出発の準備をするよ
ビクターさんに手形を頼んでから1ヶ月、いろんなことがありました。
雀竜の襲来、暗殺者の撃退、獣機との戦闘、女騎士との立会い(笑)
そして入浴! 水浴び! マッサージ!
有りすぎだろ!
50回くらいで終わると思ってた連載小説が80回過ぎても出発すらしてないみたいな?
「案ずるより産むが易し」と言うことわざがある。
ぐずぐず考えるよりやって見ろ、意外とうまく行くもんだ、みたいな意味だ。
実際、PCの自作とかでも、さんざんパーツ構成に悩んでいたのに、作業に入ると意外とあっさり完成した、なんてことがあった。
だが、本当にそうだろうか?
事前にさんざん悩んで、準備して、ネガをつぶしていたから上手くいったんじゃないだろうか?
「案じていたから易かった」さらに突き詰めて考えると「本番より準備がめっちゃ大変」
つまり何が言いたいかって言うと出発する間にやること多すぎ。
食料、装備の準備、打ち合わせに、さらに時間を費やした。
なんやかやで、いよいよ、出発は明日。
先生はディスカムを前に厳粛な面持ち。
「ディスカム、お前に対する指導は今日で終わり。卒業だ。」
「短い間だったが、心構えは教えたつもりだ。」
「もう、私が教えることは無い。あとは自分で学ぶんだ。」
「いつも考えろ、その先に【魔道】はある。」
神妙に頭を下げるディスカム。
「エルディー大導師の弟子としてその名に恥じぬよう、務めます。」
立ち会っているのはマビキラ、俺、ベータ君、そしてエアボウド導師。
生臭賢者、うれしそう。
「これで、お前さん、俺の弟弟子だな。」
「ええ? 大導師も…そうだったんですか…」
うんうん、うなづく生臭賢者。マビキラのほうを向くと
「て、ことはあんたたちの兄弟子だから、」
「エルディーの留守中はベータ君やイオニア様と一緒に指導することになったから。」
エアボウド大導師、おやっさんと組合長から就職を断られたので先生に泣きついた。
「え? いや、教師役は足りてるかな…ベータもイオニアもいるし…」
と先生に言われてマジ涙目。
お嬢様のとりなしで何とか非常勤講師的な立場に滑り込んだ。
マビキラの座学指導はカロツェ家の屋敷で行なう予定。
約1か月、夏期講習、集中合宿。
挨拶に行ったときにネコミミメイド1号サジーさんからお茶を出されて上機嫌。
そしてキラすけが露骨にイヤそげな顔してるんだが。
この、エロジジイ! セクハラしたら粛清だからね。
ん、何? マビカ?
「ボ、ボク、治癒魔法、習いたい!」
「ほほう。」
なるほど、自分の固有魔法である水魔法。
初めて役に立ったのが救護院での治療だった。
その体験が道を照らしたのか。
「うむ、治癒魔法、回復魔法はヒトの身体に関する知識も必要。」
「決して楽な分野では無いが…それゆえに魔道の真髄ともいえる。」
「その志や、良し!」
「イーディやデイヴィーも力を貸してくれるだろう。」
先生、マビカを励まし、生臭賢者に声を掛ける。
「頼むぞ、エアボウド。」
「任せてちょーだい。救護院のお姉さん方とも密接に! 協力して指導するから。」
「…やっぱり、お前は要らないかな…」
この、エロジジイ!
「ちゃんと、先のことを考えて目標があるのはいいことだ。」
先生に褒められて、マビカちょっと照れてる。
ちらっとキラすけを見ると…すっと目をそらしたね。
考えてないな、お前。
「み、未来の君臨のため…今は雌伏の時…」
なんかぶつぶつ言ってるな。
「ディスカム、お前にはこれを渡しておく。」
先生が渡したのは、ポシェット。俺が腰につけている奴と同じ。
中には護符ディスク。
雷神槌、炎縛鎖、閃光輝、氷雪虎、被甲身、基本セットだ。
そして生ディスク。
「あとはお前が自分で刻むんだ。」
そして特典スペシャルディスクが錆腐風。
本来は腐食・風・反応促進・範囲限定・作用時間限定の5つの魔法陣を必要とする複合魔法。
普通なら1枚のディスクには収まらない。
俺が顕微鏡モードと超微細加工技術、米粒に般若心経書く人的な技術を使って彫り込んだ。
「自分と、マビ、キラを守れ! いいな。」
「はい! 先生。」
ディスカム、俺の方見て
「しかし、これは…凄いです…、アイザックさんが作ってくれたんですね、ありがとうございます。」
「イイエ・エルディー・センセイノ・ゴキョウジュ・アレバコソ・デス」
みんな、ビミョーな顔、エアボウド導師以外。
「しかし、すげえな、この魔道機。こんな細かい作業が出来るのか。」
実は魔道機演技、いまだ続行中…
完全に止め時を失った、とも言う…
最初のうちはいつバラしてエアボウド導師を笑ってやろうかと、楽しみにしていた先生。
ちょっと引っ張り過ぎて言い出しにくくなった。
周りのヒトも共犯者みたいになってしまったので、気まずい。
みんなが生暖かい目で生臭賢者を見守る感じに。
そして俺はメンドくさい、このしゃべりかた!
誰も得をしない状況。つらい。
なんとかしてよ、先生!
女騎士クラリオと一緒に来た二人の騎士はカロツェ家の隊商と一緒に王都にもどった。
おやっさんから工房製の剣をプレゼントされて感激。
「こ、こんな高級品を…」
「今までの剣より何倍もいいやつですよ。」
大丈夫か? 王軍騎士。給料安い?
バッソ家にイオニアさん、エアボウド大導師からの手紙を届ける。
そのあとはカロツェ家の保護下に入るようタモン兄貴が指示。
迂闊にモアブ伯に近づくと証拠隠滅に処分されちゃう恐れがあるから。
「上層部へ報告がある場合は、バッソ候夫人か、その父エリクソン伯を通じて行なえ。」
「エリクソン伯なら無道はせんはずだ。」
二人が出発した後、一人残った女騎士。
主に工房あたりをウロウロして過ごしてた。
タモン兄貴を探してるらしい。
俺たちと一緒に出かけるとしばらく会えないから。
そんなとこふらふらしてるとダット姐さんに見つかるぞ。
実は、俺が女騎士の剣技をほめた事でひと悶着あった。
アイワさんがその事を聞きつけた。
「アイワさんに匹敵する」とか言っちゃったせいで、もわっとしたらしい。
女騎士をつかまえて試合を申し込んだ。
意外と血の気が多い。
工房の中庭で対決、超絶秘技をつくした戦いになった。
あまりのハイレベルに兄貴始め見物人一同、絶句。
これ以上はヤバい、という所まで言って兄貴が止めた。引き分け。
ちなみに俺は見ていない。俺も呼んでよね。
まあ、そのあと二人は意気投合したらしい。
そろってお風呂に入ったと。
…決着はそこでついたわけだな。
隠れ巨乳さらし剣士とアスリートパイ騎士では勝敗は明らか。
せつない! 負け犬女騎士。
まとめた荷物をカロツェ家へ運ぶ。
今日の内に馬車に積み込んでおく。
ピクニックや夕食会のときとは違う簡素な馬車。
実用性重視、途中、獣機の活動エリアを通過する。
「ぶっ飛ばしますよお!」
アトラックさん気合が入ってる。
俺が来てると聞いてお嬢様が出てきた。
「アイザックさん、いよいよ明日出発ですのね。」
「はい、アトラックさんと馬車をお借りします。」
「先生とお姉さまのこと、よろしくお願いします。」
お嬢様が頭を下げる。緊張する、畏れ多い。
「必ずお守りします。この身に代えましても…」
「…でも、アイザックさんもご無事で…」
う、お嬢様の心遣い、ありがたい。
「しっ?」
イオニアさんの後ろから顔出した。デイシーシー。
居たのかよ!? 工房はどうしたんだよ?
「あちし、今日は休みっし。」
「ふふ、みんなでお茶にしましょう。アイザックさんも…」
「いえ、私には休憩は必要ありませんので。」
「でも、少しならよろしいでしょう?」
お嬢様、ちょこっと小首をかしげておねだり。
うーん、カワイイ。
「お姉さまと何があったかもくわしく!お聞きしたいですし…」
う!
「うっ、しっ、しっ。」
後ろで邪悪っぽい笑みを浮かべるシーシー。
お前がたきつけたんだな!
小一時間くらいお嬢様の尋問を受けた。
「その…『凄いマッサージ』私も…ぜひ…」
うわああー!
帰ってから、帰ってから検討します!
報復としてシーシーの悪行(男湯のぞき)をバラす。
「あー、それ。言っちゃだめっし!」
「自業自得ですよ。」
「ほほう?」
食いついたね、お嬢様。
「ほほう、にゃ?」
「どのへんまで見えたのかにゃ!?」
スカジィちゃんも食いついた。
「え? ベータ君も?」
「ハイエートさんも入ってたんですか?」
おっと、サジーさんまで食いついたぞ。
話題がそっちへ移ったところでお暇しますね。
帰りがけ、庭に出ると…ん? なんだあれ?
小屋? 倉庫? 妙に小さいな。
一坪くらいで高さ1.5メートルくらい、赤い屋根のメルヘンチックなミニチュア小屋?
この前、こんなのあったっけ?
ひょこっとケルベロ1号が顔を出した。先日からすでに配備済み。
犬小屋かあー。
工房へ立ち寄る。
「あ、アイザックさぁーん!」
俺を見かけたタンケイちゃんが駆け寄ってきた。
タンケイちゃん、走るの下手。上体がぶれぶれ。
体幹を鍛えれば…無理だな。パワーの問題じゃない。
重量バランス。出っ張るところが出っ張りすぎ。
遠心力に振り回されてる感じ。
走る! 揺れる! 振り回す!
その後から職人衆も駆けて来た。
こっちは別にうれしくない。視覚的にも。感情的にも。
新兵器を渡された。アレやコレに獣機の部品を組み合わせて作った。
アイデアはおやっさんだが、職人衆みんなで作ったとのこと。
ありがたい。これ、きっと役に立つやつですわ!
「ありがとうございます。大事に使います。」
「ひと月も留守なんて…さびしいっす。」
タンケイちゃんにそんなこと言われると、うれし寂しい。
すぐ帰ってきますよ。
「北の遺跡の改造はうちらで仕上げるっす。」
お願いします。
「凄いのにするぞー!!」
「おおーーー!」
お手柔らかに、職人衆。




