寄り道するよ
エルディー先生がバッソ侯夫人クオリアさんにアンチエイジング魔法を施術。
しばらく効果を見る、と同時に不老法を指導するというので一週間ほど滞在することに。
次の日の朝、お世話になってるカロツェ家から再びバッソ家へ。
執事さんが馬車を用意してくれた。
まあ、歩いても行ける距離ですけど?
「えーっと…そのーアイザック様の見た目が……」
え? 俺。あー、そうでした。
レガシと違って、王都じゃ知名度ないもんね、俺。
馬車に乗って移動する怪しい魔道機。
先生と一緒にバッソ家に到着するとなんだか正門前が騒がしい。
なんか立派な馬車が止まっている。
昨日もいた警備の人となにやら兵士っぽいのがもめてるみたい。
あれ? あの人は?
「おお、魔道機君! 大導師!」
エリクソン伯だよ。
王国の重臣、モアブ伯や過激派が排除されたんで、旧至上主義派閥では一番の大物。
クオリアさんの御父上。
「お久しぶりです、伯爵。」
以前、酔っ払いの愚痴を聞いてあげたので、気安くなってしまう。
「大導師が何やらクオリアに大変なことをしてると聞いて心配になって…」
人聞きが悪いな。まあ、たしかに大変だったが。
先生も心外だな、という顔。
「人聞きが悪いな。ちょっと美容魔法を使っただけだ。」
ちょっとね。
「だが、昨日の今日でよく聞きつけたな?」
そうだよね。一緒に住んでるわけでもないのに?
電話とか無いし、この世界。
「いえ、バッソ家には専用の間諜を…や、げふん、げふん!」
こ、このバカ親!
何、騒いでるんですか? 往来で。
「入れてくれんのだ! バッソ家の兵士が!」
え?
「近づくな! 奥様は渡さん!」
槍を突き付けるバッソ家門番。剣に手をかけるエリクソン伯の護衛。
「お嬢様のご様子を知りたいだけだ! 通せ!!」
バッソ家とエリクソン家の兵士が対立!
ああー、まだやってたんだ。
クオリアお嬢さんをめぐるエリクソン家とバッソ家の家臣同士の対立。
「まてまて! 何をやってる!」
あれま、騒ぎの最中、もう一台馬車が乗り付けて来た。
降りて来たのは二人の美少年。
おお、クリエート君とトリニート君。
バッソ家の長男、次男が登場。
御父上の湾岸侯ベガさんから夢魔族の血を引いてるだけあって、美形。
「あ、坊ちゃま! エリクソン家の奴らが奥さまを奪いに!」
「ええー、そうなんですか? おじいさま?」
「いや、今日は様子を見に来ただけだ。 今日はな!」
いかん、収拾がつかないぞ。
「がうっ馬鹿者!! 何を騒いどるか!!」
うわっ、でかい声。この声は…
「うが! 兄上、トリニート、おじい様入ってこい!」
「エルディー導師もお入りください。」
凶暴令嬢ルミごん! 一喝!
畏まる門番兵士、意外と人望ある?
バッソ兄弟を呼んだのもルミごんか。
あわてて門をくぐる兄弟。とエリクソン伯。
伯の後について入ろうとする護衛兵士。
「がるっ!」
護衛兵士の腹にルミごんのパンチ!
ヨロイ越しにもかかわらず、うめいて膝をつく。
その膝を踏み台に、駆け上がるように膝蹴り、顔面に!
シャイニング・ウイザード!
兜がひしゃげた!!
戦闘力高いぞ、ルミごん!
「おじい様だけだ!」
怖わっ!
バッソボーイズ&親バカ伯爵、お屋敷内を早足。
さすがに走ったりはしないが、速い。
母親、最愛の娘の異変とあって気が急いている。
「母上ー!」
「クオリアー!」
ご貴族らしい豪華な一室、ドアを押し開けて飛び込む。
クオリア奥さまは朝食中。
「え? ええ? クリエート? トリニート?」
「お父様まで?」
ネグリジェにシンプルなガウンを羽織った起き抜けすっぴん奥さま。
なかなかに艶っぽ…いや?
「あ、あれ? 母上……ですよね?」
「なんだか、ちょっと…あれ?」
戸惑うボーイズ。
「お、おおお、クオリア! なんと!」
対して、エリクソン伯。
「まさか、これが導師の言われた美容魔法?」
「まるで、魔道学園を卒業した年の新年ぐらいの若々しさではないか!」
感極まったような親バカ伯爵。妙に年代指定が細かいぞ。
頬を染めて恥ずかし気なクオリアさん。
「私もまさかこれほどとは…エルディー大導師。」
「まあ、効果は出とるようだな。」
うんうん、先生も満足げ。
「今回は、アイザックの魔力も借りられたから特に上出来だ。」
え? そうだったんですか。
素直に感激してるエリクソン伯に対し、バッソ兄弟はちょっと複雑な表情。
まあ、母性っぽさは薄れちゃったかもね。
なんか、ぶつぶつ言ってるぞ親バカ伯爵。
「待てよ? これだけ若返ったってことは……」
「ベガとの結婚も無かったことに!?」
「ちょっ、何言ってるんですか? おじい様!!」
まあ、若返り魔法の効果があって、良かったよ。
先生も王都まで出張って来たかいがあったと言うもの。
え、俺? 俺はもう昨日ご褒美いただきましたよ。
クオリア奥さまのあんなこんなはライブラリに保存っ済み!(犯罪)
今日はクオリアさんゆっくり休んでもらう。
不老法の指導は明日っからと言うことで、先生と俺、今日の予定は無し。
どうします? イオニアさんとこへ帰る?
「男子二人は学園へ戻るんだろ?」
「エアボウドんとこへ顔を出すか……」
生臭賢者どのは王立魔法学園学長に復帰。
至上主義者に荒らされた教員やカリキュラムの立て直しを図っている。
まあ、目途が立ったら再度辞任して隠退する予定らしいが。
クリエート、トリニートくんの馬車に便乗して学園に向かう。
「図書館の蔵書は少しは増えたのか?」
エルディー先生、貴族兄弟にも遠慮なし。
むしろ思春期男子二人の方が緊張気味。
先生、見た目はすごい美人だしね。あと、おっぱいでかいし。
クリエート君が答えてくれる。
「なかなか難しいみたいです。旧首都市や聖堂都市みたいなわけには…」
王都は出来てから200年。
千年近く経ってる都市もあるから歴史では太刀打ちできない。
「まあ、古い文献はあのへんが囲い込んでるからなあ。」
「あ、でもモアブ伯が収集していた文献は学園で管理することになったみたいですよ。」
ああ、ハイバンド小太り道士が研究してたやつか。
「でも、一部はニュース王子が非公開にするって…」
「ううーむ、まあ仕方ないか。」
異世界から転移してきた【人間】の遺産。
獣機や軍用機器の運用は慎重にやらないといけないからね。
……慎重にやってるんだよね、ヘルプ君?
『…………』
ヘルプ君?
学園につくと受付でエアボウド学園長に面会を申し込む。
さすが大貴族の息子さんが紹介してくれると違うわ。
すぐ話が通って、受付の女性が学長室に案内してくれた。
「こ、こちらでお待ちください。」
「ああ、ありがとう。」
先生に続いて俺もお礼を言ったほうがいいかな?
と思って受付さんに視線を向けると。
「ひっ! あ…う…」
ビクッとして後ずさる。
「し、失礼します!」
逃げるように学長室から出て行った。
いや、逃げてますがな。
「おー、エルディ。」
生臭学長大賢者、登場。
「え? アイザックもいっしょ?」
え? 何ですか? 俺がいると都合悪い?
「なんだ?」
先生も違和感を感じたみたい。
「なんだじゃねえよ。アイザックが王都制圧戦で何やったか…」
何って…軍用獣機を破壊したり、兵士を吹っ飛ばしたり…
あれ? 知られてるの、俺のこと?
「軍用獣機を破壊するヒト型魔道機って、軍人だけじゃなく市民にまで広まってる。」
「ミドリちゃんもびびって泣きそうだったじゃん。」
ミドリちゃん? ああ、受付さんね。
そんなに?
「忙しそうだな。」
先生の問いかけ。
「いそがしいよ! 至上主義者ども、無茶苦茶してやがって。」
「カリキュラム自体は以前に戻しちゃえばいいけど、ウソ教わった生徒の矯正は難しいなあ。」
「教師も入れ替えなきゃいかんし。」
「エルディーもしばらく手伝ってくれよ。」
「やだよ。」
取り付く島もないね、先生。
しばらく雑談の後、引き上げることに。
「さあて、カロツェ家に帰るか。歩いてもすぐだしな。」
立ち上がった先生に、エアボウド学長が。
「ちょ、アイザックそのまま連れていくのか?」
え? ダメですかね? マントは羽織ってますけど?
「市井の噂ではかなりおひれがついてるからな。」
「うかつに人前に出ると大騒ぎになるぞ。」
そんなに? どうりで執事さん馬車を勧めるわけだよ。
「馬車で迎えに来てもらった方がいいな。」
カナちゃんズがイオニアさんのとこにもいるので、通信。
お迎えの馬車を依頼。
馬車で送り迎えしてもらうとか、なんかすげー贅沢。
やってきたのは2頭立て馬車、大型。
あれ?朝の馬車より豪華ですよ。
レガシの「お嬢様用のいい馬車」のさらに五割増くらい立派。
なぜか先導するのは女騎士クラリオ。
そして降りてきたのはイオニアさん、とスカジィちゃん。
「ええ? イオニア、どうした?」
驚く先生に涼しい顔のお嬢様。
「お買い物ですわ、スカジィと一緒にビクターからの頼まれ物を。」
「先生もご一緒に参りましょう。」
なるほど先生と一緒にショッピングしたかったのか。
「荷物持ちがいると助かるニャ。」
荷物持ちって、俺?
「だったらまず、アイザックの服を買おう。」
エアボウド導師が提案。
「服を着たうえでフード、マントなら誰も魔道機だとは気づかんだろう。」
「着れるんだろ?」
ええ、まあ、スリムモードにすれば大丈夫ですがね。
変身サイボ〇グ1号はマッチョ体型なので変身セット着せ替えの時に苦労した。
服を着せるんなら素体は細身の方がいいよね。
「それはいい考えですわ!」
「ああ、でも私、紳士服のお店は…」
「ワシの行きつけの店を紹介しましょう。」
「同行してご案内します。」
お嬢様も学園長導師もノリノリだな。
しょうがないな、て顔してた先生。
「いいのか? 忙しいんじゃないのか?」
エアボウド導師が答える。
「忙しいから行きたいんだ。」
サボりたいのね。