名前を付けるよ
まあ、今日のミッションは終了。
将機のボディは遺跡に残し、鳥メカ状態のナビ君を連れて外に出る。
明日はディスカムたちの引越し。
ちょうどおやっさんもいるし、打ち合わせしようってことで、先生んちに向かう。
「出来ることがあったら俺も手伝うよ。」
ってことでタモン兄貴も一緒。
家に行くと、マビキラだけじゃなくディスカムもいた。
ベータ君も居た。
「先生!」
なんだか怒ってる?
そしてハイエートお兄ちゃんも居た。
「どうした、ベータ? なんでハイエートがいるんだ?」
「工房に行ったら、先生とコウベンさんとタモンさんと出かけたって聞いて…」
「何で言ってくれなかったんですか!?」
あちゃ! そうだよな。
鉄蜘蛛内部の調査には危険があると予想してたし、実際、危険だった。
だから、あえてベータ君には伝えなかったわけだが。
そりゃ怒るよな、一番弟子としては。
「すまん、ベータ。でも言ったらついて来るって、言うだろ。」
「まあ、運べる人数にも限りがあったんでな。」
「それは…そうですけど…教えてくれても…」
「皆さん、大丈夫だったんですか?」
タモン兄貴が、後を引き取ってくれた。
「まあ、大丈夫とは言えなかったな。やばかった。」
「獣機は出るし、他にも色々…」
「アイザックがケガしたくらいだからな。」
「ええっ!」
みんな、驚いた。超びっくり。俺、どう思われてるのかな?
「そ、そんな危ないことが!!」
「ご心配なく、もう治りましたから。」
「治った???」
うん、首ひねるよな。ロボが「治った」とか。
自分でも驚いたくらいだから。
で、お兄ちゃんは、何で?
本音はわかる。ベータ君見かけてついてきたんだよね。
建前は?
「いや、ディスカム君たち、新居に引っ越すって言うから」
「何かお祝いに出来る事あるかなって。」
うん、もっともらしい。
ハイエートもちょっと不機嫌そう?
怒ってるのはベータ君だけじゃないか。
兄貴には付き合ってもらって、お兄ちゃんには相談なしだったからな。
「そういえば、キララは見てきたのか? あたらしい家。」
先生の問いにマビ公がふるふる首を振る。
「今、起きたとこ。」
ふふん、と胸を張るキラすけ。
威張ってどーする! もう夕方だぞ!
それでがぶがぶ、水飲んでるのか。
お腹減ってるんだな?
気を取り直したベータ君がシロップドリンクを出してくれた。
「そういや、朝から飲まず食わずだ。」
おやっさんもほっとしたようだ。
「助かる、ありがと、ベータ。」
兄貴もにっこり笑ってカップを受け取った。
先生もちびちび飲んでる。
ハイエートもご相伴。
ベータ君から受け取ったカップを愛おし気に撫でまわす。
ちょっぴり気持ち悪いですよ。ちょっぴりね。
お前が一番に手を伸ばすのはどうなの? キラすけ。
そんなに水分取ったらアレだぞ、また。
「で? それは?」
ハイエートが俺の肩にとまった鳥型メカ状態ナビ君、を指差す。
「フクロウ? 鷹型魔道機? 鷹狩り用?」
「この間のアレみたいなものですか?」
この間、トンボ型ドローン見てるもんな。
「そうですね、ただ、私が動かしているわけではなく、自分の意思があります。」
「私同様、心を持った魔道機だと思っていただければ。」
「紹介します、えーと…」
名前かあ…
「ミネルヴァってのはどうだ?」
先生が言い出した。
なるほど。…ミネルヴァ?
「フクロウっぽいからな。フクロウは学問神アテナの象徴だ。」
「…国によってはアテナのことをミネルヴァと呼ぶ。」
「いろいろ教えてくれるらしいから学問と知識の神の名と言うのはふさわしいだろう。」
「【ナビ君】よりこっちの方がいいと思うが?」
なるほど、カッコイイな。ミネルヴァのフクロウは黄昏時に飛ぶ。
この世界、固有名詞とか神話とか、俺の世界と同じところあるよな。
やっぱり時間軸が繋がってるのか?
「ミネルヴァのフクロウは黄昏時に飛ぶ。」
先生も知ってるのか。このセリフ。
実のところ意味は知らないんですよね、俺。
「学問と言うものは『現象』を研究して成立する。」
「いつだって現実が先行して、学問が成果を上げるのは『現象』が終わりかけたころ、黄昏時だ。」
「ま、そんなような感じの意味合いらしいがな。」
…パートナーメカの名前としては、ちょっと不安もあるんだよな。
どう? ナビ君?
「ステキです。かっこいいです。」
気に入った? じゃ、それで行きますか。
鳥型魔道機がしゃべったのを見てびっくりする3人組。
ベータ君もびっくりしている。
ちょっと引き気味。
あー、俺も最初の頃、みんなこんな反応だったなあ。
「ミネルヴァくんかあ、ぼくはハイエート。よろしくね。」
にっこり微笑んで手を差し出す。
ちょっと、戸惑ったように鳥メカが片足を差し出す。握手。
やっぱ、いい男だわ、お兄ちゃんエルフ。
明日の相談、足りないもの。準備するもの。
「ベッドはあるんだな、敷物はこれ持って行けばいいな。」
「ディスカム君の分は、ぼくのウチに余ってるのがあるから持って来ましょう。」
先生とハイエートがこともなげに言うのをディスカムが複雑な表情。
この敷物の毛皮、けっこうな高級品だって言ってたな。
「マビカとキララのは半分に切ったほうがいいか?」
「い、いいえ! ベッドくっつければ大丈夫だよね。マビ。」
ものすごい表情で断る。
「わはは、大きいほど値打ちがあるからな。ムート鹿の毛皮は」
おやっさんがフォロー。
「掛け布団、毛布はどうする?」
「それはワシが用意しよう。」
「すいません、何から何まで」
恐縮するディスカム。
「なーに、雇い人の面倒見るのも勤めじゃわい。」
「あ、一通りエルディーの修行が終わったらうちの工房で働いてもらうことになったんでな」
おやっさんが先生に説明。
「そりゃ良かった。ディスカムならすぐだしな。」
「こっちの二人は…も少し鍛えてからかな…」
じろり、マビキラを見る。
思わず下を向くマビ公。
カップの底に残ったドリンクの水滴を必死に吸い込もうとしてるキラすけ。
ずーずー
おまえ、ほんとに貴族の出?
「あとは寝巻きとか?」
先生、自分は着ないくせに。
「ああ、それはウチの女房が、準備してた。」
「女の子っぽいカワイイやつをな。」
兄貴がマビ公のほうを見てニヤっと笑う。
マビ公、困ってる困ってる。
あとは、工房に移動してからってことに。
夕食は工房の食堂で。お風呂にも入ろうってことになった。
「ボクの鳥型機体はここに残しておきます。」
ボクの、って言ったな。
『操作するの大変です。動けるのはうれしいですけど。』
まあ、学習して最適化されればもっと楽になるよ。たぶん。
『あと、誰かさんがお風呂で変なことしないよう見張らないと。』
おおっと。
外に出た時、キラすけが
「ええ? 夕方!?」
とか、驚いてた。
先生、おやっさん、兄貴、お兄ちゃん、ベータ君、ディスカム、マビキラ。
そして俺。団体様ご案内。
ぞろぞろと工房へ向かう。
工房の作業時間も終わりが近い。
「終業時間になると混むから、先に飯にするか。」
なんでも「先に食事班」と「風呂が先班」があって、混雑が緩和されると。
決めて分けているわけじゃなく自然に分かれてる。
汚れる仕事、汗かき仕事の人はさっぱりしてから食事。
そんなでもない人は食事してからゆっくり風呂に入る。
家までの距離にもよるので人それぞれ。
なるほど、ご飯にする? お風呂にする? それともワ・タ・シ?
てな感じ。
先、風呂入るわ。
あっそ、じゃ、浴槽洗ってお湯はってね。はいタ・ワ・シ。
あ、洗濯機回ってるから、停まったら干すのお願いね。
洗剤、ボトルに詰め替え入れといて。頼んどいたトレペは?
スーツでトレペはいや? 何言ってんの? バカなの?
着替えてからコンビニで? 値段が違うのよっ!!
「ちと、早いが、いいかね?」
「あ、おやっさーん、どうぞー」
元気いい、給仕さん。
と、隅っこのテーブルに先客。
職人衆? なんか図面を開いて相談中。
「ここの部品はこれで代用できんじゃねえかな?」
「この部品ばっか余ってる。」
「これは壊されたわけじゃなくて元から古かったんじゃ?」
「ひとつアイデアがあるんすけど。」
「何でえ? 言ってみろ。」
タンケイちゃんもいるな。
「どうしたお前ら?」
おやっさんが入ってきたことに気づいてなかった。熱中中!
「うわあ! おやっさん!!」
「な、なんでもないですよ。」
「ちょっと作業の相談してただけで…」
「獣機のことなんか話してないっす!」
「余計なこと言うな、タンケイ!」
おやっさん、ため息。
「まあ、ほどほどにな。」
「うーす!!」
「そういや、おまえら料理はできるのか?」
先生が3人組に尋ねる。
「まあ、食べられないことはない…くらいには」
とディスカム。
目をそらすマビ。聞いてないふりキラ。
うーん、頑張れディスカム。
「魔法以外にも、教えることがありそうだな。」
がっくり、先生。
「そっち関係はデイヴィーに頼むか…」
食後はお風呂に。
先生が用事があるってタンケイちゃんをゲット。
同行する事に。
ディスカムがうれしそう。関係ないだろ、お前|(笑)
マビキラが警戒態勢に。両側からディスカムを挟み込む。
ダット姐さんとデイシーシーがいたよ。
「あ、来た。」
「おー。」
タモン兄貴、極々自然に身をかがめてダットさんに…
あ、思いとどまった。
周囲の「ちっ! リア爆!!」視線に気付いたようだ。
「あした、ディスカムの引越し手伝うから。」
「あらま、じゃ、寝巻きとか、旦那に持たせるからね。」
「ほほう、スカッち。ハーレム生活っしー?」
黒エルフ、デイシーシー、『スカッち』??
「そ、そんなんじゃないですよ。」
あわてるディスカム。お前らいつの間にそんなに親しく?
マビ公の目が怖い。
女性陣と別れて男湯へ。
俺は、待合室で待機。と思ったが。
「アイザックも汚れてるぞ、だいぶ。」
「そうじゃな、洗ったほうがいい。」
でも、他のお客さんもいますし…
「もう、お前の事知らんやつはおらんだろ。かまわん、かまわん。」
じゃあ、お言葉に甘えて…
脱衣場で腰に巻いていたポシェットを外す。
護符ディスクとか財布とか入ってる。
この機体、ポケットとか無いんで、必要なんだよね。
あと、タマちゃんが入っている。偵察ドローン。
ポシェットの隙間からタマちゃんが顔を出す。
問いかけるように首をかしげる。
『女湯、行く?』
ごめんな、タマちゃん。
君の活躍は見たいけど、ナビ君改めミネルヴァが絶対ダメだって言うんだ。
ひどいよね。
『うそ言わないでください! タマちゃん起動してませんよ!!』
わはは、ジョーク、ジョーク。
「おやっさん、お背中流しましょう。」
「お、おお、すまんな。」
すごい身体してんな、おやっさん。
ドワーフだから背は低いんだけど…四角い!
背が低いのに肩幅がある。そして胸板が厚くて肩幅に迫る。
縦にも横にも四角い。
胸板、と言うけどほんとに厚いのは背中。
うーん、男の背中だなあ。
おっと、ディスカム、先越されたーって顔だな。
お世話になってるもんな。
さて、自分の身体を洗って…と思ったけど、ここで気付いた。
曲がらない。この身体。
アクションフィギュアとしてなら最上級の可動かもしれないけど。
身体洗うには全然足りない。身体の硬い人より更に硬い感じ。
これが外骨格の限界か!
「アイザックさん、僕に洗わせてください。」
おお、ベータ君。ありがとう。
うん、美少年エルフおヌード。ほっそりとした少年らしい体つき。
先生のところで鍛えてるから細いだけじゃなくメリハリがきいてる感じ。
スベスベお肌が美しい。
そっちの趣味が無くてもぐらりとくる美しさ。
ましてや、そっちだったら大変だ。
ハイエートお兄ちゃん、うっとりと見つめてるね。
もう、湯船に入ってる。たぶん、しばらく出れない。
「おーし、ディスカム背中流してやるぞ!」
タモン兄貴に言われてビビリまくりのディスカム。
兄貴もすげえ身体してんな。実戦型マッチョだ。
そして、古傷だらけ。
兄貴の過去も気になるが、そのうち聞く事もあるだろう。
「タモンー」
おっと、ダット姐さんの声。女湯から。
「ちょっと遅くなるから、先帰っててー」
「おー」
チッ! リア充め!!
交代して、ベータ君の背中を洗う。
ハイエートさん、羨ましそうに指くわえてもダメですよ。




