空へ行くよ
エルディー先生の終末級魔法が炸裂。
工房上空の生き残り雀竜は必死の逃走!
ほんの一晩で作ったやつだよね、あれ。
しかも使った魔法陣はギャルエルフデイシーシーに教えてたアレ。
ヘアドライヤー送風魔法。
護身用の雷神槌と組み合わせただけであんなものが…
ヤバいぞ、この先生。ガバガバなのは羞恥心だけじゃなかった。
工房はもう大丈夫。街はどうだ?
「まずい! あれ!!」
やぐらの上からハイエートお兄ちゃんエルフの声。
何だ? 街中の方。雀竜? なんかぶら下げてる?
ズームアップ。人だ!!
工房上空のは片付いた。
だが街の上空にはまだ雀竜がいる。
今しも、人間を捕らえて飛び去ろうする奴が!
追う! 走り出す! 追いつけないかもしれない。
だが、今は走るしかない。
工房の塀を飛び越える。
マルチタスクと全天視界のおかげで見失うことはない。
だが所詮、地上を走るだけじゃ上空の雀竜には手が出ないのだ。
飛行ユニット! 男湯岩。本当にあるんなら来い!
起動しろ!! 今、役に立たないでどうする! 今でしょ!
扉を破れ、翼を開け、今がその時だ!
『開錠に必要な要件が満たされました』
『招聘要請が受諾されました』
来た!
後方、男湯のあたりから光の柱が上がる。
屋根をぶち抜いて、上昇する!
「お風呂があああーーー!」
っと言う、タンケイちゃんの血の叫びが聞こえたような気がする。ごめんね。
たたんだ状態の折り鶴みたいなユニット。
赤い何か、拳骨シュートの噴射と同じものを噴き出しながら上昇。
いったん静止すると噴射口の付いた翼端を回転。翼を広げ、機首を伸ばす。
ロボット鳥みたいなのを想像していたが、生き物を模倣するつもりはないようだ。
ジョイントと回転軸、ずいぶんとメカメカしい。
蹴りだされるように加速。俺の頭上に迫る。
来い! 合体だ!! スクラ○ダー○ロス!!
合体!!………しない。
頭上を通過、飛び去る。置いてけぼり、俺。
ええー? なんで? どゆこと??
次の瞬間、俺は空を飛んでいた!!
は? どゆこと??
乗り移った?
いや、乗り移ったわけじゃない。俺の機体は地上にあり、走っている。
それどころか、石を拾って、街の上空にいる雀竜に投げようとしている。
それも俺。これも俺。
マルチタスクが二つのボディに分離!
二人の俺が同時に二つのタスクを実行中!!
…うん、凄い凄い…でもさ、合体はしないのかな?
合体して飛ばないのかな?
『人間型機体の輸送モードはありますが』
『空中での高機動は不可能になります』
いや、でも、ほら、合体は男のロマンって言うかー
『輸送重量の問題で人の救助も難易度があがりますよ』
あー、うん。そうだよね。…あとで泣こう。
せめて名前、かっこいいのがついてるよね?
『飛行ユニット』
今泣く!
『現在の状態、飛行ユニット外部接続機体通信状態』
長いな、略す、日本人略す。
モボ(モダンボーイ)モガ(モダンガール)チョベリグ(超ベリーグッド)JK
スカイ・ユニット・エクソ・オンライン
スカイエクソン!
あー、ナビ君。もう一つ重要なことがあるんだが。
とても重要なことなんだ。聞いてくれるかな?
『何でしょう』
実は、俺、高いとこ、怖い。
『ええーっ』
怖ええ! 超怖い!!
ちびる! 膀胱があったら絶対ちびる!! プシャー!
飛行機とかスカイツリーとかは平気なんだよ。
ロープウエイやスキー場のリフトも平気。
高い橋を歩いて渡るとか、自分で運転する自動車で通るとかが怖い。
富山県射水市新湊大橋とか超怖い! 2度と渡らない!
要するに自分自身を信用できてない。
何かミスって落っこちるんじゃないか? っていう強迫観念。
『大丈夫ですから、制御の大部分は自動化されてますから』
頼む、頼りにしてる。
飛べスカイエクソン! 俺の恐怖を超えて!
雀竜に迫る!
吊り下げているのは…子供? 少年?
あれ? 見たことあるような…
マビカちゃんだよ! 痛い魔道士の。
何やってんだよ!? 生きてる、もがいてる。
…いや、気持ちはわかるが、今もがいたら落っことされるぞ。
雀竜を追い越す。俺の方が速い。武器は?
『武器ライブラリ、ビームが使用可能です。』
よし。進行方向をふさぐ。
反転しようとして腹を見せた雀竜にビームを撃ち込む!
機首からビーム発射、撃墜!
額のビームランプに比べると実装に余裕があるから連射性能高いかもね。
空中に放り出されたマビカちゃんを脚でキャッチ!
脚? ランディングギア? マニュピレータ?
まあ、いいや脚で。
っと、こいつ、もがく、暴れる! えーい!!
「動かないでください。味方ですよ。」
「ひいいー、いやあー、食べないでー、ボクまずいよー!」
…聞かない。暴れる! そういう奴だったよね、コイツ。
こんだけ元気があれば大丈夫だろう。
旋回して街の上空へ。
救護院へ降ろそう。怪我してるかもしれないし。
見えた、ん? 屋根の上に人がいる?
鬼人のお姉さんだ。手に持っているのは…刀?
日本刀だ! 日本刀あるのか? この世界。
降下する俺を見上げにらみつけた。眼光、鋭い!
イオニアお嬢様の人を見る目は確かだった。怖い!
救護院の前庭に降下、マビカちゃんを降ろす。
そこかしこに雀竜の死骸が転がっている。
すっぱり首が切り落とされたやつ、真っ二つになったやつもある。
鬼のお姉さんがやったのか?
焼けたような死骸もあるな、戦闘魔道士も居たんだな。
駆けだしてきたのは、おう! ベータ君! イーディお姉さんも。
お姉さんが救護院に駆けつけるのをガードしてきたんだな。
そういえばベータ君が魔法使うとこ、今まで見たことない。
そのベータ君が俺に向かって手を突き出す。
ディスクが3枚!…何か禍々しい感じの魔法陣を展開!
これ、ヤバいヤツだ。食らったらただじゃ済まない感じ!!
ちょ、待った待った。オレオレ!
「ベータさん、私です。アイザックです。」
「ア、アイザックさん?」
「説明は後で、この娘の手当てをお願いします。」
イーディさんが走ってきてマビカちゃんを引き取る。
「これって、あの岩から出てきたの?」
「そうです。もう一度上空を見回ります。離れて。」
噴射、上昇。翼を展開し、飛行モードに。
街の上空を旋回する。
まだ、上空をうろうろしてる奴にはビームを食らわす。
先生には、殺せと言われている。
痛い目にあわせれば…とも思うが、怪我をした野生動物はほとんどの場合、どのみち生き残れない。
生き残って知恵をつけたら、それはそれで困る。
雀竜の知能がどの位なのかは知らないが。
ただ、1対1で、武器も魔法も無ければ、絶対人間のほうが弱い。
ここは異世界、甘っちょろい感傷は通用しないんだ。
街に被害は無かったろうか?
大通りの真ん中にタモン兄貴が立っている。
いつもの鉄棒。3本。2本は地面に突き立てられている。
周囲には何匹もの雀竜の死骸。
怪訝そうに俺を見上げる。
カロツェ家は大丈夫だろうか? 進路を変え、上空を通過。
屋敷の庭にけっこうな人数がいた。
それぞれに武器をかかえている。
そういえば、隊商が来ていると言ってたな。
大丈夫そうだ。
工房へ戻ろう。男湯の状況も心配だしな。
いや、待てよ。
地上の俺は工房へ戻して、飛行機体は救護院に着ければ通信ができるな。
よし、それで行こう。




