女騎士がクサイよ
先生んちに帰宅。
ついて来た女騎士。
ついてくんな、とか言うとまた斬りかかって来る様な気がするので言えなかった。
どーすんの? このヒト。
なんでついてくるの? …行くところがないのか?
「おお、帰ったか、アイザック。どーだった? マビは。」
家には先生とベータ君、勉強中。
「本当に腹痛でした。」
「あちゃー…」
頭を抱える。
「もしかして…食いすぎ?」
「はい。イーディさんの見立てでは。」
「うーん、いっぱい食べてたもんなー、おかわりしてたし…」
で、女騎士を見て、
「で、そいつは?」
「まあ、ちょっとした行き違いから剣の手合わせをする羽目になりまして…」
欲求不満女騎士の醜態は省いて状況を説明。
魔道機演技も中断しちゃったですよ。
「まあ、いいだろう。タモン殿の知り合いなら隠し事も何だしな。」
「クラリオと言ったか? わたしはエルディー、しがない田舎魔道士だ。」
「ははは、はい! 七英雄、エルディー大導師にお目にかかれるとは、こ、光栄であります!」
「それはやめてくれ。昔話だし、もう忘れられた話だと思ってたが…」
「ぐ、軍属では英雄譚好きも多く…当時の話が伝わっております。」
「うーん…かなり尾ひれがついてるようだな…」
「だが、お前…」
顔をしかめる先生。
「臭いぞ!」
遠慮なし!
「なあ、ベータ。」
ベータ君に振る。
口には出さないものの、疑う余地もない嫌悪の表情。
うろたえる! 悪臭女騎士!
よりによって、金髪ふわふわ性別超越美少年エルフからの冷たい視線。
「えええ? ひええ! くくく、臭い? ですか?」
自分の身体をクンクンするが、すでに鼻が馬鹿になってるね。
「ちょうどいい、工房へ行くか…食事にして風呂へ…」
「風呂が先だな。」
「お風呂と言うのは…公衆浴場でしょうか…」
どうした羞恥悪臭女騎士?
「いえ、その…ちょっとあの…人前では…先にちょっと…」
ああ、ボーボーね。女の人は大変だね。
「仕方ないな…」
ナイフとタオルを借りて、桶を持って浴室へ。
お湯は俺が出した。ロボキュート。
「おお? 直接お湯が? 便利だなそれ!」
先生が感心してくれた。
ベータ君は
「ぼ、僕は先にいってますー。」
恥ずかしがって逃亡。真っ赤。
新たなプレイの扉が開くかも、そりそり。
浴室内でぞりぞり、剃毛女騎士。
「あ、あれ? これ、ソープの木の樹液?」
「こんな高級品が…」
何か言ってるな。先生が声をかける。
「この辺じゃ普通だ。遠慮せず使え。」
うーん、想像せずにはいられない。
横とか下とか、ゾリゾリ。前とか後ろとか…
後ろ? 後ろもアレなんだろうか? アナ…穴の周りも?
安全カミソリじゃないしな。ナイフで剃るのはあぶないだろう。
言ってくれれば俺が手伝ったのに、菊花、つるつる。
この辺でナビ君からツッコミが…分離しちゃったんで入らない。
寂しい。
そして前はどの程度処理したんだろうか?
はみ毛防止程度でフサフサ維持なんだろうか?
少しだけ残したんだろうか?
全つるつるだろうか?
すごく、気になる! すごく!!
さて、工房のお風呂に向かう。
最低限のお手入れをして、心が軽くなったのだろうか?
脇つる女騎士の足取り軽い。だが、それを許さないのが先生。
「もっと離れろ、風下にまわれ!」
ひどい! 心無い言葉が刺さる。
ま、服の匂いまで取れるわけじゃないしね。
ほーら、また暗くなっちゃったよ。
おっと、風向きが変わった。あわてて風上へ位置を変える先生、と俺。
「ダットから着替えを借りてくる。お前はそいつに入り方教えとけ。」
先に服飾工房へ向かう先生。
俺はクラリオ騎士を連れて浴場の待合室へ。
湯上り犬系獣人の女の子があわてて立ち去った。
尻尾がふわふわだった。
うん、犬系のヒトにはきついよね、臭覚的に。
ますます暗くなる暗黒女騎士。
番台には…おっと、タンケイちゃん! お当番ですか?
「あ、アイザックさーん。」
「タンケイさん、すいません。こちらの方、浴場は初めてなので…お願いします。」
「えーと? 外から来たヒトっすか?」
「タモンさんのお知り合いの方です。」
「そっすかー、うわ! こりゃ大変すね!」
うん、臭い!
「さーさー、早く入ってきれいにするっす!」
くさくさ女騎士にも笑顔のタンケイちゃん、やさしいなあ。
「着替えは先生が持ってきますので…」
「わかったっす!」
脱衣場に案内する。もう俺からは見えない。声は聞こえるけどね。
何か…こう…壁の向こうも見えるようなセンサーってないかな…
どう? 新ナビ?
『……』
愛想が無い!
「脱いだのはこっちのカゴに…」
発酵食品系熟れ寿司女騎士もタンケイちゃんの優しさに癒されてくれ。
「王都の方なんすか? タオルは王都銅貨2枚、洗髪用ソープは銅貨2枚追加っす。」
うん、商売。
先生ももどってきてお風呂に、やれやれ。
二人が上がるまで待合室で待つ。
うん? お風呂に来たのかな。
ちょっと年上の方のお姉さんがた、エルフさんとかドワーフさんとかがこっちを見てる。
「例のすごいマッサージ…」とか言う単語が聞きとれた。
なんかおかしな方向で有名になってる? 俺?
ムダ毛処理に続き、お風呂に入って着替えた女騎士。
クラリオ・デオドラント。
精神衛生的にも衛生的にも落ち着いた。
髪もサラサラ、おかっぱ風。黒髪。
ああ、そういう髪型だったのね…
さっきまではペッタリしてたのでわかんなかったよ。ペタベッタリ。
お嬢様騎士のイメージと言えばロングヘアとか縦ロールとか…
やっぱ無理だよね、軍人としては。
服も洗濯したての清潔シャツ。
…残念ながらたゆたゆ感はない。
ベータ君も合流、ゆあがり、ほんのり、桜色。
食堂に移動、工房が終業して混み出す前に食べちゃおうってことに。
「おまえ、タモン殿と一緒に獣機討伐に来ていたんだよな?」
うなづく女騎士。
「獣機がどっちから来てるか知ってるか?」
「はい、斥候部隊として活動していましたので、だいたいの方角は掴んだのですが…」
「街道を外れた土地に踏み込むには戦力が足りませんし…」
「そうこうしてるうちに撤退命令が出て、後は集落の避難援護でてんやわんやでしたし…」
「ほう、直接、現場の前線に居たのか?」
「はい。」
「ふむ…街道までなら、知ってるわけだな。」
「アイザック、この女、腕前はどうだった?」
突然、先生が聞いてくる。
「対人戦闘ではアイワさんに匹敵するかと考えます。」
「ほほう、大したもんだな。」
「直接、獣機と戦ったことはあるのか?」
「はい、倒せたのは10匹くらいですが…」
ちょ?
「倒したあ? 10匹ぃ? どうやって?」
「ええ、こう、何と言うか。装甲の隙間に剣を突っ込むと言いますか…」
「1匹につき1、2本、剣がダメになるので何ともやり切れなかったです、懐具合が…」
思わず先生と顔を見合わせる。
戦闘特化型ポンコツ騎士?
そう言えばタモン兄貴のセリフ…
「部隊を分けるとコイツのいる方だけ敵と遭遇。」って…
それでも生き残って来たってことだよね!?
やべ! あのまま戦ってたら俺も突っ込まれてたかも!
そして、食べるぞ飢餓系腹ペコ女騎士。
もりもり、食べる。おかわり! 腹具合はともかく懐具合は大丈夫なのか?
てな会話?をしていると、兄貴とエアボウド導師が連れだってやって来た。
クラリオの耳元で先生が
「アイザックがしゃべれること、エアボウドには黙っとけ。」
「え? ご友人なのでは?」
「もう少し長くだましといたほうが…」
「バラしたときの反応が面白くなる、きっと。」
ひどい。人が悪いぞ、先生。俺も見てみたい。
「おお、クラリオ。大丈夫か?」
兄貴が女騎士に声をかける。
「は、はい。昨日はお見苦しいところをお見せしました。」
お見苦しい所を見たのは主に俺ですがね。
「おーう、エルディー。魔道機くん。」
「コンバンハ・エアボウド・ドウシ」
「ワタシノ・コトハ・アイザック・ト・オヨビ・クダサイ」
「おおー、会話能力も大したもんだなあ。」
先生、笑いをこらえてぷるぷるしてる。
「あ、居た居た。」
デイエートと兄エルフもやって来た。
「出発も近いとなれば、いろいろ相談する事も有るかと思いまして。」
電話もないこの世界では、集合をかけるのもひと苦労。
用事がありそうなメンバーはなるべく同じ場所に毎日たむろする必要がある。
ファンタジー定番の冒険者ギルドとか酒場とかは、なるほど必然だったわけだ。
そして、ベータ君の隣に座る。
「あれ? ベータ君、先お風呂入っちゃったの?」
「ええ、今日は早めに。」
がっかりしてる、お兄ちゃん。
「おっと、お揃いですね。」
やって来たのは犬系獣人戦士アトラックさん。
「支店長からエルディー導師んとこ顔出しするように言われて…」
「さすがだな、ビクターさんは。相談しに行こうと思ってたんだ。」
相談したいのは馬車の利用。
期間が限られる以上、とにかく移動時間を短縮したい。
街道に沿って移動できるところは馬車を使う。
カロツェ家からアトラックさんと馬車を借りて突っ走る。
行きは俺やハイエートが居るので問題ない。
だがアトラックさんだけで獣機の行動圏内を帰るのは危険。
女騎士を行きの案内役、兼、馬車の帰りの護衛として借りたい。
タモン兄貴が困ったように首をかしげる。
「いや、俺に相談されても…もう、上役じゃないしなあ。」
「どうだ?」
本人に振る。ぐぐっと乗り気の女騎士。
「やります! タモン様のお役に立てるのであらば!」
「さ、様?」
腰が引けてる兄貴。
「まあ、お前がやる気ならありがたいが…」
探索行序盤の行動計画は決まった。
まず、直近の基地局、骸骨塔の破壊。
そして街道沿いに馬車で進んだ後、女騎士の情報に従って獣機本拠地を目指す。
「その後は成り行き任せですかね。」
お兄ちゃんエルフ、気負いも緊張もない様子。




