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14 亡国の騎士団

顎は、落とされた

かり、かり、かり


「ええっと、あの、ドーラスさん??」


一番立ち直りが速かったのはドーラスさん

わたしの変身した姿を見るが早いか、駆け寄って

さすがに小刀などはお使いに成らなかったが、爪先で私の装甲をかりこりこりと

こすっておられる


「ほ~~、へ~~、なるほどなぁ

 うーん、嬢ちゃん、ほれ元の姿に戻れるか?

 よし、なら、防具付けてから、あ、鉢金と革鎧を羽織るだけでいいぜ

 おー、よし、も一度『変身』だっけな、やっておくれ」

「あ~~、はい・・・」


もう一度して見せた

「よっしゃ、んじゃ今度は元の姿になってみな」


なんだか、いろいろ台無しな気がしなくなくもないが

仰る通りにしたのだが


「わかった、嬢ちゃん、明日もう一度来な

 なんだよ、そんな顔しやがって

 あ、お嬢、尾っぽはここにだしてくんな

 ほぅ、立派なもんだ、おっしゃ、用事は終わった

 大将、ギュス公、後の話はおめえらでしといてくれ

 おれは鍛冶仕事の準備を始めるからよ

 話が終わったら裏からけぇんな

 騒ぎはごめんなんでな、俺ぁ作業を続けるから気にせずけぇんな」

「親父さん、ギュス公ってなによぉ!」


しかしドーラスさんはもうそれにもとりあわず

ひとり書棚の本をめくられてはぶつぶつぶつと、何やらメモを取られたり

炉の火の調整にはいられたりと、ご自分の世界に行ってしまわれたご様子


「あ~~なんだ、俺は見なかったことにしたいな」

「大将、にがしませんからねぇ」

「だよなぁ、おっし、お嬢、嬢ちゃん

 おめえら、『ファラスネス』から来たのかい?」

「「ふぁらすねす??」」


聞いたことのない単語が出た

顔を見合すわたしたちだけれど

逆に、わたしたちの様子をご覧になったお二人も

怪訝な、あるいは納得されたかのような、あるいはどこか失望されたかのような

複雑なお顔をされる


「関係なかった、のかなぁ」

「どうなんでしょうねぇ、わたしらだって、嬢ちゃんがアレなのかどうか

 判別なんかつきゃしませんよぉ」

「「??」」


「わかった、いや、これはひょっとすると嬢ちゃんのその姿とは

 なんの関わりもないことかもしれん

 えらい昔の、おとぎ話みたいなもん、そう思ってくれて構わねぇ

 が、まぁ俺たちの知ってる話をしてやろうじゃないか

 とはいえだ、

 嬢ちゃんたち、ギュスターブ、ドーラスの邪魔はここらにしようぜ

 あとは、ギルドでしようや

 ちっと飲みたい気分でもある、じゃいくぜ、ドーラス鍵はかけとけよぉ」


そして、わたしたちは工房の裏口から

お二人の後についてギルドに向かった


工房裏の路地を抜けると

ここはもちろん午前の日差し

いっしょにいるのがギルド長と、その腹心?、そして昨日の騒ぎの主ともなれば


「おやギルマス、なんだ、お嬢も一緒かね、ちょうどいい

 『蠍槍尾』うちにも回すようにお嬢に周旋してはもらえないかね?」

「はっはっは、『勇者の分け前』に口を突っ込めるほど

 俺はたいそうなギルマスじゃないぜ、王都のギルマスあたりに言っちゃどうかね?」

「はぁ仕方ないですな、お嬢、チューリング商会のことも少しはごひいきにお願いしますよ?」

などと声をかけてくる方もいて


「お嬢、嬢ちゃん、リンデは街とは言っても田舎町だからなぁ

 みんな、娯楽に飢えてるのさ、しばらくこんな調子が続くだろうよ

 それも含めて冒険者せけんってもんだ

 マンティコアのオークションなんてのは

 王都でもなきゃ、めったにあることじゃぁない、良い機会だ、馴れておくんだな」

などとラックナーさんは、少々気が重くなるような話をされる


とはいえ、わたしたちの気は、

先程、ギルド長が口にされた『ファラスネス』そして『お伽噺』のことばに

そもそも、そぞろ


「大将、さすがに表から入るのはやめにしましょうよ」

「そうだな、お嬢たちを連れてるんだ、倉庫の方から入るか

 マンティコアでも確認に来たかってことになるだろうさ」


そして、目立たない入口から入ると、ギルド倉庫を過ぎ

さらに、隠してあるわけではないが、およそ人の気を引きにくい階段を上がれば

そこはギルド長の執務室

というか、お姉さまはともかくわたしは初めての入室となる


「お嬢、嬢ちゃんそこに掛けな、二人には黒の新しいのがあったろう?

 ギュスターブ、俺にはアレを出してくれよ、ちょいと濃い目でたのまぁ

 お前は・・・このあと職務があったんじゃないか?」

「そいつは大将きけない話ですよぉ、あたしも一杯おつきあい

 でもなきゃ、ちょいとねぇ」

黒?

出てきたのはまっ白いミルクのようだけれど、ま、さ、か


「はいどーぞ、『黒羊』のミルクよ」

黒羊・・・恐ろしい奴、いずれ見に行かないと


からん

ギルド長のグラスの中に大ぶりの氷がひとかけら出現する

人は見かけに何とかいうが、ギルド長はどうやら魔法もお使いになるらしい

からり、グラスを回すと、氷の上に注がれたものをちびり、一口


「さて、王国がな、冒険者養成所やら、商業養成校やらに配ってる

 歴史の教科書に建国の歴史ってやつが載ってるから

 気になるんなら、あとで、そっちも読めばいい

 要約して話すと、この王国『エスペリ』が1000年ほど前に今の

 姿になるまでは、王都、いや旧王都だな『エスペル』とそこから東北

 あぁいまのリンデのあたりもそのころから王国に入ってたんだな

 大きめじゃああるが、当時20ほどもあった小国の一つ


 そこに、とある傭兵の一団が亡命というか

 エスペリに滞在中に故郷が消えたと、転げ込んたわけだ

 そいつらの故郷ってのが『ファラスネス』

 どの国よりも小さいうえに、傭兵団でも輸出をしなきゃ

 農地もほとんどないうえに、産業なんざありもしない

 そんな小国だったらしいぜ?


 が、『ファラスネスの傭兵』といやぁ一騎当千

 中でも、10ほどあったそうだが傭兵団長は『聖鎧騎士』

 ただびとの姿から変身して白銀の鎧を身にまとえば

 山を崩したとか、龍を一人で葬ったとか

 まぁおよそ信じられない超人ってやつだぁな」


そこまで聞けば、さすがにこう聞き返さざるを得ない

「あのあの、『聖鎧騎士』さんってわたしの姿に似てるんでしょうか?」

「いやわからん」

「「はい??」」


「いや、だから言ったろう、お伽噺みたいなもんだって

 とはいえ、有名な話だからな

 嬢ちゃんが『変身』して見せりゃぁ、結構な数の奴が聞くだろうぜ

 嬢ちゃんは『聖鎧騎士』なのか、ってな」


ぐぃ

今度は呷る(あおる)、そんな感じで

ラックナーさんはお酒を喉に流し込む


「そんな超人が率いる、しかも一騎当千の傭兵団

 それまではなぁ、他の国にも『ファラスネス』の傭兵団が派遣ってか

 雇われてたもんだから20もあったっていう国のバランスがとれちゃぁいた

 それが「エスペリ」独占となりゃどうなるか

 ま、想像の通りで、独り勝ち

 で、エスペリのほかにはあと2国、大陸統一はもう明日にでも

 が、そこまで行きながら、そいつらは消えたそうだぜ」

「消えた?」


「大将どうぞ」

ギュスターブさんがくぃとグラスをあおりながら

ギルド長に薄い冊子を渡す


「気が利くじゃねぇか、ここは、こいつを読む方がいいよなぁ


 ・・・かの亡国の王弟、エスペリ王の枕辺に幽鬼のごとく立ち現われ

 『王よ、庇護を我らに賜りしこと、有難し

  なれど、我ら、これより旅立ちしものの跡を尋ぬ

  王より賜りし我が妻とわが息子、これら伴うあたわず

  不憫なれど、ただびとにすぎざるゆえ伴い難し

  ゆえに、王にそれらを託し奉る

  いかように扱うも、そは王の随意たるべし

  わが娘、これのみ我らの血を宿すゆえ、かの地に伴うものなれば』

 そは、夜の霧なるか、また、月の影の揺蕩いしか

 亡国の王弟、その夜を限り、王にまみゆることなし・・・


 ってな、こいつは吟遊詩人のはやり歌

 そいつを書き起こした奴だそうだが、

 ま、そういうわけで、いまも大陸にゃぁ3か国がのこっちゃいる

 どこも、王国の衛星国そんな感じだがな

 そっちにも、うちの支部だってあるぜ、大陸中はまぁ一つになってるようなもんだな」

「残った息子さんは?」

「その頃には、例の団長さんってなぁ功績第一等ってやつで

 『ファラスネス』のあたりをもらって侯爵さんになってたそうだが

 そこを継いだ

 まぁ、残念、早死にしたそうで、お家は断絶

 とはいえ、今の王国の建国に関わる功臣の旧領

 いまでも、旧侯爵領は王家の直轄地

 ただし、もとから何もないような場所だったそうだしな

 今も手つかず、そのまんま

 『ファラスネス』の領民があがめてたって聖山があったそうだが

 いつ崩れたのかもわからねぇが、崩れたまま、これも今でもそのまんま

 残された王女さんの霊が王弟さんを探してさまよってるとか

 領民の霊が、三日月の夜には騒ぐとかそういう噂が今もあるぜ?」


「リンデから遠いのでしょうか?」とこれはお姉さま


「ここから見て、街道を南西に200リーグほどいきゃぁ王都だな

 んで王都から、100リーグほど南に行きゃぁ『ファラスネス』のあたりか」

ルックナーさんは壁にかかった大陸の地図をなぞって

リンデ、王都、そして何も書かれていない1点を示して見せる


ええと、こちらで1リーグっていうのは

ヒトがおおよそ1時間で歩くくらいの距離だと聞いた

昔の日本でなら徒歩約1里っていうのが1時間で歩く距離

平均して日に8里も歩けるなら、健脚といっていいとか聞いた気がする

1リーグが1里、およそ4キロとそんな感じだろうか

王都までは、常人ならば25日、馬車なら15日ほどとか言ってたっけ

わたしたちならどうかしら?

それから南に、こちらは街道ではなさそうだけれど15か20日くらいかしら?

結構遠くではある


「はっは、すぐにも見に行きたそうだな

 が、まぁ、そうだな、オークションが終わるまではここで世間を見てくがいいな

 1000年昔の話だろ?逃げやしないさ

 オークションで懐もあったかくなるってもんだしな

 どこに行くにも、おあしってなぁあって困らねぇ

 ギルドカードに付けておきゃぁどこでもひき出せるしな

 というわけで、リンデにいるうちに、冒険者の生業ってのを

 もすこし身に付けておくんだな

 お嬢たちのお勉強の間、多少なんかあったなら

 もみ消せるもんはこいつが消してくれるだろうよ」

「げふっ、大将、待った、お役御免になれるんじゃ?」

むせたギュスターブさんが抗議をするが


「おう、お目付け役は御免だぜ、だがなぁ、火消しの勤まるギルド職員

 しかも、事情に通じてる、ほかにいるかよ?

 いるならそいつを身代わりにだしな」

「鬼、大悪魔、魔王、詐欺師」

「おうよ、全部おいらの二つ名じゃねぇか、いまさらなんだ?」


というわけで、まだしばし、わたしたちのリンデ滞在は続きそうだった


じ、次回はきっと、おーくしょ(ry

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