表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/54

10 わたしの罪

たのしい、ちょうk(ry

すぃ、すら、しゅ


お姉さまの愛刀が空に麗しい剣線を描く


見慣れた光景ではあるけれど

見ればときめきを感じてしまうのは、どこかわたしはおかしいのかしら?

ごとり、マンティコアの右腕が落ちる


はて、ここで解体されるのかしら?

お姉さまの『マジックボックス』の容量は

この間、オオカミと熊さんでは埋まる気配もなかったのだが


にこり

いつものやさしい微笑みを浮かべられたお姉さまは


「遥、さぁ、変身を解いてそこにお直りなさい」

その笑みのままこうおっしゃる

「ふへっ」

唐突なお言葉に変な声が出た


お姉様は、今切り落とされたマンティコアの右腕を抱えていらっしゃる

その重量は数十キロはあるだろう


い、いや、もちろん、お姉さまが普通の方などでなく

多分だけれど、こちらで言う魔法の力で身体強化のようなことを

されているのではと、なんとなく察してはいた

わたしと違って生身のはずのお姉さまが時に怪力を示される

それは向こうでも見てはいたのだから


だが

「さ、何をしているのかしら?

そこにお直りなさいな?」

心なしか、いつもの柔和な微笑みの、笑みの端っこが

わずか、ほんのわずかだけ吊り上ってみえる


「あ、あのあのあの、お姉さま?

 や、やっぱり、先ほどの行動は軽率でしたでしょうか、あ、あのその

 お顔、お顔が」

「わたしの顔がどうかして?

うふふ、いやねぇ遥、どうしてそんなに怯えた顔をするのかしら? 

遥はわたくしをかばって頑張ってくれた、違っていて?」

麗しい笑みは消えない


「は、はひっ

 だ、だったら、そ、そのお手に抱えられてらっしゃるのは・・・」

「マンティコアの腕だわよ?」

しれっと流されるお姉さま


「そ、それは、その、わ、わかるんですけど、ど、どうして変身を解いて

 ここに座らなきゃならないのかなぁなぁんて」

「あら?

 遥はお馬鹿さんになっちゃったのかしら?」

「や、あのその、頭はあんまりいい方じゃないんですけど」


やばい、あぶない、こ、これはいろいろと危ない気がする

今までのどんなピンチより危ないと、わたしのすべてが警告を鳴らしている


「仕方ないわねぇ、だったら教えてあげましょう

 はるかぁ、あなた、変身して闘ったわよねぇ」

お声にわずかの湿り気が聞こえる気がする


「は、はひっ」

「オオカミさんやら、熊さんやらを無傷で倒す

 ま、それはいいでしょう、うふふ、遥は強いんだしね?」

「は、はぁ」

「でも、ギュスターブさんは仰っていたわ

『あれはマンティコア

  Aランクパーティが複数で』って、ね?」


ぎくぅ、な、なんとなくわかった、わたしの罪と

そして、お姉さまがわたしの執行令状を読み上げておられることを


「やっとわかってくれたのねぇ、遥はやっぱり賢い子だわ

 そうなのよ、普段の装備が無傷なのはねぇ

わたしの装備には傷がついてるっていうのに」


笑みの端っこが、また、またほんの少しだけ吊り上った気がする

そうなのだ、別に、知られてはならない大ヒミツというわけではないと思うが

せめてギルドの監視が解かれて、二人気ままに旅に出られるまでは

そう、せめてそれまでは、わたしがただビトでないことは

内緒にしておこう、ふたりでそう打ち合わせていたのに


お姉さまの防具は特別、多少の傷は数日たてば元に戻るという

それは、出入りしている間に、ドーラスさんにも知られてしまっている様子だが

『家伝の、防具で、魔法がかかっているのかも?』

これでどうやらすんだらしい

魔法の武具というものは希少だが、こちらの世界には存在するし

場合によってはドーラスさんも例の鉢金のように作製できるのだという


わたしの装甲も特別製

そもそも、先ほどのマンティコアの爪牙では、かすり傷程度しかついておらず

次に変身したときには、きっと新品同様に輝いているだろう

まぁ、そちらはどういう理屈だか自分でもよくわかっていないが

変身するたび、装甲が新たに生成されているのだと、なんとなく理解している


では、かなりの上級品ではあるものの、そんな『特別製』ではない

普段、私が纏っている防具が

A級パーティが複数で挑むようなマンティコアと一戦し

まして、お姉さまの防具に傷まで入る状況で、無傷のままでいるとしたら?

これはおかしな状況に違いない・・・


ちゃきり

装甲の立てるわずかな音とともに、そこに座った私は

無言で変身を解除する


ぼぎゅり

「傷がついていないのがいけないのよぉ

 ほんとに、仕方ない子」

背中に一撃

くぅ

おかしな声が出そうになるが

ここは我慢

わたしの迂闊さがこの事態を招いてしまったのだから

それに、これくらいでどうこうなんていう、やわな身体は残念ながらしていない

だいいち、あちらでのいきさつから、そのことはお姉さまも十分ご存じのことだ

むしろお姉さまに、またお手数を・・・


ぼぎゅ、がつん

胸に一撃、そして左肩にも


「あぁ、かわいそう、かわいそうだわ、遥ぁ

 こんなに、こんなに可愛いのに

 こんな目にあうなんてぇ」

え、お姉さまの頬に赤みがさして見える気がする


「きゅぅ」

しまった、変な声が出てしまった

「まぁ、声もかわいいの、かわいいのねぇ、うふ、うふふふふ」

こ、これは、やはり別のピンチ?

い、いや、そ、れ、は、そ、それはそれでうれ・・・


結局、五分が程はお姉さまが抱えたマンティコアの右腕でのウエザリング?は続き

革鎧と肩当にはそこそこのすり傷が付いた

とはいえ、さすが、ドーラス工房の逸品

切り飛ばされているとはいえ、マンティコアの爪はもちろんまだ固い

なのに、深刻な傷にはなっていない様子だ


その後、お姉様は再び愛刀をお抜きになると

ぎゅるり

風の力を螺旋に乗せて、マンティコアの喉奥

そう私が装甲した腕で貫いた部分に

ご自分の技で倒されたかのような傷をお付けになった

さすがご念が入っておられる

やはりさっきのは、わたしが思った通り

熱心に状況証拠をこさえられたとそういうこ・・・

あれ?


ふと、私の脳裏に疑問というのか、思いつきが走り

「あ、あの、お姉さま?」

と聞いてみる

「なぁに、遥ぁ?」

後始末は終わったが、まだわずかにさくらの頬のお姉さま


「装備を脱いで、わたしが傷を入れてもよかっ・・・」

「なぁに、なにかいってぇ?」

「ありません、なんでもありません!!」

わたしのアラームが厳戒を叫び出したので、ここはそれでおしまいにした


村の中央に戻り

村民のとりあえずの避難体制やら

早馬をギルドになどと手はずを整えつつあったギュスターブさんは

お姉さまが『マジックボックス』から取り出されたマンティコアの死骸を見ると


「あ~、討伐おめでとう・・・、そしてわたしの胃薬追加おめでとう」

などとおっしゃっておられたが

「ま、これで延長にならないように、小父さん精々頑張ってみるわねぇ」

と肩を落としておられた


そして、村民のみなさんと、村長さんに抱えられた孫娘ちゃんの笑顔に見送られ

わたしたちはリンデに帰還するのだった


次回、ひげ面は見た!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ