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関所に到着するよ


レガシの街を出発して最初に目指すのは直近の骸骨塔。

向う山の山頂付近をサービスエリア圏内にしている基地局。

これを破壊できれば、レガシ周辺の脅威は大幅に遠のく。

ごとごと馬車に揺られながら進む。

もう、ミネルヴァの声は聞こえない。寂しい。

キャンプや夕食会で使った「お嬢様用のいい馬車」と違って、荷車に箱を乗っけたような質素な馬車。

後ろから乗り込むと両脇に向かい合わせのベンチ、板じき。申し訳にザブトンが置いてある。

「途中、いったん【大街道】に出てから別の街道に入る必要がありますねねね。」

板バネのサスは入っているけど、けっこう揺れるわ。

女騎士が地図を見ながら説明してくれる。


この地図、もとからあったものに俺が向う山山頂から見た情報を加えて書き直したもの。

方位や距離がかなり正確に修正されているはずだ。

日本の戦国時代とかに描かれた地図を見ると、地図が作られた土地、つまり京都周辺は広くでかく描かれているが、遠い場所ほど小さくなり、越後東北あたりはすごく小さく、北海道にいたっては存在していない。

「情報量」が「面積」に比例している感じだ。

最初見せてもらったこの世界の地図も同じような状況。

点在する都市が大きく、街道が太く描かれ、人跡未踏の森林や荒野、山地が驚くほど過小に表記されていた。

地図の目的自体が街道からの分岐と行き先、町や村の並ぶ順番を示すためのものだ。

実質、「地図」というより「路線図」といった方がいい代物。


「なんでこの地図、こんなスカスカに描いてあるんですかかか?」

俺が描いた地図を見て、女騎士が首をひねった。揺れてる。

「絵、へたくそですねねね。」

こ、このポンコツ女騎士! いつか、くっ殺す!!

ハイエートがのぞき込む。

「これはいいですね。」

「ちゃんと森の広さや道の向きが描かれてますよ。」

ほら見ろ、さすがお兄ちゃんだ、わかる人にはわかる。

「このあたりまでなら行った事がありますが…」

「道沿いに行くのは初めてですね。」

地図を指し示す。けっこう広いですね、活動範囲。

これだと骸骨塔のある山のすぐ麓まで入ってますよ?

「ほー、こんなとこまで足を伸ばしてたのか?」

先生もびっくりしてる。

「まあ、普段、森の中を通ってるんで関所とか意識した事は無いんですが…」

「ま、確かに…この分岐は関所があるしな。」

「その先はミーハ村ですね、ムート鹿のでかいのがいたとこです。」

「王国は何で、こんなとこに関所作ったんだ?」

みんなが女騎士を見る。

「ロスト地方の街道で、ここから先は獣機の活動区域になるぞ、ってことで…」

「獣機の侵入を防ぐとともに、通行者に警告する意味合いと言うのがありまして…」

「しかし、通行税を徴収してるって聞いたぞ。」

「いえ、それは…そのー、通行税じゃなくて…ですね…」

「そのー、協賛金といいますかー」

「王都からの補給だけじゃやっていけないのでー…」

「できれば金貨とかじゃなくて…食料とかの方がありがたいってゆー話でー」

「正式な制度じゃないのか? 大丈夫なのか、それ?」

先生もあきれ返ってるぞ。

「背に腹は変えられないっていうか…腹が減っては戦が出来ないっていうか…」

大丈夫なのか? 王国。お腹と背中がくっついちゃうぞ。

「今、王都の外にでてる軍はみんなそんな感じです…」

「ふーむ…おかしいな? てっきり至上主義者がイケイケなのは軍を掌握して、軍備を増強しているからだと思ってたが?」


「大街道に出ますよー。」

アトラックさんが声をかけてきた。

「すこし休憩しましょう。」

「そうしましょう。正直、揺れるのはきついですよ。」

めずらしいお兄ちゃんの弱音。

俺は振動とか苦にならないけど、ヒトにはきついよな。

「大丈夫ですか? デイエートさん?」

さっきから妹エルフが静かだ。

そして顔が青い。

「馬車は…苦手…」

「そうだな、軽く回復魔法を使おう。」

先生、頼みます。


今まで走ってきた道が、やっと馬車がすれ違える位の幅。

レガシの街へ入る西街道も同じ様なものだった。

だが…これが【大街道】か。くっそ広い!

って、これ…高速道路…だよね?

中央分離帯があるぞ。片側2車線。

森を突っ切るようにまっすぐの道が伸びている。

地面より心待ち盛り上がった感じ。ガードレールとかはない。

野獣とか入り込むのを防ぐ対策は全然なし。

舗装材は…アスファルトでもコンクリートでもないな。

何かブロックを敷き詰めてある。

単純な長方形とかじゃなく、ジグソーパズルのピースみたいなブロックだ。

簡単には剥がれたりずれたりしない感じ。

そして魔法センサーに反応がある。

どうもブロック1個1個に保存魔法とか魔獣よけ的な効果が付与されているみたいだ。

ところどころ草が生えてるが、隙間から生えたんじゃない。

ブロックの上にたまった土に生えてるんだな。

俺が眺めているのに先生が気付いた。

「どうした?」

「この街道はいつからあるんですか?」

「学者の意見では魔道機文明より前からあったんじゃないか?って話だ。」

「もう、あるのが当たり前になってるから深く考える奴がいないんだ。」

「これだけの道があるのなら…車輪で走る機械があったはずですが…」

自動車があったはずだ。そうでなきゃこんな立派で平らな道は必要ないだろう。

「ああ、いろいろ発見はされたんだが…」

「車輪に使われていたはずの素材が再現できなくてな。」

「鉄や木材を使って実験したやつもいたんだが…」

「馬車に比べるとスピードが何倍も速いから振動が激しすぎて」

「チャレンジした奴が何人も死んでる。」

「馬車でさえアレだからな。」

ちらっと見る。

青い顔してたデイエートは先生の回復魔法でだいぶ楽になったみたいだ。

時速100キロ以上で走るような自動車のタイヤを鉄で作ったら、その振動はどうなるか?

乗り物酔いどころの話じゃないだろう。運転者は脳震盪か脳挫傷か…

自動車自体のメカだって、無事ではすまないはずだ。

魔道機文明時代はゴムタイヤが使われていたのか?

金属に比べると長持ちしないから、他の部品より早く劣化して失われたんだろうな。

この世界では、まだゴムは見たこと無い。

空気入りタイヤの発明は偉大だなあ。

ダンロップ医師、ミシュラン兄弟、あんたたちは偉かった。

一応、トムソンさんもね。

あとグッドイヤーさんにも感謝。


「お前は何が巻いてあったか知ってるのか?」

「空気ですよ。」

「え?」

ま、そのうち詳しく話します。


しばらく休憩した後、再び馬車に乗って出発。

ま、徒歩よりは早いけどだいたい自転車なみのスピード。

それでも、わき道よりはかなり楽になった。さすが舗装路だ。

「デンパはどうだ?」

「今のところ感知できません。獣機の心配は無いようです。」

「大街道にいる間は魔獣も襲ってはこないからな、少し休んでおけ。」

先生がデイエートを気遣う。

「う、うん。」

これ位の振動なら…

「デイエートさん、わたしの膝の上に座ってください。」

「ええっ!?」

きょろきょろ、お兄ちゃんと先生を気にするデイエート。

「で、でも…」

「ちょっと思いついたことがあるんで試してみたいんです。」

「ん、んん、じゃあ…」

膝の上に敷物を乗せて、その上にデイエートを座らせる。

お兄ちゃんが目を丸くしてるな。

「行きますよ。」

アクティブスタビライザー。馬車の振動を俺の身体の揺れで打ち消す。

どうだ?

「え? 揺れてない? ええ? 魔法?」

「なるほど、振動機能の応用か、手だけじゃなく全身もか。」

「しかも馬車の振動を打ち消すとは…便利なもんだな。」

先生も感心してくれた。

「手。」

え? 何だよ、デイエート。

「手、前に回して。」

妹エルフを抱きかかえるように腕を回す。

と、その腕をひじ掛け代わりに身体を預けて力を抜いた。

すぐに寝息をたて始めた。

「ちょっと、甘やかしすぎじゃないか?」

先生がにやにやしながらお兄ちゃんエルフにささやく。

「ふふ、そうかもしれませんね。」

あと、女騎士がうらやましそうに見てるけど、お前は揺られとけ!


薄暗くなるころには関所に着いた。

関所って言ったって、街道に簡単なバリケードが置いてあるだけだ。

高さ1mくらいの木の柵って言うか…工事用フェンス。

普通の人間でもジャンプすれば飛び越えられる高さ。

そもそも固定されてない。

柵の周囲に兵士がウロウロしている。

フェンスを動かして、道を閉じているところ。

アトラックさんの問いかけに、若い兵士が答える。

「夜間は通行禁止です、危ないから…」

腰が低い。とても封建制度社会の兵士には見えないな。

「検問は夜明けから始めますので、宿でお休みください。」

宿?

宿場町とでも言えばいいだろうか。

街道の脇に広がった平地に宿屋、酒場っぽい何軒かの建物が立っている。

パーキングエリアだなこりゃあ。


宿の前に馬車を止めようとすると兵士がやって来た。

「宿をお取りになられますか?」

「野宿や車中泊用のフリースペースはあちらの方になります。」

「宿に泊まられる方はこちらに駐車してください。」

「馬小屋はあちらになります。」

「ご自分で移動される場合は無料、こちらにお任せいただける場合は別料金になります。」

「馬の世話については定評ある王軍軍馬基準となります。」

ええ!? サービス満点。関所だよね? ここ?

「え、じゃあ…お願いします。」

アトラックさん、戸惑いながらも馬を兵士に預ける。

「な、何か思ってたのと違いますね。」

「うーん、とても軍がやってるとは思えんが…」

首をひねる先生。女騎士にたずねる。

「いまどきの王軍てこんな感じなのか?」

「いいい、いえいえ。私もこんなの初めてですよ。」

「ちょっと、私、現場の上長に挨拶してきます。」

先生の耳元で小声。

「この遠征でアルバイト代が出るというのは御内密に…」

やっぱりまずいんだな、副業。

若い兵士に声を掛けると、案内されていった。

「さて、部屋を取っておくか…」


宿の受付で手続きを済ます。男女別、2部屋。

建物は実用本位、軍営風。立てたばかりだな。

受付も若い兵士。

「この宿場…関所的にはどういう扱いなんだ?」

「この施設はすべて【こちら側】になります。」

「夕方通関を済ませてこっち側へ来た人と、明朝の向こう側への通関待ちの人が利用する施設です。」

「なるほどな、うまく出来てる。」

「まあ、最近はこっちから来てこっちへ帰って行く人も居ますが…」

「? 何だそりゃ?」

悪戯っぽく笑う兵士。

「となりをご覧になればわかりますよ。」

「??」

まあ、どっちにせよ、食事にしようって事でとなりの酒場?食堂?へ移動。

うお、混んでる!

宿はそれほどでもなかったのに、こっちは大繁盛。

野宿、車中泊系の旅人もけっこう利用していると見える。

…それだけじゃないな、混む理由。

軍服?を着た女兵士?のウエイトレスさんがいるぞ…軍人さん?

そんなわけないよね。みんな若い女の子。

エルフ耳、ネコ耳、イヌ耳…人間以外の娘ばかり。

お客さんがみんなうれしそう。

ウエイトレスさんがやって来た。イヌミミ。

びしっと敬礼!

「ようこそ! 上官殿、お席へご案内いたします! 」

軍服カフェだ、これ!

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