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12 『組長』 と うわばみたち

光は戦力が…、やっぱり私は闇属性


ごく、ごく、ごく


焼き立てのパン、かりりと焼かれた分厚いベーコン?

添えられた新鮮なミルク


珈琲が欲しい気もするが、こちらではお茶しか飲んだことはない

この宿で出してくれるのは、高級品ではないが、飲み放題のお茶だけ

ちなみにこちらでお茶というのは

多分だけれど、向こうでなら南の島の高山地域で取れるとかいう

半発酵のお茶の類

そのうち、紅茶の製法とかを生産者さんとお話したい気もする

もっとも、お姉さまは、こちらのお茶がたいそうお気に入りで

街の中で、高級茶を出すお店から高級茶葉と茶器のセットまで

お求めになられたご様子だ


もく、もく、もくと、頂いているが

飾り気はないが、これはいつ食べてもおいしい朝食

にやけ顔になっているかもしれないが、健康な女子だもの仕方ない


「龍の息吹亭」での朝食は、サービスというか

宿泊費込みだとすれば、わたしにとっては十分お値打ち品だと思う


ちなみに、これに飽きたら、街のそこここで、早朝から開いている

市場で何かを食べに出ればいい


「ハルカちゃん、良い食べっぷりだねぇ、パンでよければお代わり上げるよ?」

宿のおばさんが声をかけてくれる

思わず

「ありがとうございまぁす!」と答えて

お姉さまがにこにこにことされておられるのを見れば

やはり少々食べ過ぎなのかもしれない


恥ずかしさに、ごくり

ミルクを一口

これもおいしい、向こうの牛乳とは比べちゃいけないだろうけれど


「美味しいかいハルカちゃん?」

「はいっ、わたしの故郷のやつより、ずっと濃くって、すっごく美味しいです」

「そうかい、よかったよ、やっぱり『黒羊』のは評判がいいねぇ」

ごふっ

思わずむせた

わたしのなかで『黒羊』さんと牧童さんのイメージがますますへんに膨らんでいく

そのうちお姉さまと、『黒羊』さんに会いに行かねば


ともあれ、今日はドーラスさんちにお土産を届けに行く

昨日お届けしてもよかったのだが

マンティコアの検分と仮査定、そして例の尻尾のカットといろいろあって

おあとはギルドにお任せとなったのは、もう食事時を少々上回る時分

街のお店というものは、むこうでの夜八時って時分には、完全に鎧戸を下ろしてしまう


たまに開いているとすれば、それはやはり酒亭とこうなるわけで

食事を出すお店もあるにはあるが

わたしたちのような若年の女子がそこに行くとなると

絡まれたりするのは、まぁなんとでもなるが

むしろ、静かにお酒をお召の伯父様がたが、なんとなく居心地悪そうにされる

そちらの方が気にかかるわけで

とすれば、深夜早朝、無関係に開いているギルド併設の酒場で食事とこうなる


けれど、そちらはそちらで仕事明けの緊張を、仲間と一杯

それでほぐす人たちがいて、それはとっても大切なお時間だろうし

あの解体ショー・・・


そう、わたしたちの取り分をとマンティコアの尻尾をお姉さまが付け根の部分から

鮮やかなお手並みで切断すれば、その場はまた、どよどよどよと

これまた良い見世物になったわけで

そんな騒ぎを引きずって、そこに混ざるのもなぁ、と

わたしたちは、ぎりぎり開いているはずの料理店で夕食を取ろうと

その場を辞そうとしたのだが


わしわしわしっとわたしたちの両腕は

「お嬢、嬢ちゃんもだね、ありがとねぇ、うちの馬鹿が念願果たせそうだわよ」

などとおっしゃる冒険者さんたちに捕まった


「わたしなんか、なぁんにもしてませんよ?」

そういったのだが

「ううん、ハインツってば、わたしより

 『破滅の魔鎚』だっけ?アレに御執心でねぇ

 アレを握るまでは、おめぇの手はにぎらねぇとか言うからさぁ」

「姐さん、『極滅の暗槌』ですぜ?」

「どっちだっていいやな、あたしの恋敵には違いないんだ

 ともあれ、これでハインツだって先に進めるかもしれないしねぇ

 あ、今は金策に走ってるわよ?

 だからこっちにはこれ無いってさぁ」

とこれはハインツさんの一党

随分色っぽい、というか婀娜っぽいというのがあたるだろうか

結構な魔法使いだというお姉さん


「遥、この方はレシーネさん、流れ着いた私に親身にしてくださったのよ?」

「やだねぇ、お嬢、『さん』ってのはなんだぃ?

 姉さんとか、姐さんとかでいいやな」

「ええとラシーネお姉さん、お嬢様がいろいろとお世話になりました」


ばっふん


うわすごいのきた

「なにいってんだい、この子は、他人行儀はやめなってお嬢にも言ったでしょうが」

平手で一撃としか言いようのないのを頂いたわけだが

このヒト、魔法使いとか、うそっぱちじゃないのか?

お姉様のマンティコア手よりきつい気がする


「やめなよ、ええっとハルカちゃんだっけ?

 姐さんとか、お姉さまとかいろいろあるでしょ?」

「ええっと、では組長?」

「なんでそうなる!」


結局、相当な時間までギルドの酒場で付き合わされてしまった


え、お酒?

むこうでならともかく、こっちだと12歳とかから飲酒は合法らしい

それでわたしたちにも、呑めとこうなるわけだけれど


うん、まぁなんとなくわかっていた気もするけど

お姉さまは、蟒蛇うわばみどころの騒ぎではなく

八岐大蛇か、はたまた世界を飲み干すウロボロス

ほんのわずかに麗しいお顔に赤味がさされて、これがまたお美しいのなん・・・けふん


わたしのほうは、アルコールをわたしのヒミツの何かが

毒素として認識しているらしく、

味と多少の刺激のあるお水とこうなるものだから

最初は面白がってわたしに注いでいた人達が、ふところの心配をしだす始末

それでまぁ、何とか放免と相成った


だので、結局翌朝にとこうなってしまい

またも朝から、とちんかちんと心地よい音のする

ドーラスさんの工房へとやって来たのだった


「おはようございます、ドーラスさん!」

「よう、嬢ちゃん、お嬢

 昨日はひでぇ騒ぎだったらしいじゃねぇか

 それにこっちもだ、おめえら、なにやらかしてくれたんだ

 ハインツの野郎はまぁ、ともかくとしてだな

 まだ届いてもいねぇ、蠍槍尾けっそうびの予約だか予約の予約だかで

 小僧どもを締め上げようってやつらが押しかけたぜ?

 まぁ、全部叩き出してやったが」

「すみません、ドーラスさん

 つい、調子に乗りました」

「ま、お嬢のすることだぁな、仕方ねぇ

 うちの宣伝とかってやつだろぅ?

 義理がてぇっていうか、なんというか」

ドーラスさんはぼりぼりと頭をおかきになる


「んで、用事はなんでぇ

 言っておくが、アレを100ギニーでうちに卸そうってなぁ

 嬉しくないいっちゃウソになるが

 あの場の勢い、それでいいぜ、うちは真っ当な商売で通ってるんだ

 普通に査定させてもらうぜ?」

「それはわたくしたちもうれしいお話ですけれど

 やっぱり、わたくしどもの気持ちということで、げてなんとか」

「しゃぁねぇなぁ、どこの世界に相場の1000分の一で押し売りに来る

 押し売りがいるってんだ」

「うふふ、こちらにおりますようで」

「ほいほい、ま、お嬢、ここは負けておかぁ」

「まぁ嬉しいおまけです、ではよろしくお願いいたします」

「しゃぁねぇやつらだ、へいへい、おっちゃんの負けでいいやな

 んで、お嬢、嬢ちゃん、武具の方はどうした

 あ、お嬢のマジックボックスのなかか

 お嬢、おめぇのもだしな、手入れだけはしてやるよ

 嬢ちゃんのは、補修をだな、どれどれ・・・」


上機嫌でお姉さまとお話していたドーラスさんだが

わたしたちの武具を見ると、すっとお顔が真顔になられた


「ふむ、おおい小僧ども、お嬢たちと工房に行くからな

 昨日見てぇな騒ぎはごめんだ、だれも通すんじゃねぇぞ

 それに、おめぇらも入るんじゃねぇぞ」

「「「へぃ、親方!」」」


わたしたちは武具を抱えたドーラスさんに案内されて工房に入る

わたしたちとドーラスさんだけとなると

当然、鍛冶の音は絶えて

むしろ、街中だというのに、ここだけぽっかり静寂の中

そして、わたしはドーラスさんのご様子が先ほど変わったのに

気を取られていたりする


「さてと、お嬢、嬢ちゃんもだな

 短かったが、おめえらとの付き合いも今日までってことでいいな?」

「「はいっ?」」

「お嬢、嬢ちゃん、俺はよ、おめえらの好意ってやつは嬉しく思うぜ?

 だがよ、こいつはなんでぇ」

ドーラスさんはわたしの革鎧を示して見せる


「お嬢、こいつに傷を入れたのは、おめぇだ、だよな?」

「う、おじさま、どうして」

「わからぁよ、あのな、教えといてやらぁ

 魔物と戦って付いた傷ってなぁ、一様じゃねぇ

 強さもあたりも、入った角度も全部違う

 見りゃぁわかるぜ?

 だけど、こいつについてるなぁ、全部同じ力で

 おんなじもんで付いた擦り傷

 こんなもんが普通に戦って付くもんじゃねぇ

 どんな理由がとは聞かねぇ

 いいや、きけねぇ

 俺の造ったもんを自分で傷つけるような奴は

 俺の造るもんはいらねぇ、そういう事だろうぜ?」

激高されているわけではないが、ドーラスさんの真剣なお顔が

むしろ静かないお怒りを示しているからなお怖い


「申し訳ありません、おじさま、いえ、ドーラスさん

 仰る通り、これはわたくしの浅知恵でしたことです

 これには事情が」

「だからきけねぇよ、こいつは安いかもしれねぇが

 おいらのちっぽけな誇りってやつに関わるんでなぁ」

ドーラスさんには取りつく島もない

肩を落とすお姉さま

もちろんわたしも同様だが


「でもねぇ、親父さん、聞いてやってほしいかな?」

ほへ?

「「ギュスターブさん??」」

今回はわたしたち二人とも、怪しいおひとの気配を感じられなかった

これはなかなか、世界は広い、そういうことに違いない


ひげ面は、半分、見た!

次回、見ます、見ますってば

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