撃退するよ
さて、時間は少し戻って。
武装集団の存在をキャッチしたので、飛行ユニットを起動。
馬車の警護に急行…させようとしたんだけど、街道上で馬車後方に二人の男の存在をキャッチ。
明らかにあとをつけてきている。ストーカーか?
ところが、この二人をさらに追跡するものがいる。
街道脇の樹木に身を潜めて巧みに移動。
ユニットのセンサー、しかも上空からでなかったらキャッチできなかったかも。
迷彩服? 服に葉っぱとか着けて樹木にまぎれる偽装スタイル。
タマちゃんは待ち伏せ集団を見張っている。
でも、偵察ドローンはもう一体ある。2号機、出番だぞ。
翼端の格納スペースから射出!
のちにトンちゃんと名づけたトンボ型ドローン。
速い、タマちゃんより速いぞ。
しかも空中でホバリング、無音、安定。
前進、停止だけじゃなく、ホバリングのまま横、後ろにも移動できる。
高性能!
ズームマイク起動。
「ずいぶん慎重だな、隊長は。娘一人片付けるのに。」
「護衛って言っても田舎町の傭兵や、魔道士だろ。」
「しかも女ばかりだ。」
「カロツェ家の屋敷には手が出せなかったが、うまい具合に出かけてくれたな。」
こいつら、待ち伏せしてる武装集団の別働隊か。
「盗賊に化けた本隊が襲撃する。どさくさにまぎれて確実に仕留めろって命令だ。」
「もったいないな、美人なのに。」
「イオニア・カロツェだけ殺せば、後の亜人どもは好きにしていいんだろ?」
「その手があるか。」
胸糞悪い奴らだな。今のうち片付けておくか。
飛行ユニットなら一発だしな。
ん? でもそうすると、こいつらを尾行しているのは何者?
ドローンを移動させて、ズームアップ。
ええ? ハイエート兄エルフ?
ベータ君をストーキングしてるわけじゃないよね?
顔までペイントして、完全偽装。
顔認識システムがなかったら誰だかわかんなかったよ。
獣機戦で使ったのとは違う小型の弓。
追跡に気づいていない二人の男は馬車が見えた時点で、ナイフを抜いて…
はい、終了。
ナイフを見たところでハイエートが矢を放った。
お兄ちゃんの腕前からすれば、棒立ちの人間二人なんて簡単すぎる標的。
ストンストンと後頭部、延髄あたりを射抜かれて、ばったり。声も立てない。
ちょっとずれれば、硬くて丸い頭骨にあたって矢じりが弾かれてもおかしくない。
でも、まあ、外すとか、ずれるとか、お兄ちゃんは夢にも思ってないんだろうな。
さささ、と身を低くしたまま出てきて、急いで倒れた二人を道の脇に引きずり込んだ。
念のため脈を確かめて、手早く矢を抜く。
「血抜きは…いらないかあ… 食べるわけじゃないもんなあ…」
何言ってんの? お兄ちゃん、狩人ジョークだよね?
えーっと? 声かけて大丈夫かな?
と、思った瞬間、お兄ちゃん! ふりかえって弓を構える! 矢を突き付けられた。
「待ってください、ハイエートさん。私です。」
「うわ! びっくりした。」
ドローンを見て目を丸くする。
「アイザックさん…ですか?」
「はい、上見てください。」
見上げると、飛行ユニットが上空旋回中。
「ああー、これもあんな感じの魔道機なんですか?」
「便利ですねえー」
特殊工作員みたいなカッコと、のほほんとした口ぶりがミスマッチ。
「ハイエートさんは何を?」
「ああ、ビクターさんから依頼でね。こいつら、レガシに来た時からずっと監視されてたんですよ。」
「今日のお出かけでお嬢さんに危害を加えるようだったらやっちゃって、ってね。」
そういうことか。ビクターさん、隙がない。
「エルディー導師とアイザックさんが揃ってますからね。」
「アイワも投入したとこ見ると、一気に全部片付けちゃおうってことですね。」
「街に残ってる奴も、今頃は…」
えげつないな、支店長。
それにしても…すごい格好だな。
「ああ、このカッコ?」
「いや、これはこいつらじゃなくて、デイエートに見つからないように、ですよ。」
「本気でやらないと…。勘、鋭いですからね、うちの妹は。」
そうこうしてるうちに、俺の本体側から状況終了のお知らせ。
待ち伏せ武装集団は、先生とアイワさんの働きで片付いた。
「それじゃアイザックさん、楽しんできてください。妹をよろしく。」
「ぼくは、もう少しついて行って、アトラックさんと合流して帰ります。」
上空の飛行ユニットを見上げる。
「あ、こいつらの片付け、頼んでいいですか? もうちょっと向こうへ落としてもらえたら…」
と、言うようなことがあって、飛行ユニットと俺本体は合流。
先生とアイワさんは馬車に戻る。
再び馬車が動き出す。
鉄蜘蛛こと、トラック獣機が転がってる場所までは街道から川沿いにさかのぼる計画。
川まではもう少し。のんびり行きますか。
先生は再び馬車に乗り込んだ様子。
タマちゃんが馬車の屋根にくっついているから中の会話も聞こえる。
「お手間を取らせます、先生。」
お嬢様が謝ってる。
「なんだ、察してたか。ま、ビクター氏のやることだ。予定通りってことだよ。」
「ま、アイザックが居れば軍隊でも来ない限り問題ないからな。」
お嬢様、だいたいのところはわかってるみたいだな。
もっとも、今日はアイワさんが大活躍で、俺はあんまり働いてないけどね。
「馬車を降りてからが大変にゃ、ですね。荷物あるし。」
ネコミミメイド2号スカジィちゃんだな。
「荷物運びにはアイザックがいるし…」
「あと、水運びが楽になったからな。」
「水の固有魔法使いがいてな。そいつに魔法陣に充填させると何倍も入るってことがわかってな。」
水を出す魔法陣護符がある。水筒替わり。
普通は1リットルくらいしか出せないんで、まさに水筒にしかならない。
ところが、人間水筒マビカちゃんに魔力充填させると18リットルは出てくる。
固有魔法が作用して相乗効果が出てるらしい。
ちなみに、マビ公が固有魔法で出せる水は最大バスタブ1杯分くらい。
お風呂の水汲みがわりやらされてた、先生に。
「この人数だから食料も結構重たいですよ。」
これは、サジーさんだな。
「現地調達、する?」
びんっ、と弓の弦をはじく音。
なんだ、デイエート、馬車に乗ってるじゃん。
酔うんじゃなかったのかよ?
あれ? 俺と歩きたかった?
……そりゃ、うぬぼれ過ぎか。
「水魔法の使い手というのはキララさんのお連れの方なんですよね?」
コミュ障っぽいキラすけに水を向けるお嬢様、水魔法だけにね。
気遣いの出来る優しいお嬢様だな。
「う、うん。はい!」
緊張してるな。キラすけ。
「そういや、マビの奴、なんで来なかったんだ?」
「引越しと言ったって、大した荷物もないんだし…ディスカムだけで大丈夫だろ?」
先生が尋ねる。俺もその辺、疑問。
「見張り…」
「見張りぃ?」
「ディスカム一人にすると、色々と…」
「この街…エルフの女の人…積極的だから…あいつ誘惑に弱いし。」
先生、大笑い!
「ああー、確かにな。種狙いな。」
種狙い?
「エルフは基本的に子育ては女達だけでやるから。」
「男は行きずりでかまわんのだ。」
「え? そうなの?」
キラすけ、びっくり。俺もびっくり!
「他のヒト族みたいに結婚とか言う概念がないからな。」
「あいつみたいに才能があって、顔もそこそこいい。しかもエルフハーフ。」
「外から来たからしがらみもない、血筋が遠いから種には最適だし。」
「そりゃあ、子供の欲しい女たちは放っておくまいよ。」
ええー? じゃあ、デイヴィーさんも? 人妻エルフは人妻じゃなかった!!
「実際、ミニイの種父、私も知らないしな。」
えええー、衝撃の事実。…種父! 初めて聞く単語。
翻訳システム、凄い。新語創造か?
「おお、お、思ってたよりずっと危ない…」
「良いじゃないか、何人かに貸し出してやれよ。」
「そそそ、そんな!」
キラすけ、びびってるな。先生、過激なこと言ってるし。
「ダットとタモン将軍みたいなのは例外中の例外だな。」
「そもそも、エルフは男の数が少ないし、」
「街の人口増のためにはハイエートあたりにも頑張ってほしいところだが…妹が邪魔してるのか?」
デイエートに飛び火。
「ちょ、べ、別に邪魔してるわけじゃ! お兄ぃは、まあ、あれだし…」
ああ、あれね。
みんな、ベータ君のほう見たに違いない。
「そろそろ、ベータにも頑張ってもらうか…」
おう、先生。イーディさんが聞いたら大変なことになる問題発言。
ドローンのタマちゃん、御者台のベータ君、写して。
あはは、耳まで真っ赤だ。聞こえてますよ、女子ーズ。
邪魔臭い人体を片付け、ついでに送風魔法で血のあとを誤魔化し終わったところに馬車合流。
「お疲れ様でした、アイザックさん。」
お嬢様、馬車から顔出してねぎらってくれる。優しいね。
欲を言えば、呼び捨てにして欲しい。上から目線で、高慢に。
冷たい目で見下ろされて、
「アイザック、お前にしては上出来ね。」
とか言う感じで褒められた方が、きっと新しい快感が得られる。
そんな気がする、確信。
「これはご褒美よ、ペッ!」
とかされたら、俺は! 俺はもう!
『え、ちょ、そこまで…』
おっと、ナビ君がドン引き!
周辺警戒中、油断はしない。
トンちゃんは先行警戒中だし、飛行ユニットも上空待機。
俺とアイワさんは元のフォーメーション。
デイエートは馬車に乗っててもらおう。




