ハッチを開けるよ
鉄蜘蛛の上空に到着。
地上班の到着にタイミングを合わせるため、しばし旋回。
周辺を警戒。今度は電波探知に頼らず、目視を重視。
変わったところはない。異常なし。
一昨日の獣機、兵機たちは大多数が逃走。
しかし、目に付く中継器はほとんど破壊したから、昨日の今日でリレーアタック再開は無理だろう。
だが油断はしない。トンボ型ドローン、トンちゃんを射出。
周辺警戒に当たってもらう。
「なんか飛び出したな、なんだ?」
「小型の飛行魔道機です。斥候がわりですよ。」
地上体と先生も到着。崖上の山道から鉄蜘蛛のところまで滑り降りる。
「おうわわわーお!!」
あ、先生ごめん。びっくりした?
おやっさん、タモン兄貴も降下。
「帰りはどっちかと交代だからな!」
先生ごめん。
男二人もカラビナを外して飛行ユニットから降りる。
おやっさんがハーネスを脱ごうとしたら、兄貴が止めた。
「何があるかわかんないですから、すぐ脱出できるようにつけたままで。」
「お、そうか。」
「これが鉄蜘蛛か…」
おやっさん興味深げにあちこち触ってる。
「近くで見るとこりゃあ、また、でかい!」
兄貴もびっくり。
例の鉄の棒でひっくりかえって空を向いてる鉄蜘蛛の足をコンコン叩いてる。
あ、兄貴、そこ!
ガチン!
「おお、おう!」
くっついた。兄貴の鉄棍がモーターのマグネットに。
「あれ? 何だこりゃ? え、離れない?」
妹エルフの通った道を再現する兄貴。
先生と一緒にほっこりする。
「ほほう、磁石。なんで磁石なんじゃ?」
「磁石のくっつく力と反発する力を使って軸を回転させるんです。」
「んん? 何だって? もおたあ? 後で詳しく聞かせてもらうぞ。」
先生の磁力遮断魔法で外しました。
「これがハッチか…重そうだな。」
「どういう手順で行きますかね?」
「まず、取っ手を付けます。溶接を試してみます。」
工房から持ってきた、鉄のプレートをあらかじめ曲げたやつ。
「危険ですので離れてください。」
ハッチの表面にプロジェクタービームを照射。
赤熱させる。融けてるかな?
一定の熱量で加熱して融点に達すれば、相変化にエネルギーが使われるから温度上昇が一時的に停止するはず…
わからんわ! そんなの!!
テキトーに加熱。取っ手の鉄板側もテキトーに。
ぐわっとくっ付ける、押し付ける。接触面にビームを当てて慣らす。
なじませるのに振動モードも利用。
あとは冷えるのを待って、と。
「雑じゃな。」
離れて見てたおやっさんの感想が聞こえた。
すんません、おやっさん、素人なんで、勘弁してください。
そのおやっさん、冷えるの待ってる間にその辺のへしおれてる木を物色。
手頃な木を集めた後、手斧で切ったり削ったり。
組み合わせて並べると、荷物の中から取り出したロープでしばった。
A? おやっさんの身長くらいあるAの形?
「ハッチを持ち上げた後、こいつをかませてつっかえ棒にする。」
「まず、アイザックがくっつけた取っ手で持ち上げる。」
「出来た隙間にタモンが鉄棍をかませて隙間を維持。」
「改めてアイザックが隙間に手を入れてハッチを持ち上げる。」
「そこへワシがこいつをかます。」
「大急ぎで全員いったん後方へ下がる。」
「エルディーは防壁魔法で中からの攻撃に備える。」
「それでいいな?」
あい、おやっさん。
先生、兄貴もこくこくうなづく。
二人に来てもらって良かった。
俺と先生だけでやってたら、途中で挫折してたよね。
みんなが隠れる場所は近くの大き目の岩の影。
「最悪の場合、私のビームみたいなのを装備しているかもしれません。」
「そりゃ、おっかない!」
「なるほど、それで、コレか。」
そう、「コレ」特殊装備。
そして「アレ」も持ってきた。
「アレ」や「コレ」を鉄蜘蛛近くに配置。
先生が各人に魔法ディスクをくっ付けていく。
防護魔法ですね。矢とか投石から身を守るためのもの。
雷撃や火炎にも効果があるそうだ。
そういや、雷神槌をレジストした奴がいたな。
石はダメだったけど。
先生のは両方同時に行けるのか。
「ビームはダメですかね?」
「試したことがないからな。そんなの使う奴がいなかったし。」
そりゃそうか。
各人配置完了。
「よし、行くぞ。」
先生がまずロック解除。
ハッチが浮き上がる。
俺は溶接した取っ手を掴む。
事前の確認ではしっかりくっついていたが…
おやっさんの号令。
「始め!」
持ち上げる。どうだ?
何かきしむような、こするような凄い不快な金属音。
おお、行けた! ハッチが20センチくらい開く。
すかさず兄貴が鉄棒を渡すように差し込む。
いったん、ハッチを降ろして、
「厚いな、重いわけだ。」
「重いだけじゃなくて何か引っかかってる感じですね。」
「筺体全体が歪んどるんだろうな。いっぺん開けたらもう閉まらんかも。」
隙間から蜘蛛型ドローンタマちゃんを投入して内部を調べてからにするべきか?
だが、タマちゃんが破壊される可能性もあるし。
どっちみち開けなきゃならないし。
「よし、次行くぞ。」
おやっさんが指示を出す。行くか!?
開いた隙間に指を差し込む。
「持ち上げます、せーの!」
「被甲身起動!」
魔法陣が体を包む。渾身の力を込めてハッチを押し上げる。
膝を曲げ、腰を下ろしてから持ち上げないと腰を痛めるからね。重いもの持ち上げる時は。
がぎぎぎぎぃーてな音を立ててハッチが大きく開く。
持ち替えて差し上げるように目の高さまで上げる。
この時が一番無防備。中から攻撃されたらまともに食らうことになる。
「そりゃあ!」
おやっさんがAの字型つっかえ棒を突っ込む。
兄貴が反対側から支える。
「よし、降ろせ!」
ハッチを下げる! つっかえ棒がはさまって固定。
「よし、離れろ!」
「うっしゃあー!」
おやっさん、走る。うん遅い。キラすけと同レベル。
兄貴も鉄棒を素早く抜いて、抱えて走る。
先生もダッシュ! 速! ひとっ飛び!
みんなは岩陰に。
俺もいったん後退。「コレ」を拾い上げ装備。
開かれたハッチ。
息をつめて見つめる。
「ソレ」が出て来た。
出て来たのは予想外の代物だった。
ヒト型獣機、と言う点では予想通り。
有人トラックを運転するんだからヒト型だろうとは考えていた。
だが、トラック野郎(菅原文太)とはかけ離れた外観。
黒くないし、白っぽい。
黒や灰色の獣機、兵機とは全然違う。ちょっとベージュがかった…
て、いうか、肌色!
そして細い。兵機も細いけど、あのアンバランスな武骨かつ貧弱な感じとは違う。
言ってみれば、優美。
そして、小さい。身長140センチくらい?
下半身の関節構造、膝や足首も人間的。
細くなったウエスト部分のせいか女性型に見える。
いや、シルエットが完全に少女型。
言ってみれば無着衣球体関節人形風。
ただ、可動域はかなり広い、と思われる。
関節周りの装甲の分割具合、機構の複雑さが見てとれる。
胸部から腹部、腰部もいくつかに分割され可動する。
そして動くと、まぎれもなく女性にしか見えない。
動作キャプチャーを女性が行なったのか?
頭部は…俺に似てるな。
二つの目があるが、鼻や口は無い。
そして髪の毛に当たる部分には両側に鳥の翼のような飾りが。
なんだか天使っぽい。
「なんとも、キレイな機械だわい…」
おやっさんのつぶやき。
同感だ。
何か、長めのスーツケースみたいな…
でかい楽器ケースみたいなものを肩から下げている。
ナビ君、ちょっといいかな?
『何でしょう』
あれ、欲しい!
『は?』
俺はね、関節可動が好きだ!!
『え?』
全身○○ヶ所可動、とかいうフレーズに、胸がときめく!
性的興奮を覚える! と言っても過言ではない!!
『え? ちょ? 何言って…』
思えば、はるか昭和の時代。
キャプテンアクション(GIジョーの類似品)版ウルトラマン。
発売予告を雑誌(少年マガジン?)で見て、おもちゃ屋を探し回ったあの時から。
俺の運命は決まっていたのかもしれない。
結局、発売はされなかったのだ、と言うことは最近知った。
その後、変身サイボーグ1号、少年サイボーグ、サイボーグジャガー、アンドロイドA。
おっさんになってからガオガイガー版も買った。
もちろん、ミクロマンも買った。肘関節が内側に曲がらないのが不満だった。
そしてミクロマンレディに凄く興奮した!!
筋肉マンの膝二重関節に感動したこともあった。
ボークスのドール素体も買ったよ。
リボルテックとかFigmaとかいい時代になったもんだ、と思ってた。
あと、とりあえずネジが見えるところは分解した。
『え、いや、そんな異常性癖をカミングアウトされても…』
『え? 分解?』
いや分解するでしょ、普通、オモチャはとりあえず。
『え?』
この魔道機体に召喚されて、すんなり適応したのもこの性癖あればこそだよね。
だからね、あれを破壊するなんて俺には無理!
今、愛が試される! 関節愛が!!
とか、高速思考している間に、むこうが動いた。
いきなり電波を発信した!
「ピロリーーーン」
おおっと! メールが来た!! 一斉送信。
『守れ』
獣機への命令か!?
こいつは命令を出すことが出来る!?
『かなり高度な自律行動を行っています』
『帰還モードとは比べ物になりません、他の獣機に命令を出しています』
士官兵機? いや、幹部? 将軍か? ○黒大将軍と七大将軍的な!
…それだと全部、大将軍なんじゃ…?
将機! 兵機より偉い感じで将機。
だが、ここには獣機はいない。その命令は届かない…
と思ったら!
何か、その辺の土が盛り上がったと思ったら獣機が飛び出してきた! 2体!!
なんてこった! あんたら一昨日からずっといたの?
お嬢様たちが、きゃっきゃっうふふ調査している間ずっと埋まってたんかい!
スリープ状態で? うわああ、背筋が寒くなる。
一昨日、うっかりハッチを開けてたら…
1体は将機の元へ駆け寄る。
もう1体は俺に向かってきた!
遠慮はしない、ビームで…
将機に動きが。持っているケースみたいなのは… 銃か!
ケースじゃない、そのまんま銃だ!
グリップも引き金も照準もないからだまされた。
俺の常識が邪魔になった。
考えてみれば機械が使う機械。
人間の道具と違っていて当然。
直接、コネクターでマウントすればグリップはいらない。
発射信号を送ればいいんだから引き金は不要。
照準は専用映像センサーがあればいい。
撃ってきた、パルスビーム! 最悪の予想が的中。
だが、予想通りではある。銃の構えからすでに着弾部位を予測計算。
「コレ」を構えて防護!
雀竜のウロコで作られた盾。
軽くて頑丈、槍や矢でも貫けない。工房で作ってたやつを一つ借りて来た。
そしてビームを拡散反射。
波長が違ったらヤバかったが、俺のと同じだった。
初期設定の俺のビームと同様に反射可能。
顕微鏡モードで解析した雀竜のウロコ。
表面がナノスケールのプリズムとミラーの二重構造になっていた。
別にビーム対抗のために進化したわけじゃないだろう。
おそらく、高高度を飛行するために太陽光を遮断する必要性か何かがあったんじゃ?
雀竜に聞いても答えちゃくれないよなあ…
将機のビーム、出力は俺のよりだいぶ弱い。
反撃! パルスビーム連射! 将機の脇の獣機をハチの巣!
拳骨シュート! 片腕を発射。
将機の銃を殴りつける。マウントが外れてすっ飛ぶ。
飛び掛かってきた獣機は無視。
いや、無視したわけじゃない。兄貴との稽古が生きてる。
突進してくる敵に対しての突きを習った。
後ろに伸ばした脚と剣先をほぼ一直線にすれば、相手の突進力を大地が受け止めてくれると言う。
その応用。前傾姿勢で獣機の突進を受け止めて、なお姿勢を崩さない。
俺の肩に乗っかる形になった獣機の関節部に抜き手を突き込む。
超振動波だ!! バイブレーション機能最大出力!
内部部品がガタガタに。ギアが欠けたような騒音と振動を上げると、停止。
拳骨シュートを回収、ドッキング。
動かなくなった獣機を振り捨てる。
今度は持ってきた「アレ」を掴む。
先日、兵機が打ち出してきたワイヤー。
俺でも引きちぎれなかった超強度。
拳骨シュート両腕発射。
ワイヤーの両端を持って逃げようとする将機の周りを旋回。
たちまちぐるぐる巻きに! 簀巻き状態。
制圧、完了。
「終わった…かな?」
先生が顔を出す。
兄貴とおやっさんも。
「まさか、獣機が埋まっているとは。」
先生も身震い。
「ヤバかったなあ。」
「獣機どもは思っていたより複雑で柔軟な思考を持っているようですね。」
「コイツはどうする?」
おやっさん、こわごわ将機に近づく。
「まあ、破壊するのはいかにももったいないな。」
その時、不思議なことが起こった!
ポロリと将機の頭が取れた。
首ではなく頭。ちょうど髪の毛、ウィッグが取れたような感じ。
そして、羽ばたいて、翔んだ!
「ええー!!」
「うわー! 何だ?」
頭部の飾りだと思ってた翼は翼だった!!
こっちが本体? 脱出装置? パ○ルダーオフ!
上昇して逃げるつもりか?
その瞬間、全天視界から警告が!
将機が取り落としたビームガンが動いている。
ケースから三脚みたいな脚が突き出して向きを変えた。
遠隔操作できるのか!?
パルスビーム! 狙いは俺?
「危ない!」
タモン兄貴が鉄棍を投げ捨てると先生とおやっさんを押し倒して伏せた!
ビーム発射!
せっかくの雀竜の盾はすでに手放していた。
とっさに右腕で頭部を守る。
ガードした右腕を打ち抜かれ…いや貫通しない!
さすが俺!
この隙に離脱、逃走を図る鳥型獣機!
飛行ユニットが進路を阻止!
マルチタスク。すでに意識共有状態。俺がお前でお前が俺で!
きりもみスピン! 翼端を振って鳥型を叩き落とす。
鳥型獣機を掴むと急降下、地面に押し付け、取り押さえた。トリだけに。
ビームガンは?
三脚は本来固定用で、動かすためのものではないらしい。
動作速度が遅く、動く標的には追随できない。
そこへ、兄貴が放り出した鉄棒が放物線を描いて激突。
すげえ、タモン将軍!!
ただ、投げ捨てただけじゃなかった!




