の中
気は付けていたのだが
わたしは木の根に躓いてしまう
バランスがっ
転倒こそしなかったけれど
2発目と3発目の火球は躱せない
この服どうしよう
焼けるかな、私の身体の方は、やっぱり焼けちゃうかな?
間抜けなことを想いながら、迫る火球を見つめていたが
しゅらり
音こそしなかったけれど、わたしの前に白刃が
そう、わたしの見慣れた白刃が付きだされ、2発目の火球はそれにからりと絡め取られ
ふぁさり
やはり見慣れたマントが3発目の火球を掻き消して私を守る
あぁ、このお姿
あちらでも何度夢に見たかも覚えていない
すらり伸びた肢体
それを覆う艶やかな衣裳
軽やかに流れる青みを帯びた御髪
その御髪を、お顔を守るのは
ティアラかもとみまごう、装飾つきの細身の前立て
後姿だけでも、それがあの方だとわたしにはわかる
「遥、大丈夫かしら?
これはオーガ、人食い鬼よ
理屈の通じる相手じゃないの
やれるかしら?」
何をなどと聞く必要もない
笑みを含んだその声に、そのお声に
「はいお姉さまっ!」
わたしは、わたしは笑って
そう笑い返してお応えしていた
次回、お姉さま無双?