暗殺者ですよ
「待て待てー!双方、剣を引け!」
おーっと、タモン兄貴。駆けつけてくれたのか?
え? イオニアさん? 来てくれたの?
ビクターさんと、おう! アイワさんも一緒だ。
でも服装は救護院用のまま、白衣っぽい制服。鬼人婦長。
となりの救護院から急いで来てくれたのね。
見た目、謎の女看護師、はっきり言ってコスプレナース。
日本刀持ってるのが、もう、コスプレ感満載!
え? ビクターさんもカタナ持ってるぞ!?
イオニアさん、全力疾走で息切れ。
タモン兄貴、先生と騎士たちの間に割り込んだ。
「剣を引けー! …あれ、剣は?」
兄貴、カッコ悪い。剣はもう先生が消しちゃったよ。
「おほん!」
咳払い、気を取り直す兄貴。
「静まれ! 静まれえー!」
あ、それ、やるのね。
騎士たちが驚きの声を上げる。
「ええ? あれ…ギャザズ将軍閣下?」
「何でこんな所に…」
兄貴の方が有名人なんじゃない?
「ここにおわすお方をどなたと心得る!」
「建国の英雄! ナビン勇王がご息女! イオニア様にあらせられるぞ!!」
どおおううぅーーーん!! じゃあーんじゃじゃじゃやん、じゃあーーーん!
響く! 日本人の魂に響くなあ。印籠は無いけどね。
でも、もう地上波じゃ再放送は難しいんだってさ。
…良識ある視聴者様から「パワハラ」だってクレームが来るから………
「ひかえおろーー!!」
「え? は、ははーっ!」
女騎士、二人の男騎士があわてて片膝つく!
いや、女騎士、ズボンが引っ掛かって脚開けない。
「ちょ! ちょっと待って…」
あわててずり上げる、かわいそう。
残りの平兵士も膝をついた…いや!
いきなり、3人が懐から小型の弩弓を取り出した!
うん、知ってた。平兵士の方がいい武器持ってる時点で疑ってた。
高速思考! ビーム発射!
トンちゃんタマちゃんからの映像で狙いをつけてるから棺桶の中から直接発射!
棺桶のフタをぶち抜いて照射、弦を切断。
急いでるので遠慮はしない。
指も一緒に切っちゃったとか。
こっちからだと影になってるから身体ごと打ち抜いちゃったとか。
その辺は勘弁してもらう。
くそ、俺からの角度だと射線上に女騎士がいて対応できないやつがいる。
残り一人の弩弓から矢が打ち出される! 当然毒くらい塗ってあるだろう。
プロジェクタービームで撃墜を…
お嬢様の手前で何かにぶつかって弾き返された。
防御魔法、被甲身!
…まあ、用心深いビクターさんがそんな迂闊なわけないもんな。
後で聞いたところでは、あらかじめ先生特製護符とイオニアさん自身の遅延詠唱魔法の二重がけ。
至近距離からのハイエートお兄ちゃんの矢でも防げるという代物。
だが、あきらめてない、こいつら。
剣やナイフを抜いた! おいおい、10人全員が暗殺者!?
くあ! 棺桶から飛び出す!
外から見た映像だと…棺桶をぶち破って出現する黒い怪物!
それが俺! ホラーかよ!
弩弓の攻撃にも毅然としていたお嬢様が、
「ひきゃっ!」
とか言って飛び退ってるんですけど…傷つく。乙女ハート!
ここで俺の新機能を紹介しておこう。
ダミーアイからの魔法光は魔法陣や魔法力を光らせる。
それを応用した機能。
ヒト族には感知できない弱い魔法光を照射して、反応をセンサー側で増幅キャッチ。
魔法センサーだ、常時起動中。
平兵士…に偽装した工作員のナイフに魔法処理を感知。
被甲身を貫くつもりか?
刺客たちが、飛び出した俺に気を取られた瞬間、兄貴の鉄棍、横殴り炸裂!
3人が巻き込まれ吹っ飛ばされた。
相手がどうなったか、ちょっとひと口では言えない。
あちこち曲がって複雑な感じになった。
のちに、治癒魔法では先生以上と言うイーディさんが
「治療? ムリ言わない。」
と言うくらいな感じになりました。
アイワさんにやられた2人の方が、まだ原型は残っている。
組み立て前のプラモデルみたいな感じになったけどね。
部品が混じっちゃったから、後がちょっと大変かも…
まあ、組み立てたりはしないけど…
そしてビクターさんも日本刀の使い手だった!
お嬢様に向かって突進する工作員の前に立ちはだかる。
こっちは無駄は一切なし。一刀両断。
いや、両断はされてない。アジの開き。
まだ、生きてるやつもいる。俺が貫通しちゃった奴。
お? 倒れたまま、ストローみたいなのを取り出して…
吹き矢か!
ビーム発射! 頬っぺたを打ち抜く。
筒に息を吹き込もうとするけど、ほっぺに穴が開いてるから空気が漏れる。
筒先からぽとり、と矢(たぶん毒矢)が落ちた。
残念でしたね。
ずいぶん頑張るな? こいつら?
残りにはエアボウド大導師が放った魔法矢的な魔法が炸裂。
動けなくなった所へアイワさんがトドメ。
あっと言う間に制圧完了。
余りの事態に愕然としている騎士たち。
「な、なんだ? 何が…こいつら、イオニア様を…」
「何コレ? 魔道機? こんな、人間型??」
「お前らの部下じゃないのか?」
今回は出遅れた先生。手を出す暇がなかった。
「自家の配下の同行を禁止されたのは変だと思ってはいましたが…」
「まさか、こんな…」
がっくり膝をつく騎士たち。立ち尽くす女騎士。
女騎士…正直もう騎士には見えない恰好だな。
えーっとね、前がね…パンツがね…隠した方がいいよ。
「なんだー? 王都から来たのっておまえだったのか?」
タモン兄貴が女騎士に近づいた。
「久しぶりだな、クラリオ。」
おっと、兄貴、知り合い?
「ぎゃ、ギャザズ将軍んー!」
前ぱーぱー、ズボンずり下がり女騎士が涙目。
彼女のカッコを上から下へ眺める。
「相変わらずだなあ、お前。」
ええー? あいかわらず???
「あ? ええっ!」
真っ赤になってしゃがみこんだ。
あわててマントを掛ける男騎士。
「さーてと、見苦しいものを見せたな、イオニア。」
え? ああ、女騎士のカッコじゃなくて、暗殺者退治のことね。
先生がゆっくりと前に出る。
「いえ、覚悟はしていましたので…」
顔青い、お嬢様。
「キララさんたちは?」
「大丈夫だ、保護してる。」
「よく、駆けつけてくれたな。」
抱き寄せる、先生。
そうだよね、こんなシーン、見せたくなかったよね。
抑えつけられてる生き残りに近づく先生。
まあ、抑えつけてるのは俺、正確には踏んづけてるわけですが。
3人の騎士に振り向く。
「さっき、精神魔法の話をしたな。」
「本当に使われたらどうなるか見せてやる。」
暗殺者の額に手を触れる。俺の方を見上げて、
「憶えられても困る、お前は見るな。」
お、う? 了解。視覚センサーにマスキング。部分ぼかしを行う。
小型、超小型の魔法陣が多数発生。頭部をぐるりと取り囲む。
魔法符でも詠唱でもない。記憶からの起動。
秘法か…、それだけヤバいものか。
でも、そんないっぱいの魔法陣を同時起動。
いくら俺でも見ただけで学習は無理だと思うけどなあ。
『すべて話せ』
「は、あ、あ?」
「…こ、今回の任務は二人の令嬢の確保、欺瞞情報隠蔽のためエルフハーフは確実に殺すこと、逮捕時に抗ったためと偽装すること、令嬢は生きていれば多少の損傷は可、随行騎士は支障があれば処分してかまわない、もしイオニア・カロツェと遭遇した場合、可能と判断すれば暗殺を優先、前項の任務は放棄してかまわない、南方都市の商人アライを殺害、モアブ泊密貿易の証拠隠蔽のため、事故に見せかけるよう指示…」
ああー洗いざらいかあー、眼球がぐるぐる回転、気持ち悪い。
「なるほど、兵士でなく専門職か。どうりでしつこいわけだ。」
「こんな感じだな。」
顔真っ青、騎士たち。
「い、今聞き捨てならないことを…」
「証拠にはならんよ。精神魔法の支配下だからな。」
まだしゃべってるよ。
「…初めての殺しは○○歳の時、相手は他国の間諜、名前は不明…」
「初めての○ナニーは○○歳、オカズは王宮正門の女神のレリーフ…」
そろそろ止めてあげて、先生!
生きてるやつ…2人しかいないけど…は軽く治療して救護院…の地下にある土牢にぶち込む。
え? そんなのあったの? あ、何年も使ってない。
そうだよね、犯罪者なんてそうそういないよね、この街。
…そうじゃなくて、生きて捕まったやつは久しぶり? そうですか。
さて、いろいろお話をしないとね。
組合長のお店の応接室な感じの部屋に移動。
「お前たちは今回の任務…額面通りだと思っていたわけだな。」
兄貴に対し必死にうなづく騎士たち。
「か、閣下はなぜここに…」
「もう、将軍じゃない。今はこの町の警備担当だ。」
唖然、女騎士。
「イオニア様、お久しぶりでございます。」
「エアボウド導師も、お元気そうで。」
「しかし、お美しくなられましたなあ…なんとも、こう…」
知り合いか、お嬢様。
生臭賢者、ただの挨拶には聞こえない。本音まじってる。
ボディラインをなぞるような手つきがいやらしい。
「お前はどうなんだ? 事情、知ってるのか?」
先生がエアボウド導師に尋ねる。気安い。
昔、パーティ組んだって言ってたな。
「そりゃま、伊達に一緒に来たわけじゃないからね。いろいろとな。」
「それより、何なのコレ!? こっち先、説明してよ!!」
コレって? あ、俺か。うん、始めてみる人は驚くよね。
「魔道機だよ。」
先生、説明簡単すぎ。
「いやいや、魔道機ってこんなの見たことない…まさか? 神代魔道機?」
「そうだ。すごいだろ。」
自慢げ、先生。
「こりゃ、すごいよ! うおおおー、すげー!」
大賢者で大導師、王立学園元学長のおじいちゃん、子供っぽい。
俺の周りぐるぐる回りながら、ぺたぺた触ってくる。
…やめてもらえませんかね。
正直気持ち悪い。ジジイ! 座ってろ!
王都関係者だし…他にも騎士とかいるから、先生の許可が出るまでしゃべらないことにする。
「そういや、当事者の…エルフハーフや、ご令嬢たちはどうした?」
「彼らにもいっしょに説明した方がいいんじゃないかね?」
先生が渋い顔。
「まだ、子供だぞ。」
「そんなこと言ってられんだろ、たとえ子供でも自分のことは知っておくべきだ。」
おっと、急に学長の顔になった。
そんなこんなで遺跡から3人を連れて来ることに。
もちろん迎えに行くのは俺。
先生が指示を出した。
「三人を連れてきてくれ。」
一応、例の魔道機演技でいこう。
「ハ・イ・ワカリ・マシタ」
片言返事、言葉に合わせて目をピカピカ。
お嬢様が吹き出した。ぷーー! 突っ伏して顔を覆う。
受けた受けた。気分晴れたかな。
ビクターさんも必死に笑いこらえてる。
初めて見る人たちは硬直!
頭ん中が?????な感じ。
エアボウド導師は感心しきり。
「お使いも出来るのか、すごいな。口頭で命令できるとは…信じられん。」
3人を連れて葬儀屋にもどる、ベータ君もついて来た。
と…ハイエート兄妹が来てた。
駆けつけてくれたんだな、有り難い。
お茶飲んでお菓子食べてましたがね。
「また出遅れましたよ…」
活躍し損ねたからって、残念そうな顔しないの、お兄ちゃん。
デイエートが来てくれたのはよかった。
お嬢様のとなりに座って手を握ってくれている。
「お菓子…我らの分…」
やめなさい、キラすけ。お行儀悪い。
ディスカムを見た女騎士、驚く。
「子供じゃないですか!」
「成長中はエルフも人間も変わらんからな。見たとおりの年齢だ。」
子供扱いされて複雑な顔するディスカム。男の子だね。
それでもエアボウド導師を紹介されると感激しきり。
「お会いできて光栄です大導師!」
「ど、どーも?」マビ
「ちわす!」キラ
前学長とか興味ないよな、こいつら。
そして大導師の方は、マビキラを見て…
「子供じゃん!! ご令嬢って言うから…てっきり…もっと…もっと…」
がっくり膝をついたぞ(OTZ)エロジジイ!
生臭賢者エアボウド導師は王都の事情を話してくれた。
「まあ、ナビンが死んでから、王都で至上主義派閥が威張るようになった。」
兄貴もうんうん、とうなづく。
「で、他種族に好意的な、いわゆる融和派を排除にかかった。」
「定年制なんてものを作られて、俺も学園をクビ!」
「その上、何やかやと屁理屈を付けやがって、退職金も年金も半額!」
そりゃひどい。
「あいつら、ぜってえ許さねえ!」
「OBだってのに部外者は学園に立入禁止とか言われた。」
「ちょっと女子学生眺めに行っただけなのに!」
うんうん、気持ちはわかるけど、脱線してるよね。
「おほん!」
軌道修正。
「ベガはそもそも母親が夢魔族だから、至上主義者にとっては目の上のたんこぶだ。」
「一番遠い港湾都市に赴任させて追い払った。」
ベガ…現バッソ侯、キラすけのお父さんか。
エルディー先生が疑問。
「しかし、政敵に自治権なんか与えたらかえってまずいだろうにな。」
「虎に翼を付けて野に放つようなもんだ。」
生臭導師が意気込んだ。
「そう、そこよ!」
「自治権を持つ公爵や侯爵は忠誠を誓うために王都に証人を置いてる。」
「正妻と嫡子は王都に駐留させることになっているんだ。」
江戸時代の人質政策かよ。どこの国でも考えることは同じだな。
「ところが、ベガの正妻の父親ってのが至上主義派閥の大物でな。」
「その娘や孫には手が出せねえ。」
「なるほど、人質として使えないってわけか。」
「そうよ。そこで目をつけたのが…」
思わずみんな、キララの方を見る。
「妾の子、その娘ってわけだ。」
胸糞悪い! 貴族ども!!
先生も不快感あらわに腕組み。
「キララを確保しようとしたって事は…近々ベガに何か仕掛けるつもりなのか?」
「おそらく、な。」
「そっちの娘のエスブイ家のほうも…」
こんどはマビカの方を向く。
「港湾候の重臣だからな、人質として使えるってわけだ。」
ディスカムが怒りをあらわにする。
「そんな、ことで、二人を……」
「そう言うお前さんだって利用されたんだぜ。」
「僕が?」
「証人は正妻と嫡子って決まってる。末娘が家出したからって王軍が出張る理由はない。」
「協定外の人質をとったら、他の侯爵、公爵が反発するしな。」
「そこでだ。エルフハーフのテロリストに誘拐された、ってことにすれば…」
「なるほど、兵を出してキララを確保する正当な理由になるってわけだ。」
「しかも、他種族への監視を強める口実にも使われてる。」
「な…」
ディスカム、絶句。
「外道どもめ…」
先生の目が怖い。
「て、ことだ。あんたもわかったかね。」
エアボウド導師がふりかえって女騎士を見る。
愕然、くっころ系気の毒女騎士クラリオ。
「私たちは…そんなことの片棒を担がされていたのか…」
「まさかイオニア様暗殺と両面作戦とは、俺も思わなかったがな。」
「何かちょっと…至上主義貴族…モアブ伯のイオニア様への執着は異様だな…」
エアボウド導師の疑問に、先生も首をひねる。
「もうすでに孫の代だし、王位継承問題なんぞないんだろう?」
「そうなんだ、現王にはすでに王子がいるし…」
建国の英雄の娘ってこと以外に…まだ、何かあるのか?
「しかし、その親御さん。至上主義者なのに…よく娘をベガに嫁がせたな?」
先生の疑問ももっともだ。
「ベガの奥さんはなかなかの傑物だよ。反対されても引かなかった。」
「そして父親は親バカだ。」
「かわいい娘を奪ったのが夢魔ハーフだったから、それを恨んで至上主義者になったって噂もあるくらいだ。」
「ああ、うーん…」
キラすけが小っさい声でつぶやいた。
「義母上はやさしかったよ…」
「それに…実の所、その親御さんのおかげで至上主義の暴走が抑えられているって部分もある。」
「ああ、エリクソン伯爵ですな? なるほど。」
タモン兄貴が納得したようにうなづく。
「娘や妻をほったらかしのベガ坊主が一番けしからん。」
先生の憤り。
「そう言ってやるな、あいつだって気にはしてるだろうが、迂闊に王都に入ると…」
エアボウド導師が、クビに手を当てて斬るジェスチャー。
兄貴が、驚愕。
「やつら、そこまでやるのか?」
「うむ、何でか知らんが妙に強気なんだよな。取り繕う気がないって言うか…」
「我々はどうしたら…」
困惑する騎士たち。
「お前らには帰って報告してもらうか…町の協力が得られないとか何とか…」
「時間稼ぎですな、その間に港湾侯や、奥方に手紙を出して事情を知らせる…」
「わたくしも手紙を添えましょう。お友達としてしばらく近くに置きたいと…」
イオニアさんの手紙なら家族にはかなり効きそうだ。
「俺も書くよ。ちょっとネームバリューはあるからね。」
王立学園元学長か、いい肩書。
「わ、私は! ここに残ります。説得や調査を続けていると言うことにして…」
女騎士さん、一生懸命だな。
ビクターさん、組合長、生臭賢者の相談で方針が決まった。
ディスカム捕縛のためレガシに入ったが、町の協力が得られない。
当地に滞在中のイオニア嬢の意向、及びカロツェ家からの情報で誤解が存在する可能性が出て来た。
隊長のクラリオは現地に残って調査を進めているが判断に困っている。
上層部の指示を仰ぎたい。バッソ家の意向も確認したい。
てな感じで時間稼ぎ。バッソ候に事情が伝わればやつらも迂闊なことは出来まい。
片付けちゃったやつらはどうごまかします?
「本物の兵士なら大問題だが、もともと裏仕事専門なら、いなくなってもそんなに騒ぎ立てんだろう。」
「イオニアを狙った事実がある以上、自分たちの首を絞めかねんからな。」




