お屋敷を訪問するよ
黒へルフのシーちゃんは他にも服を持ってきていた。
マントだ。俺用。
布地はおやっさんマントと同じだが、襟付き。
ちょっとした刺繍も施されているし、肩にはパッドが入っている。
シルエットがもうカッコいい。
痛い魔道士から、キツキツ先生の従者へクラスアップ!
先生と噂のカロツェ家へ向かう。
イーディお姉さんとはここで別れる。
「仕事に戻る…」
正気を取り戻したようだ。
お風呂入ってリフレッシュしたしね。
先生の筋肉痛もリフレッシュ!
カロツェ家。
ガバガバ先生がキツキツになるほどの格式。
緊張する。
「あまりしゃべるなよ。」
はい?
「タモン殿は別として、人間種の前ではなるべく、な。」
なるほど、理由あり、なのか。
「しかし、先生、家庭教師をしておられたのですか?」
そういうイメージ無いけどね。
「う、うん、まあ…ちょっと…金が入用で…借金とかあって…」
ああ、うん、理由あり、ですね。
でも、工房から特許料とかもらってないの? 普段どうやって生計を?
「普通に暮らしていくなら十分だが…」
「魔法触媒とかは高いんだよ!」
ああ、そうゆー感じの…
「言っとくけど、お前の起動実験に使ったんだからな、主に。」
うわっ! どうもすいません!
カロツェ家のお屋敷。
ちょっと歩いただけなのにこんな建物が?
ぐるりと周りを囲む塀。門番、門番がいるぞ!
だらけてる。海水浴の着替えテントみたいな門番小屋。
椅子に腰掛けてほやーっとしてるぞ。
犬系獣人? かな? 耳の形からして…
先生を見ると跳ね起きた。
「エルディー導師!」
「やあ、突然ですまないが、ビクター氏はご在宅か?」
「は、はい! すぐ取り次ぎます。」
すっ飛んでった。
そして、帰ってきた。
後ろにはメイドさん? メイドさんだ!
古風なロングスカートの本格メイドさん!
まくり上げて全力疾走ってのはどうなんだろう?
しかも…ネコミミ!!
ネコミミメイド、本格派!
あれ? この娘…
「エルディー先生! よう…そいらっしゃ…ました。」
息切れてるよ、全力疾走するから。
昨日、救護院で見かけたお見舞い女子隊の一人だよ。
「ささ、お嬢様がお待ちです。」
「いや、今日は、ビクターさんに相談があって…」
「ビクターもすぐ参りますので!」
大歓迎、大歓迎だぞ、先生!
「うにゃ! 魔道機さんも一緒にゃ!?」
「…魔道機さんもご一緒でしたか?」
言い直した。
「コンニチワ・キノウモ・オアイシマシタネ」
先生が硬直。
「何それ…、いや、スカジィ、アイザックを知っているのか?」
「救護院で会ったにゃ…ました。」
スカジィちゃんか。新米メイドか?
「ああ、デイエートの見舞いに行ったのか。」
メイドさんの案内で邸内へ。
敷地自体は思ったほど広くない。
レガシの土地自体に限りがあるからか。
「何だよそのしゃべり?」
先生が小声で聞いてくる。
「いや、なりゆきで…」
話、あわせてね。
いました。予想通り。昨日のお嬢様!
黒髪がきれい。腰まである髪の先っちょだけカール。
「元気だったか? イオニア。」
「先生!」
おお、抱擁! いいですね百合抱擁。
「ひどいですわ、全然尋ねてくださらないんですもの。」
「すまん、すまん。ここのところ自分の研究に没頭していたんでな。」
お風呂にも入らずにね。6日も。
「これがその成果ですのね。」
これ、あ、俺ね。
「フタタビ・オアイデキテ・コウエイデス」
声にあわせて目をピカピカ光らす。
「まあ、わたくしのことおぼえてるんですね。」
「あ、ああ、なかなか優秀だろ。アイザックって言うんだ。」
先生、笑いこらえてぷるぷるしてるぞ。
ん? 部屋の外に誰かいる? 呼吸音が聞こえる?
『中をうかがっているようです』
おう、ナビくん。サンキュ。
お嬢様はうれしそうに話しまくる。
獣機来たと聞いて怖かった。
デイエートお姉さまが怪我をしたと聞いて心配だった。
お見舞いに行ったらこわい鬼の女の人に追い返された。
いや、そんなに怖くないですよ。
魔道機さんと会ってびっくりした。
先生は優しい表情でうなづいて聞いている。
「あ、いけない。わたくしばっかり…」
「先生も、御用事があって…」
ドアにノックが、さっきから外にいた人だ。
「ビクターです。申し訳ありません、お待たせして。」
おお、執事さんだ。初老の優しそうなオジサン。
セバスチャンさんだ! 俺の心の本家セバスチャンはパンダボワヌ家!
まあ、ゼーゼマン家までは認める、元祖だから。
他は認めない! 特に若い奴とかは偽者!
『敵を作りますよ、そーゆー発言』
ご忠告ありがとう。
ビクターさん、お嬢様のお話が一段落するまで、ドアの前で待ってたのか?
ええ人や。
「ビクターさん、すまないな、いきなり訪問して。」
「ここは、獣機の被害は無かったようだな。」
「はい、おかげさまで。」
ちらっと俺のほう見た。結構、事情知ってるのかも。
「実はな、通行手形を手配してもらいたいんだ。」
獣機と骸骨塔の関係を説明。
発生地調査のため、人間国の街道、領域を通るかも。
手形があれば有利、などなど。
「わかりました。本店の方に手配いたします。何人ほどで行かれる予定ですか?」
「ふむ、私、ハイエート、デイエート。タモン殿にも同行してもらいたいところだが…」
「その辺は組合長とも相談してみないと…」
「先生、旅に出られるんですか? お姉さまも?」
しょぼーんとするお嬢様。
「急いで手配いたしますが、相手がお役所となると…」
「ひと月は見ていただかないと…」
あー、異世界でもお役所。
「まあ、こっちも準備があるしな。」
先生が思いついたように、
「あー、そうか、ベータもついて来るって言うだろうなあ。」
うーん、お姉さんと一悶着ありそうだ。
はた、と手を打ったお嬢様。
「ベータ君といえば… 」
「女の子の格好が、すごくかわいかったという話を聞いたのですが…」
あんたもか! 噂早すぎ。
大変なことになってますよ、ベータ君。
とりあえずついて来てくれそうな人の分は準備するということに。
「タモン様の手形は…」
「ああー、デイ氏族名義でいけるんじゃ? デイエイティの夫扱いって感じで…。」
ん、名義? なんかあるの? アニキ?
「こちらのかたは…」
ビクターさん俺を見て困惑。
先生も首をひねってる。
「魔道機だから…荷車扱いでいいんじゃ…いいよな?」
荷車扱いかあー。
先生や妹エルフが乗ってくれるんならいいんですけど。
「カ・マ・イ・マ・セン」
ネコミミメイドさんがお茶とお菓子を運んできてくれたぞ。
しかも二人だ。もう一人も救護院に居たな。
ブサカワイイとか言ってくれたヒトだ。
「おお、ありがとうサジー。」
「スカジィもだいぶ慣れたな。」
「もうベテランメイドですにゃ…ですよ。」
「えーと…魔道機さんは?」
ネコミミメイド先輩! こっちが1号か?
1号が先輩サジーさん。2号が新米スカジィちゃんってことで。
困ったように俺を見てるが
「オ・カ・マ・イ・ナ・ク」
お菓子は食べませんよ。
「では私は仕事に取り掛かります。詳細は後程。」
「どうぞ、導師はごゆっくり。」
ビクターさんはそそくさと引き上げていった。
お嬢様の邪魔にならないようにか。
執事兼支店長みたいな感じなのか?
「スカジィも食べるか?」
「うにゃ、いいんですか?」
「だめです、スカジィ! 仕事中ですよ。」
サジーさんきびしい。
「まあ、いいじゃないか、このメンツだ。」
と、先生。お菓子食べたいのに余裕の表情。やせ我慢。
「おねがい、サジー」
お嬢様もおねがい。
「しかたないですね、今だけですよ、イオニア。」
プライベートではお友達か。
昨日もそんな感じだったもんな。
女の子たちのまったり時間。先生は女の「子」じゃないがな。
お嬢様が嬉しそう。
…そうか、
短い付き合いだけど、わかってる。
家の格式くらいでびびるような先生じゃない。
そんなことで、ガバガバが治るような先生じゃないよな。
このお嬢様のためにカッコつけてきたんですね。
お嬢様は夕食も一緒にとか、お泊りもとか勧めてくれたけど遠慮させてもらった。
しょんぼりだったけど。
「また、顔を出すよ。今度はデイエートも連れてくるか。」
そう言ってカロツェ家を後に。
…変だよな。カロツェ家は王都の大商人、爵位も持ってるらしい。
そんな「お嬢様」がなんで辺境の出張所に居るの?
もちろん両親も同居していなかったよな。
メイドは現地採用っぽかったし、家庭教師?
支店長が執事ってのも奇妙だよね?
先生がぼそりと。
「まあ、いろいろあるんだ…」
そうか。
カロツェ家を後にした先生と俺。
工房に帰って、服を返却。
「どうせなら買ってくださいよ、事実上エルディー導師専用なんだから。」
あきれたようにダットさんに言われた。もっともだ。
「ああ、うん、そうだな。そのうち、な。」
先生…
三つ編みを降ろして、モード2へチェンジ。
着替えてからおやっさんのところへ。
着替える前でよかったんじゃないですかね?
おやっさんも見直してくれるかも。
「やだよ、こっぱずかしい。」
恥ずかしいところが間違ってますよ。先生。
ちなみに俺もおやっさんマントに着替えた。
おやっさんは暗かった。
「ダット姐さんから、マント、ダメ出し食らったのがショックだったみたいで。」
居合わせた職人さんが教えてくれた。
「すまねえ、アイザック。そんなの捨ててくれ…」
いやいや、おやっさん、そんなことないですよ。
大事に使わせてもらいますよ。
あ、そうだ。懸案の防具のことを相談。
「背中の防護か…」
「はい、重要な関節部が背中に集中しているようなので」
「うーん、確かに。首の部分も気になるなあ。」
おやっさんに背中を見せながら、相談。
「やはり、マントか。だが、かなり強度を持たせないと意味がないし、」
元々、それなりに頑丈だからね。
「鎖帷子、小札綴…うーん、あまり重くなっても…」
「ちょっと考えとく…今度はカッコイイやつをな。ダットにも文句は言わせん。」
立ち直ったようだ。
「帰るか、ベータも待ってる。」
帰り道、お弁当を買って先生宅へ。コンビニ弁当生活的な。
家に帰ると…イーディお姉さんがいた!
「え? なんでいるの?」
聞けば、救護院に帰ったものの、今日は休め!と言われてしまった。
それで、ベータ君が留守番している先生宅へ押しかけた。
ゴロゴロしながら勉強するベータ君を見ていた。
姉弟子としてわからないところを教えてあげた。と。
どうしたの?ベータ。 どこでつかえてるの?
うん、ここはね、ヘリカルが魔法陣スキャンするから…
あれ? 姉さん、いい匂い。お風呂入ってきた?
ちょっと、姉さん、胸が当たってるよ。
ええ? 男湯へ入ってきたの?
間違って男湯に入っちゃったわけじゃないよね?
姉さん、男の人に囲まれて出るに出られずなんてことは?
ああ、どうしよう。見られちゃうよう。僕以外の男の人に見られちゃう。
ふくらみや先っぽや。かぱぁなところも全部見られちゃうかも。
見られるだけじゃなくて…興奮した男の人に囲まれて…
ああ、そんなことになったら僕はどうしたら…
そんなようなことをベータ君が考えたかどうかはわからない。
(たぶん考えない)
だが、俺は考えた! そんなようなことを!!
姉弟が帰った。
昨日のことが町中で噂になっていることは、ベータ君には教えてない。
知らない方がいいこともある。
いつまで知らずにいられるかはわからないが。
明日はベータ君はお休み、とのこと。
先生と今後のことを相談。
数日中には、メンバーを集めて会議。
デイエートの様子や、組合長の仕事の具合も考えて、招集すると。
明日は寝てる、と先生は宣言。




