調査するよ
滝を越えてから30分ほどで鉄蜘蛛の転落現場に到着。
森の下草が少なく、地面も平らだったので順調に来れた。
「あー、こりゃ…」
先生が絶句する惨状。
転落した鉄蜘蛛が森に突っ込んでへし折られた木々が痛々しい。
前回チェックしたときは崖の上からだったし、夜だったしな。
こんなになってるとは思わなかった。
鉄蜘蛛本体は巻き込んで崩れた土砂に半分くらい埋まっている。
「でか!」
「でかいにゃ!」
「でかいな。」
「とても…大きいですわ…」
お嬢様、そういう言い方はどうかと思いますよ。
「あっちに足? が一本転がってるぞ。」
「ううむ、とても持って帰れるような代物じゃないな。」
もげた脚一本が俺の2倍くらいの長さがあるからな。
これだけで1トンは超えてるんじゃないかな。
「とりあえず大きさを測ろう。」
メジャーを取り出した先生、ベータ君、イオニアさんにてきぱき指示を出して行く。
王女様だろうがお構いなしだな。
弟子扱いの二人に対して他のメンバーはちょっと暇。
「お茶の仕度でもしましょう。」
「うにゃ。」
メイドチームは自分で仕事を見つけてる。
デイエート、アイワさんは周辺警戒。
「キララさん、メジャー抑えてください、あっち側。」
おお、ベータ君。あぶれてウロウロしてたキラすけに、気づいたな。
あれ? あぶれてるのは俺?
まあ、記録係ってことで、鉄蜘蛛周囲を回って映像を記録して行く。
うーん、でもこれ、みんなに見せると俺の撮影機能がばれちゃうよなあ。
鉄蜘蛛はひっくり返った状態。6本脚を上に向けた状態。
まあ、1本は折れちゃってるけどね。
腹の部分をじっくり見るのは初めてだな。
半球状にこんもりと盛り上がっている。
メンテナンスハッチとかあるだろうか?
特にそういったものは見当たらないけど…
「おい、アイザック。魔法光で、照らして見ろ。」
先生の指示、そうか、今までの例で言えば魔法陣とかが反応するかも。
両目のライトをオン。照射していく。
特にそういったものは見当たらないか…お?
鉄蜘蛛腹部の真ん中と縁の中間当たりの一角に文字が浮かび上がった。
今まで見たことのない、四角い魔法陣。
「ふーむ、なるほど。」
先生が手早くメモを取る。
「記憶できたか。」
「はい。」
『ハッチのロックですね』
「形式は始めてみるやつだが、内容はただの鍵だな。」
ナビ君と先生の意見が一致。
「これなら…」
指先で触れてなにやら詠唱。
「たいていの鍵ならこれで開く。おし!」
おお、メンテナンスハッチオープン。
ガチンと音がして腹部の装甲板の一部がわずかに跳ね上がって段差が出来た。
半球状の装甲のほぼ中央を支点に縁側が持ち上がる。
さすが、先生。「たいていの鍵」がどこの鍵だったか?って疑問は残りますがね。
「ん?」
どうしました? 先生。
「ここ、見ろ。」
指差すのはハッチの縁の部分。
転がり落ちたし、野ざらしだったから全体に土ぼこりがかぶっている。
その一部に…
「指のあとに見えないか?」
土ぼこりが拭き取られたようになっている。
ハッチの周り、本体側にも痕がついているが…
本体側とハッチ側で痕跡が連続していない。
開けた状態で触ったって事だ。誰かが、転落した後にハッチを開けた?
「しまったな。」
鉄蜘蛛に登って歩き回った後方を振り返る。
「荒らしてしまった。」
俺と先生の足跡。
這い上がってきたから、かなりごちゃごちゃと跡がついてしまった。
別の足跡があったかどうか判然としない。
獣機? だが、電波が来ていないのに?
「とにかく開けてみよう。」
ハッチを開けようとする先生だが、
「何これ? どやって開けるの? 重も!」
鉄製? 鉄じゃないかもしれないけど。
これ、人力じゃ無理。たぶん電動ハッチとかそんなのだよね?
俺のパワーなら無理やり開けられるか?
段差がちょびっとしかないんで持つところがない!
あー、待てよ。ひっくり返ってなければ自重で開くのかも。
ダンパーとか入ってて…そういうことか?
何かがやってきてハッチを開こうとした.
けど、ひっくり返ってるんで重くて開けられない。
鉄蜘蛛が停止しているんで動力もない。
仕方なくあきらめて帰った?
「いや、待て。何か変だな?」
先生が首をひねる。
「鉄蜘蛛が、正立していたとしたら、ここは下側」
「地面に一番近い所だよな?」
「蓋がでかすぎやしないか?」
「これがこっち側に開くとすれば…ちょうどスロープになって…」
「まるで、何か運び入れるための扉みたいだが…」
先生と顔を見合わせる。
コイツは物を乗せて運ぶためのトラックだった。
内部にも格納スペースが有っても不思議じゃない。
「中に獣機が乗っているってことは…」
「ありそうだな。」
チラリと周りを見る先生。お嬢様、メイドたち、キラすけ。
非戦闘員たち。
「開けるのは危険か…」
「ここへ来たやつもあきらめて閉め直していったのかもな。」
先生はハッチの上に立つと、勢いをつけ体重で押し込んだ。
ガチンと音がして段差がへこむ。元通り。
「また準備をして出直してくるか、どっちにしろ開ける方法がないし…」
「あとは…」
ロック魔法陣に何やら細工してる先生。
「よし、これでもう私じゃなければ開けられない。」
「導師、アイザック。来て!」
デイエートの声。
あわてて駆けつける。
「これ。」
足跡?
「ひづめみたいだけど、2足歩行よ。」
「あっちから、こう来て、同じ方向へ帰っていってる。」
「3日くらい前ね、体重は軽い。女の人くらい。」
そんなことまでわかるのか。
「歩幅から見ると、たぶん力は強くない。何か荷物背負ってるかな?」
「うーん、向こう山の方向だな。」
うん、鉄蜘蛛の状況と一致する。斥候か?
電波がないのにどうやって?という疑問は残る。
完全自立行動の出来る獣機がいるのか。2足歩行?
「その辺に居るのか?」
飛行ユニットが探査した限りでは周辺に電波発信体は存在しない。
「ま、今んとこは安全ってことだな、調査を続けよう。」
「さて、お前とキララは予定があったな。」
そう、ダークゾーンが電波を遮断するかどうかの確認。
そのために向こう山の山頂付近で基地局のサービスエリアに入らなくてはならない。
飛行ユニットで行けば早いけど、実験とかを考えると俺本体が行った方がいいだろう。
キラすけも空飛ぶのは怖いだろうし。おもらししちゃうかもね。
両方行くのは警備上不安だしな。
「そうですね、キララさん、出かけますか。」
「時間節約のために私が運びます。抱っこがいいですか? おんぶがいいですか?」
「ふへ?」
何だ? キラすけ、じりじりと後退。
え? 警戒されてる? 何で?
昨日までは仲良かったじゃん。手つないだり、膝に乗ったり…
「やっぱりお前、何かしたんじゃ…」
デイエートの目が怖い。何もしてないですよ! あの夢以外は…
「キララさん?」
「な、何でもない… じゃあ、抱っこ。」
ほら見ろ、何でもないって言ってるだろ。
キラすけを抱き上げる。デイエートの目がさらに険しくなった?
何でだよ!?
「では、行きますよ。」
この辺は打ち合わせ通り…
…なんだけど、キラすけの様子が思ってたのと違う。
例の中二病設定で、
「走れ! 我が下僕よ。この闇の女帝の馬になる栄誉を与えてやるぞ。」
くらいのことは言ってくるかと思ったんだけど…
イオニアお嬢様に失礼のないように緊張してるのか?
それも違うか? やはり、昨日の夢…みたいなやつ。
ナビ君は精神攻撃とか言ってたけど…
なんで俺はあの女性を【黒き宝玉】だと思ったんだろう?
やっぱりキラすけが関係してるのか?
二人して黙り込んだまま向こう山の山頂を目指す。




