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続・荒野の用心棒するよ


さて、野獣令嬢はエサを与える事で大人しくなった。

ぶつ切りにして焼いた鳥。

コーンスターチ的なものをまぶしてオイル的なものを塗って焼いたらしい。

パリパリなチキン的なもの。

ケンタのフラチン的見た目の肉のかたまりにかぶりつく。

「しかし、驚いたな、アンタみたいな魔道機は初めて見たよ。」

肉を持って来てくれたマスターが話しかけてきた。

俺の見た目は怪しい魔道機。とても気軽に近づける相手じゃないと思うんだが。

ルミごんがあまりにアレだったので俺のハードル下がった的な。

「たいていは簡単な命令をこなすだけで、話しもカタコト・・・」

あれ? 人型魔道機ってけっこう居るの?

「王都では人型は見かけませんでしたが?」

「そりゃ王都は新しい都市だからな。」

「旧首都市では、けっこう見かけるよ。」

このマスター、旧首都市の出身か?


肉に夢中の野獣令嬢ルミごん。

バキバキっと音を立ててアバラ付のリブ部分をまるごと噛み砕く。

歯、頑丈。

ビクッとするマスター。

「そ、そっちはアレか? 人型モンスター的な…」

「いえ、王都の貴族の御令嬢ですが。」

混乱するマスター。

「王都の貴族令嬢てのは、みんなそんななのか?」

「いえ、…」

そんなことありませんよ、と言おうとして気づいた。

俺がご令嬢で知っているのは、イオニアさん、マビカ、キラすけ、ルミごん。

四人だけ。ん、待てよ? いちおう女騎士も貴族?

そすっとキラすけ、ルミごん、女騎士が兇暴。

兇暴率60%、いかん。否定する根拠がない!

「…6割くらいですよ。」

ガキッ、バキンっ!

ドラム部分、脚の骨をポッキーのごとく美味しくいただくルミごん。

マスター、震え上がる。


一方、他のお客さんたち。

俺達から距離を取っている。賢明な判断。

電撃をくらったおっさんも仲間から手当を受けて復活。

そして遠巻き。

ふと、視線に気づいたルミごん。

振り返って威嚇、シャー!!

どうしてこの子はこんな……


「ロスト地方、レガシの町に行きたいんですが…」

「あっちへ行くには…大街道へ出るのが早いんだが…」

マスターに尋ねると、反応がおかしい。

「何かあったんですか?」

「大街道にある王軍の関所がおかしなことになっていてな。」

そう言えば、ミーハ村近くの関所も政変前あたりから補給が滞って困窮してたって言ってた。

「獣機のナワバリを監視するためだったはずが、通行料を取るようになって…」

「だんだんエスカレートしてボッタクリに。」

「そのうち自由集落の連中は相手にせず迂回するようになった。」

ああ、ハイエートお兄ちゃんも言ってたけど、多少モンスターとかの危険が増えるだけで、関所を通らなくても移動は出来るらしい。

この辺はミーハ村関所でもやってたが、クリプス騎士の手腕でサービスエリア化。

さらにマニアックなカフェがオープンでみんなが幸せ。

だが、そんな上手くいかないところでは無法化してたってことか。

「まあ、荷物の多い商人は仕方ないので払ってたが。」

それが最近、大街道周辺に柵を作り始めた。

遠回り過ぎて迂回するのが困難になりつつある。

「そんな大掛かりな柵を作るのは大変なんじゃ?」

「それが、なんかどでかい魔道機を導入してあれよあれよって間に…」

どでかい魔道機? まさか?

軍用獣機ゴリアテか?

獣機使いの残党が居るのか…

ご亭主も直接みたことはないという。

「おーい、関所のでかい魔道機を見たやつ、居るか?」

呼びかけに答えたのは、人間の若い男。

いわゆる冒険者ってやつ。

「先日関所を通った時に…もの凄いヤツでしたよ。」

冒険者は荒事の専門家のはずだが、どうにも線が細い。

なかなかのイケメンではあるが、それが災いして迫力不足。頼りない。

まあ、タモン兄貴やハイエートと比べちゃいかんのだろうけど。

説明を聞いたがどうにも語彙が少なく表現力がない。

えーいめんどくさい!

プロジェクター作動!

テーブルの表面にゴリアテの映像を投射。

「えええ!? これ! こいつだ!」

と、やっぱりゴリアテか。

「鉄蜘蛛はいませんでしたか?」

「鉄蜘蛛?」

映像を投射して確認したが鉄蜘蛛はいないらしい。

なるほど、ゴリアテは魔力消費が激しい。

長距離を連続移動することが出来ないのだ。

そのために通常は電力駆動の鉄蜘蛛で運搬する。

おそらくレガシ近辺から脱出した獣機使いの一味。

俺達との戦闘で鉄蜘蛛を失なったんだろう。

魔力の自然補給が必要なんで、休み休み移動するしかない。

そして、たぶん人間兵士は徒歩。

それで今だにこのへんをウロウロしてるってわけだ。

いったいどこへ逃げるつもりだったのか?


俺本体はいったん拡張機体に収容されたことで完全修復完了。

万全体制の俺にして見れば、いまさら人が操縦するゴリアテなんぞ大した脅威ではない。

だが、普通の軍隊や一般人から見れば、絶望的な戦力差だ。

扱っているのが獣機使いの残党なら放っては置けないな。

【荒野】にあるという軍用獣機保管場所やジョーイ君本体の場所を知ってる可能性もある。

いっちょ、やりますか。

でも、ルミごんをどうする?

一人で残しておくのも心配だし…周りのヒトが。

「がるっ! モアブの残党か?」

「モアブ伯の…というより過激人間至上主義者の一味でしょうね。」

モアブ伯の配下は、当人の遺言もあって降伏してニュース王子の管理下に入ったはずだし。

「なら、ワタシも行く!」

ええ?

「うが! 奴らには借りを返す!」

好戦的だなー。


宿場町に別れを告げて関所へ向かう。

羽織った雀竜マントが風になびく。

戦いに赴く勇士、荒野を行く! カッコイイ。

でもルミごんが肩車を要求。ええ?

見晴らしがいいですか? そうですか。

俺の頭を太股で挟み込む感じ。

チビッコでも女の子。凶暴だけど。いい匂いする。

ぎゅっぎゅっって挟まれる感じ、悪くないですよ。

「うが?」

「いえいえ、しっかりつかまっててください。」


しばらく走ると大街道が見えてきた。

相変わらず違和感ありありの構造物。

魔道機文明より更に大昔の遺産。

大陸中に張り巡らされた高速道路網だ。

舗装に使われている魔法石には魔力伝導効果がある。

当時は物流、エネルギー、情報の伝達を担う統合インフラだったらしい。

今現在、世代の違う獣機ネット・神代魔道機通信との統合を計画中。

現在、ジョーイ君、ミネルヴァ、ヘルプ君が慎重に作業を進めている。

慎重に進めているんだよね? ヘルプ君?

『………』

ヘルプ君?


大街道に沿って移動する。この辺で樹木が多くなってきた。

と…関所が見えてきた。

ちょっと離れた場所、大街道の路肩下で木の影になる場所に位置取る。

視覚センサー、ズームアップ。

街道脇の平地に飾り気のない建物。

雰囲気としてはトイレしか無いパーキングエリア。

のトイレの周りにテント村。

大街道には自立式のフェンスが置かれている。

当番の兵士が番をしているけど、通行量はそんなに多くない。

手持ち無沙汰で、ウロウロしてる。

そして大街道に直角に延びる柵。

と、言ってもそんな立派なもんじゃない。

支柱を立て、丸太を横渡しにしただけ。

人間だけなら上を乗り越えるのは簡単だろう。

ただし荷物を担いだ状態や荷車、馬とかだとちょっと無理。その程度。

何が何でも通さないって言うんじゃない。

通行料払った方が面倒ないかーって言う人からお金取る感じ。


さて、ここからは軍用獣機は見えないな?

多分、柵の端っこの方で作業中なんだろう。

当然、獣機使いもそっちにいるはず。

まずはコイツらの配置と様子を調べないとね。

特に操縦器を持ってるヤツは把握しておかないといけない。

【収納】からとり出したのは小型ドロ一ン。

カイコの繭っていうか、100円ガチャっていうか。

そんな感じのカプセル型。

ピッと起動するとタテに二つに分れる。

長円半球型。6本脚と甲殻カバー下には翅がある。

カナブン型だから「カナちゃんズ」

念のため4組8体を持ってきてた。

何で8体かって言うと、カナちゃんは8の倍数で行動するから。

制御系の問題らしい、知らんけど。

「うがっ? 何だそれ。」

ルミごん見るの初めてだっけ?

「これを使えば離れていても私と話ができます。」

脚で耳に固定すればワイヤレスイヤホンぽく使えるよ。

カナちゃんを見るルミごん。

6本脚をワキワキさせるカナちゃん。

顔青い、一歩引いた。

耳にくっつけようとすると、すーっと頭避けた。

あれ? 虫嫌い?

まあ、あんま好きな人はいないかもね。

「逃げないでください。」

「がるる! 逃げてなんかいない!」

露骨に嫌そうな顔しながら強がるルミごん。

わはは、可愛いとこあるじゃん。

虫メカを耳にくっ付けられてしかめっ面。

「がうぅー…」

弱り目凶暴小動物。



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