起動実験を継続するよ
獣機再起動実験は進行中。
有線接続で初期化開始。
予定外の衆人環視での作業となったが、元々観客は想定してない。
初期化や再起動にどれだけ時間がかかるかは不明。
下手するとこのまま夜明けまでかかるってことも…
どう?
『そんなにかからないですよ。でも小1時間はかかるかも…』
あー、うん。間が持たないね。どーすんの? この観衆。
とりあえず、みんなに説明する。
「ああー…」
落胆とも何ともつかない反応。
「そりゃあ、そうだよなあ…」
「仕事ってのは手間がかかるもんだし…」
「元々、見世物じゃねえもんな…」
まあ、みんなプロ職人だから、大人の反応。
「ちょっと、他の仕事進めとくわ。」
「次の工程に移るときは呼んでくだせえよ。」
「30分ありゃ、もう1個削っとくか。」
わらわらと散る。待ち時間に働くんかい! あきれたワークホリック。
時間を無駄にしないのはおやっさんも同じだ。
「北の遺跡で発掘作業した奴、集まれ。」
「タンケイ、お前も来い。」
数人の職人衆が集まってきた。
俺も加わる。
「何です、何か仕事ですか?」
「ああ、入った所の部屋部分の上側に空間が発見された。」
「上? あの丸っこいとこの?」
「そりゃあ、全然気づかなかった!」
こないだ渡した上部空間の図面を広げて見せる。
「ここんとこに梯子をつけたい。」
「アイザックも使うんでしょう? 鉄製かな。」
「何のための空間なんでしょう?」
「アイザックの話だと、あの飛行魔道機を格納する場所らしい。」
「格納? どこから出入りするんですかい?」
その辺はまだ不明。俺からも説明する。
「どうも、少し危険物が置いてあるようなのです。」
「今のところは調査だけで、実際には使用しない予定です。」
おやっさん、ちらりと獣機の方を見て、
「あれも、実験の後は遺跡の地下に置いとこうと思う。」
「その辺も具合を確かめんといかん。」
「考えといてくれ。」
「わかりやした。」
図面を見ながら相談を始める職人衆。
プロ集団、頼りになる。
「ほほう? 北の遺跡で新発見?」
いつの間にか、後ろにデイシーシーが居た。
ちょ、俺の360度視界、警告とか無かったんですけど!
NINJAか!? こいつ!
リプレイで確認。
ああー、タンケイちゃんの後ろにピッタリくっついて来たのかよ。
見事に死角に入ってる。何、この野次馬スキル。
全天視界も過信しちゃいかんな。
「おーい」
おっと先生の声。
ケルベロスの周りにはミネルヴァ、先生とダット姐さん、旦那兄貴。
ベータ君以下エルディー門下が残ってた。イーディお姉さんもね。
どうやら、初期化中の待ち時間に魔道機に関する課外講義を行なっていたらしい。
ええー? 俺も聞きたかったよ。
『後で共有しましょう、勉強になりました』
ミネルヴァをも感服させる先生、さすがだ。
もうちょっと生活態度とか羞恥心とかがよければ完の璧なのに。
「何か言ったか?」
いえ、いえ、口に出したりはしませんよ。
「初期化と再入力がもうすぐ終わります。」
そのミネルヴァのボディをマントめくったり覗き込んだりしてるダットさん。
うん、あぶない人っぽい。事案。
メジャーを出して測ったりしてる。
新作、かわいい衣装の予感。
「キララちゃんとお揃い…いや、色違いで…」
何か、ぶつぶつ言ってるぞ。
「進捗状況95%」
もうじき終わりそう。
職人衆やタンケイちゃん、他の人を呼びに行った。
わらわらと再集合する観衆たち、野次馬とも言う。
「すいやせん、遅くなりやした。」
「お待たせしました。」
いやいや、
「べつに待ってない。お前らいなくてもいいんだけど…」
「いやだなあ、導師ぃー。」
再インストールがまもなく終了…しないな?
なかなか、終わらない。
「進捗表示が99%になってから進まないんですよ。」
ああ、そうだね。
あの「プログレスバーは99%をもって道半ばとせよ。」と言う格言は誰が言ったんだっけ?
ビル・ゲイツ?(違う)
うん、そう言うもんなんだよ。ミネルヴァ。
「終わりましたあー。」
「おおー!」
じろりと先生がにらみつける。
口をつむぐ、職人衆。
「再起動します。」
やおら、タモン兄貴が立ち上がった。
俺も警戒態勢に入る。
「みんな、下がれ。距離をとるんだ。」
「先生、ベータ君、みんなも下がってください。」
ミネルヴァ、君も。
『いえ有線接続中なら強制停止が出来ます。このままで』
わかった。じゃあ、動力ケーブルを繋ぐよ。
電源、オン。
「再起動開始。」
息をのんで見つめる。
鳥型メカや将機ボディの例からすると起動にはそう時間はかからない。
ぶーん、と獣機内部でうなり音、関節部のアクチュエータが始動。
ぐったりした感じだった四肢が伸びて緊張する。
「おおおー?」
職人衆から控えめな歓声。
「起動、完了」
ミネルヴァの宣言に緊張が高まる。
「命令を与えてみます…ゆっくり立て。」
脚を曲げ、ゴロンと半回転して…立った!
立った、立った、クラ(略)
「おおおおー!」
興奮する職人衆! これはもう仕方ないよな。
突然、ヘッドアームのクローが開いた!! 両方とも!
「おー、うおお!?」
びびる職人衆! とディスカム、マビキラ。
鉄棍を構えて緊張する兄貴。俺もいつでも飛びかかれる体勢。
だが、開いたり、閉じたり…
ああ、これ。俺もやった。起動直後に手をわきわきするあの感じ。
今度は首を前後に動かす。両首を交互に前後に。
ちょっと、ユーモラスな動きだ。
さらに、クローを開いたり閉じたりしながら首を回す。
りょおー手を上にあげて大きく回す運動ぉー! ラヂオ体操。
「動作を最適化しているようです。学習能力は高いですね。」
「おおー!」
ミネルヴァの言に感心する職人衆。
「お座り!」
ええ? そんな命令できるの?
座ったよ。完全にイヌ。
「お手!」
ミネルヴァが手のひらを差し出す。
と、何だ?
ガガガって音を立てて…首を上げたり下げたり。
「え? ああ。首でいいですよ。」
ヘッドアームを使って、お手をした。
「ヘッドアームを使うべきか、前足を使うべきか、迷ったようです。」
何だよそれ、可愛いじゃん。
「エルディー導師の言ったとおりです。本来はガーディアン用途、番犬ですね。」
「プログラムのごく一部である侵入者撃退行動のみを拡張使用して猟犬モードを構成。」
「本来の番犬モードは大幅に制限されていました。」
おそるおそる近づいてきたタンケイちゃん。
「ええ? それってどういうことっすか? ミネルヴァさん。」
「出会うヒト族がすべて強盗に見えていたって事です。」
「生き物に例えると幻覚を見せて人を襲わせ、お酒で理性を奪って凶暴にしてた、って感じです。」
本来、獣機は拠点を防衛する目的で作られた。
その目的は巡回警備と侵入者の撃退、制圧。
ある程度の自律的判断機能を有している。
対人制圧行動には限度が設定され、それ以上の攻撃は抑制されていた。
そのままでは殺人マシーンとして使用することが出来ない。
そこで、プログラムの一部を改変。
出会う人間をすべて家に侵入した強盗として認識させ、攻撃行動を誘発。
さらに、攻撃抑制機能をカットすることで、制圧ではなく殺害に至らせていた。
あきれるほどの悪意。胸糞悪い。
獣機を製造した人間の本来の志を捻じ曲げたのか。
いったい誰が?
そして、【上位存在】から送られてきたメールの意味がわかった。
『助けて』
やりたくもない人殺しをさせられていたってことか?
獣機の戦略的行動に一貫性がなかったり、合理的でなかった理由もこれか?
命令に矛盾しない範囲で、被害を減らそうと?
「もう大丈夫です。有線接続を解除。」
コネクタを外すと、しゅるしゅるっと収納。
マントの下に吸い込まれていく。
そのコード、どっから出てるの?
どこへしまったの?
『秘密です』
「おおーい、もうすこし動くとこ見せてくれー!」
職人衆から要望が上がる。
そう、「お座り」「お手」と来たら「ちんちん」だろう!
ミネルヴァボイスで「ちんちん」聞きたい!!
レッツ命令! 「ちんちん」!!
「ええ、と?」
困ってるぞ、ミネルヴァ。「ちんちん」言えなくて困ってる?
違いました、何を命令していいか迷ってる。
あらかじめ芸を仕込んでたわけじゃないしね。
おっと、タモン兄貴が鉄棍の端の方を持って水平に構えた。
何気にすごい力、重いよねそれ。
兄貴の助け舟にうなづくミネルヴァ。
「よし、飛び越えろ。」
ジャンプ! とっ、とっ、ぴょんて感じで飛び越えるケルベロス獣機。
「おおー! すごい!!」
だが、着地に失敗。前のめりに突っ込んで逆立ち状態に。
「あ! 頭が重いみたいです。」
ああ、ヘッドアームが増えたから…
くーん、て感じで両方の頭を下げる。
失敗してしょぼくれているみたいに見える。
「あちゃ、重心のこと、考えてなかったす!」
タンケイちゃんが頭抱えた。
「すぐ、最適化されますよ。」
ミネルヴァが慰める。
なじむの早いなあ、あんたら。
「よーし、こんなもんでいいだろ、お前ら。」
解散宣言、おやっさん。
「後はワシらでやる。お前ら、うちへ帰れ!」
「ええー、まだ一体残ってるでやんすよ。」
「ふれあいの時間とかあってもいいんじゃねえですかい?」
「そんなつれない事は言いっこ無しでゲスよ。」
不満たらたら、職人衆。
でも、帰った。
ドワーフはエルフと違って結婚制度がある。
奥さん怖い。
家族持ちが帰ると、若いやつらもしぶしぶ引揚げた。
もう一体の獣機を再起動すると、また1時間くらいかかるしね。




