おやっさんのお手伝いをするよ
痛い奴らは放置して工房へむかうことにした。
受付のお姉さんに挨拶して、工房内へ。
お姉さんも慣れたなあ。
まだ午前中、工房の作業もたけなわ。みんな忙しそう。
まず、服飾工房へ。
ここも忙しそう。お針子さん?らしき人が何人もいた。
ダットさんは不在。
デイシーシーは手が離せないというので、巻物を預けようとしたら、
「そういう貴重品は直接渡してよ。夕方にはヒマになるからさ。」
貴重品か、これ? そうだよね。まあ、こっちは急ぐこともない。
問題はマント。
おやっさんに謝らないと。
「工房長のとこ? だったらダット姐さんもそこだよ。」
おやっさんの工房に行くと…ダットさんと二人で作業中。
「それじゃマントの型紙はこれで、」
「ここのところにウロコをミスリル縅で並べる。と…」
「ウロコ丸見えじゃ、豪華すぎないか? 盗人に狙われる…」
「オーバーマントも考えとかないとね。」
「フードは襟の裏に収納できるように…」
あれ? もしかして、それ俺のマントのデザイン?
そんなに気合入れてもらって…
もらったマント焦げ焦げにしちゃったのに。
申し訳ない。
「おやっさん…」
「おお、アイザック。ちょうどいいところへ来たな。」
「今日は一人で来たのか?」
「はい……ごめんなさい、おやっさん。実は…」
焦げマントを見せる。
「どうしたんだ? こりゃ!」
「街で、やはりマントを来た妙な魔道士にからまれまして。」
おやっさんもダットさんも、あちゃー、って顔。
「あいつらかあ…」
「ご存知なので?」
「王都から流れてきた痛い魔道士たちだろ、3人連れだったか?」
3人、あとひとりいるのか? 最初に見た、背の高い奴かな?
「女の子は、わりとかわいい服着てた。参考になったわね。」
ゴスロリか、王都で流行ってるのか?
「なんでかあいつら、エルディーを敵視してるんだよな。」
おやっさんが首をひねる。
あはは、とダットさんが笑う。
「旦那から聞いたけどさ…」
王都では魔道士学校を出てもいい働き口はあまり無いらしい。
貴族の子弟や、大商人のコネのある者でいい仕事は決まっている。
野心のある者は新興商人に仕えたり、オリジナル魔法で商売を始めたりする。
気合いの入った奴は軍に入って出世を目指す。
それ以外は、
「後は治癒術や触媒魔法の販売でほそぼそと…」
「一部のはねっかえりは、地方へ出て冒険者、傭兵まがいのことをやるらしいよ。」
そうやって、レガシの街まで来て見ると、桁違いの魔導師が居た。
治癒術士もそろっている。生活魔法は工房で量産。
自分らの出番が無い。
秘術であるはずの魔法をだだ漏れ状態にしている元凶がエルディー導師。
「やっかみ半分で導師を恨んでるってわけさ。」
「なんだか気の毒になった来たな。」
おやっさんため息。
「だったら他の町に行けばいいじゃねえか?」
「旦那が言ってたよ。この街ほど住み心地がいいとこは他にはないって。」
「もう他の街は無理だってさ。」
まあ、そうなんだろうなあ。
まだ、子供にしか見えなかったし。
無法者まがいの傭兵や冒険者に混じったり、治安の悪い町で立ち回れるようには思えない。
「この焦げたマント、オーバーマントにしようよ。」
「そうだな。」
「みすぼらしいからちょうどいいわ。」
「なんだと!」
「あはは。」
おやっさんが新しいマントのコンセプトを説明してくれた。
件の雀竜のウロコで背中と首の防備を固める。
デザインはこないだカロツェ家訪問時に借りたマントと同じ感じに。
「ウロコは高価なのではありませんか?」
「おまえさんが狩ったもんだろ、元々。」
ありがたい、どこかでお返しをしたいなあ。
狩り、か。高級素材の獲物とか、こんど兄エルフに聞いてみよう。
ダット姐さんが服飾工房に戻った後おやっさんの手伝い。
と言っても素人だ。熟練の職人の手伝いになるはずもなく、見学者モードに。
おやっさん、マントの型紙の上に手早くウロコを並べていく。
ウロコのサイズ、形から最適の並びを決めているらしい。
「カロツェ家に頼んだ手形はどのくらいでできるんだ?」
手を動かしながらも話しかけてくる。マルチタスクか? 職人すごい!
「一か月くらいかと。」
「ひと月かー、このマントは間に合わないなあー。」
え、そうなの?
「手間がかかるのですか?」
「手間と言うか…時間はかかる。」
ウロコの一枚を手に取って見せてくれる。
「とにかく、このウロコ、硬いんだ。」
硬いからこそ高級素材なわけだが。
ウロコを紐で綴る。
魔法強化した細い針金を編みこんだ紐を使う。
日本の鎧の糸縅しに似てる。
赤い紐で綴れば「赤色縅」などと言う。
「縅」または「威」と言うのは元は「緒通し」から来ているらしい。
武具だけに縁起を担いで威勢のいい字をあてたんだろう。
紐を通すための穴をウロコにあけるのだが、とにかくこれに時間がかかる。
濡らして、砥石の粉とヤスリ棒で根気よく削る。
一つ開けるのに早くて半日、下手すると丸1日でも終わらない。
早く仕上げようとしたら人海戦術に頼るしかない。
素材だけでなく手間の点でも高級品にならざるを得ない。
なんだか申し訳ない…何か手伝いが出来ないものか?
ウロコに穴か…レーザービームが使えればいいけど、反射されちゃったしな。
まてよ、波長を変えれば…
『変更は可能です』
「おやっさん、一枚無駄にしてもいいですか?」
「ん、何だ? そこのカゴに入っているのは傷もんだから構わんぞ。」
ウロコを手に取って、低出力、低出力と念じながらビームをあてる。
徐々にビームの波長を変えながら解析。
ん、ここだ! 波長決定。
貫通ビームが床を焦がさないように…その辺にあった板を敷いてっと。
出力アップ、発射!
おお、貫通! いけるか?
「おお、なんだそりゃ!」
おやっさんびっくり!
「本来は戦闘用のものですが、使えませんか?」
「ちょっと待ってくれ。」
ウロコに2か所、印をつけてくれた。
「ここに開けてみてくれ。」
打ち抜く!
「おおー、一瞬か!」
穴の開いたウロコをさわって
「うーん、このままでは使えんかな。」
だめか。
「穴が正確過ぎて、ほれ、へりが尖っとるだろ。」
「このままだと通した紐が擦れて切れやすくなる。」
「ヤスリでやると自然とぶれて鈍るんでちょうどいいんだが。」
拡大モード。なるほど、穴のへりがほぼ直角。
「こうして、こうすれば…」
細い針みたいな棒ヤスリを穴に当てて、ぐりぐりっと。
「こんな感じじゃな。」
再び拡大モードで見てみると…なだらか、ほぼ完ぺきな1/4円弧になってる!
誤差はミクロン以下! すげえ、職人技、凄い!
「おそれいりました。」
思わず頭が下がる。
「ええ、なんだ?」
「だが、こりゃあいい。一番時間のかかるところが一瞬だ!」
「エルディーのとこに居るよりウチで働いた方がいいぞ!」
うーん、マジで考えときます。ええ、マジで。
「位置決めと、印付けをやっとくから明日っから手伝いに来てくれよ。」
もちろんですよ、おやっさん。
おやっさんと雑談しながらお手伝い。
まあ、道具をとってきたり、渡したりするだけですが。
街の体制とか、学校のこととか。識字率のこととか。
「ああ、字な…うん。」
ええ? 何? なんかあったの?
「若い奴は学校で習っておぼえるんだが、最初はな…」
「文字の読めるやつは少なかったんだが、エルディーがな…」
何と先生。睡眠学習法とかいう魔法を開発。
夢魔族の術士と協力して実験している途中、強度の設定に失敗。
被験者の人だけじゃなくレガシの住民全体に文字教育を施してしまう。
「うちの犬が文字を読めるようになった、って苦情があったな。」
まあ、役に立つことなので文句を言う人は少なかったが、危険人物と認定。
街中から離れたところに隔離されてしまった。
ああーそれであんなところに家が…
「それ、ほんとに失敗だったのですか?」
「さあな。」
やりかねないな、先生。
ベータ君は今日は休み。
エルディー先生は今日は寝てると。
てな話をすると。
「じゃあ夕方には来るだろう。」
「ベータが休みの日はたいがい社員食堂の残り飯をたかりに来る。」
何やってんすか先生。
「おやっさん、すいません。荷物が届きましたんで。」
若い職人さんが呼びに来た。
「お、今行く。」
「カロツェの隊商だ。月に1回くらいやってくる。」
おやっさんと一緒に中庭に。
馬車や荷車が何台も並んでいる。
おや、ビクターさん。
「んん? どうしたんだ、ビクター支店長。」
荷車の様子を見て怪訝な様子のおやっさん。
「屋敷に寄らずに直接運び込んだのか?」
「ちょっとご相談がありまして…」
「じゃあ、食堂で…」
「デハ・ワタシハ・シツレイ・シマス」
遠慮した俺を、ビクターさんが引き留める。
「いえ、アイザック様にもぜひ聞いていただきたい。」
え? いや、様付けはやめて。
食堂に移動すると…居たよ。先生。もう来てた。
お茶飲んで、何かほふほふ食べてる。
「お、アイザ…おう!ビ、ビクターさん!」
「これは、エルディー導師、ちょうど良かった。」
よかった、そんなに変なカッコじゃないですよ、先生。
ちゃんと服着てるし。
「実は気になることがありまして…」
カロツェ家は月1回か2回、隊商を組んでレガシの街に送り込んでいる。
直接小売りはしないが、必要物資を工房や商店に卸す。
帰りには工房で生産したものを買い入れて戻る。
ビクターさんは商売以外にも、個人的に王都や、その他の町、地方の動向をできるだけ細かく報告してもらえるよう手を打っているとのこと。
「何が商売に関わってくるかわかりませんので。」
やり手ですね。
「気になったのはこれです。」
「リアプロ山に砦が作られた? 王軍の。」
「獣機対策ってことか。王都も警戒を強めてるってこと?」
先生が身を乗り出してきた。
「冬の間に建設されたらしいですが、問題は砦自体ではなく…」
「たしかリアプロ山の中腹には、雀竜が渡りの途中、立ち寄る中継地があったはずです。」
「ああ!」
「先日、飛来した雀竜と考え合わせると、どうも気になって。」
「渡りのルートが…変わった?」
「あれが、単なるはぐれで、私の取り越し苦労だといいんですが…」
おやっさんと先生、顔を見合わせた。
「いや、良く知らせてくれたわい。」
「雀竜の渡りのシーズンはここ1,2週間てところだな。警戒は必要だ。」
「組合長に相談しよう。わたしが行ってくる。アイザック、一緒に来い。」
その日、雀竜に対する警戒を呼びかける町内放送が何度も行われた。
街にいくつかある火の見櫓には交代で見張りを立てる。
雀竜は夜間は行動しないので昼間だけ。
櫓には先だって有効だった閃光輝のディスクを配備することになった。
作り方は照明用の触媒魔法陣とほぼ同じと言うことで、工房の生産ラインを利用。
エルディー先生の指揮で製造を開始。工房の終業時間まで作業を続けた。
「何とか今日中には配備できるな。」
帰宅する工房の従業員に配ってもらう形で要所要所の民家にも配備。
明朝から備えられるだろう。




