奴らを高く吊るすよ
過激至上主義者メギドス団の残党。
悪の女幹部、女魔導師は普通だった。
服装も普通だがスタイルも普通。
ふわっとした金髪の美人だが、なんというか尖ったところがない。
うん、普乳。
エルディー先生とかメガドーラさんとか見てたから。
女魔導師ってみんなそんな感じなのかと思ってた。
幻想がブチ砕かれた。
自動戦闘モードで向かって来る軍用獣機。
俺を追尾してくるなら、これ幸い。
ルミごん、レガシの行商人一行、一般兵士から引き離す。
パワーブーストジャンプ!
関所から距離をとる大ジャンプ。
ゴリアテも方向転換して大街道から離れる。
が、なんだ? 急停止すると構えをとった。
自動モードが解除された?
距離のあるまま腕を振るう。
火炎魔法が発動! モアブ邸攻略時に見せた魔法攻撃。
護符を装備した多機能ゴリアテか。
だが、対策はいくらでもある。
拳を突き出しつつ突進。空力バンパーを展開。
炎をかき分けるように突進する。
あー、あれ? しまったー!!
戦闘を想定してなかったから、点棒型護符を持ってきてないや…
強化拳骨シュートが使えない!
なら…ワイヤーシュートだ。
ワイヤーでつながってるから魔法効果が使えるはず。
シュート!!
被甲身をまとった右拳を発射!
ワイヤーを引いてゴリアテを直撃! …しない!
両腕でガード! しかも角度を調節して斜めに弾いた。
こんなの初めてだぞ? 操縦者の力量、腕前、U・D・Eが優れているのか?
だが、スピードなら俺の方が上だ!
ブーストをかけてゴリアテの周囲を旋回。
それを追尾するように向きを変える巨体。
ラジコン初心者が最初に引っかかるのが車体や機体の向き。
実車やモニターゲームは常に進行方向に向かって操縦する。
だが、ラジコンでは対面操作時にコントローラの左右が見かけ上反転するのだ。
独特の慣れが必要である。
操縦者の力量を図るつもりだったが、やはり一切戸惑いを感じない。
完全にゴリアテをアバターとしてコントロールしているな。
偉そうなこと考えてるけど…実は頑丈剣も忘れて来た。
『ダメダメですね』
辛辣! ヘルプ君!
だって、戦闘は想定してなかったんだよ。
『それなのに始めちゃったんですか』
だってー、ほっとけないでしょ。
実際、レガシの商人を助けられたし。
『まだ、助けられてません』
はい。
さて、どうする?
操縦者をビームで狙撃するのが一番早いけど…
これほどの腕前の持ち主、ちょっともったいない。
ゴリアテがパンチを放つ。パンチ?
今までの奴は腕を振り回すとか振り下ろすとかだったのに。
直線的にくり出してきたぞ。
腰の入った、全身の動作が連動したパンチだ。
一瞬、ためらったせいで回避が遅れる。
ぎりぎりのところを巨大な拳がかすめる。
うひょー! すごい風圧。空中で体勢が崩れた。
今度は振って来た。ラリアット!
ブーストをかけてさらに上昇してかわす。
遠心力で体勢を崩すゴリアテ。
よし! いったん着地して足元へ攻撃を。
と思ったら、振り切ったと思った腕が戻って来た。
裏拳! この操縦者、ただものじゃない。
犬獣機のCPUを使って自律化したゴリアテをしのぐ動き。
魔犬獣機に操られた奴だってこれほどじゃなかったぞ。
肩口をかすめる!
これだけの質量だ。かすっただけで吹っ飛ばされた。
なまじ、端っこに当たったせいで、きりきり舞い状態で地面を転がる。
ボクシングでの事故はパンチそのものだけで起こるわけではない。
ダウンした時にマットやロープに後頭部をぶつけることも危険だという。
そう、地面は鈍器! すごい衝撃だ。
とっさに被甲身で全身をガード。
受け身をとるとか言うレベルじゃない。
石やら土やら巻き上げて転がったあと、あわてて身を起こす。
すぐに追随してくるゴリアテ。流れる様な連続攻撃、隙が無い。
くっそ、何とか動きを止めてなくては。
その間に拳骨シュートで操縦者を…
動きを止めるならワイヤーだよな?
俺もワイヤーガンでやられたし。
でも、いくら超硬ワイヤーでもさすがにゴリアテ相手じゃ無理か?
『引きちぎられるおそれがあります。』
だよねー、…待てよ?
拳骨シュートや頑丈剣が強化できるんだから…
ワイヤーも被甲身で強化できるんじゃね?
やってみるか。
右腕を発射、ワイヤーシュート!
ゴリアテの周囲をぐるっと回り、ワイヤーを引き絞る。
分離した腕でワイヤーを掴んで固定。
そして、被甲身強化!
『ピロリーーーン!』
おおう? 久しぶり!
『強度付与を習得しました』
ええ? そういうことなの?
両腕ごと縛られたゴリアテ、ワイヤーを引きちぎろうと力を込める。
千切れない! それどころか装甲板に食い込んでしまう。
動きが止まった!! 今だ!
もう片っぽ、左腕を発射! 操縦者を攻撃。
アゴのあたりを軽くぶん殴る。
のけぞってひっくり返ったところで操縦器を取り上げる。
そのまま、戻ってきた腕をドッキング。
ゴリアテ操縦器、ゲットぉー!
停止ボタン、ポチッとな。終了。
あれ、女魔導師はどした? 何で操縦者守らないの?
カナちゃんからの映像記録が贈られてきた。
ルミごんにくっついてるヤツ。
これはルミごん主観視点か。
ゴリアテから飛び降りた女魔導師。
「うがっ、おまえ見たことあるぞ?」
ルミごん、お知り合い?
「おじい様のところで見かけた。サカリン伯爵家の…」
「バッソ家のトリルミナ嬢? 何でこんなところに?」
「何でって…」
言葉に詰まるルミごん。
言いづらいよね。「落っこちて迷子になってる」とか。
「お前こそなんだ? 旧首都市の魔導師がメギドス団!?」
「うるさい! この混じり物が!!」
電撃をぶっ放してきた、雷神槌。
無詠唱で護符も使ってない。かなりの腕前。
無効化するルミごん。こっちもやるね。
マジックアローで応戦。数発をいっぺんに発射!
いや、違うな。一発を細かく分けたんだ。散弾マジックアロー。
これを被甲身で弾く女魔導師。
水魔法を発動! 同時に炎縛鎖。
一瞬で沸騰、蒸発する水。被甲身と風魔法で方向を誘導
高温の水蒸気を吹き付けて来た!!
「うががが! 熱ちあちアチ!!」
火炎魔法と違って前面だけガードする被甲身では防ぎきれない。
「魔法は組み合わせて使うもの」エルディー先生の言葉。
実戦経験豊富だぞ、この魔導師。
とっさに氷雪虎を発動して凌ぐルミごん。
「ほほう? 貴族の小娘にしてはやるな。」
「ふがぁー!!」
野獣のような雄たけびを上げる凶暴令嬢。
肩口から固体化したアロー発生、マジカルトマホークだ!
ブン投げる! これには、女魔導師も驚いた。
「ええ?」
どうやら、これ、ルミごんオリジナル魔法?
被甲身でガードしたがよろめいた。
そこへ、剣を持って突進! 物理攻撃かよ。
バンパーにかまわずめったやたらと切りつける。
「くっ! なんだコイツ!? 野獣か?」
魔導師の周囲を飛び回るようにして、斬撃を叩き込んでいく。
被甲身の展開が間に合わない。
「ええい! うるさい!!」
閃光輝! 基本魔法だが効果的。
たじろぐルミごんから転がるようにして距離をとる。
何かを投げた!
リボン? 紙テープ? 昭和アイドルコンサートか?
ちゃんと芯は抜いてあるよね?
風魔法との併用だろうか?
するするとルミごんの周囲に巻きつくように伸びる。
剣で切り払おうとしたが…
ルミごん、貴族様だから、今まで剣だって業物しか使ったことなかったんだろうな。
だが残念ながら、今、手にしているのはその辺の兵士から奪ったなまくら。
空中をひらひらする軽くて細いリボンを切断することが出来なかった。
まとわりつくリボン。
だが、こんな軽いリボンでルミごんの動きを止めるのは無理だろ?
と思ったが、次の攻撃、雷神槌を放ってきた。
ルミごんのレジストが発動しない?
「ふぎゃ!!」
電撃を受けて吹っ飛んだ。
いかーん!!
このテープ、魔法封じの魔法陣がびっしり書き込まれている!
魔法の発動を抑える魔法陣。
すでに発動した電撃や火炎はすでに物理。
こっちの魔法は発動しないが、相手の攻撃は有効。
ルミごん大ピンチ。
と、いうところでゴリアテ操縦者を倒した俺が参戦!
加速状態で到着。
「くっ! 魔道機!! 軍用獣機はどうした?」
焦る女魔導師に奪った操縦器を見せる。
「くそ! 役立たずがあー!!」
操縦者の心配はしないらしい。
一緒に逃げては来たものの、仲がいいってわけじゃなさそうだ。
俺に向けてマジックアローを放ってきた。
魔法攻撃では基本らしい。
もちろん俺の装甲には全然効かない。
「くっ、ならこれはどうだ!?」
風魔法? つむじ風が発生、しかも二つ?
同時に俺に接近、挟み込むようにぶつかった。
おう? これは? これは…何??
何にも感じないけど?
『真空状態が発生してますよ、人間の皮膚ならズタズタですね』
真空斬りかー。赤胴鈴〇助だ!
でも、俺、硬いから…真空くらいじゃね。
焦る、女魔導師。ナイフを取り出した。
投げつける! しょぼい攻撃だなー。
避ける気にもならないのでそのまま装甲で弾く…
ガツンとショック! 衝撃増幅のエンチャントだ!
手持ち武器だと本人にも衝撃が来るので、飛び道具にしか使えないと言う。
でも、それはもう体験済み。
魔王機との激闘を経験した俺にはその程度の衝撃は通用しない。
愕然とする魔導師。
さっとしゃがみ込むと地面に手を当てた。
「砂塵煙幕!」
何だ? 何も起こらない。
「え? なぜ? え?」
女魔導師も意外だったらしい。
後で聞いたところによると、土を巻き上げて目くらましする魔法だと言う。
逃走するつもりだったようだ。
だが、ここ、大街道の舗装の上だった。
大街道のジグソータイルは魔法石製。
万年単位で自己保存、自己修復する超先史文明の遺産。
個人の魔法程度では巻き上げる土が無かった。
だが、この魔導師、引き出しが多い。
何が出てくるかわからんぞ。
これ以上つき合うのは危険か?
走った! むかう先はルミごん。人質にするつもりか。
ワイヤーシュート! 足元に!!
とっさにワイヤーを飛び越える女魔導師。
身体能力も高い。でも罠に引っ掛かったね。
拳骨シュート上昇。ワイヤーも高度アップ。
ハードルが高くなった!
そう、引っ掛かった、足が。
転倒! 大の大人が思いっきり!
地面は鈍器!
ごっつん! すごい音した。
そして動かなくなった。
ルミごんに駆け寄る。
電撃攻撃で昏倒、息はしている。
手を見ると水泡が。さっきの水蒸気攻撃でやられたらしい。
表皮から真皮に達する浅達性Ⅱ度の熱傷。
一番痛いヤツ。
まずは女魔導師を処理。
魔力封じリボンをルミごんから剥がして、ぐるぐる巻き。
これで魔法は使えまい。
馬車かげから遠巻きにしていた商人や関所兵士に声をかける。
「コイツら、縛り上げてください!」
ルミごんを傷つけやがって!
ゴリアテにぶら下げてやる!