起動実験を終了するよ
職人衆が引揚げて静かになった工房。
さすがに、デイシーシーも帰ったな。
残っているのは、先生、おやっさん、ミネルヴァ、兄貴とダット姐さん。
ベータ君とイーディさん、3人組。そしてタンケイちゃん。
11人いる。
けっこう多いな。俺、入れたら12人ですが。
3人組は帰ってもいいんだぞ。
キララ、でっかいあくびしてるし。
マビカにも伝染った。
イーディお姉さんにも伝染った、まあ、ベータ君についてきただけだし。
あんま、興味ないだろうしな。
すでにミネルヴァとタンケイちゃんは2体目の再起動に取り掛かっている。
そのコード、どこから出てるのか? すげー気になる。
マントをめくって覗きたい。事案発生。メカ事案。
1体目のケルベロス、ケルベロス1号はお座り体勢でおとなしく見てる。
「ふーむ…こんなにじっくり見るのは初めてだな。」
タモン兄貴が興味深げに近づくと…、逃げた?
まるで怖がるように後ずさり。ええ?
「え? 何? 俺、嫌われてる?」
ショックを受ける兄貴。
武装してるからじゃないかな? 鉄棍を用心してるのか?
ここは俺がなでなでしてやろう。メカ同士親睦を…
逃げた! 避けられた! 露骨に。ショック!
じりじり後退すると、タンケイちゃんの後ろに隠れるように回り込む。
「え? なんすか? なんすか?」
あわてるタンケイちゃん。
怖がられてる、俺。そして、懐かれてるタンケイちゃん。
おっぱい獣機なのか? こいつ? ディスカムの仲間?
だったら、俺も仲間だぞ。
違うな。もしかして、初期化前の記憶が残ってる?
俺や兄貴にぶち壊された経験が記録されてるのか?
可能性はある。
システムドライブC:を初期化してもデータドライブD:のデータは消えるわけじゃない。
経験値を引き継いでるのか?
そして、タンケイちゃんに組み立ててもらった事を知っている?
バラバラに分解された状態でも作動を続けていたのか?
「タンケイさん、ケルベロスの頭脳…中央演算ユニットはどこにあったんですか?」
翻訳システムが「中央演算ユニット」をどう伝えたのかわからないが、意味は伝わったようだ。
「ああー、お腹のところ、今ケーブルがつながってるのが…」
腰の腹側、獣機の急所だな。下腹部。丹田。動物だったらおティンティンもあるところ。
そんな所にミネルヴァからケーブルがつながってると思うと、もう…
『そーゆーの、やめてもらえますぅー』
おう、言われた。おっさん気持ち悪りー系非難。
「いろんな制御系がまとめられているらしくて。」
「なんか、小型の魔力変換炉とかも入ってる見たいっす。」
部品ごとに単独で最低限の動作をするのか?
独立連動システムだな。
タンケイちゃんは破壊された獣機が物体X化して移動するところは見ていないしな。
周りの状況がわからなきゃ合体も移動もできない。
センサーはどうなっているんだ? 近接無線接続?
ノートパソコンの小型化が進んでいた時期に、部品同士を繋ぐケーブルを無線化しようって案が出た。
部品配置の自由度が高まればさらに小型化、薄型化が出来るという理屈。
まあ、実際にはコスト、速度、信頼性、省電力性そしてセキュリティ問題と、無理な話だったわけだが。
獣機の部品はそれを実現しているのかもしれない。
兄貴が軍で獣機討伐に来た時、兵機が壊れた獣機を回収に来た、と言っていた。
壊れた獣機のある場所を知ってたことだ。
壊れた側が兵機に自分の場所を伝えていたのだろうか。
獣機のシステムはなかなかに高度で複雑だ。
多数での運用と情報の共有を前提としながら部品レベルで独立性を兼ね備えた個体群。
飛行ユニットや、偵察ドローンをコントロールするようになった俺には感覚的に理解できる。
個にして多。群団、大勢であるがゆえに。
2体目の獣機、ケルベロス2号が起動。
準備運動せずにいきなり歩行可能になった。
「最適化情報を共有しているみたいですね。」
優秀だな。敵に回すと厄介だが。
ケルベロス2号、俺と兄貴を見るとビクッとした。
やはり情報を記憶…記録が残っている。
だが、こいつは逃げない。
ヘッドアームの顎を開き、唸り声を上げて威嚇。
ほほう、こいつは勇敢だな。え、個性がある?
「性格が違うのか? こいつら。」
おやっさんも驚いた。
どうなの? ミネルヴァ。
「群団内で個性…性格を割り振っていると考えられます。」
「チーム内で多様性を確保することが結果として効果的。」
「と言う思想に基づいてシステム設計がなされていると思われます。」
兄貴がうなづく。
「なるほど、杓子定規な奴ばっかりじゃなくいろんな奴がいた方が分隊がうまく行くとかあるもんな。」
「よしよし、大丈夫っすよ。アイザックさんは怖くないっす。」
タンケイちゃんに頭ぽんぽんされてる。
甘えるように擦り寄ると、ヘッドアームを押し付けた。
まるっきりイヌ。
そして、押し付けてる場所はおっぱいじゃないですかね?
「くすぐったいっすよ!」
「自分を組み立ててくれた人がわかってるのか?」
先生も驚いてる。
「人を襲っている時は、機能を大幅に制限されていたということが実感できるな。」
「襲撃目的ならそれで十分だったわけか…」
「いつだって、殺すのが一番楽で簡単だからな。」
「人も機械もそこは変わらんのだな。」
物騒なこと言ってるよ、先生。
「警備…とは、つまりヒトを守る仕事だ。」
「その困難さを比較すれば、必要とされる機能の複雑さは2桁違いだろう…」
「来い来い! ちちち…」
先生…そんな、犬を手なずけるみたいに呼んだって…
行きやがった、こいつ!! ケルベロ2号ぉー!
「おお、人懐っこいな。」
先生に甘えるようにヘッドを押し当てる。
むらむらと疑惑が! こいつ…まさか…
ディスカム達3人組のほうを見ると…
ビビリのマビカはなんだかはるか後方に移動している、いわゆる遠巻き。
ここはキララで試してみるか。
「キララさんも呼んでみたらどうです?」
「お、おう!?」
「闇の女帝なんだから獣機くらい平気ですよね。」
てきとーに煽る。乗ってきた、キララ。
「ま、まあ、役に立つなら我の眷属に加えてやらんこともないかなっ。」
「来い来い…ちちち…」
先生の真似をしてケルベロ2号を呼ぶキララ。
腰は引けている。
2号、ヘッドアームを回してキララのほうを見た。
そして、無視。ぷいっと無視。
「な、何? こ、こいつ、我を無視…」
確信! こいつ…おっぱい認識機能がある!!
大きさメーターとか将来性ゲージとかが作動しているに違いない!
おっぱいスカウター! 恐るべし! 獣機!!
どうやら、ディスカムも気付いた。
「あ、アイザックさん、こいつの判断基準て…」
「そうですね。間違いないと思います。」
ベータ君はとなりで首をひねっている、わかってない。
ケルベロ1号も加わった。
タンケイちゃんにぐりぐり。
ぐりぐり! プニプニ!
油断ならんやつらだ。だが、分かり合える、きっと。
ケルベロスの様子を見て問題なしと判断。
(主におっぱい愛を見て判断)
ベータ君姉弟、3人組、兄貴夫妻は帰宅。
おやっさん、タンケイちゃんは北遺跡に収納するまで付き合うことになった。
夜中とはいえ、ケルベロスをうっかり人に見られたら大騒ぎ間違いなし。
ポシェットから取り出したタマちゃんを先行させる。
人に出会わないように気をつけないと。
歩き始めると、どうも2体とも調子が悪い。
やっぱり頭が重すぎるらしい。つんのめりそうになる。
「うーん、バランスが悪いのお。」
「ちょっと無理があったっす…」
「パワーは十分あるんだから、後ろに何かウエイト付けて調整するか…」
うーん、今すぐってわけには行かないよな。
あ、そうだ。
ミネルヴァ、ちょっと失礼。獣機が動かないよう命令してね。
『止まれ』
2体とも停止。
「こうしたらどうでしょう。」
ミネルヴァを持ち上げてケルベロスの背中に乗せる。
サイズ的にちょうどいい感じかな。
「おお? なるほど。」
嫌がるかな、ケルベロ2号?
装甲内部でチュイーンて感じの音がする。
駆動部のテンションを最適化している。
? 何だろう、こいつらのことがわかってきた感じがする。
将機ボディやミネルヴァを通じて俺とも繋がってるんだろうか?
『気に入ってるみたいですよ』
良かった。
おっと、1号の内部でも音がする。最適化共有か。
タンケイちゃんの服を掴んで引っ張る。
「ええ? ウチっすか?」
乗っかれと催促。
恐る恐る1号にまたがるタンケイちゃん。
「うひゃあ!」
バランスをくずしそうになってボディに抱きつく。
押し付けられる胸。
ビンっとヘッドアームを伸ばす1号。
こいつ! 羨ましいぞ。
「いいなあ、それ。」
先生が羨ましそうにしてるが、身長の関係でちょっとまたがるのは無理っぽい。
「鞍とか手綱とか作ってみるか。」
おやっさんも試してみたいと思ってる違いない。
重量バランスが取れて快調。
最初はグラグラしてたミネルヴァ、タンケイちゃんもすぐに安定。
「これ、けっこう乗り心地いいっす。」
最適化されたな。
「尻尾をつけるといいかもしれないですね。」
こいつら尻尾がないもんな。
と、思いながらおしりの横っちょ辺りを見ると、円形のでっぱりが目に付いた。
これ、ミネルバボディにもあったな…マウンタだ。
楽器ケース型ビームガンを固定してた部位。共通規格か。
だったら獣機も装備できるってこと?
ビームガン装備の獣機とか…うわあ…想像したくねえ。気分が暗くなるわー。
北遺跡に到着。ケルベロスとミネルヴァを収納。
「とりあえず研究室に置いといて、地下へ仕舞うのはまた考えよう。」
先生、めんどくさくなってきたな。
「タンケイ、明日っからしばらくここへ通って改装案を考えろ。」
「え? ウチがやっていいんすか?」
「おう、わかんないとこは兄弟子に聞くんじゃぞ。」
「はいっす! 頑張るっす!」
おやっさんに新たな仕事を振られてうれしそうなタンケイちゃん。
ミネルヴァはケルベロスと一緒に解析作業を続けたいというので、遺跡に置いて行く。
『現物を見ながらだと解析が捗るような気がします』
気がします…? ファジーな感じだな。
ミネルヴァ、魔法鍵の開け方を先生から教わってた。
あの変なポーズね。
先生、先に帰っててね。
俺はおやっさんとタンケイちゃんを家まで送ってきます。




