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鬱小説  作者: 烏籠
5/15

日記‐後編‐

残酷な描写があります。ご注意を。










翌日。

私はお兄ちゃんの住む家に向かった。

電話でそう伝えると、お兄ちゃんは快く承諾してくれた。



「適当にくつろいでてよ。飲み物取ってくるから」


「うん」


しばらくして、お兄ちゃんがお盆の上にジュースを乗せて持ってきた。


「リンゴジュース。昔よく飲んでただろ」


「ありがとう。覚えてたんだ……」


「当たり前だろ?兄ちゃんなんだから」


お兄ちゃんは当然のように、そう言った。


「そうだ。麻由が来るって聞いて、美味しいって評判のケーキ買ってきたんだった。食べるだろ?」


お兄ちゃんはケーキを持ってくるからと、部屋をあとにした。

しばらく待っていると、ケーキの箱を持ってお兄ちゃんが戻ってきた。

中には大きなまぁるいケーキが丸々一つ。

私の好きなイチゴのショートケーキ。

これも覚えててくれたんだね、お兄ちゃん。

あぁ……。


「美味しい?」


「うん……」


お兄ちゃんと食べるケーキもジュースもすごく懐かしくて、美味しい。

こんな風にお兄ちゃんとテーブルを囲むのは、何年ぶりだろう。


「何だかこういうの久しぶりだね。また家族四人でご飯食べたいな……」


「親父はもういないけどな……」


「お父さん……どこか体悪かったの?」


「病気じゃないよ。交通事故起こしてさ、居眠り運転らしい」


「そうだったんだ……」


「お袋は、元気にしてる?」


「うん」


「そっか……。元気ならいいんだ」


「………。お兄ちゃん」


「ん?どうした」


「お兄ちゃんは、」


「何だ?はやく言えよ」


「どうして、あんな事を言ったの?」


「あんな事って?俺、麻由に何か変な事でも言った?」


「私じゃない」


「じゃあ誰に、」


「遊花に、だよ」


途端に険しくなる、お兄ちゃんの顔。


「お兄ちゃん。遊花に言ったんでしょう?



“死んで”って」


しばらく、間を置いて。


「何を言ってるんだ?麻由……どうしてそんな事言うんだよ」


「こっちが聞きたいよお兄ちゃん……。全部書いてあるんだよ、この日記に」



‐‐‐‐‐‐‐‐


1月6日(水)


まーゆと直接話がしたくて、まーゆの家に行きました。

まーゆの家の前で、あの男の人と会いました。まーゆのお兄さんだと言うのでびっくりしました。でもまーゆにはお兄さんがいたという話は聞いていたので、信じる事にしました。

お兄さんは、近いうちにまた家族一緒に暮らす事が決まったんだと話してくれました。まーゆはここから引っ越して、遠くのお兄さんが住んでいる家で暮らすことになるそうです。

ショックでした。

まーゆが、私のそばからいなくなるなんて。

ずっと一緒にいるって、約束したのに。

お兄さんは言いました。

すべて君が悪いんだよ。君が気味の悪い視線で麻由を見るから。麻由は嫌気がさしたんだ。麻由はね、君のこと大嫌いだって。だから君のそばから離れるんだよ。

私は悲しくて悲しくて、泣いてしまいました。

そんな私を見て、お兄さんは優しく声をかけてくれました。まーゆみたいに。

麻由と一緒にいたいかい?だったらずっと一緒にいられる方法を教えてあげる。それはね、記憶として麻由のそばに居ればいいんだよ。より強烈な記憶としてね。そんな強烈な記憶をどうやって焼き付けるか……。簡単だよ。死ねばいい。死ほど強烈なインパクトを与えてくれるものはないよ。君は死をもって麻由の記憶に生き続けるんだよ。


ああ、今もお兄さんの言葉が頭の中をぐるぐる回っています。

そうだね、それがいいよ。本当はね、ちょっと前まで本当に死のうとか考えてたんだ。でもね、やっぱり勇気がなくて……。

こんな自分嫌だった。親友であるまーゆをそんな目で見てる自分が。

この日記は自分のことを見つめ直す意味で付け始めました。読み返してみたら、まーゆのことばっかり。

私、まーゆのことこんなに好きだよ!

まーゆが大好き!

だから、まーゆ。

私のこと、忘れないで。

遊花はまーゆの心のなかで、ずっとまーゆを見守っています。

さよなら、まーゆ。



‐‐‐‐‐‐‐‐



「……参ったな、そんな事まで書かれてたとはな」


「お兄ちゃん……本当なの?本当に遊花に死ねって、言ったの……?」


優しい、お兄ちゃんが。


「ああ、そうだよ。俺はあの小娘に死ねと言った。……いや、死ぬように誘導したとも言うな」


「どういう事?」


「クリスマスに麻由と一緒にいた時のあの小娘の顔、一目見てすぐに気がついたよ。麻由に対して良からぬ気持ちを抱いてるってな。だから、排除してやろうと思ったんだ」


「な……なんで、」


「決まってるだろ、麻由をあんな女なんかに渡したくなかったからだ」


もう優しいお兄ちゃんの顔は、どこにもなかった。


「俺はお前だけを愛してるんだ、誰にも渡さない」


なんで、お兄ちゃん。


「麻由……俺と一緒に暮らそう?俺、麻由と暮らすために頑張ったんだぞ。邪魔だった親父はちょっと睡眠薬を盛ったら事故ってくれたし、おかげでこの家には今は俺ひとりだ」


何言ってるの?

なに?何なの!?


「ぁ…あ、お父、さ…」


「なぁ、麻由?一緒にここに住もうよ、な?お袋なんかほっといてさ」


「きゃっ!」


お兄ちゃんが私に覆いかぶさってきた。


「いいだろ?それとも麻由は俺よりお袋の方が大事なのか?なぁ麻由」


「いや!やめてっ」


「あぁ麻由、愛してるよ。麻由、麻由、ま……………あれ?」


お兄ちゃんは力が抜けたように、私にもたれかかってきた。

その隙をついて私はお兄ちゃんから離れた。


「くそっ……眠……何でっ………」


「やっぱり……このジュースに何か入れてたんだ」


嫌な予感がした私は、お兄ちゃんがケーキを取りに行った時にコップをすり替えておいた。


「お兄ちゃん……私、お兄ちゃんが何でこんな事したのかわからないよ」


「麻由、俺は……」


「私、遊花もお父さんも大好きだったんだよ。お兄ちゃんもお母さんも、みんな……みんな、大好き。でも、お兄ちゃんは……もう私の好きだったお兄ちゃんじゃないんだね」


もう終わりなんだね。

みんないなくなっちゃったんだもの。

お母さん……ごめんね。


「お兄ちゃん……大好きだったよ」


ぐさり、と。

お兄ちゃんのお腹に包丁を突き立てた。

包丁に付いていた真っ白なクリームが、真っ赤な血と混じり合う。


悲鳴を上げるお兄ちゃん。

包丁を何度も刺す私。


お兄ちゃんの全てが終わり、

私はヒトゴロシになった。


私はもう一度ヒトゴロシにならなければならない。


死ぬのは、私。



私はお兄ちゃんのお腹から包丁を抜き取り、今度は自分のお腹に突き刺した。


想像を絶する痛みに襲われる。


痛い、

痛い痛い痛い!


何もかもめちゃくちゃ。

頭のなかも、お腹も、

全部ぐちゃぐちゃ。


目の前が霞んで、


何も考えられない。



最後に、

お兄ちゃんの上に覆いかぶさって、

ぎゅっと抱きしめた。



本当に、大好きだよ。


お兄ちゃん。






遊花……。



私の好きは、遊花の私に対する好きとは違うかもしれない。


でも、遊花を想う気持ちに変わりはないよ。


遊花、


バイバイ。








沈みゆく意識の向こうで、遊花が笑ったような気がした。

いかがでしたでしょうか。このシリーズ初の恋愛要素だったのですが、やはり救われませんね。日記の内容を書く辺りはかなり楽しく書かせて頂きました。感想などありましたら、是非。

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