遠足にいくよ
お屋敷にはすでにメンバーが集合して…いなかった。
居たのは馬車、と馬っぽい牛…だと牛車になってしまうので、牛っぽい馬ってことで。
脚者担当の門番さん。犬系獣人のヒト。
そして、ビクターさんと…角のあるお姉さん。救護院のヒト。鬼人婦長?
「おはよう、警護と言うのはお前だったか、アイワ。」
先生、チラッとビクターさんを見る。
「ちょっと、大げさすぎないか?」
「いえいえ、獣機に雀竜…、今度は何があるかわかりませんから。」
「ふふん? 何が…ね… 私も気をつけよう。」
鬼人婦長は背中にカタナを背負い、腰には別の長剣を帯びている。
軽装の皮鎧、革ズボン。凛々しい出で立ち。
カタナは日本刀だけど特にこれと言って東洋風なカッコじゃないな。
額の生え際に2本の角。帽子とか兜とか、かぶりにくそう。
「よろしく、アイザックさん。」
ペコリとお辞儀。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
こっちも頭を下げる。
「あれ?」
顔を見合わせる。
「お辞儀、するんだ? キミ。」
「こちらでは挨拶としては使わないようですが…」
ちょっと、懐かしい感じ。親近感が湧くね。
「救護院のほうはよろしいので?」
「あっちはアルバイト、こっち…傭兵が本業だよ。」
そうだったのかー、婦長さんじゃなかった。
「もっとも、最近はずっと救護院…」
非正規雇用か、自営業か、どっちにしろ世知辛い。
ベータ君がやってきた。遅れるのは珍しい。
理由は…一緒についてきた。
「イーディさん?」
「見送るって聞かなくて…」
うん、他のメンバー、女の子ばっかだしね。心配だよね。
「アイザック、ベータを頼むわよ。」
心配しなくても大丈夫ですよ、イーディお姉さん。
先生の薫陶を受けたベータ君。顔に似合わず意外とデンジャラス魔道士だからね。
ここ数日の訓練を見てて実感した。
「アイワ! わかってるわね!」
「はい、はい。」
何がですか? 密命を帯びているんですか? アイワさん。
ベータ君に手を出す女は斬り捨てろ的な?
デイエートも到着。
こちらも軽装革鎧、ホットパンツ。
すらりとした太腿がまぶしい。
背には弓と矢。腰には鉈っぽいナイフ。
「おはようございます、導師。」
「おはよ、アイザック。」
ちょっと視線を外し、はにかむ。
こいつは、もー
そして、こっちも引率つき。兄エルフ。
過保護か? そんなに妹が心配か?
「おはようございます、みなさん。ベータ君。」
違った。ベータ君の顔、見に来た。妹は口実。
「ハイエート!」
「うわ! イーディ! 何で居るの?」
「あんたこそ何で来たの?」
ベータ君を挟んでじりじりと牽制しあう。
天敵か?
「まさか、ついてくつもりじゃないでしょうね。」
「いや、いや。デイエートを見送りに来ただけだよ。」
じりじり。
「すいません、お待たせしました。」
お嬢様が出てきた。
ブラウスにチョッキ、革ズボン。
乗馬服みたいな雰囲気だな。お嬢様っぽい。お嬢様ですが。
メイド隊2名。こっちはちょっと…
フレンチメイドがスパッツ履いた様な奇妙なカッコだ。
無理にメイド風にしなくてもよかったんじゃ…
「先生、お姉さま、よろしくお願いします。」
お嬢様に、お姉さま…と呼ばれてるデイエートのほうがなんとなく年下に見えるのは、俺だけ?
甘えん坊モードを知ってるせいかな?
「先日はすまなかったな、せっかくお見舞いにきてくれたのに…」
「いえ、お気になさらず…、はひっ!」
アイワさんに気づいた。鬼人婦長も気まずそう。
「ええ? 救護院の方ですよね? こちらは?」
「私が警護を依頼しました。」
ビクターさんが説明。
「アイワと申します。イオニア様、お見知りおきを。」
ビビってる、お嬢様。
「そちらが…王都からいらした魔道士の方ですわね。」
キラすけ、知らない人いっぱいなんで小さくなってる。
俺の後ろに隠れるように引っ込んでたところをお嬢様に見つかった。
お嬢様はデイシーシー情報網から予備知識を仕入れてるらしい。
貴族出身とかも知ってるんだろう。
「わたくし、イオニア・カロツェと申します。どうぞよろしく。」
すごい、お上品挨拶! すっと腰をかがめる仕草が高貴っぽい。
「わ、我は…え、イオニア…カロツェ家? え? じゃあ、あ、あの?」
どうした? キラすけ。中二病設定が中断。うろたえる。
「わ、わたくしはバッソ家四女、キララと申します。」
「お目にかかれて光栄です。イオニア様。」
え、何それ? お嬢様に劣らぬお上品ご挨拶。
そんなの出来たんだ? お前。
様? キラすけの家は王都でも上の方って聞いたけど、それが様付け?
何者だ? お嬢様?
「えっ? お前、バッソ家なの?」
驚いたような声を上げたのは先生。
知ってるんですか?
「昔、知り合いがいたんだよ。」
「まあ、王都のことはいいか。」
「俗世のしがらみとかすっ飛ばすのが田舎のいいところだしな。」
「さあ、出発しよう、途中までは馬車、よろしく頼むぞアトラック。」
「はい導師。さあ、皆さん乗ってください。」
次々、馬車に乗り込むお嬢様方。
先生が小さな声でつぶやいた。
「そうするとあいつの…孫…いや、ひ孫? どうりでな…」
門番のアトラックさんの御す馬車にはお嬢様、メイド2名、先生、キラすけ、ベータ君。
護衛役は徒歩。右脇を鬼人婦長。左をデイエートがかためる。
ベータ君はデイエートと交代したがったが、却下。
西街道を南に進む。
なんとなしにデイエートと並んで歩く感じに。
「デイエートさんも馬車に乗られたらいかがですか?」
「うーん、一応警護役だし。それに…馬車は苦手、酔う。」
てくてく。
御者台、アトラックさんの隣にベータ君が這いだしてきた。
「どうした? ベータ。」
「いや、女のヒトたちの話題に…ついていけなくて…」
これにはデイエートも苦笑い。
何、話してんだ? 女子ーズ。
「そういえば、なぜ『お姉さま』なんですか? デイエートさん。」
「う、導師に頼まれて…弓とかナイフとか教えたんだよね、イオニアに。」
「何度か山歩きもしたし、今回みたいに。」
「それは…よくビクターさんが許しましたね。」
「うーん、着いて来た、ビクターさん。」
ええ! 大丈夫なのか? 結構歳行ってるよな、あの人。
「見た目通りのヒトじゃないよ、あの人。たぶん、ハーフじゃないかな、異人種の。」
みんな、わけありだな。この街。
街道に出てしばらく進む。
山を回る感じでカーブを曲がると街が見えなくなった。
ちょっとしか移動してないのに、けっこう人里離れた感あるよな。
ん? 先行させておいた偵察ドローン、タマちゃんから連絡。
ヒトがいる? 集団? 武装してる?
「前方に武装集団がいます。」
「何?」
デイエートが一瞬で弓をとり、弦を張る。
アイワさん、アトラックさんも即座に戦闘態勢に。
「何でわかるんだ?」
「小型の空飛ぶ魔道機を先行させています。」
「用心深いな。」
先生も御者台に顔を出した。アトラックさんと相談。
「野盗かな? 厄介ですね。」
「最近、すっかり少なくなったのにな。」
「レガシの、こんな近くで…モグリでしょうか?」
「初心者かもしれん、どうしたものか…」
なんか…会話内容が変ですが?
「うっかり拘束すると後が厄介だし…XXしちゃうのが手っ取り早いか。」
「でも、街道に○体を放置すると問題になりませんか? 衛生的に。」
「帰りに馬車に積んで戻るとか?」
「嫌ですよ、お嬢様用のいい馬車ですよ、これ。」
「うーん、厄介だ。」
厄介の方向性が違うぞ、この人たち。
「街道の脇に潜伏して待ち伏せを、2班に分かれています。」
と俺。
「第1班の前は通過させて、前後を抑えるつもりか…初心者じゃないな。」
と先生。
「事情を知っているならレガシの人間を襲おうとはしないはずですが…」
とアトラックさん。危険人物が多いからね、この町。
「最初からイオニアが狙いか…」
馬車内のお嬢様に聞こえないように声を落とす。
タマちゃんからの映像をチェック。
いかにも野盗って感じのワイルドな衣装だが。
下っ端風の男が頭目風の男に敬礼した。びしっとね。
見た目通りのやつらじゃないね。
ちゃんとした規律がある。
「軍人ですね、野盗は偽装でしょう。」
「なら、手加減はいらんな。」
先生、何でうれしそうなの? すごい笑顔。
アイワさんも凄みのある微笑みを浮かべている。
「先行して片付けよう。アトラック、ベータ、デイエート、馬車を頼む。」
「はい導師、お気をつけて。」
「わたしも行く…」
「デイエートは馬車を守れ、相手はヒトだ。専門外だろ。」
そうだよなあ、妹エルフにはやらせたくない。
まあ、俺だってやりたくはないですがね。
先生が振り返って馬車の中に声をかける。
「イオニア、前方に障害物があるらしい、ちょっと魔法で片付けてくる。」




