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ルミごんの事情を聞くよ


じつはこの辺の店内でのやり取りは直接見てたわけじゃない。

イオニアさんにつけたカナちゃんからの情報を受け取った。

エロメイドさんの画像は記録保存完了。

俺本体は店の前で待機。女騎士も一緒。

となりにはズルチン護衛のいかついメン二人。

露出メイド目当ての野次馬は女騎士が追っ払った。

ズルチン子爵は買い物を済ませたらしく、メイドさんに荷物を持たせて出て来た。

「行くぞ。」

わりと上機嫌で護衛二人に声をかける。

奴隷メイドさんの可愛いマントにびっくりする護衛メンズ。

一人が荷物を引き受けると、声をかけた。

「カワイイすっよ、そのマント。」

入店前の羞恥とは別の意味で、恥ずかしそうにうつむくメイドさん。

なんだ? こいつら意外といいヤツら?


エアボウド導師も出て来た。

「クラリオさんは中に入ってくれ。」

「さて、ワシは学園に戻るか。」

「よろしいので?」

「さすがに、女性陣の買い物につきあうほどのヒマはないし…」

そうですね。

「ま、さっきのメイドさんで目の保養は出来たしな。」

「お送りします。」

俺も女性陣の買い物につきあうのはちょっと…

頃合いを見てカナちゃん経由で呼んでもらえばいいか。

護衛には凶暴無敵女騎士がついてるし。

荷物持ちさせられるのもやだし。

途中、ジジイにネチネチ責められた。

最初のころエルディー先生と一緒に魔道機演技でだましてた件。

ちなみに、俺たちが獣機本拠探索に出発した後、おやっさんからホントのこと聞いたという。

その後はゴタゴタしてたんでうやむやに。

「ひどいよ。」

「すいません、でも文句は先生に。」


気になっていたことを尋ねる。

「奴隷制があるんですか?」

「まあな、昔と違って今は犯罪の懲罰とか、借金のかたとかだけだがな。」

「魔王騒動以前は【亜人狩り】とかもあったんだ…」

国家都市に属さない集落を襲って強制連行とかが横行していた。

魔王騒動で大街道の維持における自由集落の重要性が認知された。

ナビン王の方針もあって無制限なヒト狩りは公式に禁止されたという。

もっとも、それ以前からも正式に認められてたわけじゃない。

取り締まりが間に合ってなかっただけだと言う。

「魔王のとこに集った反体制集団には逃亡奴隷とかもいたんだよ。」

いろいろあったんだな、王国設立以前にも。

「まあ、王都にも昔は奴隷がいたんだが…」

え? マジで?

「王都建設の際はいろんな所から人が集まって来たからなあ。」

「奴隷を使ってる建設業者も多かったんだ。」

「どうにも、あまりに扱いがひどかったんで…」

「ナビンやブレビーと一緒に法律を作ってな。」

「衣食住、福利厚生を保障するように図ったんだが。」

いいことだ。さすがナビン勇王。

「数年で奴隷制度そのものが無くなった。」

ほほう、人権意識が浸透したんですかね?

生臭導師、悲しそうに首を振った。

「いや、奴隷の待遇を改善するんなら、解放して日雇いにしたほうが金がかからない。」

……ああ、そういうの、どっかで聞いたことあるよ。

終身雇用から非正規雇用へ転換した的な。

「ありゃあ、ひどい失敗だったなあ……」

「単純労働奴隷は自力でメシを得る手段さえ知らないし…」

「金を持ったことも無いし、そもそも自分で料理したことも無い。」

「宿すら失った解放奴隷が貧困化してな、」

「おやっさんの発案で技能研修学校を作ったり、」

「プロフィルが道場で鍛えて軍の増強に回したり、」

「魔力の強い奴には魔法を教えて…」

「魔道学園も最初はそのために作ったんだぜ。」

「まあ、王都が発展してる途中だったから何とかなったけどな。」

「経済が停滞してる時や、落ち目の時だったらどうなっていた事か… 」

うん、まあ、そういうこと……あるよね。


「それに、あの頃の王都には教会もなかったし…」

教会? アポロン教会ですか?

「ああ、ま、今でも派出所が一つあるだけだ。」

「ブレビーのやつが宗教嫌いでな。」

ブレビー・モアブ、初代モアブ伯爵。

七英雄の一人で王国建国の中心人物だ。

「まあ、賢明だったんだが…」

「今にしてみれば人間至上主義台頭の原因の一つだったかな。」

それはどう言うこと?

「アポロン教会の総本山は聖堂都市、大司教はエルフなんだよ。」

聖堂都市は王国を構成する同盟都市の一つ。

人口の半分近くをエルフが占めていると言う。

王都で人間至上主義者が勢力拡大したため、ここ10年くらいは関係が微妙。

今回の会議はこの辺の関係改善も目的の一つ。

「まあ、あそこはエルフ至上主義者の巣窟でもあるんだが。」

そして旧首都市は人間至上主義者の総本山だと言う。

やっかいだねえ。


女性陣の買い物が終わって呼び戻されたのは夕方。

「どこで油を売ってた。」

先生に怒られた。

馬車にはお買い物が山積み。

これ全部レガシに持って帰るわけじゃないよね?

コンテナに積みきれませんよ?


カロツェ家に帰るとお客さんが来てた。

クリプス・デンソー騎士。

ミーハ村近くの大街道関所の所長、併設軍服カフェの店長。

商売上手のやり手イケメンチャラ男騎士だ。

あと、男爵家の三男坊。

そして、タモン・ギャザズ将軍。

兄貴、久しぶり。

「将軍、よくいらっしゃいました。」

イオニアさんもうれしそう。

「イオニア様、エルディー導師も、すごいご無沙汰してた様な気がします。」

「あー、でも将軍ではありませんよ。軍に復帰したわけじゃないので…」

え? そうなの?

「臨時で王軍の立て直しに協力してるだけで、めどが立ったらレガシに帰りますよ。」

「そりゃあ、みんなも喜ぶけど…」

先生も嬉しさよりも戸惑いが大きい感じ。

むずかしいだろうなあ、王軍が手放してくれるかどうか。


「僕の方はアイザックさんにお願いがありまして。」

クリプス店長騎士が切り出した。

「レガシに帰る時、僕も乗っけてくれませんか?」

ああ、なるほど。関所まで馬車で帰ると1週間以上かかるもんな。

でも、お土産がいっぱいあるから…乗れるかな?

話を聞いた先生。

「ワタシのほうはクオリアに指導するのに1週間はかかる。」

「アイザックとスカジィは先にいったんレガシに戻れ。」

なるほど、2回に分ければ十分荷物も積めるね。


さて、次の日。先生と俺は再びバッソ家へ。

クオリアさんに不老法のコーチを行う。

なぜか護衛に女騎士がついて来た。

早朝から迎えに来た。そしてカロツェ家で貴族朝飯をたかる。

バッソ家へは今日も馬車で送ってもらった。

奥様と凶暴令嬢ルミごんがお出迎え。

「今日は天気がいいので、庭でお茶にしましょう。」

庭園の東家あずまやでティータイム! 貴族っぽい!

先生、クオリア奥さま、凶暴ご令嬢でテーブルを囲む。

お茶出しメイドさん。クラシックスタイル。

ズルチンメイドなエロスはないが、これはこれで!

高級そうなお茶と高級そうなお菓子。

俺は先生の後ろでスタンド。

女騎士はメイドさんにしきりにアピール。

自分の分もお菓子が欲しいのか!?

ルミごん、何か先生に聞きたそう。

「導師はキララに教えてるって聞いたガ。」

「ほう? ルミナも何か聞きたいことがあるのか?」

凶暴令嬢は性格に難があるので、学園には通わず家庭教師が付いている。

それなのに魔法は得意なのだと言う。

意外と学習意欲は高いのかな?

「この間の魔法封じ解除を教わりたい。」

モアブ伯の乱でバッソ家が制圧された時、ルミごんは最初大暴れ。

しかし、家族を人質にとられ、武装解除。

さらに魔法封じリボンで無力化されてしまった。

「うが! あんな奴らに負けて悔しい!」

「なるほど。だが…」

先生、苦笑い。

「あれは魔法ってもんじゃないんだ。」

「知識と…応用とでも言うか…」

「魔法陣を見て、構成を解析し、使われている要素の中心点を破壊する。」

「魔力はほとんど使ってない。」

「魔法陣や魔法構成に対する知識と理解が必要になる。」

「魔法書を数多く読んで、知的経験を増やし…」

「少なくともフリーハンドでオリジナル魔法陣が組める程度にはならなきゃな。」

ほー、やっぱスゴイわ、エルディー大導師。


「うが、が…」

ルミごんも考えこんじゃった。

「あれ? ルミナ、おまえ…」

先生が何かに気づく。

「呼吸法が出来てるな。」

詠唱魔法呼吸法。韻を踏んで唱える呪文に最適な呼吸法だ。

息が荒れても詠唱を続けることが出来る実戦向き技術。

元々はエルフの呼吸法なので人間向きではない。

教育を受けた魔道士でも出来る人は少ないと言う。

「ウガ、家庭教師の一人から聞いた。」

「ふむ、『習った』んじゃなく『聞いた』のか。」

「さすがはメガドーラの孫、といったところだな。」

なにが、ルミごんをそこまで駆り立てるんだ?


「代わりと言っては何だが…」

先生が取り出したのは、円盤型護符。

「ガ、ウ? 護符? 丸?」

木製コースター風ディスク護符。先生オリジナル形式。

「こうやって使う。」

手首のスナップで斜め上方へ投げると、フリスビーよろしく弧を描いて飛行。

東家の周りをぐるっと回って先生のところへ戻って来た。キャッチ。

「同じ護符魔法でもこれなら多彩な攻撃が出来る。」

「キララはレガシで練習してるぞ。」

「ウガガっ!?」

キラすけの名前を出されて対抗心。

渡されたディスクを投げるが、もちろん戻ってこない。

駆けだすルミごん!

転ぶなよ。


「ルミナは妙にネコ科っぽいな?」

先生、円盤護符に熱中するルミごんをほほえましげに見ながら、クオリアさんに問いかける。

「エリクソン家のご先祖にネコ科獣人がいたのかな?」

「わたくしも気になってお父様に聞いたのですけど…」

「心当たりがないと。」

「ふうむ?」

凶暴令嬢ルミごん、ネコ系獣人… て言うか、ライオンっぽい。

お父さんベガは夢魔族ハーフで、お母さんのクオリア奥様は人間。

母方のエリクソン伯の方じゃないとすると、お祖父さんの初代バッソ侯の血筋?

「でも先日、お祖母さまの話を聞いて思い当たるふしが…」

その話と言うのは、半霊の存在である夢魔族は自分のイメージ、理想通りに成長する、というもの。(ただし、成長は遅い)

「以前お話しした、クリエート・トリニートへの襲撃事件なんですが…」

過激派至上主義者が夢魔族の血統復活を恐れて希少な男子である兄弟を襲った事件。

二人は重傷を負い、無理して魔法治療したキラすけの母親サターナさんが早世する原因にもなった。

「その時、ルミナも同行していたのです。」

「救援が間に合って、あの子にはケガは無かったのですが…」

「駆けつけて襲撃者を撃退してくれたのが、お義祖父さまの弟子の方々で」

ルミごん、キラすけらのお祖父さんは七英雄の一人、初代バッソ伯プロフィル。

大剣豪と呼ばれ、ナビン勇王と並び称される豪傑だ。

王都で道場を開き、多くの剣士を育てた。

エルディー先生もちょっぴり協力したらしい。

「その中のお一人が、”黄金獣ゴールデンライオン”と呼ばれた女剣士でした。」

「おおお、黄金獣!」

何だよ、横から女騎士がクチを出してきたぞ。

「知っとるのか?」

先生は知らないみたい。

まあ、ずっと王都には来てなかったしね。

「だだだ、”大剣豪”の称号を受け継ぐとまで言われた達人ですよ!」

「かく言う私も、彼女を目標に剣の鍛錬に励んだ身です。」

破壊剣士と呼ばれる戦闘狂女騎士があこがれるほど?

「ルミナも彼女の活躍に感じ入ったようで、その後剣術を始めました。」

え? ルミごん、剣も使えるの?

「ただ、ちょっと… その…」

口ごもるクオリアお母さん。

「荒いって言うか…危険すぎるっていうか……」

うーん、凶暴小動物系ビースト令嬢に刃物。

おすすめはできない感じ。

たぶん、みんなそう思った。


一方、お菓子にありついて満足げ女騎士。

聞かれてもいないのに語りだした。

「黄金獣…私、実は一度お手合わせしたことがあるんですよ。」

ピクっと反応したのはルミごん。耳ざとい。

夢中でディスクを投げていたが飛んで戻って来た。

女騎士に駆け寄る。

「本当か!?」

「ええ、かけだし騎士だったころ、バッソ道場へ出稽古に行きまして。」

「彼女と向き合っただけで足がすくみました。」

「何番か立合ったあと、気迫がいいと褒められましたよ。」

自慢げ、小鼻ピクピク女騎士。

ルミごんが尊敬の眼差し!

いや、別にお前さんの自慢話なんぞ聞きたくないが。

うん、出稽古?

先生も疑問に思ったらしい。

「その女剣士を目標にしてたのにバッソ道場には入門しなかったのか?」

「え? あ、いやその…」

急にうろたえる自慢話女騎士。

「王軍騎士は入門できない決まりとかあるのか?」

クオリアさんに聞いてみる。

「いえ、そんなことはありませんけど?」

目が泳いでるぞ、女騎士。

「…そのー バッソ道場は文武両道を標榜しておりまして……」

「入門には筆記試験が……」

落ちたのか! 筆記試験。

ルミごん、静かに女騎士から離れていった。無言で。


「なるほど、憧れの女剣士にイメージが引っ張られたわけだな。」

うなづく納得先生。

「黄金獣どのはネコ科獣人…至上主義が台頭すると、王都を離れてしまわれて、」

「その後の消息はわからないのです。」

女騎士が話を補完してくれた。

「今のクラリオならどうだ? いい勝負ができるんじゃないか?」

「いやいや、まったく近づいた気がしません。」

首を振る破壊剣士女騎士。そんなに強い剣士だったのか!?





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