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服を着るよ


イオニアお嬢様、スカジィちゃん、生臭導師、先生、俺

と、女騎士でお買い物に出かける。

女騎士はいつもの軽装ヨロイではなく儀礼服っぽい軍服姿。

いっぺん自宅に帰って着替えて来たらしい。

心なしか表情が明るい。

下着とか新しいのに替えて来たと思われる。

たぶんイオニアさんからもアルバイト代が出ると思われる。

そしてたぶん前払いしてもらったと思われる。


王都ではここ10年くらい人間至上主義が台頭していたわけだが。

実際のところ貴族や軍属の勢力争いという側面が大きかった。

出世が見込めなくなったんで上級国民というか貴族、大商人レベルでは他都市に拠点を移しちゃったヒト族とか結構いたらしい。

でも一般庶民レベルではそんなに影響は出ていないようだ。

デンソー家のくノ一コンパニオンズを見てもわかるように、人間以外のヒト族も普通に暮らしている。

馬車の窓から見ていると、通りを普通にエルフとか獣人族がうろうろしている。

「ドワーフは人口少ないんですか?」

あんまり見かけないけど?

「ドワーフは職人が多いから、ずっと工房で働いてて表に出ないんだ。」

ワークホリックは種族的な問題なのか。

大丈夫かな、タンケイちゃん。


やってきたのはちょっとお高そうな紳士服ディーラーな感じのお店。

地球人だった頃には縁がなかったよな。

エアボウド学園長はお得意様らしい。

入店すると、すぐ店員さん(若い女性)が店長を呼びに行った。

常連客には店長自ら対応する商習慣があるのか。

エロジジイの相手をするのが嫌だったわけじゃないよね?

店主らしい渋い中年男性が出て来た。

「これはエアボウド様、お久しぶりです。」

「いや、しばらく王都を離れていたし、帰ってからもちょっと忙しくてな。」

「ご活躍は耳にしておりました。」

「お連れの方々は…」

エルフ美人に高貴な美少女、プラスネコミミメイドと言うバラエティに富んだメンバー。

女性ばっかり。

店長さんの顔に「何やってんだ? エロジジイ?」的な疑念の表情。

まあ、映像メディアのないこの世界。

長く王都を離れていた王息女様の顔までは知られていないらしい。

「急ぎで服を頼みたいんだが、この…えーと、これの。」

分類不能魔道機に視線を向ける店長さん。

「え? あ! これは…魔道機!!」

「ま、まさか、あの!」

ビビる! 店長さん。

あの、魔道機です。俺。


仕立てている時間はないので出来合いの服を用立ててもらう。

聞いたところではフォーマルな感じのいい服はオーダーメイドが普通。

市民クラスが買う既製服は古着が一般的なのだと言う。

古着と言ってもお貴族様が1回着ただけ、とか作ったけど着なかったとかが多いらしい。

店員さんが合いそうな服を奥から何着か出してきた。

「身長の合うものは有りますが…体型までは…」

俺の身長は2メートル近いので大きさ大丈夫かなー。

と思ったけど、お客さんには軍人さんも多いのででかいヒト多いそうだ。

まあ、タモン兄貴とかサンゴロウさんみたいなのが居るんだしな。

「これなどは丈は合いますが…細すぎますかな?」

どれ? 店長さんが後ろから上着を掛けてくれる。

ほぼ黒の詰め襟軍服っぽいヤツ、学生服。

腕を通して羽織ると、やっぱきついかな?

あれ? 着せてもらってると気づかなかったけど…

これ、もしかして俺一人では脱ぎ着出来ないんじゃ?

俺の関節、ヒトと比べると自由度低いから。

「やはり、細すぎますな、窮屈でしょう。」

思案顔の店長さん。大丈夫ですよ。

えい! スリムモード。装甲板をスライドさせ、身体を縮める。

身体に合わせて服を直すのではなく、服に合わせて体型を変えた。

俺、着痩せするタイプですから。ロボ〇ト刑事K!

「え、えええー!?」

店長さん、びっくり仰天。

「こ、これは凄い。便利ですな。」

「お客さんがみんなこうだと良いのに…」

ため息をつく店長。本音入ってますね。

「仕立ててる1週間の間に太るヤツとかありえないだろ…」

ぶつぶつ愚痴ってる。


ちゃんと服を着て、フード付きマントを羽織る。

これなら噂の破壊魔道機だとは気づかれないだろう。

なんか久々に服着たんでゴワゴワする感じ。

ミネルヴァがマント羽織るのをいやがった気持ちがわかった。

「お似合いですわ、アイザックさん。」

イオニアさんに褒められると照れちゃうね。

「馬子にも衣装ニャ。」

それ、褒めてねえよ、スカジィちゃん。

「ま、顔を見られたときは仮面だとか言ってごまかすか。」

先生もニヤニヤしてる。

「お代はカロツェ家に回してくださいな。」

お嬢様が払ってくださる。ありがたや。

「かしこまりました。え? カロツェ家…」

店長さん、家名を聞いてお嬢様の正体に思い至った。

「ま、まさか! 王息女イオニア様!?」

あわてて片膝ついて礼をする。

エアボウド導師がいたずらっぽく笑う。

「しー、お忍びだよ。」


さて、身支度を整えた俺を伴って店の外へ出るお嬢様ご一行。

「そいじゃ俺は学園に戻るわ…」

エアボウド導師はここで別れて…と思ったら、何やら通りの反対側を見て眉根を寄せた。

今出て来た店は大通りからちょっと奥まったとこにある、隠れ家的な洋品店。

立派な馬車は大通りに停めて、御者さんと女騎士が待っててくれたわけなんだが。

大通りの反対側で何やら人だかり。

「何かもめごとですの?」

もむのは得意だけど、もめごとはいやだなあ。

「あそこは…寄ろうと思っていたお店ですわ。」

この世界、商店の分業は21世紀地球ほどじゃない。

アクセサリーとかインテリアとかと一緒に武器とか扱ってたりする。

品目より、お値段で区切られてる感じ。

お嬢様が寄ろうってくらいだから、高級店。

あ、カロツェ家でやってるお店?

「行きますわよ!」

ちょ、イオニアお嬢様。決然と歩を進める。

俺達も、御者台に居たクラリオ女騎士もあわてて後を追う。


まずは先頭に立った俺が人ごみをかき分ける。

文句言おうとする奴も居たが、体が触れた感触にぎょっとなって後ずさった。

ま、服を着ていてもその硬さは隠せないらしい。

店頭で押し問答しているのは、でっぷり太ったいかにも貴族って感じのおっさん。

ど派手な衣装、金モールとかレースとか。

今まで見てきた王都の貴族とは時代がずれてるって印象。

そしてお店のヒトらしいダンディなオジ様。困惑の表情。

「そのような格好で入店されては困ります。」

【そのような格好】なのはおっさんじゃなく…

付き従うのは護衛と思われるいかついメン二人と、メイド二人。

メイドさん?

いわゆるフレンチメイド! 超ミニスカート。

ちょっとかがめば見えちゃう見えちゃう!!

ガバッと開いた胸元からははちきれこぼれそう!

紐で締め上げた革製コルセットにフリフリエプロン。

エッチなお店の店内でしかお目にかかれないドリームメイド!!

風紀上問題ある感じ。公序良俗を乱してる的な。

それぞれイヌミミとネコミミ美少女だ。

野次馬の人数がやけに多いなーと思ったが、なるほど。

このエッチなメイドさん見物の男どもが、たむろしてたわけね。

「動きやすそうだニャ。」

いや、スカジィちゃん。そーゆー事でなく。

そして首輪!

え? 首輪? チョーカーとかじゃなく…結構しっかりした革首輪。

そして腕には一見バニーガール風カフスかと思ったら…

革製腕輪っていうか手枷! 金具付き!!

これもう、エロマンガで見かける感じのヤツですよ。

「ありゃ、奴隷だな。」

嫌悪感も露わに苦い顔する生臭導師。

「旧首都市や、南方都市なんかでは奴隷制が残ってる。」

「ちゃんとした外交官や気の利いた貴族なら王都には連れてこないんだが。」

王都の貴族じゃないのか。

「旧首都市の貴族だな。会議の先乗りか?」

エルディー先生も不快感。

「あんな若い娘にあんなカッコさせるようじゃろくなヤツじゃないな。」

ガバガバ先生に言われるとちょっと説得力薄い。

でも確かにメイドたち本人は顔を伏せて羞恥の表情。

まあ正直、俺的にはこのデブ貴族。

その趣味とセンス、変態紳士っぷりには共感を覚える。

ま、口や態度に出したりはしませんがね。


「何かありましたか?」

お嬢様が声をかけると、お店のヒトはっとなった。

「お、お嬢様!」

ビシっと身を正す店長、でっぷり貴族がこちらを向く。

「なんだ!? 娘。」

にっこり微笑んでお貴族お辞儀をするお嬢様。

「この店の関係者ですわ。何か失礼がありましたでしょうか?」

憤るデブオッサン貴族。

「貴族たるワシにこいつらが無礼を!!」

「首都市の方とお見受けいたしましたが…お名前をうかがっても?」

ホントは現在の首都は王都になるので、「旧首都市」

でも旧首都市の貴族は「旧」を付けると機嫌が悪くなるのだと言う。

めんどくせえ!

「わ、ワシは首都市で子爵に叙されておるズルチンだ!」

「ズルチン子爵様…どういった問題が有りましたでしょうか?」

ちょっと、小首をかしげ無邪気っぽく尋ねる。

この辺の対応、さすがだ、お嬢様。

完璧お上品貴族ブリっこムーブに毒気を抜かれたでっぷり貴族。

「コイツががワシの従者に難癖を付けて入店を拒んでおるのだ!」

大げさに驚いた素振りをみせるイオニアさん。

「まあ、それは失礼!」

「わかりました。往来では何ですし、一旦、店へお入りください。」

子爵一行を招き入れるイオニアさんに、店長困った顔。

「し、しかし、お嬢様…」

「かまいませんわ。そのかわり…」

店長の耳元に何かささやく。

「あ、は、はい。」

そそくさと店の奥に引っ込んだ。


「王都の奴らはどいつもこいつも無礼なやつばかりだ!!」

荒ぶるデブ。

ただ、これは事実でもある。

歴史が浅い王都では貴族のほとんどが成りあがり。

平民側もだが、かんじんの貴族側も特権意識が薄く、気安い。

王族がフツーにコンパニオン呼んで宴会したり、王子が田舎へ出かけてくるくらいだからね。

お嬢様がなだめる。

「仕方がありませんわ。王都はまだできたばかりの都市。」

まあ、200年足らずですからね。

「歴史の長い首都市と比べれば、格調高いと言うわけにはいきませんわ。」

「それに…文化の多様性には欠けますのよ。」

「こちらのメイドさんたちは田舎者には少し刺激が強いかと…」

言われて首をかしげるズルチン子爵。

「そ、そうか? だが…」

ホントに悪気は無かったのか? このオッサン。

すると旧首都市ではこんなエロメイドが普通に練り歩いて?

行ってみたい! いや、行きたい!! 旧首都市!


そこへお店の人が登場。女店員さん数人。

持ってきたのは…マント? フード付きのマント。

あ、これ、マビキラ、ディスカムが最初に会った頃着てたヤツ。

ただし、黒くない。

パステルカラー、ピンクって言うか、桜色。

「どうぞ、こちらをお試しください。」

エロメイドさんに勧め、羽織らせる。

おお、これは、これで!

ぐっと可愛らしくなったぞ。

そして、いったん隠したことで前をはだけた時の衝撃力が倍増。

「市内を動かれるときはこちらを身に着けていただけたら…」

「こちらは、わたくしからお詫びのしるしとして差し上げますわ。」

「う、ううむ…」

うなるデブ子爵。メイドさん二人は嬉しそう。


「個人的に男としては少し残念ですな。」

生臭導師の正直な感想。

イオニアさんからバトンタッチした感じでエアボウド導師。

「ズルチン子爵と言えば、サカリン伯の配下ですな。」

「何だお前は?」

「おう、失礼。王立学園の学長を務めておるエアボウドと申すもの。」

「一応、便宜上伯爵位をいただいておる。」

ぎょっとするでっぷり子爵。

実はそうなんです。エロジジイ、けっこう偉い。

貴族的には格上。しかも王都では文部大臣相当の地位。

「こ、これは…、え? エアボウド? 大賢者?」

大賢者エアボウド、七英雄の一人。有名人ですよ、エロ導師。

たじたじ、後退するズルチン。

貴族として偉ぶっていただけに、上の権威には超弱い。

「これは失礼を…」

大物が同行していることで、イオニアさんの身分も気になった。

「こちらのお嬢様は…?」

「あら、失礼。わたくしイオニア・カロツェと申します。」

お嬢様、再び上品ご挨拶。

エアボウド導師が耳打ち。

「ナビン王の末庶子にあたられるお方です。」

「な、なんと! 王息女さま!」

真っ青になって片膝つくズルチン子爵。

エロメイドもあわてて膝まづく。

あー、しまった。この体勢。

マント羽織る前だったらスカートの中が見えたかもーかも。

残念、無念。



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