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少年エルフがとても、大変なことになるよ


デイエートと和解?した俺はベータ君の待つドワーフ工房へ。

ドワーフ工房。

職人はほとんどドワーフだが、実は獣人やエルフも働いている。

事務職や浴場・食堂で働く人が多い。

あー、ベータ君とどこで落ち合うか決めて無かった。

まあ、その辺うろうろするか。

受付で許可をもらって工房内へ。

フードはもういいな。360度視界オン。

中庭の獣機がなくなっているぞ。しまっちゃった?

「念のため鎖でしばって倉庫に突っ込んだんですよ。」

通りすがりの職人さんが教えてくれた。

けっこうじろじろ見られた。触りたそう。職人魂を刺激してしまったようだ。

みんな忙しそうだ。

浴場の方かな? ベータ君。


おや、後ろに見えるのはタモン兄貴。

女連れ?

色っぽいエルフ美人だ。

何やら会話を交わしているぞ…おう! キッス!!

アニキのほうから背をかがめて、熱いベーゼだ!!

やるなあ、さすがアニキ。

いったん離れる。

今度はエルフ美人のほうが伸び上がって軽いキス!

たたた、と走り去った。

うーん、リア充!!

アニキが声をかけてきた。

「おう、アイザック!」

「こんにちは、タモンさん。」

「あれ、女房だ。いい女だろ。」

にやりと笑う。

「素敵な方ですね。」

「やっぱり見えてるんだな。後ろも。」

あ、しまった! あちゃー、ひっかかった!

…言い訳しても仕方ないか、アニキに隠し事も何だしな。


「はい、人間とは視野が違います。」

「おまえさんの戦い方を見てそうじゃないかと思ってたんだ。」

え、焦げ獣機の時くらいだよね。一緒に戦ったのって。

達人だなあ、ごまかしの通じる相手じゃないわ。

会話してても、心読んでる?みたいなとこあったし。

「気づいてるのは俺くらいだろうけど…」

「なるべく、隠しておけよ。」

え? 

「獣機はともかく、人間相手に戦う時はそういうの、すごい役に立つ。」

「たとえばー、」

目線を下げて、腰に下げた剣の柄をいじり始めた。どしたの?

「これがあ、」

さっと目線だけを上げて、俺の顔をにらみつける!

「こうなる!」

う、身体が強張る! 戦闘体制。機体が自動的に反応した!

「剣の柄をいじってる人」だったのが、目線を動かしただけで

「切りかかろうとする戦士」に変貌した。

なるほど、ダミーの目はコミュニケーション用と思っていたけど、対人戦闘用か?

「目線だけで、相手の動きを牽制したり、逆に呼び込んだりできるからな。」

「見てないふり、てのは重要だぞ。」

うーん、すいません。えっちなことにばっかり使ってました。

「だが、その能力はうらやましいなあ。」

「特に女ってのはそういうのに敏感だし、」

はい? 心読まれてる?

「うっかり別の女を見たりすると、女房の機嫌が…」

あー、はいはい。

「別の女性を見たりされるんですか?」

「おっと、内緒!」


「ベータ君を見ませんでしたか?」

「いや、見てないな。おやっさんのところへ行ってみよう。」

棍の修理を頼んである、獣機をぶん殴ったヤツ、曲がった。

剣じゃ効かない、鉄棒で殴るのが一番。

武器持たないのか?素人?面白い技使ってたのにな?

今度、教えてやるよ。

とかとか話しながら工房の奥へ。

「おう、何だ、アイザックも一緒か?」

おやっさん、おはようございます。

「雀竜が出たって?」

「導師が落として、アイザックが燃やしたそうだ。」

「ウロコだけ残りました。これです。」

「おお、こりゃ凄い。」

おやっさん、ホクホク顔。

「ベータ? 見てないな。」

おかしいな? どこいっちゃったの?

「まあ、ちょうどいい、昨日はあんなで話せなかったからな。」

「獣機をちょっと調べてみたんだが…」

「寄せ集めだな、あれは。古さの違う部品が混じってる。」

「おそらく、何体もの獣機から使える部品だけを集めて再生してるんだ。」

「古代文明の遺物だとすりゃ当然だが…」

うーん、判断に困る。新しい獣機は製造されない、と喜ぶべきか。

修理できる技術がある、と警戒すべきか。

「そういえば、軍で戦った時にも、やつら、壊れたのを回収してたな。」

と、アニキ。

「今回襲ってきた奴の数が少なかったのもその辺か?」

「個体数が少ないんじゃ、縄張りを広げる必要はないだろうにな。」

と、おやっさん。

「やはりヒト族を殺すのが目的で活動してるのかな?」

「ロクに数もそろわないとしたら、何でわざわざケンカ売ってるんだ?」

わからない、奴らのやること、ちぐはぐだ。


「服飾工房じゃないかな? ベータは。」

「エルディーの服、受け取りに行ってるんじゃないか? パンツとか。」

パンツとかね。

アニキは修理の終わった棒を受け取ると。

「案内するよ。」

すいませんね。

「軍に居られたんですね。」

「ああ、何年か前の獣機討伐で、こっちへ派遣されてた。」

「そのままこちらに残られたんですか?」

「いや、いったん王都へ戻ったんだが、いろいろあってな。」

「飛び出して来ちまった、てわけさ。」

あんま、聞かない方がいいかな?

王都。都会があるのか?

「服飾工房はここだ。じゃ、おれは行くよ。」

「女房はここで働いてるんだ。さっきあれで、また顔合わせるのも何だしな。」

行ってらっしゃいのキッスしたあと、忘れ物でもどってくる旦那さん。

確かにばつが悪い。


「ごめんください。」

中に入ると…おお?

美少女だ! ものすごい美少女がいるぞ!!

十代前半くらい、可憐な少女。陶器人形のような肌。

完璧なまでに整った顔立ち。

綺麗なだけでなくちょっとした凛々しさが気品を。

はにかんだような表情が親しみを感じさせる美貌。

ゴスロリ? 黒レース、ミニのドレス。うっとり。

こちらに気が付いた。

「ひゃあああー、アイザックさん!」

「見ないでえ、見ないでくださいー!!」

ええ、その声?

ベータ君??

「おや、アンタ。旦那の言ってた…」

おう、アニキの奥さん、エルフ妻だ。

「タモンさんの奥さまですね。これ、いったいどういう状況なんですか?」

「はは、奥さまって…あたしはデイエイティ。よろしく。」

からっと笑う人だな。

「ダット姐さん、次はこれ! これで決まりっしょ!」

奥から白いひらひら付きワンピースをかかげて女の子が現れた。

え? 褐色の肌エルフ? ダークエルフ!

「おひぇ?」

俺を見て変な声。

「ちょえーっ? 姐さん、何、なに、これ?」

「デイシーシー、うるさい!」

「このヒトが噂の、導師んとこの魔道機さ。」

「すごいし、パネエっス!」

どうなってんだ。困惑。

「いったい何が…この状況は?」

「あわわわー」

ベータ君あっち向いて座り込んじゃったよ。

スカート捲れてるよ。おお!? 下着まで?


「頼まれものの仕立てが出来たんだが、ちょうどいい背丈のヤツがいなくてね。」

「ベータ君がちょうどだったんでつかまえて試着を頼んだのさ。」

カチューシャや下着まで?

「と、言うことにして、着せたくなるだろ、こんなの。」

小声で本音を。うん、まったく同感。

「うああー着替えてきますぅー」

ああ、いっちゃった。残念。

「ええ、ダット姐さん、終わりィ? もっと色々着せたかったしー。」

「ううーん、残念。」

ん? エルフ妻、デイエイティさん、だよな? ダット?

「ダットてのはあだ名さ、旦那が省略してそう呼ぶもんだからね。」

翻訳システムが介入。

『ダット、人間国で使われる伴侶に対する愛称。愛しい人、くらいの意味』

ああ、ダーリンとかハニーとか、そういう…。

単に省略しただけじゃないんだな。もーアニキったら!


ショボーンな感じのダークエルフ。デイシーシーだっけ?

化粧が派手! ピアス、ラメ、メッシュ髪。

「お化粧もさせたかったしー。」

ベータ君にそんな化粧、お父さん許しませんよ、な感じ。


しかし、どうやってベータ君をだまくらかしたんだ?

「背丈の合うモデルが居なイナー、」

「動いてみないと引っ掛かったりしないかわからなイナー」

「チクチクするところがないか心配ダナー」

「変なもの卸すと工房の信用にかかわルナー」

「買ってくれた女の子をがっかりさせちゃうカモー」

てな感じで追い込んだとのこと。参考になる。


「ところで、あんたのそれ。」

え、俺のマント?

「ちょっとアレだよね。」

やっぱり?

「工房長にいただいたものなんですが…」

「縫製はしっかりしてるようだけど、デザインがねー」

「お尋ね者とか、痛い魔道士みたいだよね。」

うん、先生と同じ意見。痛い魔道士多いのか?

「工房長と相談しとくよ。また顔出すんでしょ。」

はい、お願いします。


エルフ妻とあいさつを済ませ、先生の頼んだ服類を受け取る。パンツとか。

元の服に着替えたベータ君と一緒に服飾工房を後にする。

「ううう、誰にも言わないで下さいよ。」

口止めする相手を間違っているぞ、ベータ君。

女性陣のネットワークは我々の想像を超える。

こんな楽しいこと、黙っていられるわけがない。

特にあのダークエルフ、絶対黙っているわけがない。

そして、いいもん見せてもらいました。


途中、食材を買い込んで昼過ぎには帰宅。

「先生、ただいま戻りましたー。」

あれ、返事がないな?

「先生?」

蚊の鳴くような声が

「おなかすいた…」


おやつを食べた後、報告を。

ベータ女装事件は何とか黙っていられた。話したい!

目の前にベータ君いなかったら話してた、絶対。

「レガシの街にはダークエルフがいるのですか?」

「ああ、見たのか、あいたた。まったく何を考えているのか。」

え?

「最初は人間が日焼けしているのを、真似したらしいんだが…今では、何がなにやら。」

ん??

ベータ君が説明してくれる。

「人間の海狩人が日焼けしているのが精悍でカッコいい、と言うことだったらしいですが、」

「エルフは日に焼けないので、ケサロンの実からとれる化粧品で肌をそめて、」

「そのうち当初の目的がどこかへ行ってしまって、ただ黒いだけに…」

「いつしかみんなダークエルフと呼ぶように…」

黒ギャルかよ!

おれのダークエルフを返せ!

「まったく、今どきの若いもんは! あいたた。」

先生…


「そういえば…」

疑問に思っていることを尋ねる。

「エルフの女性の名前なんですが、皆似てますよね?」

「そうか? まあ、この辺のエルフはみんなデイ氏族だからな。」

デイ氏族、詳しくはディジタール神氏族(うじぞく)

ディジタールという神様の子孫だ、と言う伝承らしい。

「どういう神様なんですか?」

「なにせ、古くてローカルな神でな。女神だということ以外なにもわからん。」

「守護女神ディーシルの方言だという説や、大地母神デメテールがなまったものだという説もある。」

「月女神ディアーナ説ってのもあったな。」

「まあ、そんなわけで女の子にはデイとかディーとかが付くんだ。」

花子とか貞子とかの「子」みたいなもんか。馬子とか、妹子とかな。

「最近は流行らんみたいだがな。」

ミニイたんとかそうだね。

「あんまり変わった名前もどうかと思うがなー」

エルフ界にもキラキラネーム問題が?

14世紀には吉田兼好が。

18世紀には本居宣長が。

そしてエルフ界では先生が批判!


「今どきの若いもんは…」




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