11 『暁』の交渉
ひげ面は・・・たぶん見てないorz
これも、古戦場ってやつのせいなんだ(違
どよ、どよ、どよ
ギルドの裏手
急遽設営された、マンティコア解体ショー、もとい、見分、査定、解体の現場となった
ギルド倉庫前
ギルド併設の酒場やら、早くも駆けつけてきた街の主だった商館の面々
更には、冒険者を目指す青年たち、はたまたお子様方までめったにない上物の
お出ましと聞きつけて参集しているが
お姉さまがマジックボックスから取り出したマンティコアの威容にざわめきが広がる
「お嬢、こいつの買い取りは即金じゃ無理だわよ?」
ギュスターブさんがおっしゃる
「構いませんですよ、ねぇ遥?」
「はい、どうせ何か買いたいってわけでもありませんし、ねぇおね・・・お嬢様」
「それは助かるし、このクラスの魔物となるとオークションにかけるほうが
お嬢たちの実入りも増えるわね、まぁ、基本の査定額はのちほど
オークションの通知、開催、ちょっとしたイベントになるわねぇ
そうね、ひと月ほど我慢できるなら、たんまり稼がせてあげられると思うわよ?」
「いかようにも、よろしく御計らいを」
軽く頭を下げられるお姉さま、もちろん私も深く首を垂れる
「わかったわ、おまかせなさい
それと、提供者の権利ってやつで、どこか特定部位は自分たちで使いたいってことなら
それはもちろん抜きでいいわよ、特別な内臓とかで解体費を頂くってのはあるけれど
この間のオーガの角みたくお嬢とハルカちゃんなら
自分でカットしてくれても構わないわ、一応カットの仕方とかそこらの助言は
こいつの仕切りをギルドに任せてくれたってことでサービスしちゃう」
「うーん、武器防具の素材になる部位ってありますの?」
「なら、なにより尻尾かしらね、マンティコアの蠍槍尾
尾の外殻部分は多分お嬢の業物でも素直には切れないんじゃないかしら?
永続の反射か何かの魔法がかかってるのではといわれてるわね
だから魔法の小手みたいな素材になるわね?
幼体だと大して部材もとれないけど、こいつなら、十名分くらいには
なるでしょ。
それに先っぽの部位、これは綺麗に残ってればの話だけど
うーんと、あぁぴっかぴか
こいつはね、マンティコアの棘穿核って素材になるの」
「売ってくれ、俺に売ってくれ、たのむぅ!!」
ギュスターブさんが素材の名を口にしたとたん
突然壮年の冒険者さんが飛び出してきてお姉さまに縋る
「あら、『オーロラ』のリーダーさんじゃありませんか?」
いや驚いた、このオーロラだか甲羅だか知らないが
敵意を感じなかったからか、わたしの反応速度を超えて飛び出してくるとか
「お嬢様、この不逞の輩を処分してよろしいでしょうか?」
不意を突かれた照れ隠しが入っていたのかもしれないが
ぐるぐるぐるとわたしは唸り声をあげる
「あっはは、遥、やめておきなさい、この方が
今日も村で話題に登ったでしょう?『暁のオーロラ』さんって
有名な先輩冒険者さんたちの、リーダーさん
遥を探している間、何かと気を使って頂いたのよ?」
「左様でしたか、それはそれは、お嬢様が大変お世話になり、かたじけのうございます
とは、いえ、お嬢様に無断で触れるなど言語道断の振る舞い
切って捨てることをご進言申し上げます」
「ハインツさん、わたくしのパートナーがそういっておりますが
いかがなさいます?」
ハインツと呼ばれた男はぱっと手を放すと居住まいを直し
「う、うぐっ、や、こいつはすまない失礼した
こほん、ハルカちゃんだったか?お名前と強いって話はお嬢からかねがね
普段はこんなこたぁしないぜ?
げふん、そんな眼でにらむなって、『棘穿核』って聞いてつい、な
いやぁ俺ハンマー使いだからさ
超級ハンマー、そう極滅の暗槌が欲しくってなぁ
あいつはハンマー使いの夢
ハンマー構えて冒険に出ようってやつなら
いつかはそれを自分の手にってやつでさ
俺もたいてい憧れて、金も、それにまぁちょいとこっぱずかしいが
そいつを使えるような冒険者になった気でいてさ
素材だってたいていは揃えた
ところが『棘穿核』だけが足りてねぇ
ってか『棘穿核』ってやつはたださえ希少なマンティコアからとれるかとれないか
採れても幼体のやつだと使い物にならんし
ドーラスの親父にほかので作れやって言っても、あのひげおやじ
『ならほかの戦鎚を買いやがれ』って話にならないしさ」
「なら、ご自分で、お狩りになればよろしいのでは?」
欲しいというのはなんとなく判るが、やはり少々お腹に収まらないものがある
「あ~~ハルカちゃん、ねぇ・・・」
ギュスターブさんが微妙な顔で間に入る
「なんでしょうか、ギュスターブさん」
「ハインツ君がねぇ、リンデにいるのはそのためなのよね」
「へ?」
「あは、まぁいいっちゃいいんだが
うん、市場にでないもんはしょうがない、自分で狩るのが基本だよな
だのでここ3年が程はマンティコアの噂を追っかけててさ
ここらでさ、らしい話がちょろりと噂に上がってね
それでリンデに腰を下ろしてたってわけ」
「それにね、まぁ、もしもはないけど、君らがいなきゃ
リスケルの調査は彼らにお願いしてたって思うのよね?」
なるほどそれはお気の毒
とはいえ、ハインツさんだか半兵衛さんだか知らないが
彼らが腕利きとしてもアレに勝てたかどうかは時の運
むろんわたしたちだって、間違えばいまごろお腹の中にいただろう
しかしお姉さまがお世話にもなったという先輩さんに
噛みついているというのはわたしも格好が悪い
「承りました、たまたま、わたくしたちが先行してしまったんですね?
わたくしも少々暴言が過ぎたと思います。
ハインツさん失礼いたしました
お売りするかどうかはお嬢様次第ですので、それはどうか紳士的にご交渉を」
「いいって、いいって
ってことで、お嬢頼む、少なくともよそにもってかねぇでくれ
でないと、今度はいつお目に掛れるか」
はて、とお姉さまは曲げた手指をお口に当てて、考えられることしばし
ギャラリーとハインツ氏ににっこり笑われると
「ハインツさん、お世話になったことですし、お売りはしたいんですよ?
でもわたくしどもにも都合がございまして」
「だよな、すまないお嬢、つまらないこといっちまったぜ」
「いえいえ、でもハインツさん、わたくしどもの都合と申しますのはね?
お話にも出ましたドーラスさんなんです」
「へ?」
「わたくしたち二人、ドーラスさんの工房の作品にはひとかたならず
助けて頂いております、だので、わたくし『格安』で
この尻尾一式あちらの工房にお譲りしようかな、なぁんて」
「や、そりゃありがたい、後はあのひげ面と談判だ
とはいえ、格安ったって『棘穿核』だけで売値で5000ギニーはくだらないぜ?
親父がいくら乗っけるかしらねぇが、うーむ、どうしたもんか」
「あら、そうなんです?
わたくしどもは尻尾一式100ギニーでお譲りする予定なんですのよ?」
「「「「「はぁ?」」」」」
わたしは察してにんまり笑うが
ハインツさん、ギュスターブさんはてはギャラリーさんたちも
どよどよどよと、さんざめく
「本気かお嬢?」
「お嬢?酔狂が過ぎるんじゃないの?」
ハインツさんとギュスターブさんがきいてくるが
「ドーラスさんは腕前にあった製品を適正な価格で提供されるお方
もっとも腕前をお認め下さらないお方にはそれなりに、とも伺っております
たまたまわたくしどもは大変お世話になることができましたが
それは親方さんの御眼鏡違いかもしれません
だので、せめてものご恩返しでって思いますけれど
でも、ハインツさんならそこらは、ね?」
とふたたびにっこり微笑まれる
「ありがとうよ、お嬢、皆まで言うな、後は俺の腕次第
見もしらねぇどっかの街の好事家の暖炉の上に掛けられねぇってだけでもありがたい
じゃ、後は金策だな、失礼するぜ、そうそうハルカちゃんだっけ?」
「あ、はい、なにか?」
「お嬢の想い人はどんな奴かってみんな噂してたんだぜぇ
お幸せになぁ!!」
「なっ!」
ハインツ氏はギャラリーと赤面するわたしを置き去りに疾風のように消えて行った、
次回、今度こそひげ面は時の涙を見る・・・?
あぁ古戦場がぁ。