お嬢様をご招待するよ
休憩の後、特訓再開の前に先生にお使いを頼まれた。
カロツェ家のイオニアお嬢様にピクニックの招待状。
都合のいい日を聞いて来いと。
さらに、妹エルフデイエートの様子見と、可能ならピクニックへの同行を打診。
デイエートんち知らないですけど?
「ああー、工房のあっち側だ、その辺で聞け。」
てきとー!
先生から手紙を預かる。
「さて、続きをやるぞ!」
先生の掛け声に張り切るディスカム。
あんまり張り切らないマビANDキラ。
「はい! 先生!」
「ふあーい」
「ふひ…」
まあ、頑張れ。
「導師」だったのが「先生」になってるな、ディスカム。
さて、俺はどうしよう。
さすがにもう、このままの格好でもびっくりする人は居ないだろう。
だが、イオニアお嬢様に会うとなると少しカッコつけたい。
工房でマント借りて行くか…
服飾工房の黒エルフ、デイシーシーはおそらくお嬢様の情報網に絡んでいる。
ベータ君女装事件の情報がいち早く伝わっていたことから見ても間違いあるまい。
のぞき事件もあるし、すこし懲らしめてやらねば。
工房へ入るとまずおやっさんに挨拶。
今日は手伝えなくてごめん。
「おう、アイザック。どうだ? ディスカムは。」
「張り切って、先生にしごかれてます。」
「はは、そうか。」
おやっさんところに泊まった晩に話をした。
当人たちの前では話しにくい、マビキラの事情も聞いたと。
「ワシの口から言うのは何だし…お前も機会を見て話聞いてやってくれ…」
おやっさんも情が移ったみたい。
さて、服飾工房へ。
外から中を窺う。ズームマイクモード。赤外線探知。
居たな。デイシーシー。体型でわかるぞ。
むっちりダークエルフめ。
「こんにちは、デイシーシーさん。」
さっと、店内に入ると最初に名前を呼ぶ。逃がさないぞ。
「あ、う、いや、その」
ギクッとして青ざめた、たぶん。ガングロ化粧でわかんないけどね。
「いえ、先日の男風呂のことではないので」
知ってるぞ! と念押しする。
「これからカロツェ家へ行くのでこの間のマントを貸していただけないかと。」
「デイシーシーさんはイオニアさんと話されることが?」
「あと、デイエートさんの家の場所をご存知でしたら…」
プレッシャーをかける。
お嬢様にいろいろ噂話伝えてんだろ?
デイエートものぞきのこと知ってんぞ!
びびってる、びびってる。
こんなとこでカンベンしてやるか。
「私は起動して間もないもので、この街の事情について知識が足りません。」
「機会があればデイシーシーさんにもお話を伺いたいと思っております。」
「お、う、ほほう。あちしはその辺詳しいっし。」
きらりと光る眼。おしゃべりめ。噂話大好きエルフか。
「今日は残念ながらお使いがありますが…」
「お嬢んとこ行くっし? 何の用?」
情報発信するには、まず情報収集か。懲りないやつ。
「エルディー先生のフィールドワークへのお誘いですよ。」
「デイシーシーさんもご一緒にいかがですか?」
イオニアお嬢様とも色々親しいようだしな。
「山越え? キャンプ? アウトドアはー…あちしは遠慮するっし…」
よそいきマントをお借りしてカロツェ家へ。
犬系獣人の門番さんに取り次ぎを頼む。
さっそくネコミミメイド1号サジーさんがやってきた。
「魔道機さん…アイザックさんどうぞ。お嬢様がお会いになります。」
「アリガトウ・ゴザ…」
もう、これはいいか。
「ありがとうございます。」
サジーさん、うふふって顔。もうばれてたね。
お嬢様は居間でお待ちでございました。
「イオニア・サマ・オメニカカレテ・コウエイ・デス」
「それはもういいですわ。」
あきれたようにため息つかれた。ま、そうだよね。
でも、一応、受けるかと思ってやってみました。
「ビクターやシーシーから聞いています。」
「申し訳ありません。私も起動したばかりで自分の立ち位置に迷っていたので。」
「あら?」
びっくりしたような顔。
「あなたでも迷うのですか? 獣機や雀竜から街を守った英雄ではありませんか。」
英雄? 俺が? そんな風に考えたことは無かったなあ。
「私はただの魔道機です。目の前にやるべきことがあっただけです。」
「今日はエルディー先生からのお手紙をお持ちしました。」
「ご苦労様、でも手紙なんて…屋敷に来てくださればいいのに…」
うーん、アイツらの訓練があるからなあ。と、これは言わない方がいいか。お嬢様が拗ねる。
「新しくお弟子さんを取ったと聞きましたよ?」
う、つっこまれた。
「弟子と言うわけでは…王都から来た年少の魔道士に護身術を教えている程度のことです。」
「王都から…」
話しながら手紙の封を切り、読み始める。
「まあ、獣機の残骸の調査…私も同行を?」
笑みがこぼれる。ホントに先生のこと好きなんだなあ。
「ああ、でもビクターが許してくれるかしら?」
ああ、でも、大丈夫だろう。
元はと言えばビクターさんが、お嬢様拗ねてるから何とかしてって言ってきたんだし。
「私も同行しますし、デイエートさんにもお願いするつもりです。」
「お姉さまも? まあ、」
「あ、でもお身体は大丈夫なのかしら?」
「大丈夫かと。雀竜退治の時も大変な活躍でしたし。」
男風呂のぞき隊も撃退したしな。
「ここへ来る前、服飾工房へ寄ってきましたが、デイシーシーさんとはよく話されるので?」
「ふふ、シーシーの家はすぐお隣ですわ。」
「ビクターが厳しくてあまり外出が出来ないので、街のことを色々と、ね。」
悪戯っぽく笑う。
「サジーや、スカジイとも幼なじみですしね。」
なるほど。
「うにゃ、お嬢様、お茶とかどうするにゃ?」
おう、ネコミミメイド2号、スカジィ。困惑の表情。
あー、普通ならお茶出しするとこだもんな。
「私は飲食できませんので、皆さまでどうぞ。」
「サジーも呼んできてちょうだい、相談がありますから。」
ああ、そうか、メイドさんも同行するかー。
そうすると馬車とかで行くことになるのか?
お茶を持ってきたサジーさんとお嬢様が相談を始める。
「場所はどの辺ですの?」
あー、地名知らないやオレ。
何か書くものありませんかね? 地図だったら描けますから。
サジーさんが紙と木炭? コンテ?みたいな筆記具を持ってきた。
地図を描く。
あったよ、映像を出力する方法が。
描く、というより印刷する感じだ。
人間が線を引いて絵を描くのがベクター処理だとすると、今のオレはビットマップ、ピクセル処理。
木炭で紙の上をワイプしながら木炭を押し付ける強さを変えて描画していく。
「えええ?」
「な、何が起こっているんですの?」
「うにゃにゃ? 魔法? 魔法?」
まあ、人間が絵を描くのとはだいぶ違うよね。
完成。印刷時間は1分ほど。解像度は30DPIってとこか。荒!
白黒2値じゃなく木炭を押し付ける強さがアナログなので、地形のわかる陰影のついた地図になった。
向う山まで走った街道もちゃんと記入。
「ここが南の山、こっちが向う山の山頂、鉄蜘蛛と呼んでいる獣機の残骸がここですね。」
「ここなら途中まで西街道を進んでこの川を遡った方がいいですね。」
サジーさんが指摘してくれる。
あ、そうか。
俺は骸骨塔を破壊するために山頂を経由したが、ふつうなら何も山越えする必要はないんだ。
「でも、この地図…すごい…詳しくて、地形もわかるし…」
お嬢様が何か考え込んでいる。
しまった! 地図は戦略上重要なツール。
衛星も航空写真もないこの世界。
ましてや複数映像から3D地図を作るなどと言う方法は存在しているはずもない。
測量法が有るかわからないが、正確な地図は現地を歩いて作るしかないはず。
伊能忠敬が測量した日本地図は彼の没後1821年に完成したと言われる。
それは軍事機密だった。
1828年、オランダ人医師シーボルトがその写しを本国に持ち帰ろうとしたことが発覚。
疑獄事件に発展した。
そのくらい重要。
この能力は見せるべきじゃなかったか? うかつだった。
「この能力があれば…もっと細いペンで…」
え? 何?
「ベータ君の女装姿を絵で再現することが…」
何考えてんだよ! やりませんからね。




