剣術を習うよ
先生もマビキラも起こさなきゃなー、でも気持ちよさそうに寝てるしなー。
とか迷っているうちにベータ君、ディスカムが到着。
「おはようございます、アイザックさん。」
「おはようございます、ベータさん。ディスカムさん。」
ベータ君はいつも通りとして、ディスカムはずいぶん早起きだな。
「おはようございます、コウベン工房長と一緒に工房に来たので…」
おやっさんって言うか、工房の職人さんたちは朝早いからなあ。
「うにゅにゅ…」
「ディスカム、おはよ…」
声を聞きつけて起きて来たな、マビキラ。おーい、裸ん坊だぞー。
「わわわ!」
ベータ君があわてて後ろ向く。
ディスカムは…割と平気だな。
「こら、はしたない! ちゃんと服着なさい!」
怒られたぞ、おまえら。
がたっ! 寝室の中で物音。
「え、あ、ごめん。はしたないよね。」
ああ、先生も素っ裸で出て来ようとしてたんですね。
はしたないですよ、ちゃんと服着てください。
そして残念そうな顔しない、ディスカム。
「え? この毛皮…ムート鹿?」
毛皮の敷物片付けを手伝ってくれたディスカムが硬直。
「家くらいの大きさの巨獣…凶暴な奴ですよね? 毛皮はすごい高級品じゃ…」
「そうか? ハイエートが狩ってきたけどな。」
さすがお兄ちゃん。
ベータ君が買ってきてくれた食料でみんなで朝食。
これだけの人数がいるとにぎやかだ。
あれ? マビ公とキラすけの服、昨日と入れ替わってる。
マビ公があっさり。キラすけがフリル付き。
まあ、たしかにそっちの方がしっくりくるね。
「皆さんの住居に関しては2、3日中に組合長と相談して準備する、とコウベンさんが。」
ベータ君が説明してくれる。
「まあ、ディスカムの腕前なら働きどころはいくらでもあるからな。」
「この街に腰を落ち着けるかどうかはゆっくり考えればいい。」
「今日のところは王都の話でも聞かせてもらおうか、学園で教えてる内容にも興味がある。」
先生が興味津々だ。
「こいつらの固有魔法も調べてみたいしな。」
ちらりとベータ君を見る。
「ベータにも刺激になっていい。」
なかなかの教師っぷりですね、先生。
「荷物はよろしいんですか? 東の川近くに拠点があるのでは?」
川近くの洞窟とか、ホームレスっぽいなあ、お前ら。
「あ、そうだ。取りに行かないと…」
「そんなとこに洞窟なんて、わたしも知らないぞ。」
場所を聞いてみると、川沿いでカロツェ家の屋敷近く。
実は3人はカロツェの隊商にくっついてレガシまでやってきた、とのこと。
「先月の便だな…、しかし、よく知ってたな、レガシ行きなんて。」
「この街のことを教えてくれた人が、隊商のことも…」
「王立学園の図書館の史料を閲覧にきたエルフの魔道士さんです。」
「ほう、エルフ? 至上主義者は文句言わなかったのか?」
「前学長の紹介状を持ってきたらしくて、彼らも口は出せなかったらしいです。」
「エアボウドの? ふーん…エルフの魔道士ねえ…」
「ハイバンドさんって言ってました。」
がたっ! っと先生とベータ君が同時にずっこけた。
「え? ご存知の方なんですか?」
「ああー、知ってる。よく知ってる。わたしの弟子だからな。」
「ベータとイーディの兄だ。」
先生が渋い顔して俺の方見ながら言った。説明ありがとう。
「10年以上、音沙汰無しだと思ったら…王都か…」
「エアボウドも絡んでるのか……」
ベータ君も渋い顔してるのはなんで?
「そのこと、姉さんには言わないでください。機嫌が悪くなるので…」
「ええ? イーディ道士?…ええ、はい…わかりました…」
家庭の事情か、深入りはすまじ。
とりあえず、荷物を取りに行くことに。
ほとんどマビキラの荷物でディスカムのはカバン一つらしい。
全員でゾロゾロと。先生もついてくる。
「洞窟が気になる。この辺り遺跡が多いから、もしかしたら…」
なるほど。男湯の石がトンデモ遺跡だったくらいだしな。
「今日のうちに見とかないと、たぶん明日は筋肉痛…」
痛くなるのが1日遅れるのは、まあ、そういうお年頃だってことですね…
街の塀の外側を回る感じでとことこ歩く。
天気が良いからピクニック気分。お弁当とか持ってくれば良かった。
バーベキューとかね。飯盒炊爨とかね。
ゆるーいキャンプとかね、略さないように。
洞窟に到着。ホームレスキャンプ。よく暮らしてたな、お前ら。
土手に生えた木や草に隠れるように洞窟が。
ここ、川の水大丈夫なのか? 増水したら危ないんじゃ?
洞窟の前にテント、というかタープ? これがなかったら気づかなかったかも。
その洞窟は、なんか中途半端な深さだ、5、6メートルくらい?
「すぐ、行き止まりですよ。」
「ふーむ、なんだろうな。自然に出来たもんじゃないな。」
「水路跡かな? アイザック、灯り。」
はいはい、アイライト、オン。
うわ、あったよ魔法陣。
魔法光に照らされると洞窟の側面と行き止まりの壁に浮かび上がった。
「やっぱり遺跡か、読めるか?」
「男湯石にあった魔法陣とは違いますね。」
どう? ナビ君。
『地下遺跡への通路です』
『魔力枯渇、作動不可』
「地下にある遺跡への通路みたいです。今はふさがっているみたいですね。」
「まさかアイザック遺跡からつながってるんじゃあるまいな?」
なにそれ、勝手に名前付けないでよ、先生。
『つながってますよ』
まじ? もしかしてレガシの街周辺の遺跡って全部地下でつながってるの?
街の地下全体がダンジョンってこと?
荷物は思ったより少ない。俺が荷物運びするまでもないか。
自分の荷物は自分で…
おーい、石投げて遊んでんじゃねえ! 荷物もて! マビキラ!
帰るぞ!
途中まで戻った所で俺はみんなと別れ、工房へ行くことにした。
「工房でおやっさんの手伝いをします。夕方には戻ります。」
「ああ、おやっさんによろしくな。」
工房へ行くと、男風呂の修理が急ピッチで進められていた。
割とてきとーに。女湯みたいに開閉天窓とかしゃれた仕組みはないみたいだ。
屋根がありゃいいや的な投げやりさ加減。
まあ、男湯だしな。そんなもんだよな。
「おやっさん、何かお手伝いすることありませんか。」
「おお、アイザック、頼むぜ。」
ってな感じでお手伝い。ウロコの穴あけ作業。
俺用マントだけでなく、大漁状態の雀竜のウロコの加工をいろいろ手伝う。
マント用と胴鎧用では穴の開ける位置が違うとか。
ウロコの大きさと並びの選択が出来上がりの具合を左右するとか。
勉強になる。
お昼ごろの休憩時間にタモン兄貴がやってきた。
木でできた剣を2本かかえてる。
「おーい、アイザック。剣術、やってみようぜ。」
確かに獣機や雀竜との戦いで、手持ち武器が有ればなあ、と思うことはあった。
自分がど素人なので、あきらめてたわけだが。
「まず、基本の構え。」
剣道と同じだ、中段。正眼の構え。
スポーツである剣道で基本とされることや、「正」の字が入ってることで「正々堂々」みたいなイメージがある。
でも実は「相手の嫌がることをやる」という格闘技の基本に忠実な構えだ。
要するに一番いやらしい構え。
相手の目に向かって剣先を突きつける。視線と同線上に刀身が位置するから刀の長さが見えない。
更に、人間の目は両眼で遠近感を測るから、剣先を見ると相手の体がぶれて見える。
じゃあ、相手の体を見ると、今度は剣先が二重に見える。
素人が最初に面食らうところだ。うほ、うまいこと言った、剣道だけに!
だが、この機体の場合は二つの目で見てるわけじゃない。全天センサー、昆虫の複眼に近い感じ。
遠近感をどうやって把握してるのかはちょっと不明。
全方向が見えるだけじゃなく、すべての距離に同時にピントが合う。
正眼の構えに戸惑うことはない。
その構えから、すっ、すっ、すっと剣を動かし姿勢を変える。
元の構えにもどって、今度は別パターン。
くりかえして、都合、3パターン。
「憶えた?」
「憶えた、と思います。」
「じゃあ、やってみて。」
真似をする、3パターン。
「いいね、それを速く! 出来るだけ。」
「こう! ですか?」
「うお! 速!」
今度は兄貴も剣を持って、対面に構える。
「剣が触れ合った瞬間に第1のパターンで動いて。いくぞ。」
おう、なるほど。剣先を払い、相手が戻そうとするところをかいくぐって一撃。
っという動きだったわけか。
「うおっと! 迅いな!」
俺の剣を受け止める兄貴。
第2、第3のパターンもやはり一連の攻防を想定したものだ。
これが「型」ってやつか。
攻防のパターンを何百、何千回と反復することで、条件反射化する。
脊椎反射で自動的に攻防を行なうわけか。
カンフーの套路とか、カス・ダマトのナンバーシステムとかもそんな感じ?
この機体なら一回で記録できる。反復練習は必要ない。
高速思考を使えば、脊椎反射と同じ速さで思考動作が出来る。
もとより筋力、スピード、視力は人間を超えてるし。
なるほど、タモン兄貴の言うとおり、剣豪も夢じゃないぜ。
「この型を連続でつないだり、途中でキャンセルして別の型に切り替えたりするわけだ。」
意外と格闘ゲームとかと共通点ある?
「次はこう。」
こう? あれ? いやごめん兄貴。俺の肩、そっちへ曲がらない。
さすがに可動域が、内骨格の人間と同じってわけにはいかない。
硬いわ、この身体。
「ははは、万能ってわけにはいかないか。」
さらにいくつかの型を習う。
「やっぱり道場とかで、組み手とかされるんですか?」
「んー、あんまりしないな。」
そうなの?
「道場とかではケガしないよう手加減必要だろ。寸止めの変な癖がついたら実戦で死ぬ。」
「止めようとする打ち込みと、殺す気で振りぬく打ち込みとじゃ3倍くらい速さが違うからな。」
スポーツとは違うってことか。異世界だなあ。怖いわ。
休憩がてら見物していたおやっさん。
「うーん、アイザックのパワー、スピードに耐えられる剣かあ。難しいな。」
「やっぱ、鉄棒かな、俺みたいに。」
でも、持って歩くの大変そうだよな。
「そういえば、こちらにも日本刀があるのですね。」
おやっさんの顔色が変わった。
「カタナを知ってるのか!?」
救護院の鬼人のお姉さんが使ってたやつ。
「アイワだな、使ってたのは。」
「東方の武器らしい。見せてもらったが、どうやったらあんな風になるのかわからん。」
アイワさんって言うのか、鬼人婦長。
超硬いウロコの雀竜を真っ二つ、一刀両断する腕前らしい。
直接見たわけじゃないが、気魄がすごかったよな。
「持ち主のアイワも作り方までは知らんて言うし…」
「私も本で読んだ程度のことしか知りませんが…」
「うーん、それでもいい。知ってることを聞かせてくれ。」
作業再開しながら、おやっさんとカタナ談義。
まあ、聞きかじりの知識じゃ大して役に立たないが。
「なるほど、やっぱり鍛造か、折り曲げの回数が違うのかな?」
「折り曲げの方向? 流派で違う? ああ、それであんな地肌が出るんだな。」
「しかし、あんまり折り曲げると空気が入って…そこが技かな?」
「皮鋼? 硬い鋼と柔らかい鋼を二重に? 質のいい鋼を節約するってことか?」
「片刃で、反りは焼き入れの時決まる?」
「そうか、焼き入れの時の膨張を反りで逃がせるなら、焼きなましを軽く済ませられるかも。」
「横や、後ろからの衝撃には弱い? だろうなあ、やっぱりアーチ形がキモなんだな。」
「引いて切る? なるほど、あの形ならどう振っても引き斬る感じになるもんな。」
「ああ、それで刃と直角に研ぐのか。極小のノコギリってわけだ。」
「あの先っちょはどうやって作るんだ? 知らないかー。」
俺が一言うとおやっさんが十わかる感じ。さすが専門家。
さて、作業も一段落。夕ごはんまでには帰りたい。
と、そこへダット姐さんがやってきた。
「ちびっこたちの服、洗濯できたわよー。」
「ありがとうございます。デイエイティさん。」
「あー、はは。ダットでいいよ。ん? あんたが礼を言うの変じゃない?」
んー、そうだよなあ。別にあいつらの保護者ってわけじゃないが…
ん、何か?
「導師に一応伝えといて欲しいんだけど。」
マビキラの服を渡してくれる。顔を寄せて小さい声。
「この子らの服、特に黒い方のはものすごい高級品だよ。」
「だいぶくたびれてるからちょっと見、気づかないけど…」
「王都出身でこの服。かなりいいとこのお嬢なんじゃないかな。」
うーん、やっぱり訳ありなのか? キラすけ…




