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事情を聞くよ


「ちなみに、さすらっては、いません。」

少年エルフが冷たく言い放つ。

「そっちの方がカッコいいだろ。ただの魔導師よりはさすらいの大魔導師のほうが…」

そうだな、確かに。まあ、言っちゃうのはどうかと思うが。

この世界について知りたいことは山ほどあるが、まずは重要なところを抑えておかないと。

「危険を犯して私を起動したのには、事情があるのですか?」

3人とも表情が真剣になる。

テーブルの周りに集まり椅子を動かす。

「まあ、じっくり話そう。お前さんは?」

椅子のことか。

「疲れたりはしないようですが、この身体は。」

「立ってられると、やっぱり気になるな。」

もっともだ、座る。ほんとに思ったより軽いぞ、この身体。


先生とおやっさんが交互に話すような感じでレクチャーを受ける。

ここ一帯の土地はロスト地方と呼ばれる。

エルフ、ドワーフ系の、人間種からは亜人と呼ばれる種族が多く住み、定住する人間は少ない。

交易や仕事で訪れる者は多いので、人間がめずらしい、と言うことはないそうだ。

人間の国ほどかっきりした統治体制、政治体制はない。

先生はこの遺跡から発見された魔道機体を何年も研究していた。

ところがここ数年、別種の魔道機体が現れ活動を始めた。

四つ足歩行の獣のような魔道機。そして、亜人系、人間を問わず襲う。


人々はそいつらをこう呼ぶようになった。

「あれが魔道機の動きか!? まるで獣だ、機械の獣、きか……」……獣機じゅうき!!

うん、翻訳機能上の日本語表記は「獣機」ってことで。ふう。


交易隊を襲われた人間の国の軍隊が退治に来たこともあるが、かなわなかった。

特定のテリトリーでしか活動しないので、人間国まで攻めてくる怖れはないと判断。

結局あきらめて撤退。

亜人たちも獣機の活動範囲を避けて生活していた。

もともと人間を襲う野獣、魔獣、魔物はそれなりに存在していた。

今さら一種類増えたってそれほど大した問題ではないと思われたのだ。

だが、獣機たちはテリトリーを拡大しているらしい。

「巣を作るんだ、やつら。」

「巣?」

つかといったほうがいいかな。」

「山の上とか、見通しのいいところに骸骨みたいな塔を立てる。」

「そうするとその塔が見える範囲はやつらの縄張りになるんだ。」

…あれ、それって?


この遺跡の壁画に獣機によく似た魔道機とヒト型魔道機が戦っているシーンが描かれていた。

ヒト型魔道機、つまり俺。を、起動できれば対抗策になるのでは?

マスターの称号持ち、魔導師エルディーは研究を進めていた。

だが、ついに遺跡のあるこの街、レガシの街に奴らのテリトリーが拡大してきた。

一つ向こうの山の山頂に骸骨塔が作られ始めた。

幸い、山向こうには集落はなく、人もほとんど住んでいない。

でも、それが完成すれば、次は街の見える山に塔を作ることが可能になる。

街には工房や教会。市場や救護院もあり、簡単に捨てるわけにはいかない。


「街の危機を救うために、おひとりで危険な実験を強行されたのですね?」

たいしたもんだ、この先生。

「えっ?」

えっ?て言ったよ、この先生。

「あ、ああ、ああ、そ、そうだ。うん。」

「偉いな、わたし、な!」

……違うわー。やりたかっただけだわ、この人。

やりたかったから、やった、後悔はしない。かえりみはせじ。

周りから止められていた実験を強行する言い訳に街の危機を利用しただけだわー。

マッド魔導師だわ、知ってた。

おやっさんも知ってた、と言う顔。

少年エルフは…まだ、わかってない顔。


獣機。

俺、そんなやつらと戦うことを期待されてるの?

警察官でも自衛官でもないんですけど。格闘技の経験もないし。

逃げたい、怖い。

…だが冷静だ。淡白になったのはエッチな気分だけじゃないのか?

怖いとか、怒りとか、悲しいとか、そういった感情が無くなっているのか?

いや、無くなっている訳じゃない。現に今、怖い、と思っている。

演算装置としての脳が生み出す「感情」は「肉体」に作用する。

神経伝達物質とかホルモンとかが肉体に作用する。

交感神経とか副交感神経とかが反応し、悲しめば涙が、怖ければ震えが、喜べば笑いが起こる。

一度起こった肉体反応はすぐ消失するわけじゃない、後を引く。

スマホならアプリを終了すればそれで終わり。

「怒りがおさまらない」とか「ずっとモヤモヤしてる」なんてことは無い。

「しんぼうたまらん」こともない。

データを共有しないアプリなら相互作用も無い。

誰かに怒ったついでに関係ないヤツに当り散らすことも無い。

たぶんこれが、この冷静スッキリ感の正体なんじゃないかな?


「とにかくその塔を破壊しましょう。」

戦い方はよくわからないが、対策はわかる。

その「塔」、骸骨塔は基地局だ。

基地局を増設することでサービスエリアを拡大する。

おそらく獣機たちは移動体通信網から命令を受けて活動している。

もしかしたら制御そのものもサーバー側で行なっているのかもしれない。

ならば基地局を破壊して「圏外」にしてしまえばいい。

それだけじゃない。

これまでの話から、この通信網には光ファイバーのような有線インフラがあるわけじゃない。

すべて無線の中継でサービスエリアを拡大している。

途中の中継基地を破壊すれば一気に広い領域を圏外に出来るはずだ。

そして基地局をたどっていけば…


とにかく情報が足りない。獣機の強さは? 数は? 骸骨塔の防備体制は?

時間的猶予は? こちらの体制は? 避難計画? 防衛設備?

そして武器は? この身体の戦闘力は?


「建設中の山向こうの塔には、見張りがつけてある。」

「向こう山のが出来上がったからと言ってこっちに来るとは限らんのだが。」

「誰が見張りについてるの?」

「ハイエートとタモン将軍じゃ。」

将軍?

「ハイエートさんはエルフの戦士、タモンさんは人間の元軍人です。」

少年エルフが説明してくれる。

「将軍ちゅうのはあだ名じゃな。」

軍人がいるのは頼もしい。こっちは素人だし。

「骸骨塔の位置、と言うか、地理を確認したいですね。地図とかはありませんか?」

「あるかね?」

おやっさんがエルフ先生に尋ねる。

「ええ、とー」

先生が目をむけたのは部屋の隅。

うず高く積まれた本やら巻物やら何やら…

「ワシの工房へ行ったほうがいいな…」

ため息だ。


このままじゃ目立つよね、俺? 何か羽織るとか?

少年エルフが、フードつきのマントを持ってきてくれた。

「これ、どうでしょう? 雨具ですが…」

「うむ、ちっとはましか。」

ちょっとつんつるてんだけどね。

「あと、エルディーはもう少しましな格好で来るように。頼むぞベータ。」

「はい、後から追いかけます、工房ですね。」

「え? わたし? この格好、変?」

変ですよ。

そのシャツ、シミだらけだし。急いで羽織ったから下着つけてないでしょ。

ポッチとか、ゆさゆさとか、大問題ですよ。

ボタン掛け違ってるから隙間から肌色がチラチラしてますし。


おやっさんの後について、やや上り坂の通路を進む。

石造りの壁に無理やりくっつけたようなパイプが這っている。

伝声管か、さっきの。

突き当たりに、いかにも後付けと言う感じの壁とドア。

外へ出る。

陽が高い。なるほど朝じゃない。

………

アンテナが立った!!



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