13 わたしの ヒ ミ ツ
今日こそは、見た!
わたしの光は弱い(しつこい)
どさ、どさ、どさ
ドーラスさんが、ご自分の席のほかに4人分の席を用意する
え、4人?
「ちっ、大事にしやがって、しゃぁねぇ
大将呼んできな、つーか、おぉい大将、来てるんだろう
へぇんな」
「ようドーラス、一昨日振りくらいかな?」
がちゃり、裏口から見事な体格の壮年男性が入ってくる
「お久しぶりです、ラックナーギルド長、ギュスターブさんには
いつもお世話をおかけしております」
お姉さまがすぃと頭を下げる
あぁラックナーさんっていうのか
この方がギルド長さんか、わたしは初見だけれど
最初に、お姉さまを「お嬢」とか言い出したのがこの方とお姉さまから伺ったっけ
「はじめまして、遥です、わたしも、ギュスターブさんには・・・」
「ほいほい、構わんよ、それがこいつの仕事で、こいつをお前さんたちに付けるのが
俺の仕事ってことさ、だよな?ギュスターブ」
「大将、構いますって、あたしの胃はどうしてくれるんですよぅ」
「胃薬代くらいはつけといてやるさ、休暇は、まぁその、うん、考えておこう」
「そこが一番肝心なんですけどねぇっ・・・」
「ギュスターブ、おめえも大将とは、解散で手切れしておきゃぁ良かったんだ
ついてきちまうんだから仕方ねぇってもんよ」
「いや、親父さん、仕方ないでしょ、『来るかい?』なぁんて
声かけられちゃさ?
親父さんだって人のことは言えないじゃないさ
リンデくんだりまで結局来てるんだしねぇ」
うん?
この人たちは、ギルド長と、職員さん、そして街一番の鍛冶屋さん
それだけじゃないってことかしらん?
「あぁ、ハルカちゃん、私らはねぇ、もうあと二人いたんだけど
以前、パーティ組んでいてねぇ
これでも。ちょっと有名な一党だったのよ?
それが、まぁ、うん、事情があってねぇ、一党は解散
んで、何をどうしたのか、大将、あぁ、うちの頭目だったんでねぇ
わたしらは、大将っていってるわけだけど
引退して、ここのギルド長をやるっていうじゃない?
そこでお別れしなかったのが、親父さんの言うとおり、運のつきってやつよね
ま、親父さんだって、結局こっちに来ちまうんだから
人のことは言えないって思うけどさ」
「あぁなるほど、でも、なんでここにいるんです?
ギュスターブさんも、ギルド長さんも
やっぱり私たちは怪しいってことですか?」
「うーん、怪しいってより、危なっかしい、かな?」
「あ、それは・・・」
お姉さままで半ば納得してしまうが、それは確かにそうかもしれない
「あんたたちはねぇ、腕利き、どころか、どっかのパーティでってなら
今すぐ、A級の冒険者で通るわよ、腕前ならね?
でも、危なっかしい、事情は深くは関わらないようにと大将の意向もあってさ
詰問、査問の類はしたことなかったでしょ?
とはいえ、妙に物馴れたところがあるかとおもえば
そのくせ、何かとおぼこっぽい
それでこうやってお邪魔虫をしてたけど
昨日のマンティコアはちょっとばかりやりすぎたんじゃない?」
わたしたちを上目に一瞥するギュスターブさん
「実は、わたしもハルカちゃんの鎧の傷はおかしいなってねぇ
ま、なにか、わけがとは思っちゃいたのよ
すぐに聞いておけばと、今なら思うけどさ
だのにマンティコアの蠍槍尾、それに棘穿核
よせばいいのに、親父さんちに持ち込むとかいうじゃない?
なら、当然、武具の手入れもって、親父さんが言いださないわけないじゃないさ
これはひともめあるってねぇ、大将と二人で来てたわけよ」
なるほど、わたしたちには監視というより、大人が補助輪を付けていた
そういうことか
ふたり顔を見合わせる
「浅知恵でした、お恥ずかしい限りです
とはいえ、わたくしたちにも事情がありまして
ドーラスさんにはせっかく良くしていただいたのに
ご厚意を土足で踏みつけるようなことになりまして、申し訳ございません
ただ、事情の方は、ちょっと皆様にも、ご説明できかねますので
当面、こちらのお出入りはご遠慮
それで、ギルドの監視が解けるようなら
その時に、リンデから退散、それでお許しいただけませんでしょうか?
お金で解決というわけにも参りませんでしょうが
昨日のマンティコアはご迷惑料がわりでギルドに差し出すということで
わたくしどもは構いませんですが」
居住まいを改めて、お姉さまは提案されかけたが
「「「馬鹿言うんじゃ」ねぇ」ないわ」ない」と異口同音に皆様のダメ出しをされてしまう
「それが、危なっかしいのよ、お嬢、それにハルカちゃん
綺麗なふるまいってねぇ、一見みえるかもしれない
だけれど安易よね
自分の物に執着せずさっと身づくろいだけしようってことね
だけど、そういう奴は食い物にされる
君たちは自分が人並み外れて強いから、ヒトの悪意なぞ気に掛けません
そういいたいかしらねぇ?
ふたりのことは人質、悪意でそれぞれからめ捕られたって
余裕で食い破れます、そう二人の顔に書いてるわよ
どんな育ちをしたかは知らない
きっとそれなりなのよねぇ
悲惨な目にも合ってますって? だろうね、うん
だけど、なら、あんたたちと付き合いのあるヒト、たとえばこの親父さん
あ、この親父は殺したって死なないわね
ちょ、悪かったわよ親父さん
グレートアックスどこから出したんですよぅ
げふん、たとえが悪かったわね
そうね「龍の息吹亭」のおかみさんとかに
何か圧力をかけてやろうか?さもなくばとか言われたならどうするの?
黙って消えて、知らない顔できるタイプには、残念ながら見えないわねぇ」
「ギュスターブ、おめぇ何かおかしなもんでも食ったのか?」
先ほど取り出した巨大な戦斧をまたどこかに仕舞ったドーラスさんが目を剥く
「なんですよ、親父さん」
「随分肩入れするじゃあねぇかよ、『冷酷非情』はどこに置いてきた?」
「「『冷酷非情』?ギュスターブさんがぁ??」」
「あ~~ぁ、大将、こりゃぁいかんぜ、ギュスターブにころりとやられてるようじゃ
そりゃぁあぶねぇ」
どうもいろいろ大人の世界は広いらしい
「仕方ないんじゃないか、ドーラス?
実際肩入れはしちゃぁいるようだぜ?
ま、お嬢、ハルカちゃん、ギュスターブのは奴の本心、そう思う
ドーラスだっててめぇの仕事に砂かけられたとはいえ、
お気に入りの娘っこ、いや孫娘かな?
あはっは
あぁ、嬢ちゃんたちが嫌いでいっちゃいない
ドーラスには、こっちもこうやって口くらいはきくさ
わけは言えない、それもよかろう、が、もうすこし
ここで冒険者ってやつを見ていくんだな
お目付けはもうつけてやれねぇが、なぁ
なにしろ、これでも大事な部下の胃に穴が開くのは見過ごしにゃできないさ」
わっははと笑うギルド長
しゃぁねぇやと斜め上を見るドーラスさん
お目付け解除で肩の荷が下りたか、薄く笑うギュスターブさん
うん、少なくともこの大人さんたちはわたしたちを真剣に見てくださっている
それを無碍にしていいかしら?
だので、だので、わたしは
「おじょうさ、いえ、お姉さま、わたし見て頂こうと思います」
「遥、何を言い出すの、それじゃあなたが」
「構いません、お姉さま、わたしがこちらに伺って、まだ十日ほどですけれど
皆様、本当に気持ちよくしていただいています
わたしの都合で、皆様に、ご不安や、ご不快を押し付けるって
それはいけないと思うんです」
「ふぅ、いいのね、あなたが決めるならわたしはそれに従うから」
「ごめんなさいお姉さま、ではすみませんが、皆さんご覧ください」
と御三方に向きなおりするりと立ったわたしは
「『コンソール』」
ベルトを呼び出す
なんだなんだと6つの眼がそそがれて
「変身っ!」
壮年男性3人の顎が落ちる、珍しい音が聞こえた気がした
次回、旅立つと思ってましたが、オークション?