役割分担を決めるよ
カロツェ家に通行手形が届いているとのこと。
獣機探索の旅に出る前に、色々とやることがある。
先生は何やら資料を集めて書き物をしてる。
なるほど、留守中のマビキラの学習カリキュラムね。
教師役のイオニアさん、ベータ君に引き継ぎも必要。
必要品の買出しもしなくちゃいけない。
北遺跡の改修は留守中に進めてくれると言うことなので、打ち合わせも。
この辺は、タンケイちゃんと職人衆に丸投げでいいか…
暴走したりしないよね? おやっさんに見張ってもらわないと…
そして、俺には決めておかなくてはいけない重要なことがある。
ミネルヴァ、俺本体、ケルベロス1号、2号。あと飛行ユニット、偵察ドローンの役割分担だ。
北遺跡前に全員集合! なんでかキラすけとベータ君もいる。
ミネルヴァは例によってフードつきマント着用中。
「ミネルヴァ、現状を報告してください。」
頼むわ。どうもシステムが複雑すぎて俺にも良くわからない。
「はい、まず、ボクの意識は完全に鳥メカミネルヴァに移行しています。」
「アイザック本体内にはヘルプ機能のみ残存。」
え? マジ? なんとなくわかってたけど…
はっきり言われると寂しい。胸にぽっかり穴が開いたみたい。
て、ことはこの会話は通信によるもの?
『そうです、飛行ユニットや偵察ドローンと同じ通信原理を使用しています。』
『てことは、離れると通信できなくなるって事だよね。』
『はい。』
じゃあ、旅に出たらもうお話できないって事? 寂しい。
「ミネルヴァの首から下、将機ボディ内のプログラムは解析完了。」
「ケルベロスと通信可能、命令が出せます。」
ケルベロスと将機ボディの通信は電波。通信可能範囲は?
「この遺跡からでしたら、レガシの街内全域通信可能です。」
ここ、北遺跡はちょっと高くなってるもんな。
「では、ケルベロ1号はカロツェ家の警備に、2号は遺跡の警備に従事してください。」
アイアイサー! てな感じでヘッドアームで敬礼。
「飛行可能領域の関係で飛行ユニットはレガシに残します。」
「ミネルヴァでコントロールすることは?」
ミネルヴァが答える。
「自動モードで動かすことは可能ですが意識共有ほどの操縦は不可能でした。」
「高機動モード…雀竜と戦うとかは無理です。」
ふむ、
「飛行ユニットは北遺跡で待機。」
あとはタマちゃん、トンちゃんだな…
「ミネルヴァによる偵察ドローンの使用は可能ですか?」
「意識共有は不可能ですが、ほぼすべての機能が使用可能です。」
うーん、と、なると片方は残しておくか…
蜘蛛型ドローンタマちゃんを残そう。レガシの街中で水中モードが必要になる事はないだろう。
…ミネルヴァ、男湯、覗く?
『覗きません!』
だよねー。
水中行動可能トンボ型ドローントンちゃんは俺と同行。
タマちゃんをミネルヴァに渡す。
みんなを頼むよ、タマちゃん。
さて、旅の途中は獣機側のサービスエリア内に入る可能性が大きい。
と、いうか基地局を辿るんだからほぼ100%エリア内だろう。
途中獣機とも遭遇すること必至。
ケルベロたちを見てしまった後では、出来ることなら破壊せずに済ませたい。
初期化、再起動すれば味方にできるかも知れない。
そのためには、その方法を俺が習得する必要がある。
『解析は実際には本体の演算回路を使用していますから、すでに記録済みですよ。』
え? そうなの? apkフェイル、ダウンロード済み?
ぴろりーーーん!
うお!
『獣機初期化ツールをインストールしますか?』
おおう!
はい! だ。
『公式ストア以外のアプリのインストールを許可しますか?』
??? ちょ? 公式ストア? そんな設定初めて聞いたぞ?
そういえば、AED機能とか、マッサージ機能とか…どこからダウンロードしたんだ?
この機体? スタンドアローンで動作してるわけじゃないのか?
どこかのクラウド…サーバーとかと繋がってる?
獣機にとっての【上位存在】みたいなのがどこかに…
…ま、とりあえず「はい」
『獣機初期化ツールがインストールされました。』
よし。
アプリストアか…他にどんなアプリが…いや? ちょっと待って。
無料なの? それ? 課金? 後から請求されたりしない?
マネーロボ、カ・キーンとかイヤなんですけど!?
有線接続コネクタは…鉄蜘蛛のときと同一規格か、よし。
「ミネルヴァ、獣機の本拠について情報はありませんか?」
なるべく声に出して相談しないとね。ベータ君置き去りだし。
「獣機の位置情報は基本的に基地局に依存していて…」
「広範囲、全域的な情報を欠いています。」
マップがないってことか…
「さらに、GPSのような衛星計測システムは存在しないため、絶対座標の特定が出来ません。」
「獣機の中には天体観測によって現在位置特定のできる個体もあるようですが…」
「ボクもケルベロスも観測機器を内蔵していませんので…」
情報は無いってことか…
『慣性航法装置の記録を解析』
『地磁気センサーの記録を解析』
おっと、この事務的な感じ。最初の頃のナビ君。
俺本体に残ってるヘルプ機能か。
なるほど、位置情報を取得する方法はGPSだけじゃない。
スマホは基地局の位置からも習得する。
どの基地局の電波を受信しているかで大まかな位置を掴む。
複数の基地局と通信できればその位置関係からだいたいの座標がわかる。
そこから先はGPS衛星からの信号で正確な位置情報を取得するわけだ。
A-GPSってやつだ。位置計測にかかる時間を節約できる。
Wi-Fiアクセスポイントの情報から位置を割り出すこともある。
コレは全然当てにならないが。
ちなみに俺んちでやると全然別の県のとんでもない場所が表示された。
たぶん、俺んちのWi-Fiルータを作った工場の場所(笑)
これに対し車組み込み型カーナビには慣性センサーが搭載されている。
大雑把に言えば加速した、減速した、右に曲がった、左に曲がったと言う動きを検出する。
これによってトンネルなどの衛星の電波が届かない場所でも現在位置を推定する。
磁気センサーは要するに方位磁石。
慣性センサーのログと合わせれば、北へ何キロ、東へ何キロ進んだって言う記録が抽出できるはず。
獣機のサービスエリア外での帰還モードは、たぶんこれを使ってつかっているんじゃないだろうか?
『衝撃・破壊・停止によるデータの断裂が深刻』
ああ、ごめん…殴ったり叩きつけたりしたの…俺だ。
『1号、2号のデータを合成、検討、おおよその範囲を特定』
おお、それだけでもすごく助かる!
『データを提示します』
わかる! わかるぞ!
あっちの方から300キロくらい移動してきたわけだな!?
……うん、すごくいいかげん。
「あっちの方」「300キロくらい」
そもそも地図データがないから地名がわからない。
街道があるの? 山とかあるの? とかさっぱり。
王軍が把握していた情報を聞けばもっと詳しいことがわかるかも。
兄貴に聞いてみよう。
300キロ…意外と近い?
近くねえよ! 静岡から糸魚川くらいあるよ! フォッサマグナ!
日本列島横断だよ、遠いわ!!
ちなみに糸魚川-静岡構造線は正確には「フォッサマグナ」ではなく
「大きな溝の西の端」
歩くとなるとむっちゃ大変。
もっとも獣機は時速50㎞くらいで走ってたから…6時間くらいで来れる計算?
ひえ! 近いわ! 人間とマシンの感覚差ってすごい。
どうりで向う山にあんないっぱい送り込んでくるわけだよ。
ちゃんとした基地局作って、本気で攻撃してこられたらむっちゃヤバい!
旅の最初は直近の基地局を破壊するところから始めないと…
黙って見物してたキラすけ。
遺跡の入口前にベンチ代わりに転がしてある丸太に腰かけて、足ぶらぶらさせてた。
「出かけるの?」
「ええ、獣機の本拠地を探しに行きます。」
「エルディー先生も?」
「はい。」
「あの胸なしエルフも一緒か?」
「ええ、そうです。」
「ふーん…」
なんだよ?
家にもどると、先生の仕事も一段落したようだ。
獣機の本拠地に関する情報を伝えると…
「そりゃ、また、喜ぶべきかどうか…判断に迷う情報だな。」
「たどり着いたとして、その後どうする? 全部吹っ飛ばすんなら簡単だが…」
え? 簡単? 簡単なんですか…、先生的には?
「【上位存在】からの連絡や獣機本来の機能を見る限りでは…」
「人間を襲う行動は本意ではないと思われます。」
「到達した段階で交渉の余地があるのではないかと考えています。」
「そうだな…そうならいいが…最悪の場合は想定しておけよ。」
「はい。」
「先生…」
「ん?」
どした? キラすけ。
「我も行く!!」
ええ!? 何言い出すの?お前。
「我も一緒に行く!!」
いや、ちょっと無理だろう、体力的にも、能力…戦闘力的にも。
「ダメだ!」
先生、きっぱり!
「危険すぎる! ベータでさえ危険だと判断したくらいだぞ。」
ベータ君もなだめようとする。
「キララさん、無理を言っては…」
「我のダークゾーンがあれば、獣機のデンパを遮断して動きを止められる!」
「そうすれば初期化して味方にできる。」
「我は役に立つのだ!」
驚いた。キラすけは獣機のシステムをかなり正確に理解している。
てっきり、おばかさんだと思ってたのに。
先生も驚いている。
なるほど、確かに魅力的な提案だ。…だが…
「いや、ダメだ。危険すぎる。自分を守れる力がなければ連れては行けん。」
「それに、1日何十キロも歩くことになるんだぞ、無理だ。」
キラすけ、目にいっぱい涙ためて…
「先生と一緒に行く…」
「いきたい…」
…そうか、お前も…先生の事、大好きになったんだな。
そうだよな…
俺が背負って行けば…ガードすれば…
先生がキラすけを抱き寄せる。
「気持ちはうれしいが、やっぱり無理だ…」
「たった1ヶ月…ひと月でもどって来る。」
「だから今回はダメだ。…口惜しいか?」
「……うん、」
「だったら、力をつけろ。留守中はイオニアとベータが教えてくれる。」
「お前の魔力は強い、成長期の固有魔法持ちは固有魔法以外は使えないのが普通だ。」
「だが、お前は弱いながらも火球が使える。」
「これはすごい事なんだ。大人になって他の魔法が使えるようになれば、凄い魔法使いになれる。」
「今は体術や魔法理論を学んで、【その時】に備えるんだ。」
「わかったな。」
「うん」
涙、鼻水ぐじぐじだぞ、キラすけ。
ベータ君がハンカチ渡してあげた。
…遠慮なしに鼻水かむのは、どうかと思うぞ!?
そして返す。返すのかよ!
やさしく微笑む先生…
「帰ってきたら、テストするからな。」
「ふひいぃーーー?」




