ミーハ村で攻防戦するよ
明日は骸骨塔を破壊にむかう。
英気を養うべく、寝る。
と、言うわけには行かなかった。
「奴らが来る!」
デイエートがいきり立つ!
アポロン神の化身たるハイエートとなれば、その夜伽役を狙う女たちが居るだろう。
昨日の種狙いエルフ娘のこともある。
妹エルフが警戒するのも無理はない。
まあ、俺も同感ではある。
「ええ? エルフはいなかったみたいですが、この村。」
アトラックさん、それは考え甘い。
昼間の握手会、肉食獣の目をしていた女性は30人はいた。
ネコ科、イヌ科を問わず。
彼女たちは必ず仕掛けてくるだろう、今夜!
しかし、いかに神の化身でも一晩で30人は無理。
そもそもそれだけの人数が押しかけたら大混乱必至。
となれば、どこかで選抜が行なわれると考えるのが自然だろう。
ハイエートの寝室に到達できるのは予選を勝ち抜いた猛者。
決勝進出、ベスト8(ワールドカップ開催中)、一騎当千。
いかにデイエートといえども阻止できるかどうか…
「部屋の前で見張るのよ!」
え? 俺が?
「しかし、相手が女性となると…どう対処したら…」
「対処はわたしがする。お前は抑止力だ!」
勝手なこと言ってるな。
「私は馬車で寝ますんで、デイエートさんはお兄さんと同室でどうぞ。」
逃げた、アトラックさん。面倒ごと回避。
…仕方ない。てなわけで俺は兄妹の部屋の前に椅子を置いて寝ずの番をすることに。
まあ、実際には座ってる場所が変わっただけで問題はないんだが。
村長さんも戻って来た。
俺が部屋の前に座っているのを見てぎょっとする。
「従者どの? こんなところでいったい何を?」
「妹さまは嫉妬深いお方です。」
村長さんびっくりしたけど、すぐ事情を察した。
「いや、なるほど…確かに女どもは見境なしですからな。」
「ハイエート様の御寝所に忍び込もうなどとは言語道断。」
憤慨した様子、村長さん。
「しかし…この村には…その…強力な女戦士が何人か居ります。」
「獣機の活動領域が近い事もあって、移住希望の護衛の戦士を募ったのです。」
「屈強で美しい肉体を持った男戦士が応募してくれるのを期待していたのですが。」
「なぜか女戦士ばかりが揃ってしまいまして…」
ん? 今のとこに「美しい」は必要かな?
なんにせよ、予想以上に強敵がいるようだ。
屋敷の警戒だけじゃ不安だ。
最悪の事態を想定しろと先生も言ってた。
頼むよ、トンちゃん。警戒飛行。
村内を周回して…ん? 来てる! 来てるぞ。
すでに村長宅の周囲に。…3人? メダリストクラスか。
どうやって選抜されたんだろう? 容姿?
いや、…実力だな…容姿は………ノーコメントで。
健康と頑強、遺伝的生存可能性を重視して選抜されたっぽい。
…具体的には殴り合いに勝利した方々と見た。
これ、俺一人じゃ無理じゃないかな? デイエートでも危うい。
そのデイエートが部屋から出てきた。
「来てるわね…3人?」
相変わらず勘が鋭い。お兄ちゃんが絡むと特に。
3人か…増援を求む。
となりの部屋のドアをノック。
「クラリオさん、起きていますか?」
迎撃体勢は整った。
「待つのは性に会いません。」
手早く、鎧を身に着けた女騎士。やる気満々。
デイエートが特別手当を約束したからね。
「一人は私が。村長宅に侵入する前に無力化します。」
不安だ、援護を要請しておいてなんだが…
もちろん、いかなる猛女といえども達人剣士女騎士が負けるとは思わないが。
クラリオ本人が何かやらかすんじゃないかと…
先生があくびしながら出てきた。
「なんだよ、もー。早く寝ろよ、お前ら。」
「クラリオ、剣出せ。」
「え? は、はい。」
好戦女騎士が差し出した剣になにやら詠唱。
魔法陣が浮かび上がる。
「不殺の魔法処理だ、痛みは伝わるが怪我はさせないようにしといた。」
「効果は一晩しか持たんからな。デイエートの弓の鏃にもやっとくか…」
女騎士、驚愕の表情。
「大剣豪初代バッソ伯の道場で使われていたと言う、不殺のエンチャント…」
「これも、エルディー大導師が?」
「【大導師】はよせ。プロフィルに頼まれて道場での練習用に作った魔法だ。」
「これなら思う存分剣が振るえます!」
勇み立つ、バトル大好き女騎士。
「わたしはもう一人の方を片付ける。アイザックはお兄ぃを頼むわよ。」
うーん、タマちゃんがいればクラリオ、デイエート両方をサポートできるんだが。
トンちゃん1体ではどちらかしか見張れない。
デイエートは自力で相手を感知できるが、クラリオには無理。
しかたない、トンちゃんには女騎士を先導してもらう。
「ととと、トンボ?」
ドローンに目を丸くする女騎士。
「相手のところへ誘導します。ついていって下さい」
出撃、破壊剣士クラリオ。
デイエートも駆け出した、足音がしないな、お前。
獲物を狙う猟師の目だ。
さて、トンちゃんアイに映し出されるのは、第一の刺客。
いや、刺客じゃないよ…刺したりはしないから…
うん? むしろ、ハイエート美男子エルフに挿されに来たわけだから…
挿されるお客さんと言う意味では、刺客でも間違ってるわけじゃない…?
とか、おっさん脳内下ネタジョークしてる間にクラリオが対峙。
「申し訳ないが、ここは通せん!」
抜刀! 女騎士。戦士モード、隙なし!
「ふふふ、夜伽に来て、まさか破壊剣士さまと手合わせが出来るとは…」
暗がりからゆらりと現れたのは巨漢の女獣人。
いや「漢」じゃねーし!
盛り上がった肩、厚い胸板。引き締まった腰と太腿。
頭髪は黄色。黒い縞模様。尻尾もシマシマだ。
虎や! 虎や! お前は虎なるんや!
…いや、夜のお相手にはちょっと…ふさわしいかと言われると…
もう少し、色っぽいヒトとか居なかったんですかね?
タイガーレディが構えるのは…鉄棍!
タモン兄貴が使っているやつだ!
「その鉄棍は…」
「王軍の勇士、タモン・ギャザズ将軍が使っているものと同じもの…」
「レガシの工房から取り寄せた業物だ。」
こ、この虎戦士。単なる村人じゃないぞ!
でも、夜這いに武器持って来るって、どうなの?
「なるほど、相手に不足は無いようだ。」
激闘の予感に身震いする女騎士、戦闘狂の血が騒ぐ。
「オレの名はベスタ! ミゾロギィの戦士!!」
「王軍騎士クラリオ・ヒタチだ!」
互いに名乗りを上げ、構える。
「「参る!」」
激闘の予感!
…でも、こいつらのことはいいや。
心配なのはデイエート。
むこうのやつも虎戦士みたいなんだとしたら、ヤバい。
遠距離型の妹エルフでは太刀打ちできない相手かも知れない。
トンちゃん、移動移動。
第2の刺客とデイエートはすでに戦闘状態にあった。
村長邸の前庭、それっぽい樹や置石で庭園っぽく飾られている。
ここにもハイエートの像がある。
村の広場の像は弓を持った立ちポーズだった。
こちらは弓を引き絞った躍動感あふれるポーズ。
うん、ブールデルの「弓を引くヘラクレス」そっくり。
国立西洋美術館で見た。
だが…なんだろう? 躍動感とは別のベクトルを感じる。
開脚したポーズ…大開脚。…邪念?
そして別パーツで腰布が後付け。
その下、どうなってたの? 問い詰めたい! 作者を!
デイエートは屋敷の玄関で迎撃体勢。
正面玄関から夜這いってどうなんですかね? 正々堂々すぎませんか?
獣機との戦闘では、屋根の上に陣取ったデイエート。
人んちの屋根に上がるのは憚られたのか、地べた。
水平射を強いられている。この角度の違いは大きい。
見通しが悪く、遮蔽物も多い。
未来予知をしているとしか思えなかった命中率が影を潜めている。
いや、相手の動きが良すぎるのか?
こちらの相手はイヌ系獣人。灰色の髪。精悍な表情の女戦士。
虎戦士よりは細身だが、それでもデイエートと比べると二回りはたくましい。
走る! 迅い! チーター娘の爆走とは違う速さ。
緩急の切り返しが早い。尻尾はフサフサ。狼ガールだ!
いや、これ、ヒト型の動きじゃないぞ?
見た目はヒト型のままなのに四つ足で移動している?
ドローン経由の映像なので魔法センサーは働かない。
直接感知は出来ないが、おそらく何かの魔法的要素で狼の能力を発動しているのか。
「人狼戦士か!」
デイエートが声を上げる。何、それ? カッコいい!
矢を避けて障害物の陰から陰へと高速移動。
人間では不可能なスピードの方向転換。
フェイントを掛けて的を絞らせない。
デイエートも移動、遮蔽物との角度を変えて的を捕らえようとするが人狼戦士のほうが速い。
業を煮やしたデイエートが戦法を変えた。
矢の消費を恐れず、上空にむかって放つ。
弾道射撃! 連発!
「何?」
一見、的外れに見える射撃に一瞬戸惑ったように見えた人狼戦士。
意を決して距離をつめる!
庭石の陰からお兄ちゃん像の台座に駆け込む。
そこに上空から矢が降ってきた!
「なんと!」
高々と打ち上げられた矢はやがて落下に転じほぼ真上から降ってくる。
狙っていたのは身を隠す遮蔽物の陰。
銃弾と違って弓矢は盾や塀の後ろを上から攻撃する事が出来る。
戦国時代、鉄砲隊と弓隊は相互補完の関係にあったのだ。
遮蔽物それぞれに矢を放ったか?
だがタイミングがあわなければまったくの無意味。
確率が悪い。かなりの矢が無駄になるのでは?
と、思ったけど、現実に相手を捕らえている。
動く的に命中させる予測能力がすごい。大リーグボール1号!
あわてて身をかわそうとする狼ガール。
地上動物であるヒトの身体は地面を見るのには適しているが、真上を見るのは苦手。
どうしてもバランスが崩れる。そこに2本目の矢が降ってくる!
逃げる方向を塞がれた。必死の回避、常識を超えた身体能力。
だが、それもデイエートの計算どおり。
回避する方向を誘導された。
像の台座の陰から飛び出したところに本命の水平射撃。
回避不能、決着か! と思われたが、ガチン! 金属音。
腕輪だ。手首に巻いていた金属製のブレスレッド。
まるで腕時計みたいに丸い金属板のヘッドが付いている。
矢をはじいた!
凄い反射神経、俺の高速思考に匹敵するぞ!
不殺のエンチャントをされた矢。
命中するとダメージをシミュレートして痛みと痺れで動きを止めることが出来ると言う。
弾道射の後、狼ガールにむかって突進していたデイエート。
相手を拘束するために間合いを詰めていた。
だが、とどめの矢をはじかれてしまった。
背の矢筒には、すでに矢が残っていない!
「矢も尽きましたな。妹様、御免!」
掴みかかる狼ガール。体格差は歴然。万事休す。
と、デイエートの手に魔法のごとく矢が現れる。
弓につがえて突き付ける。いくら狼ガールでもこれはかわせない。
愕然、両手を上げて立ちすくんだ。
「な? 矢は尽きたはず…まさか!」
たまたま、外れた矢が拾える位置に?
いや、違う。あらかじめ自分が移動する場所に外れ矢に見せかけて、矢を送り込んでおいたんだ。
一手先を行かれた人狼女戦士が、負けを認めて片膝をつく。
「さすがは妹様、ディアーナの化身。参りました。」
「楽しかったわね、名前を教えて。」
「ワタシは人狼族の戦士、シマックと申します。」
「人狼族…犬系獣人の中でも珍しい先祖返りの種族ね。凄かったわ。」
「でも、お兄ちゃんはダメだからね!」
デイエートは決着。
侵入者は、3人…居たよね。もう一人…そしてその相手は俺!




