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ミーハ村に到着するよ


さて、後ろ髪を引かれる思いで軍服カフェを後にした俺たち。

え? 引かれてるのは俺だけ? ま、髪は無いんですけどね。

「骸骨塔を目指すとしたら…いったんこちらの小街道に入らないと…」

「ミーハ村なら宿が取れるでしょうから、今夜はそこまで行きましょう。」

行動方針は決まった。

大街道をしばらく進んだ後、わき道に入る。

道幅が狭くなり、路面も荒れる。

「どういったところなんですか? その村は?」

先生、知ってる?

「ミーハ村は主に獣人の住む村だ。レガシとも取引がある。」

「特産物はソープの樹からとれる樹液だな。身体を洗うのに使ってたやつだ。」

「ええ!」

女騎士がびっくらこいた!

「この辺で採れるんですか? 王都では大貴族くらいしか使えない高級品ですよ。」

「まあ王都じゃどうかは知らんが、この辺じゃ割とよく使う…日用品だな。」

「工房の浴場でも使ってたし…何と言う贅沢…」

「持ち帰って…お土産…いや、転売…」

何かぶつぶつ言ってんぞ。

「自生してる樹からも取れるんだが…村には大量に採取するノウハウがある。」

「うっかりその辺に首を突っ込むとスパイかと疑われることになるから、礼儀として気を付けてくれ。」

うーん、知的財産の管理はこっちの世界でも大変だ。


おっと、アンテナが立った。この辺、電波が来てる。

「注意してください、このあたり獣機の縄張りですよ。」

「むっ!」

兄エルフが流れるように弓に弦を張る。

お兄ちゃんの弓は背丈ほどもある剛弓だ。

並みの戦士では曲げることすらできないだろう。

ハイエートも力任せではなく、膝を押し当て全身の筋肉の瞬発力、一瞬の気合とタイミングで弦を張る。

うしろの垂れ幕を跳ね上げると、まるで体重がないかのような動きで逆上がりみたいにして馬車の屋根に飛び乗る。

せまい車内で長大な弓を扱っているにもかかわらずどこにもぶつけたりしない。

片手に弓、背には矢筒を背負っているのに激しい動きを苦にもしない。

やっぱり達人だわ、お兄ちゃん。

「なんという身のこなし!」

女騎士が感嘆の声を上げる。

俺も…いや、さすがにハイエートの真似は無理。

飛び降りて馬車と並走する。

正直、馬車は飛ばしても時速10キロちょい。ママチャリ並みがせいぜい。

余裕で並走…て言うか走ってないよ。早歩きで十分。

それでも1日あたりの移動距離は3倍近くになる。

偉いのは馬だよなあ。ありがとね。

骸骨塔はどこだ?

電波強度を視覚化。山あいからのぞく山頂に強い発信源を確認。

あそこに基地局がある。

ズームアップしたがさすがにこの距離では骸骨塔の形は確認できない。

と、思ううちに再び山向こうに隠れてしまった。

「電波が途絶えました。うまい具合に山の影になっているようです。」

「なんとも気が抜けんな。」

先生も護符ディスクのポーチを確認。

兄エルフは馬車の屋根を一回りする感じで、御者席、アトラックさんのとなりに腰を据えた。

「まあ、この辺は獣機抜きでも厄介な獣が出ますしね。」

びんっ、と弦を鳴らす。


警戒態勢のまま、しばらく道を進む。

骸骨塔のある山頂、ふもと近くのミーハ村を目指すからやや登り坂。

時々ちょろっと圏内になるけど、これでは獣機が活動するのは難しいだろう。

「あ、なんか来るよ! 前。」

突然デイエートが馬車の中から声を上げる。

え? 何でそんな事わかるの?

俺や御者台のアトラックさんも首をひねったけど、お兄ちゃんだけはすかさず反応した。

すぐに矢筒から矢を抜き弓を構える!

と前方、道の脇、森の中から飛び出してきたものが!

女の子? ケモミミ、獣人だな。こっちへ向かって走ってくる。全力疾走!

「助けてー、いや、逃げてええええええーっ!」

馬車の脇を凄いスピードで走り過ぎた。速ええ!

「たすけてーいやに」までが高音化、「げてええええええー」が低音化。

ドップラー効果。

続いて森の中から飛び出してきたのは…

でっかいラグビーボール?

いや、足が生えてるな。イノシシ? すげえ流線型!

地球のイノシシなら胴体の先頭には鼻があるが…

こいつ、額に当たる部分が円錐状に尖って突き出している。角?

あ、これ、まずい。

野獣の体毛は一種の装甲だ。刀で切り付けても通じないと言う。

しかもコイツ、流線型にそって生えてるから前からの攻撃は逸らされちゃう。

唯一攻撃の通じそうな顔面まで円錐形。正面から攻撃しても効果ないぞ!

女の子を追ってこっちへ突っ込んできた。

いったんやり過ごして、横から攻撃する、って…

馬車だよ! 避けるとこが無いよ! うわあああー!

御者台に立った兄エルフ。少しも騒がず矢を放った。

獣機の装甲の隙間をぶち抜いて見せた金属製の矢と剛弓!

ラグビー猪の顔面を、貫いた!

円錐形に尖った頭蓋骨、1センチでもずれたら矢は弾かれていただろう。

しかも分厚くなっているはずの先端部の頭骨を打ち砕く威力!

もんどりうって倒れる猪! 馬車の直前まで転がってきた。

「びっくりしましたねえ。」

全然びっくり感が無いよ、お兄ちゃん。

しかし、妹エルフの同行を主張したわけがわかったよ。

いくら神業の射手といえども、デイエートの警告がなかったら…

矢筒から矢を取り出すわずかの遅れで間に合わなかったかも。

デイエートの勘のよさ、知ってるつもりだったが…半端ないわ。


「もう、だいじょーぶだよー」

ハイエートが俊足ケモミミ少女に声をかける。

すっげえ遠くまで走ったな。

「え? えええー。」

駆け戻って来た。速い!

「イノシシをひと射で? 正面から?」

「す、すっごい!」

猫耳…なのか? ショート髪が黄色っぽい茶色で黒い筋が入っている。

背は低いけど、足が長い。俊足ぶりも納得だ。

そして、シッポが長い。斑点がはいって先っぽの方は縞模様。

チーターっぽいネコ系獣人だ。

「ケガしてないかい?」

「はい、大丈夫です!」

まだ、あどけなさが残る少女。元気いい。

「あ、れ…エルフ…美男子…弓の達人…」

「あなたは…まさか、もしかして…ハイエート様?」

んん? お兄ちゃんのこと、知ってるのか?

「えー、と。たしかに僕はハイエートだけど…『様』?」

「村を襲った魔獣ムート鹿を単独で倒した神弾の射手、狩猟神の化身!」

「すっごーい!! 本物のハイエート様!」

戸惑う兄エルフ。

先生が顔を出した。

「有名人じゃないか、ハイエート。」

「いや、そりゃあムート鹿は狩りましたけど…」

「とりあえず、こいつを…」

そういうと、馬車を降りて今倒したばかりのラグビー猪の傍らに。

氷雪虎スノーレパード

おう! お兄ちゃん、護符も詠唱も使わずに平然と魔法使う。

「ハイエートさんが魔法使う所は初めて見ました。」

驚いたですよ。チーター娘も目を丸くしてるぞ。

「あれー、そうでしたか? まあ、必要なものはね。」

「獲物は倒した後、なるべく早く冷やすのが肉質をよくするコツですからね。」

先生も馬車を降りてきた。

「まったく、本気で魔法を学んでくれれば…稀代の魔導師になれただろうに…」

「僕はこっちの方がいいですねえ。」

ビンっと弦をはじく。やっぱ才能あるんだね、お兄ちゃん。

「おみやげがわりに村まで運んで解体してもらいましょう。いいよね?」

チーター娘に声を掛ける。

「は、はいい! お心のままに!」

深々と頭を下げる。なんか変だね? この子の対応。

「で、でも、こんな大きな猪、どうやって運べば…」

「馬車に載せよう、お前らも降りろ。」

デイエートがひらりと降りる。

女騎士が、えっこらしょっ! とか言いながら降りる。

「載せるって言っても…」

首をひねるチーター娘。確かにでかい、200キロは軽く超えてるよね。

「アイザック、頼む。」

はいはい、えっこらしょっ! 軽く持ち上げて馬車に乗せる。

ま、このくらい朝飯前ですよ、もうじきお昼ですけど。

「えええー?」

びっくりした? ま、初めて見たヒトは驚くよね。

デイエートはお兄ちゃんのそばに。

それを見たチーター娘…

「え? 似てる…」

「妹だからね。」

「妹さま…ディアーナ…月女神の化身…やっぱり!」

「はい?」

「よ、ようこそ、ミーハ村へ。ご、ご案内いたします。」

ひざまづいて、深々と頭を下げる。ちょっと大げさじゃない?

「あ、申し訳ありません、ちょっと待ってください。」

そう言って、さっき飛び出してきた森の中へ。

すぐに、籠を背負って出てきた。

籠の中にはなにやら小さい木…苗木?が詰め込まれている。

なるほど、これを採ってる時に猪と遭遇したんだな。

「ひとりで森に入るのは感心せんな。」

先生が先生っぽい注意。

「はいいー、不注意でしたー」

チラッと籠を見た先生、小さい声で。

「なるほど、群生地を見つけて夢中になったか…」

ビクッとするチーター娘。


でか猪を馬車に載せ、みんなで歩いて村に向かう。

見えてきました。柵だ。

村の周りをぐるりと囲む柵。

人の背より高いけど乗り越えられないほどじゃない。

高さより、柵から突き出したとんがり棒のほうが重要なんだな。

いわゆる逆茂木さかもぎってやつだ。

高さから言って対人用じゃなく獣避けだと思われる。

まあ、ラグビー猪みたいなのがいるんじゃ用心が必要だよね。

実際、入り口の柵は女の子が自分で隙間から手を突っ込んで閂を外して開けた。

人に対する防御施設じゃないことは明らか。

「い、今、村長を呼んで参ります!」

走った、速い! 弾丸チーター娘。

入ったところは広場になっている。その真ん中に…

「あれ…お兄ぃ?」

像が建っている。太い木を削りだした木像。

台座の部分は丸太のまま。

長大な弓を持った長髪のエルフ男子。イケメン。

うーん、どう見てもハイエートそっくり。

まあ、そうは言っても現物の方が美形だよな。

……なんで裸なんですかね?

妙にモールド細かくないですか? おへそとか乳首とか。

あと、腰に巻いている布部分が…木目の向きが違う。

なんか、別パーツみたいな気がするんですけど…

「どういうこと…なんですかね?」

お兄ちゃんも困惑。

「顔がいまいちね。」

妹はまんざらでもなさそう。


広場の周りにいた村人がこちらを遠巻きに見ている。

「あれ…あのお方は…」

「まさか、ハイエートさまでは…」

「お顔を拝見したことある人…呼んで来て…」

なんか、変な雰囲気…

チーター娘がもどってきた。ちょっと年配の男性を連れている。

おっさん、丸耳、ちょびっと小太り。イヌ系獣人? タヌキっぽい?

愛嬌ある系の中年イケメンだ。若い頃はさぞかしもてたに違いない。

尻尾がふさふさで先っちょがちょっと黒い。

全体にレガシで見かける獣人よりケモっぽさとかモフ味とか多めだな、この村。

あれ? タヌキの尻尾ってシマシマじゃなかったっけ?

『シマシマなのはアライグマ』

わ! びっくりした。新ナビ君?

いや、ヘルプ君。そう決めた。今決めた!

そうなの? でもあんま変わんないよね。

『アライグマはあらいぐま科。いぬ科のタヌキとは全然別の動物。』

え、ええ!? そうなの?


「あ、村長さん。おひさしぶりです。」

お兄ちゃんが手を振って挨拶。

村長さんがうやうやしく腰をかがめる。

「ハイエート様! お久しぶりでございます!」

「様?」

「近くに用事があって…今晩泊めてもらえたらって思って…」

「は! ご逗留を!? なんと光栄な。」

「光栄?」

「途中で猪を仕留めたんで、お土産がわりに持ってきたんで…」

「なんと! 左様な賜物を、もったいないことでございます!」

いつの間にか周囲に人垣が出来ている。

「おお、ハイエート様!」

「え? 本物?」

「アタシは以前いらしたときにご尊顔を拝見したのよ。本物よ。」

「ハイエート様ああー!!」

なんかみんな盛り上がりが半端じゃない。

ちょっ? 何かヤバい感じなんですけど。

「こちらのお連れの方がたは?」

「ああ、こちらレガシのエルディー導師。」

「エルディー導師ですと!」

村長がびっくり、先生、有名人なのか?

「王軍騎士クラリオ・ヒタチさん。」

「は、破壊剣士クラリオ!?」

人垣の中から驚きの声が。ちょ! 何その二つ名?

「カロツェ家警護のアトラックさん。」

「おお、カロツェ家の。」

「あと、僕の妹、デイエート。」

人垣がどよどよ揺れる。ええ? 何?

「妹さま!」

「太陽神と月神が揃った!」

「ハイペリオンとディアーナ!」

「妹さまもお美しい!」

「すてきー!」

歓声が上がる! 

「こ、こら、押すな!」

「見えないー!」

「さわらせてー!」

いかん、なんだかわからんがパニックになってるぞ!

押し合いへし合い。人の輪がじわじわ迫ってくる。

先生が護符ディスクを取り出した。

上に放り上げる! 閃光輝ライトニング

閃光! だいぶ抑え目だけどね!

きゃあーとか言う悲鳴が上がる。いや? 悲鳴? 歓声?

光明神ボイポス!!」

「静まれ! とどまれ!」

先生の声、拡声魔法付き。

眩しさでみんなの動きが止まった。

村長に話すように促す。

「みんな落ち着け。ハイエート様はご到着なさったばかりでお疲れだ。」

「改めて場を設ける。仕事にもどれ。」

なんとか落ち着いたようだ。

まあ、まだ遠巻きに眺めている、仕事とかは手につかないみたいだけど。

ふーっと息をつくアトラックさん。

「猪はどこに降ろしますかね?」

「おお、チルタ、案内してやれ。」

村長の後ろからさっきの娘が顔を出す。

「ハイエート様たちは私の家に…」

俺はアトラックさんの手伝いについて行くとしよう。

念のため先生たちには偵察ドローンを同行させてっと。頼むよ、トンちゃん。

トンボ型ドローンを放つ。


チーター娘チルタちゃんの案内で作業場に。

他にも解体作業中の獲物があるようだ。

作業していた人たちが馬車を覗き込む。

「うお! でかい!」

俺が無言でいるので、アトラックさんが察してくれた。

「アイザック、猪を降ろせ。」

うん、命令を受けて初めて動くって感じで。魔道機演技。

「うおお? 何て力!」

パワーこそ力だ! って感じで軽々と猪の巨体を扱う。

「こ、これ。魔道機? 凄い。さすがハイエート様の従者だ。」

従者? なんだか変な感じだが…まあ、別にいやじゃない。

美形エルフと黒い魔道機従者、いや【従機】うん、新たな冒険が始まりそう。

それはまた別の話だけどね。(始まらないですよ。)

「たった一射で…正面から鼻角を射抜くなんて…まさに神の御業!」

どよめく村人たち。いちいち感心の仕方が大げさだよな?


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