女騎士が荒ぶるよ
帰り道、宿屋をのぞいてみたが女騎士はいなかった。
出かけてるみたいだ。
兄貴を探しに行ったんだろうか?
行き違いになったのかもしれない。
ま、その方がいい。正直、関わりあいたくない。
絶対面倒なことになる、絶対残念運命女騎士。
ほっとして、家路につく。と?
居ますやん、女騎士。
俺の後をつけて来る。本人は隠れてるつもり。
だが、俺の360度視界はごまかしようがない。
なぜ俺を? 単なる好奇心?
いや、王国騎士として調査する必要性を感じたのかもしれない。
このまま、先生の家まで連れて行っていいものだろうか?
街の門を出て、壁の外へ。
もう、身を隠す所はないですけど?
その辺で拾った木の枝とか草の葉っぱとかで身を隠して(いるつもり)尾行続行。
いや、無理ですやん、全然無理。
このヒトが王軍騎士? ちょっとなあ…王軍のレベルが心配。
待てよ? 精神魔法をかけられた刺客が白状してたな…
「騎士は始末してかまわない」って。
あれ? 始末しても惜しくない人材? ポンコツ?
埋め立て粗大ゴミ女騎士? リサイクルも不可?
あまりに痛々しいので、声をかけることにした。
「ナニカ・ゴヨウ・デスカ? クラリオ・キシ。」
びくっとして立ち止まる。
「ききき、貴様。個人を識別しているのか?」
「ナマエ・ハ・キオク・シテ・オリマス。」
「キ、記憶! やっぱり昨日のことも憶えているんだな!」
…いかんな、いやな流れになっているぞ。
こいつ、酔ってた時の記憶あるタイプか…
お気の毒、どこまで不幸体質なんだ? このヒト。
「みみみ、見たな?」
え? おヌードですか? そりゃあ見ましたけど?
ゲ○まみれの服、脱がしましたから…
いや、おぼえてるんならむしろ感謝して欲しいんですけど?
ご自慢の腹筋だけじゃなく、ちょっと寂しいお胸とかも見ましたけど?
そりゃ、手入れをサボってボーボーとかも見ましたけど?
「ききき、聞いたな!?」
え、何を…? あー、あの一人演習ですか?
タモン将軍の指揮のもと突貫を繰り返すって言うか…
突貫されまくるのを妄想して盛り上がっていたのは聞きましたけど?
「うあああーーー!」
抜いた! 抜刀! そういや、この人の剣は鞘に入っていて無事だったっけ。
剣を振りかざして襲いかかって来た!
ちょっ! なにしますのん!? このヒト!
うわ! 鋭い斬りこみ! 高速思考を発動してかろうじてかわす。
こ、このヒト。アイワさんに勝るとも劣らぬ剣速だぞ。
「お前を殺して、私も死…私は生きる!!」
自分勝手だな。エゴイスト騎士。
いろいろテンパッてる。
だが、俺もおとなしく殺されるわけには行かない。
まあ、そもそも俺が「生きて」いるかは微妙なとこだが。
でも、剣じゃ俺を殺せない。昨日の俺の戦いを見てればわかるだろうに…
…あれ? 昨日って…棺桶ぶち破って驚かした以外…俺、何にもしてねえ!
ちょこっとビーム発射しただけ。やったのは兄貴、アイワさん、ビクターさん。
あちゃ! たぶん女騎士、ビームの事は理解してない。
俺のことは、ただの便利な片言魔道機くらいにしか思ってないかも。
だが、いい機会だ。
おやっさんから貰ったばかりの剣。
先生に魔法強化してもらうために持ち帰る途中。
試させてもらうぞ、女騎士。
俺も剣を抜いた。
先生の家や北遺跡は街からちょっと上がった丘の上にある。
上り坂。俺を追跡してきた女騎士は坂の下方向。
振りかぶって下から上段で攻めてきたのは冷静さを欠いてるのでは?
と思ったら、俺が剣を抜いた途端、雰囲気が変わった。
羞恥に顔を赤くして、泡を吹かんばかりだったのに、一瞬で表情が消えた。
コイツ? ただのポンコツじゃない?
脚を払ってきた! 飛び退ってかわす。
いかん、集団戦では坂の上が有利と言う話はよく聞くが…
だが、一対一。剣の戦いではむしろ不利?
ガードがしづらい! こっちの剣は遠く、相手の剣は近い。
兄貴やアイワさんから剣を習ったのは平らな中庭。
地形とかまったく想定して無かった。しょせん初心者!
無表情のまま次々と剣を繰り出す女騎士。
高速思考と反応速度でかろうじてかわす。
型とか、先読みとか無理! いい機会とか思ってゴメン!
むしろ、こっちが攻めないことでかろうじて持ちこたえている。
こちらから手を出したら、その瞬間先読みされて決められる。
一瞬、斬撃が途絶える。女騎士が息をついた。
今だ! と、と、思いとどまる。誘いだ!
高速思考していたから気付けた。
脊椎反射で攻撃に移っていたら「型」にはめられていただろう。
位置を変えたい、が、女騎士はそれを許さない。
呼吸を読む?
俺の知覚能力でなら可能だが、読んだ所で仕掛けどころがわかるわけじゃない。
知識も経験も足りなすぎる。
だが、この女騎士…
あれだけポンコツだったのに剣の勝負になった途端、別人になった。
まったく無表情。何を考えているのか、どこを見ているのかすらわからない。
…どこを見ている? よし、あれやってみるか。
魔法センサーをかねて、常時点灯しているダミーアイを部分消灯。黒目を作る。
ぱっちりお目目、つぶらな瞳はアイワさん、ミニイたんに大受けだった。
だが、今回は黒目を絞り込む。三白眼、真ゲ○ターロボ!
さらに肩を動かす、装甲板をスライドさせて胸と腹を膨らませる。
まるで呼吸しているように。
本来俺は、表情はもちろん視線も呼吸もない。
人間相手の戦闘に慣れた剣士にはやりにくい相手だったはず。
こちらの仕掛けるタイミングが読めないからだ。
女騎士の絶え間ない打ち込みは攻めではなく防御か?
そして、誘導したタイミングで攻撃を誘い、そこから真の攻撃に移ろうとした。
達人は相手に打ち込ませて、なお先手を取ると言う。
後の先! それはスピードの話じゃなかった。
こちらが打ち込む仕掛けのタイミングそのものが達人によってコントロールされていたんだ!
厳然たるレベルの差。
剣術を試すとか、真っ向勝負とか無理の無理。思い上がりもはなはだしい。
魔道機機能をフル活用。卑怯上等! 謀リ事多キハ勝ツ!
偽の視線、呼吸。嘘の情報を与えることで混乱を誘う。
人間なら、視線も呼吸も偽るには限界がある。
だが、俺の場合は最初っから全部嘘なので、実際の攻撃と呼吸も視線もまったく無関係。
女騎士、明らかに戸惑いが見える。
まるっきり無視すればいいわけだが、熟練の戦士だけに逆に難しい。
ここ! 攻撃に転じる!
あえて、コンビネーションとかは考えず、単発の打ち込み。
力任せの横なぎ!
あ、いけね。力いっぱい振ったら折れるって言われてた。
幸い、女騎士は後方へ下がって回避。刀身はぶつからずにすんだ。
間合いが取れた。
互いに構えを取って対峙する。
ここで、女騎士は重大なカン違い。
俺のことを「それなりの剣士」と思い込んだようだ。
さかんに体重移動や剣先、視線とかフェイントを織り交ぜてくる。
たぶん、織り交ぜてきてる。
でも、ど素人の俺にはそのフェイント自体が理解できないし反応できない。
高速思考、高速動作でとにかく動いた方向に反応するしかないのが現実。
これまた、フェイントの通じない達人と思い込んだ。
外見だけは泰然自若。実は反応できないだけなんだけどね。
この思い込みを利用させてもらおう。
ちょっと演出に凝る。
大きく肩を呼吸っぽく繰り返し動かす。ついでに呼吸音も出してみる、あれを!
「ほーばぁ、ほーばぁ、ほーばぁ…」
宇宙大戦争暗黒騎士っぽい呼吸音で緊張感を高める!
気付かれない程度に、徐々にボリュームを上げて行く。
そして停止! 不動のかまえ! 文字通り息詰まる緊迫!
…ちなみに女騎士が仕掛けてきたら、まいったするつもり。
降参降参!
「ま、参った!」
おっと、先に女騎士が参った。ふ、勝ったね。はったりで。
冷や汗だらだら、ま、汗はかかないんですけどね。
膝をつき、頭を下げる女騎士。
「申し訳有りません。魔道機どの、頭に血が上ってしまって…」
「いえ、頭を上げてください。」
「私こそ、昨晩は妙齢の美しい女性に対しあのような振る舞い、無神経が過ぎたと反省しております。」
「どうにも、人の機微のわからぬ魔道機ですので、どうかお許しください。」
頭を下げる。
「い、いえ、美しいだなんて…」
ちょろいぞ? コイツ? まあ、くっころ系だしな。
ここは褒めるとこだよな。
「しかし、お美しい上に、あの剣技。お見それいたしました。」
「い、いえ、魔道機どのこそ…」
「私はタモン将軍から手ほどきを受けておりましたので。」
「そ、そうでしたか! 将軍…タモン様から…」
タモン様と来やがったぞ。
「あれ? 魔道機どのは…普通にしゃべって?」
「申し訳有りません、あれは私の機能を隠すための演技でして…」
「タモン将軍の大切なご友人であるクラリオ様には、もう必要ないと判断しました。」
「大切な…?」
「今日お会いした時もクラリオ様のことをさかんに気遣っておられました。」
「そそそ、そうですかあー、う、ふっふふ。」
まったく、ちょろいな純情女騎士。
「あ、あのー、昨日の事は…内密に…」
「もちろんです。いささか鈍感な魔道機ではありますが…」
「乙女の純粋一途な想いを美しいと感じぬほどの朴念仁ではありません。」
うわあ、歯が浮く! 歯はないですけど。
ま、いい気分にさせとけば大丈夫だろ、こいつは。
…いや、何でついてきますのん? この人。
もう用事は無いんですけど?
俺、先生んとこへ帰るんですけど?
それと…あんたちょっと臭いんですけど?
タオルで拭いたくらいでは取り切れないリバースのスメル。
王都から旅してきた汗臭さとミックスでサワーな感じの臭いするんですけど?
さらに紫外線殺菌の効果もいまいちで、服からも部屋干し失敗な臭い。
あんた、生乾きで着たね? 倍率ドン! さらに倍。
はらたいらさんが300円(うろおぼえ)




