雀竜が襲来するよ
さて、自宅に着くと。
先生は、机の上に何やら例のディスクや、巻物やら広げて仕事の構え。
「今夜は徹夜になるかもな。」
何です?
「ちょっと思いついたことがある。空を飛ぶ雀竜を相手にするなら…」
新兵器開発か。さすがは先生だ。
「先に寝ていいぞ…って寝なくてもいいのか、お前は?」
「私も思いついたことがあるので、少し街の周りを見てきます。」
「うむ、こっちのが出来上がったら、お前にも習得してもらうぞ。」
そういえば、明日はベータ君は?
「工房で近所のやつに伝言を頼んだ。直接、工房へ来るようにな。」
いっぺん襲われてるしな。
「雀竜はどちらから来ますかね?」
「東南から北西に抜けるはずだ。」
東側には川があったな。
「東川と呼んでる、西にある街道は西街道。」
よし、まずは川へ行って…
「なあ、アイザック。」
先生が深刻な顔で声をかけてきた。
「もし、雀竜が来たら、とにかく殺さなくてはいかん。」
え? どういうこと。
「もし、このルートが安全だとわかれば、毎年、群れでやってくるようになる。」
「渡りの行きと帰り、レガシの街を通過し、狩りもするようになる。」
「生き残った奴が、この街を通るのは危険だ、と思うように、とにかく殺しまくる必要があるんだ。」
「人を襲わず通過するだけのやつがいたとしても、だ。」
……なぜ俺にそんなことを?
「おまえ…嫌いだろ、そーゆーの。」
「ここ数日の付き合いだが…おまえはそーゆーやつだ、と思う。」
でも、やらなくてはならない。
ここは異世界、生き残るってのはそういう事なんだ。
この機体には夜の暗さは関係ない。
東側の河原に立つ。
【新兵器】のテストを行う。
対空兵器ならビームが有効だ。
ウロコ加工のために波長変更したのが役に立つ。
だが、連続照射だとほんの数秒でオーバーヒートした。
手元のウロコに発射するのと違って、出力もアップする必要がある。
パルス発射でも、おそらく何十発も撃てるわけではないだろう。
空飛ぶ雀竜に対抗するには飛び道具が必須。
俺が思いついた新兵器とは、これすなわち投石!!
おそらく人類最初の飛び道具。
武田信玄の軍団には投石部隊が存在したと伝えられる。
平安~室町時代には印地打ちなどと呼ばれ子供から僧兵まで親しまれた人気の武器だ。
なんせ、コストがかからない。
弾丸は拾い放題、現地調達。
威力、飛距離を伸ばすために、リーチを伸ばしたり、遠心力を利用したりする投石器も使われたらしい。
そのへんは知識も、テクニックも無いので今回は不可。
手投げに頼る。
川原の石を拾い、対岸の立ち木に狙いをつけて投げる!
はずれ! まあ、そんなにうまくはいかないか。
何回か投げると、たちまち上達。百発百中と言っていいだろう。
さすがの性能だ。魔道機体!
次は威力。パワーを上げる。
人間なら力みが入ればコントロールは乱れるが、俺はロボ!
けっこうな太さの立ち木が一発でへし折れた。
これならいける、と確信。
あとは弾丸補給だが、ここなら、大丈夫。
川原の石は拾い放題だしね。
東側から来るならここで迎え撃つか。
明け方近く、先生宅に戻る。
先生の作業も終わったようだ。
「こっちはいい出来だ、学習してもらうぞ。」
いつものディスクではなく、ダイス?
正立方体の6面すべてに魔法陣が描かれている。
魔法陣を学習する。
「あれ? この魔法陣って?」
見たことあるぞ?
「アレの応用だ、威力は桁違いだがな。」
「ひと眠りできるかな? 」
「今日来るというわけではないでしょう。雀竜も。」
「最悪の場合、を想定して動くのが鉄則だぞ。」
「…まてよ。そういえば朝だったな、ベータが襲われたの。」
そうだったよね。
雀竜は夜の間は活動しないわけだから、前の日のうちに近くに…
「お前が雀竜だったら…」
「長時間飛んできて疲れてる夕方と、休んだ後の朝とどっちに狩りをする?」
…そりゃあ、休んでからだよね。そして出かける前に朝食はきちんととって…
…こりゃ、まずい!
「昼間しか行動しないってことにとらわれ過ぎた。」
「夕暮れに紛れてえさ場の近くに潜み、早朝に狩りをするとしたら…」
「工房へ行くぞ、アイザック! 警備体制を見直さないと…」
白々と空が明るくなる頃、俺と先生は工房へと急ぐ。
照明用の魔法があるとはいえ、やはり燃料は高価。
日光のある夜明けから日没までが作業時間。
職人たちの朝は早い。
もう、けっこうな人数が工房へと向かっている。
「ええ? 導師? こんな早朝に?」
「どうしたんですか? いったい何が?」
「まさか、昨日の雀竜の一件、やばいんですか?」
出会った職人さん、一様に驚いて、あわてて工房に駆け込む。
エルディー先生が早起きするほどやばい事態だ、ってことで大騒ぎに。
驚いたことに、ハイエート兄エルフが居た。
「おはようございます、導師、アイザックさん。」
「ハイエート! どうした?」
「雀竜の話を聞きましてね、僕の経験からいうと…」
「奴らは、朝、狩りをしますからね。用心のために…」
さすがだ、熟練の狩人。
最初っから話が聞ければいいんだが、いかんせんケータイどころか電話すらないこの世界。
情報を伝えるためには歩いて行って直接顔を合わせるしかない。
町内放送を整備した組合長を尊敬する。
「相手は飛びますから、どこを守っていいのか…」
「とりあえず早朝でも人の多い工房に、ってことで来てみました。」
兄エルフの陰からちょろっと顔が、
「デイエートさん、来てくださったのですか。」
「お体の調子は大丈夫なのですか?」
「もう、大丈夫。」
お兄ちゃんといる時は可愛いんだけどね。こいつ。
「早朝に合わせて警戒態勢を組み直さなきゃならんが…」
「おやっさん、組合長と相談して…」
言ってる間に、聞こえてきたよ。
例の鳴き声。チュンチュン!
先生がため息をつく。
「まあ、そんなもんだよな。」
「始めますかね、とにかく。」
お兄ちゃんがニッコリ笑って、走り出す。
物見やぐらへ! 妹エルフが後を追う。
「みんな、建物に入れ! 武器を持て。」
先生が叫ぶ!
「鉄の矢を持って、ハイエートの下に付け。」
「閃光輝を使う時は声をかけろ! 射手に目潰しするんじゃないぞ!」
「刃物より鈍器で殴れ。所詮、鳥だ。骨は軽い。」
おう、おやっさんが来た。タンケイちゃんもいるぞ。
「エルディー!」
「おやっさん、早いな。」
「ワシらはいつも通りじゃい。」
おやっさんも指示を飛ばす。
「網を準備しろ、昨日の打ち合わせ通りやれ!」
武器や投網を持った職人衆…職人て言うより戦士だよね。ガタイが違う。
わらわらと中庭に出てきた。
竹竿? 竹槍? みたいなもの持ってる?
危ないよ! 雀竜に狙われる。
「ここで少しでも食い止めるぞ!」
自らを囮にして引きつけるつもりか?
さて、俺は、どうする。
せっかく昨日練習したのに、投げる石がない。
工房の通路も中庭も掃除がいきわたっていて、石なんか転がってないぞ。
「石なんかないですよね…おやっさん。」
「石? 石なんて砥石くらいしか…」
チュンチュン声が大きくなる。
東側、川向こうの森から大きな鳥影が飛び立つ。
いやいや、思ったより多いぞ。
夕暮れ時のカラスの大群とか、川崎市のインコの大群みたいな感じ。
日本野鳥の会のヒトに数えてもらいたい。
これに比べたら、獣機なんてたったの12体。
空を埋め尽くす感じ。
とにかく、数を減らさなきゃならん。
「来るぞー!!」
誰かの声、出し惜しみしてる場合じゃない。
ビームを発射。ウロコ貫通に最適化した波長。
穴あけ作業しておいてよかった。
パルス発射、一羽? 一匹?に1発。
弾とワクチンとツッコミは2発づつ撃て!
とは師匠(?)の言葉だけど、こう数が多くてはそれもかなわない。
確実に殺すのではなくとにかく行動不能に。
バンバン撃ち落す!
ハイエートお兄ちゃんは物見やぐらの上で連射!
硬いウロコに通用するのかと思ったが、どんどん射抜いていく。
雀竜の翼の付け根、関節辺りを狙うのは獣機の時と同じか。
一方、妹エルフのほうは兄ほど射程が長くない。
人を狙って降下してくる雀竜を狙い撃ち。
目を射抜く! すげえ! ピンポイント狙撃。
他のドワーフ戦士たちは…
降下してくる雀竜に対してまっすぐに竹槍を立てる。
降下する時は翼をたたんでるけど、地表近くで減速するために開く。
面積の拡がったそのタイミングで竹槍を立てるのだ。
正面からぶち当たると竿のもう一方が地面に突き立つせいで、凄い衝撃。
弾き飛ばされる。中には突き刺さる奴も。
2本の竿の間に綱を張ったものもある。
絡まって落下すると、何人も走ってきてタコ殴り!
投網に絡まって転げまわる雀竜も居る。
地面に落ちた奴は妹エルフがスパスパ目を打ち抜いていく。
「閃光輝使うよー!」
ちょっと場違いにのんびりした口調の先生。
発光! 降下中に視力を奪われた雀竜が地面に激突する。
そしてタコ殴り!
頼もしいぜ! レガシの住民!
全体にベータ君を襲った奴より小さい。
翼長3~4メートルってところか。
一匹で行動するはぐれの方がでかいのか?
もちろん全部落とせるわけじゃない、上空を通過していく奴もいる。
街は大丈夫だろうか?
街中で光が…閃光輝だ! 無事を祈るしかない。
俺もビームで2,30匹は打ち抜いたろうか?
限界が近い。
タンケイちゃんが投網をもって右往左往してる。
建物の中に入ってればいいのに、危ないよ!
正直、おろおろ逃げ回ってるだけで役に立ってない。
急降下してきた雀竜が襲う! 危な!
かわした、と言うか、すっ転んだ拍子に投網が雀竜に引っかかる。
絡まって飛べなくなった奴に職人衆が襲い掛かる。
一瞬、タンケイちゃんが無防備状態。
別の雀竜が襲い掛かってくる! させるか!!
ビーム発射、撃墜!!
『冷却が必要です』
射ち止めだよ。
「ひいぃーー、アイザックさぁーん」
タンケイちゃんが俺のそばに。
頼られるのはうれしいけど、俺も武器切れ。
くそ、石があれば投石で…
いや、待てよ。前に言ってたな、タンケイちゃんが。
魔法炉の燃料は何を? 近くの炭鉱から出る石炭っす、って。
「タンケイさん、石炭はどこですか?」
「せ、石炭?」
「あの小屋っすけど、なんで?」
「投げます!」
タンケイちゃんの案内で石炭小屋へ駆けつける。
雨よけにつるされたゴザをはね上げると石炭がごろごろ。
触媒炉で燃やしやすい大きさ、イコール投げごろサイズ。
当たりだ。
拾う、投げる、当たる。
打ち抜くビームと違って、派手に吹っ飛ぶ。
当たった石炭のほうも砕け散った。
ビームで撃たれた奴は何が起こったかもわからずに、すとんと落っこちる感じ。
石炭ぶっつけられた奴は、突然の衝撃と、たぶん骨折の痛みでのたうちながら墜落。
投げる! 投げる!
特に指示したわけではないが、タンケイちゃんが次々石炭を渡してくれる。
投げる! 投げる! 投げる!
「すごい! すごいっすよ! アイザックさん!」
うはは、タンケイちゃんもっと褒めて!
さすがに突っ込むのは危険と理解したんだろうか?
雀竜どもも慎重になった。上空で旋回して様子見。
襲いやすい獲物を物色している感じか?
「おーい、アイザック。いい感じだな、投石。」
先生がのんきに歩いてくる。ちょ! 危ないって!
ほら、急降下してきた。
あわてて石炭を投げつけようとすると…
雷神槌!
近づいた雀竜に放電! 自動迎撃システムかよ!?
最強だな、先生!
「せっかく作ったけど、なかなか使いどころがなくてな。」
例のダイス状魔法符を渡す。
「あそこ、投げ込める?」
様子見してる上空の雀竜の群れを指さす。
「大丈夫です。」
かなり、上空だな。余裕で届くけどな。
「おーい、みんな! 伏せろー!」
「ハイエート、やぐらにつかまれー!」
先生、声でかい。拡声魔法使ってるのか?
「いきます!」
ダイスを投擲! 旋回する群れの中央へ。
「旋風大偉《グレート○イフーン》!」
先生の起動呪。
ダイスが回転しながら風を吹き出す。
ヘアドライヤー魔法。
いや? 吹き出すだけじゃなく吸い込んでる?
ダ○ソン魔法付き? 吸引力の変わらない唯一の魔法?
ちょっとまって、この風! 尋常じゃない!
砂埃が巻き上げられ、地面に落ちた雀竜の死骸まで飛ばされてる。
たちまち上空に竜巻が発生! 雀竜が次々巻き込まれていく!
乱気流に巻き込まれコントロールを失い、ぶつかり合う雀竜!
「おわわわーーー!!」
地上も大混乱! パニック!
「雷神槌豪破《サンダー○レイク》!!」
ダイスに仕込んであった雷神槌が連続起動!!
竜巻が稲妻に覆われる! ひでえ!! 夜の桜島噴火みたいなビジュアル!
この世の終わり的光景!!
ばさばさと焦げた雀竜の死骸が降ってくる。
「うーーーん、思ったより見た目が悪いな、これ。」
先生…なるほど危険人物だ。




