ミーハ村でお祭りするよ
俺とアトラックさんがラグビー猪を運んでいる間に、先生たちは村長宅に移動。
けっこうなお屋敷だ。応接室に通された。
トンちゃんは窓越しに監視中。
「ええっと、村長さん? 何がどうなっているんでしょうか?」
さすがのお兄ちゃんも困惑を隠せない。
「そのー、驚かれたと思いますが…」
「以前、この村を襲っていたムート鹿を退治していただいたわけですが…」
「まだ、獣機が出る前だから…10年以上前になりますかね。」
10年かあー。エルフだからわからないけど、お兄ちゃんもけっこう年上だよね。
「その時の活躍が語り草になっていたわけなんですが…」
「その…弓の腕前だけでなく…ご容姿が美しいというのも…」
うんうん、自慢げにうなづく妹エルフ。ご満悦。
村長の話は続く。
その後、獣機の出現により、放棄された村々から親戚を頼ってミーハ村にも多くの移住者がやって来た。
移住者の中にアポロン教の信者がいた。
ハイエートの活躍を聞いたこの人、神業の弓、美しい容姿といった話に感激。
「そりゃまた、狩猟、青春、太陽の神であるアポロン神の化身みたいな人だな。」
てな事を言い出した。
「それがみんな、すとんと腑に落ちたって言いますか…」
直接、ハイエートを見た人|(特に女性)の中には元々熱烈なファンがいた。
話だけ聞いた人や、新たに移住してきた人は想像が膨らんで憧れがつのった。
とうとう、木彫り像を作って広場に飾るまでになった。
最初は全裸だったけど、「良識ある」村民からちょっとアレだねってクレームが出て後から腰布を付け足した。
なにやってんだよ、もー。
「どうも、ゲイ…芸術に対する理解がまだまだで…お恥ずかしい。」
「そんなこんなで、いつの間にか神の化身説が定着してしまいまして…」
「かく言う私も…だんだん、そうなんじゃないか?って気がしてきて…」
怖いわ。集団心理。新宗教誕生の瞬間に立ち会ってる感じ。
「そんなこと言われても…困りますねえ。」
「ただのエルフの狩人ですし…」
お兄ちゃん、困ってる。知らないところで神様扱い。
もっとも大抵のメジャー宗教の教祖さんは生きてる間は「自分が教祖」なんて思ってなかったけどね。
死後、子孫やら弟子やらが担ぎ上げた。
「そこへ来て、こちらの美しい妹さまをお連れになったということで…」
「みんな盛り上がってしまったのだと…」
「なるほど、太陽神と月神が兄妹ペアなのは定番だからな。」
先生が納得顔。
「狩猟神も兄妹ペアとされているし…いかん、わたしもそんな気がしてきたぞ。」
「ほんとに神の化身じゃないんだろうな? ハイエート?」
「何言ってるんですか、導師。やめてくださいよ!」
「ととと、ところで…」
女騎士が口を挟む。
「その腰布パーツって外れるんですか?」
ここで俺たちも合流。トンちゃんご苦労さん。
村長宅まで案内してくれたのは俊足娘チルタちゃん。
俺についてはおっかなびっくり。ちょっと離れて歩く。
あれ、応接室までついて来たぞ?
ご家族? 娘さん? でも「村長」って呼んでたな?
アトラックさんが改めて村長に挨拶。
「カロツェ家、レガシ支店で警備を担当しております。アトラックと申します。」
「いつもお世話になっております。」
「いえいえ、こちらこそ。いつもお買い上げありがとうございます。」
ビジネス会話。アトラックさん…警備だけじゃないのね、お仕事。
「ミーハ村のソープ液はカロツェ家が独占購入契約を結んでいるのです。」
なるほど。
「ででで、でも、ソープの木の根に含まれる樹液は1本の木からほんのわずかしか取れないはず。」
「高級品ですよ、王都では。目の玉が飛び出るほど!」
「この村ではそんなに採れるんですか?」
借金女騎士、余計な事聞くなよ! 先生に言われただろ。
「バカな事は聞くな! そんなことヨソ者に話せるわけ無いだろ。」
ほーら、先生に怒られた。
あれ? 先生…自分は知ってるような口ぶり…だよね。
「あ、あはは…」
村長、困った顔。
「照明やカマドの触媒はレガシから購入しておりますので。」
「発明者のエルディー導師のお噂はかねがね…」
「魔道士のいないこの村ではありがたいです。」
ぽりぽり頭をかく先生、照れてる?
「魔道士はいないのか? 治療とかは大丈夫か?」
「レガシの救護院で学んだ術士がおりますので、何とかなっております。」
「ああ、そうか、イーディの弟子がいたな。」
うーん、レガシの街、思った以上にまわりに影響力があるんだな。
一緒についてきたチルタちゃんが声を掛けた。
「騎士のお姉さん…クラリオ様ってホント?」
「え? 私? そそそ、そうですが…」
「破壊剣士? 本物の?」
「はか…、ええ?」
自分の二つ名に目を剥く女騎士。
「チルタは、獣機に追われて避難してきた親戚の子です。」
「この村には王軍の援護をうけて同様に避難してきたものも多いのです。」
「単身で獣機を屠る凄い女騎士がいたことは噂になっておりまして…」
「まさか、ご本人にお目にかかれるとは…」
「ははは、破壊剣士ぃ?」
嫁入り前|(予定なし)の女子にはちょっときっつい二つ名だな。
ショックを受けてる、有名人破壊剣士女騎士。
「そして…こちらは?」
あ、俺ですか。
「ハイエートの従者…従機を務める魔道機だ。」
先生も悪ノリしてるな。
「おお! これほどのお供を引き連れて…やはり神の化身…」
小さくつぶやいてる、村長。うん、やばい。
村長のお願いでその日は大宴会。てか、お祭り!
村の広場、ハイエート様の像の前で祭壇の上にハイエート、デイエートが座って…
祭られてる! 現人神状態。
そして握手会。会いに行けるアイドル状態。まさに偶像。
お兄ちゃんがニコニコ顔で対応してるからデイエートも付き合ってるけど…ウンザリ顔。
俺とアトラックさんが行列整理。
「はいはいー、一列に並んでくださいー」
「こっちこっち、右の階段からあがってくださーい。」
「終わった人が抜けられるように祭壇の前は空けてねー」
「はい、次の人、前へ出てー」
「はいはい、お嬢さんもう離してー、いつまでも握ってちゃダメだよー」
「はい、割り込んじゃダメですよー」
「プレゼントは受け付けていませんからー」
もう、魔道機演技してる場合じゃないですよ。
そして、誰も気にしてないしね。
女騎士も手伝ってる。
「最後尾はこちらー」
「はい、そこの人、並びなおさないでー、一人一回ですよー!」
先生は、来賓席みたいなとこに座って高見の見物。
村長さんとなにやら相談。
ズームイン、マイク!
「この辺、獣機は現れないか?」
「幸い、村周辺では目撃例はありません。」
「この辺の山頂に骸骨塔があるのは知ってるな。」
「はい、遠目には見た事があります。」
「道とかはあるか?」
「獣道がありますが…骸骨塔が出来てからはだれも近づきませんし…あ、」
村長がなにかを思い出した。
「誰かいるか?」
「チルタが…」
「あの娘が?」
「避難の際に…獣機に父親をやられておりますので…敵を討つと言って塔に…」
「まあ、子供が手を出せるはずもなく、泣く泣くもどってきた所を保護できたんですが。」
元気な娘だったけど、そんなことが…しんみり。
「…そうか…森歩きの才能があるようだな。」
「ええ、最近では苗木の採集はあの子が一番…あ!」
「私には隠さんでもいい。だいたい知ってるしな。」
「え? そう言えば…栽培法は200年ほど前に、行き倒れの魔道士を助けて、教わったと…」
「ひいじいさんから話を聞いていますが…それって…まさか導師が?」
「行き倒れていたのは内緒だ。」
「それに教えたわけじゃない。いっしょに考えたんだ。」
「他に何か聞いているか?」
「ソープ液を採取する時に【事故】があったという話なら…」
「それは、もっと内緒だ! いいな。」
「え? あー、その…実は【事故】は今でも時々…」
「なんてこった! 解決してないのか!?」
エルディー先生、手広くやってんね。そして、気になる【事故】!
全員の握手が終わったころは、もう真っ暗。
触媒松明をつけて宴会になった。
ハイエートが倒した猪のお肉。村人全員に分配する。
さすがに量が足りないので他のお肉を並べて刺して串焼き。
神の化身が狩った猪。ご利益がありそうだ。一年間、風邪をひかないとかね。
村人たちはまだ盛り上がってるけど、俺たちは村長宅に引き上げた。
たらいを貸してもらって、ロボキュート。
顔を洗って一休み。
「ふー、まいったな…」
「まさか、こんな事になってるとは…」
さすがのお兄ちゃんにも疲れが見える。
デイエートは、もうぐったり。
いい機会だから聞いておこう。
「アポロン教と言うのはどういうものなんですか?」
先生に尋ねる。
「ああ、基本は太陽信仰の一種だな。太陽神をアポロン、月神をディアーナと呼んでいる。」
「正確に言えば、元々は太陽神はハイペリオンで月神がセレン。」
「アポロンとディアーナは狩猟と青春の神で元は別の神だったんだが…」
「今は同一視されている。」
「以前話したと思うが…デイ氏族の祖神ディジタールをディアーナの別名だとする説があって…」
「女の子の名にデイをつけるように、男の子にはハイペリオンのハイをつけるのが流行った時期があってな。」
ああ、それでハイエートとか、ハイバンドとかって名前に。
「なんにせよ、まともに教会を作って活動してる宗教はアポロン教だけだからなあ。」
「それだけに、まあ、頭が固くて、問題もあるんだ…」
「以前はレガシの教会にも神官を派遣していたんだが…どうも人手不足らしくて…」
ま、宗教だからね。色々あるよね。
先生のところで読んだ本に宗教について書かれたのがあった。
この世界でメジャーな宗教は4つ。
知識神ゴーゴン、東方の太陽女神アマテラス、風神フレスベルク、そして太陽神アポロン。
うん、略すとGAFA。
ゴーゴンは髪の代わりに千匹の蛇を生やし、二千の目で世界の智慧のすべてを収集する神。
魔道士とか学者とかのシンボルになっている。まあ、信仰とは言えないけどね。
アマテラスは元は東方から来た神様。
太陽の恵み、作物実らせてくれてありがとうって感じの神様。
まあ、日照りの時は「いいかげんにしてよ」
冷害だと「もっと頑張ってよ」って感じのお祭りをすると。
フレスベルクは黒い大鷲の姿で現される強風の象徴。
どちらかと言うと災害神。
信じると言うより畏怖される存在。祟り神だな。
アポロンは太陽神だが天気の神様として信仰されているわけではない。
むしろ「光り輝く」とか「高い所を通る」と言う神聖さの象徴。
教会が組織されているくらいだから、一番神様らしい神様だ。
それぞれ地方や種族によって違うので単純な話じゃないらしい。
「村長に話をつけた。案内人をつけてもらう。明日は骸骨塔を攻撃するぞ。」
先生の檄にみんな緊張が走る!
「と、言うわけだから、寝よう。とにかく寝よう。」
そうしましょう。




