ディスカムが大変ですよ
夜明けごろ、スリープから復帰。
マッサージが効いたのか、先生はすーすー寝息を立てている。
どの程度「本気」だったかは内緒で。
湯浴みの準備でもするか。
浴槽に向かう。
「水精竜!」
マビカは魔力切れまでに浴槽満杯の水が出せた。
俺はどうだろう? テスト、テスト。うーん、余裕みたいだ。
時間短縮。水の勢いをちょっと強くする。
うおっとととーー!! 凄い勢い! 放水車かよ!
消防団に入れるな。
あ、消防団あるよ、この街。火の見櫓とかもあるもんな。
組合長が作ったらしい。さすがだ。
でも、この勢いは屋内では使えないわ。
あ、そっか、放出口を太くすればいいんだ。
水流太くーー! がぼがぼ水が出る、いけるいける。
太さ変えられるんだなー。あれ? それなら…
おっと満杯。
次は加熱。炎縛鎖は調整が難しくて断念したんだよな。
安全策として、両手を突っ込んでヒートフィンガー!
おお、手先からボコボコ沸騰…時間かかるわ、これ。
ありゃ? 水出すとき、同時に暖めたら良かったんじゃね?
うわああ、失敗。段取り悪い。
…試してみるか…電子レンジ。
電波、放射出来るよね。ミネルヴァ?
『可能です』
手から放射したいんだけど?
『可能です』
あれ? なんか愛想がないな?
まず、センサーを調整して電波強度が見えるようにしてっと。
あらぬ方向に放射して先生を丸焼きにしたら大変だからね。
俺はマグネトロン! 岡部金治郎!! マイクロ波、2.45GHzを照射。弱め。
ああ、拡散放射だな…これなら周囲への影響は無さそうだ。
電波の減衰は距離の二乗に比例するからね。
浴槽に手を突っ込んで、照射!
水分子を極性振動させて加熱するイメージ。
おお、加熱された!! いける!
…加熱速度、あんま変わらないな。
そうかー、電子レンジは庫内で電波が反射するから効率がいいけど…
解放空間じゃ使いものにならないか…
金属で箱を作って手を突っ込めば、温めなおしには使えるかも。
今日のところはおとなしくヒートフィンガーでやろう。
浴槽に手を突っ込んでかき回しながら加熱、ちょっと熱め。
水精竜のおかげでうめるのは簡単になったからね。
目を覚ました先生は入浴。
気持ちよさげ。
入浴中にディスカムがやってきた。早いな、今日は。
「おお、ディスカム。ちょっと待て、服着るから。」
おおう、ディスカムには刺激強い。大興奮だぞ!
いや…ノリ、悪いな、お前。元気ないぞ。
興奮してる時も丸わかりだが、落ち込んでるのも丸わかりだぞ。
「どうした? マビとキラは一緒じゃないのか?」
とりあえず、身支度を整えた先生が尋ねる。
髪もほどけたままだし、お風呂上がりで色っぽいし、ゆさゆさ。
なのに、ディスカム、反応ない。マジ、どうした?
「二人は先に工房へ、服を返しに行きました…」
「なんだ? 何かあったのか?」
「その…僕は…このまま一緒にいていいんでしょうか?」
「なんだあ? 昨日のマビがあんまり美人だったので辛抱たまらんくなったか?」
先生のセクハラジョークにも無反応。
「いえ、その…それもありますけど…」
あるのかよ!!
「二人は、やっぱり…貴族の娘で…僕は…特待制度で学園に入りましたが…」
「所詮は平民のエルフハーフ…」
「ばかもん!」
「え?」
先生、怒ってる?
「馬鹿なこと言ってるんじゃない。何が貴族だ。」
「知ってるか? 200年前、王国建国前はな、」
「勇王ナビンはごろつき同然の冒険者だったし、プロフィル…初代バッソは食い詰め者の傭兵だった。」
「今のバッソ侯爵ベガの母親は妄想癖の夢魔族魔道士。」
「貴族だなんぞと言うのは、国をまとめるため、他の都市と交渉するための方便だったんだよ。」
「えええ!?」
「本当のこと、を、見失うな。少なくとも魔道士ならな!」
「は、はい!」
うん、ディスカム。先生の弟子になって良かったな。
いきなり全部は吹っ切れないだろうけど、元気出せ。
「しぇんしぇー! ディスカムー!」
元気いいな、キラすけ。
おう、来たな、マビカ。いつものスタイル、ボーイッシュ。
あれ、ちょっと丸くなった? 昨日、いっぱい食べたから?
ベータ君も一緒か。
「よーし、今日もしごくぞ。」
お手柔らかにね、先生。
俺は今日も工房で作業。
昼休みにちょっと買い物にでた。
おっと? 見たことがない人がいるぞ。
灰色のローブを着た…おじいさん? 人間?
エルフ、ドワーフが大部分のこの街では、外見が高齢者なのは珍しい。
はっきりと見かけが初老と言う人はビクターさんくらいしか知らない。
まあ、そのビクターさんは見かけ通りじゃないらしいが。
おやっさんはまだ髪とかヒゲとか、つやつやだしな。
この機体は一度見た人は認識記録しているから間違えるはずもない。
初めて見る人…よそから来た人か?
ちょっと建物の影に身を隠す。いちおう用心ね。
ズームアップ、ズームマイクで様子を窺う。
そして、そのおじいちゃんをじっーーーと見上げているのは…ミニイたん!
凝視! うーん、お年寄り珍しいもんね。
注目されて、逆にびっくりしているのがおじいちゃん。
固まってる。
「おじいちゃんなの?」
「おおう!? あ、そうか。エルフばっかりだもんな、この街。」
自分が注目された理由に気づいたようだ。
しゃがんで目線を合わせる。
「そうじゃ、人間のおじいちゃんだぞ。しわだらけじゃろ。」
ミニイたんの可愛さにメロメロだな。
顔面土砂崩れ状態。しわしわがシワシワに。
悪いヒトには見えないな。
おっと、店から母エルフ、デイヴィーさんが出て来た。
「あら?」
「おかさん! おじいちゃん!」
ミニイたん、紹介しちゃうのね。
「あら、すいません。何か失礼なこと、しませんでした?」
「お母上ですか? いやいや、もう、あんまり可愛らしいんで、少しお話を。」
「うちの孫にしたいと思ったくらいですが…」
「お母上を見て、気が変わりましたな。」
「え?」
「孫ではなく、【娘】にしたくなりましたなあ。」
おいおい、デイヴィーさん口説き始めたぞ。枯れてねえ、このジジイ!
「ふふ、お上手ですね。よそからいらっしゃったのですか?」
「ええ、仕事で…ま、それを口実に友人に会いに来たんですがね。」
「何にもない街ですので、せめてゆっくりしていってください。」
ミニイたんを抱き上げるデイヴィーさん。
幼女エルフが手を振る。
「ばいばいおじいちゃん」
「はい、バイバーイ!」
ミニイたんに手を振り返すジイさん。
しばらく、見送っていたが…ガッツポーズでつぶやいた。
「うっひょーっ! ママさん、ぼいんぼいん、じゃっ!」
この! エロジジイ!!
工房へ戻ると…
ビクターさん? おやっさんと何やら話を。
ずいぶんあわてて…、ビクターさんが慌てている??
「おお、アイザック。いい所へ!」
「すぐ、ディスカムを隠せ!」
は?
「詳しくは後で、すぐに! キララ嬢、マビカ嬢も!」
ビクターさん凄い顔、髪も乱れている。何だ?
「わかりました、エルディー先生宅にいるはずです。すぐに向かいます。」
ポシェットから偵察ドローンタマちゃんを取り出し、ビクターさんに渡す。
「これに話しかけてください、私と話が出来ます。」
「え、ええ? は、はい。」
疑問はあっても、今は時間を無駄にしない。
お互い、行動優先だ。
走る! 全速力! 時速100キロは出てるよな、俺。
「先生!」
庭先で3人を監督していた先生。
急ブレーキの俺にびっくり。
「うお! どうした?」
ディスカム、マビキラ、訓練中。
最初に比べるとずいぶん余裕があるな。
「すぐに隠れてください。遺跡がいいでしょう。」
「なんだあ?」
「ビクターさんが3人を隠せと。ずいぶんあわてていました。」
「何!? ビクター氏が? よし、わかった。」
先生も時間を無駄にしない。
ビクターさんがあわてるほどの事態と言うことで緊急性があると理解したようだ。
「おまえら! 遺跡に行く、ついてこい! 全速力!」
きょとんとしてる3人をベータ君がせかす。
「行きましょう、なにかまずい事が起こってる見たいですよ。」
遺跡に駆け込んだ。
中にはミネルヴァとケルベロス。
スリープ状態? お休みのところごめんね。
軽い駆動音を立てながら、起動。
「どうしたんだ?」
先生に聞かれるが、俺にもわからないんだよね。
『アイザックさん、いいですか?』
おっと、ちょうどビクターさんからタマちゃん通信。
「はい、聞こえます。お話しください。」
うーん、いちいち俺が言い直すのもなあ。
なんかこう…
「ピロリーーーン!」
おおっとお!
『ハンズフリー通話機能がダウンロードされました』
よっしゃ!
「先生にも聞こえます。そのままお話しください。」
『わ、わかりました。今、組合長のところに来ています。』
『うちの隊商がすぐそこまで来ているのですが…』
『隊商に王軍の一隊がついてきました。』
「む、王都から? イオニアに何か?」
『いえ、それが…犯罪者の捕縛が目的だと。』
「え? わたし?」
何で自分だと思うんですかね? 先生。
『違います。目的はディスカムさんです。』
「何?」
『バッソ家、エスブイ家令嬢誘拐容疑がかかっているとのことです。』
えええーーー!
ディスカムやばい!
未成年者略取!? 誘拐罪?
…ああー、当てはまるわー…、やばいわ、これ。
「誘拐って…」
先生絶句、ディスカム呆然。
「お、お前ら。家には何て言って出てきたんだ?」
マビキラを詰問。
「わ、我は…義母上に手紙を書いて…修行の旅に出るって…」
キラすけ…うん、それで納得はしないよね。お義母さん。
「マビカはどうした?」
「て、手紙置いてきた。」
「置手紙ぃ? なんて書いた?」
「探さないでくださいって…」
先生がっくりと膝をついた(OTL)
ディスカムも膝をついた、深い。(orz)
アウト! ダブルプレー、アウトォ!!
「何とか、事情を話して…わかってもらえないか?」
『いや、それが…どうも、そういうレベルの話ではないのです!』
「どういうことだ?」
『ディスカム君は人質を取って港湾候を脅迫しているテロリストと言うことになってます。』
ほわああああーーー!?




