16 出たとこ勝負(ハックアンドスラッシュ)
今回はまだ違う、違うって言いましたよね?
こく、こく、こく
顔を見合わせ、何のやり取りもなく
『オーロラ』一味さんが肯きを交わされる
「お嬢、嬢ちゃん、二人なら駆けつけやすいだろ?
後詰めは任せな、ちょいとだけ右に回り込んで行くからよ
それでいいかい?」
「「はいっ」」
答えるわたしたち
今度は二人、頷きを交わすと、まずは、早い人間のスピードで
続いて、夜のとばりの中ででも
暗視が効き、常人を超えるお姉さまとわたしのできる速度に上げて
先程の狼煙の場へと駆けつける
むろん
変身こそしてはいないが、『エリアサーチ』は行っている
「真ん中に2、周りに10、たぶん人間です、あとは大きめの・・・
魔物ではなさそうですが、反応が1つありますね
距離はあと100メートルほどです」
お姉さまの合図で現場の直前、立ち止まったわたしたちは小声で状況確認を行う
「音を消すわ、アレを使うから、良いわね?」
「はいっ、接近して現場の把握、そののちは、お姉さまの動きに合わせて
出たとこ勝負、それでよろしいでしょうか?」
「うーん、遥、なんだか冒険者っぽいわ」
くすりと笑うお姉さま
肯きあったわたしたち
そして、二人の周囲から音が消える
『静寂』
お姉さまがこちらに来てから習得された便利な魔法
お姉さまによると
こちらの世界は、なんというのか、魔法のもと?が世界に満ちていて
『魔法』を編み上げ易いのだという
わたしはといえば、いわゆる『生活魔法』、そう
身を清めたり、小さな灯りや、点火、そして身を清める
その程度ができるようになった程度
実は秘かに憧れていたのだが、魔法少女にはなれないらしい
そのくせ、わたしから時々巨大な魔力の気配がするとはお姉さまの言ではある
その証拠に、マジックボックスの容量だけはお姉さまと同等に大きい
二人で考え込んだのだが
どうも、わたしの『特別』が良くも悪くも魔法関連には悪さをしているらしい
そんな気がする近頃ではある
さておき
静寂は掛けているものの
そろ、する、するると余計な気配をさせないように距離を詰めたわたしたち
その目前
街道筋からほんの少しそれた場所
転倒した馬車
殺された馬、一頭はまだ生きているようだが身動きもできていない
転がるヒトの死骸が2つ、3つ、5つか
馬車の前
馬車を後ろに一人の女性、少女?わたしたちよりは年かさかしらん
その人をかばっているのか
年若い、やはり女性が一人
いかにも野盗、そんないでたちの男たち10人に囲まれている
少女をかばって立つ、女性のいでたちは・・・
メイドさん???
うつむき加減のメイドさんの表情は見えないが
怯えているのか、肩を震わせている様子
とはいえ、その両手には
逆手に握った短刀がふた振り
いろいろと、頭の中で疑問符が飛び回っているが
悲しいことに、身体の方は別タスクで動いている
きっとお姉さまも同じではないかしら
ふぃっ
お姉さまの御姿が一瞬消える
無論消えたわけでもないし
わたしが見失いなどはしない
だが、常人の視野レベルでなら、お姉さまは消え
そして・・・
ごふ、ごぼ、げふり
左側の囲みを作っていた男たちが、無音ではあるが
口を開閉させながら、5名ほぼ一瞬でくずおれる
がふっ、ぐわ
遅れてわたし
これは残念お姉さまの御手並みには遠く及ばず
何かに気づいたか、向きなおろうとする者までいたが
全員、急所にそれなりの一撃は入れてある
死なないかな?死なないといいな?
うん痙攣してる、とりあえず即死はしていないようだ
ともあれ、全員無力化に成功
わたしが、いえ、わたしたちが、かもしれないが、驚いたのは
先程の、お姉さまの御手並みを、たぶんほぼ全部、メイドさんが追っていた
その眼と、気配の動き
このヒトかなりできるほうのお方らしい
戦闘メイドとかいう奴かしら?
いや本当にそういうのがいればだが
わたしの方をほぼほぼ追っていないのは
状況の変化を踏まえたうえで
戦闘から、警戒にとモードを切り替えた、そういうことに違いない
「・・・です、あ、失礼」
最初お姉さまは『静寂』の効力を失念されたか
ぱくぱくぱくとお口だけ開閉していらっしゃったが
すぐに効力を止められると
「こほん、わたくしたちは、リンデの冒険者です
この者たちは、野盗の一団とお見受けしましたが
それであっておりますでしょうか?」
メイドさんがちらりと背後を伺い
「ありがとうございます、危ないところをお救い頂きました
わたくしどもはリンデに向かう旅の者
同行者はみなあのようになりまして
次はわたくしと、お嬢様、そう思っておりました、本当に助かりました」
と、深々と礼をされる
「ええ、ありがとうございます」
こちらも前に進み出て礼をされたお嬢様と呼ばれた少女
相当に怖い目にあったに違いないはずだが、肝が据わっているというか
それとも命の危険に無感動なのか
その声音は落ち着いている
「お嬢、嬢ちゃん、大丈夫だった・・・あぁ聞くまでもなかったな」
馬車の右手、やや後方からハインツさんたちが現れ、懐からギルドカードを出して見せる
「俺はハインツ、俺たちは『暁のオーロラ』っていうパーティのメンバーだ
リンデからこっちに飛龍が巣をつくったって話で
この二人とうちとで討伐に来てな、これから帰ろうってところで
さっきの狼煙を見たわけよ、アレはお前さんたちの上げたもの
それであってるかい?」
「はい、左様です、馭者が上げましたが、もうそんな場面ではなかったかもしれません
とはいえ、気づいてくださるお方がいればと、一縷の望みと思いましたけれど
こんな高名な方々に救って頂けるとか」
「ほう、俺たちをご存じで?」
「王都でも、『暁』の皆様といえばお名前が轟いておりますわ、ねぇ?」
とこれは『お嬢様』
「はい、皆様を高名な冒険者様とそのご一党と見込んでお頼み申し上げたいのですが
誠に申し訳ございませんが、リンデまで護衛をお願いいただけませんでしょうか?」
はなしを引き取ってメイドさんが再び頭を下げる
「おうよ、どうせ、これから戻る道
とはいえちょいと待ちな」
「あ、はい、あの勿論些少ではございますが、多少のお礼は」
「違うって、こいつら転がしておくわけにもいくめぇ?
お嬢、嬢ちゃん、ここに放っておいて自業自得たぁいえ
魔物の餌にするってのは、寝覚めがっていうよか
街道沿いで魔物の餌付けしちまうようなことになる
そうだな、ううん
よし、おめぇら、馬車を引き起こそうぜ
馭者は・・・」
「わたくしが務めます」とメイドさん
「おし、んじゃたのまぁ、道案内はお嬢、任せるぜ?
とはいえ、街道沿いだ、間違いようもあるめぇ
俺たちは、この連中を縛り上げて置く
すまねぇがヘルマンのおっちゃんにでも
一報入れちゃくれめぇか
荷馬車でも寄越してくんな、後始末の人数も頼むと、よ」
「承りましたハインツさん
ではお二人をお届けしたら、私どもも戻ります」
「義理がてぇな、ま、お嬢たちが戻って来てくれるなら
この後、なにが来ても増援が見込めるってこったな
んじゃひとつたのまぁ」
「ハインツ、なにがとか言うんじゃないわよ、そういうのを
死神の前で口笛を吹くとか言うんだわ」
とこれはくみちょ・・・けふん、レシーネの姐さんだ
「よせやぃ、おめぇがいて、死神とデートできるほど
こちとらふところは潤っちゃいねぇよ、おっし馬車とおんまさんは
何とかなったな、んじゃお嬢、嬢ちゃん、頼んだぜぇ」
頼まれたものは仕方ない
わたしたちとメイドさん、そして『お嬢様』とやらは
馬車をリンデに走らせるのだった
次は大丈夫、大丈夫なはず、きっと、たぶん