救護院へ行くよ
時間は少し戻る。
飛行ユニットにタスクの一部を移した俺。
雀竜にさらわれた人間の救出はそっちの俺に任せて、こっちの俺は地上のことをやる。
先生が放った終末級魔法で雀竜どもはすでに逃げ腰。
今だに、人を襲おうって奴は空気読めない系。KY。
って襲われてる人いた! 黒マント!
痛い魔道士だ! 二人組み。マビカちゃん、キララちゃんか?
ホバリングしながら掴みかかる雀竜に杖で応戦。
何やってるんだ? 建物に逃げ込め、なんで外うろうろしてるの?
路上に転がっていた石を拾うと、投擲!
うわっ! ぶち抜いた! 石炭より硬いから?
「え?」
唖然とした顔で振り返ったのは…違う、少年だ。
マビキラより背が高い。十代後半くらいか。
あー、一番最初に見かけたヒトだな。
「なな、何だアンタ?」
わざわざ怪しく見える黒マントを羽織っている痛魔道士。
その黒マントを脱いだほうがより怪しく見える俺。
負けたっぽい気がする。
もっとも、今は痛魔道士の方もほとんどマント脱げちゃってるけど。
「ひいいーっ、魔道機!!」
悲鳴を上げたのは…えーっと…なんだっけ?
ほら、あの、黒いなんとか…ことキララちゃん。
こっちもマントがぼろぼろだ。
ダット姐さんも褒めてた服が泥だらけ。
「まだ、危険です。建物に入ってください!」
「い、いや、それが、仲間が…」
少年が上空を見上げる。
「マビカが攫われた! 助けて!!」
キララちゃん、キャラ忘れてる!
って、攫われたのマビカちゃんかよ!
「助けて! マント燃やしたの謝るから!!」
「裸に剥いてもいいから!」
ぎょっとして振り返る少年。
キララちゃん、どうしてそこだけ取り出すかな?
「大丈夫…かどうかはわかりませんが…」
えーと、どう説明したらいいかな。
空飛ぶ俺が救出に向かいました、って俺が言う?
「…空を飛べる魔道機が救出に向かいました。信じて待ちましょう。」
とか、説得してるうちに別の雀竜が襲ってきた。
上からではなく、横から。
低空飛行で地面すれすれに滑空、上ばかり見ている人間の死角をつく作戦。
なかなか賢い。
でも、全天視界の俺には通用しない。
逆にこちらから突進。
あわてて上昇しようとしたところの脚を掴む。
こいつらの飛翔能力は高い。はぐれ雀竜は俺を持ち上げた。
だから付き合わない。つかんだ腕を切り離す。
掴まれていることに気づいているのか、いないのか。
雀竜はいったん上昇、俺の頭越しに痛魔道士たちに襲い掛かろうとする。
はい、拳骨シュート点火!
突然、わけのわからない推力に振り回された雀竜はきりきり舞い。
地面に激突! 転げまわる!
駆け寄って踏んづける。
片手でくちばしを掴んで、折りたたむように首をへし折る。
ゴキ!ボキ! 必殺仕置人。
拳骨シュートを拾い上げ、接続!
一応、指を動かして問題ないことを確認、わきわき。
人間ではありえない戦いっぷりを見て硬直する痛魔道士二人。
ちょうどその頃、空の上の俺は雀竜からマビカちゃんを奪還。
帰還コースに入った。
「大丈夫、マビカさんは救出されました。」
今、スカイエクソンに掴まれて暴れてるところ。
「元気です、念のため救護院に運び込みます。そちらへ向かってください。」
「あ、あなたはどうしてそんなことが、わかるんです?」
弱ったな、そもそも【通信】という概念が存在しないこの世界。
その更に上を行く意識共有を説明する方法を思いつかない。
「他にも雀竜がいるかもしれません、今は、行動を。さあ!」
行動を促す。少年の方が反応した。
「行こう、キラ。今、俺たちはこの人?を信じるしかない。」
「う、うん…」
キララちゃん、涙ぐちゅぐちゅ。
「ありがとうございました。」
少年が頭を下げ、キララちゃんを引っ張って走り去る。
全然痛い魔道士じゃないな? あの少年。マビキラとどういう関係なんだ?
上空を旋回して偵察する空の俺と情報を共有しつつ工房へ戻る。
中庭に、今度は雀竜の死骸が並べられていた。
おやっさん、先生が指揮を執っている。
「なんとも、こりゃあひと財産じゃな。」
そういえば、高級素材だっけ。
「街の被害しだいだが…それなりに出費もあるだろうから、ちょうどいい。」
「とりあえずは風呂の修理だなあ。」
あ、やっぱり。男風呂の屋根が吹っ飛んでる。
「先生、おやっさん。戻りました。」
「おお、どうだった?」
「捕まっていた子は救出しました。」
「そうか、良かった。」
胸をなでおろす、先生。
出っ張ってるからホントになでおろしたら引っ掛かるよね。
「あの、空飛ぶ魔道機はどうした?」
「今、救護院に着陸してます。」
その救護院にけが人が次々やってきたり、運び込まれたり。
『アイザック、聞こえてる?』
イーディお姉さんの声だ。
スカイエクソンとの意識共有を、いちおう通信みたいなもの、と認識出来ているらしい。
あー、先生が北の遺跡で伝声管使ってたもんな。あんな感じか。
『手が足りないのよ。先生に来てもらって。』
『あと、デイヴィーも呼んできて。』
了解!
「だ、そうです。」
先生に説明する。
「わかった。あー、お前デイヴィーの家…わかんないよなー」
「よし、まずデイヴィーんちだ、急ぐぞ。」
はい、先生。
「ん、」
え、何?
「抱っこ! そっちの方が速いんだろ?」
ええー? そりゃ確かにそうですけど…
「緊急事態だからな、うふふ。」
エルディー先生をお姫様抱っこ。指示に従ってデイヴィーさんちへ。
走る! 時速40キロくらい、安全運転。
「うひゃひゃ、これはいい。楽ちんだ。」
あくまで緊急事態だからですよ。先生。
さて、人妻エルフ宅に到着。
「デイヴィー、居るか? エルディーだ!」
ドアを叩く。旦那さんが出てきたらどうしよう? ドキドキ。
いや、別にやましい所があるわけじゃないんですけど…
「先生! 良かった。」
「すまんが、救護院の応援を頼む。」
「はい、ミニイがいるんで出るわけにもいかず、どうしようかと…」
「コイツがいるから途中は安心だ。」
今気づいた。先生の服が…俺の触ったとこ真っ黒。
あ、先生、ごめん。
石炭投げてたから、俺。そのまま抱っこしちゃったから…
「ええ? ありゃりゃ?」
先生も気づいた。
「ええい、仕方ない! ちょっと我慢しろよ。」
魔法陣を展開。俺の身体に…お掃除魔法?
おお、汚れがはじかれて…あ、これ、けっこう痛い!
デッキブラシでこすられてる感じ。ゴシゴシぷるん! ぷるんは無いけど。
キレイになった。これで抱っこも大丈夫。ミニイたんもオーケーですよ。
デイヴィーさんとミニイたんも準備完了!
「あいじゃくおかさんいっしょだっこ」
「え? ええ? 抱っこなんですか?」
「速いからな、デイヴィーとミニイ一緒に抱っこいけるな!」
「はい、一回やってるので大丈夫です。」
「あれ、待てよ。そすっとわたしは…?」
何言ってるんですか? 今頃気づいたんですか、先生。
相変わらず段取り悪いですよ。
「先生なら護衛なしでも大丈夫でしょう?」
「いや、それはそうだが…走っていくのかな? わたし?」
ふふふ、実はちゃんと迎えが来てます。
走りながら、呼び寄せていたんです。
スカイエクソン! カモン!
「先に行きます、先生。」
母子エルフを抱いて、地上機体は駆けだす。ダッシュ!
「あひょははひょーー」
ミニイたん、ご機嫌だ!
入れ替わりに先生の目前に、スカイエクソンで降下。
「さあ、先生お迎えに来ました。」
「ア、アイザック…なのか?」
理屈はわからないが、ジェット噴射しなくてもホバリングできるんだよね、この機体。
「さあ、急ぎましょう。緊急事態ですから。」
「え、ちょ、待っ」
後ろから抱え込んで…上昇!
「え、あ、ひええええーーー」
救護院へゴー!
「おおうああああーーー」
ミニイたんが見たら絶対乗るって言うよな。
見つからないようにしないとな。
まだ、絶叫マシンは早いよね?




